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第1章 29節 「ジュネーブ協定」

 ロアールを上る方へ駆けるが、その川は遥かの平野に見詰めてやがて消えていく。畑はなお小麦がまかれるのを待っている。

 マラトとサルナはルイを背後に走っていた。

 いよいよ平野が終わり、ブルゴーニュ西端の険しい高地に入る。戦場の恐ろしさを叩き込むときだ。

 「お前ら、もたつくな」

 「見つかるぞ」

 後ろも見ずに厳しく叫ぶ。

 本道を外れ、昇り降りの突き出る岩を真っ直ぐに踏み抜いてしまう。ルイは何とかついていくが後続は大混乱に陥った。荷馬車と先頭の間に距離ができ、追いつこうとして馬を酷使すると倒れてしまう。岩から落ちる者もあった。

 峠に至ると2人は止まってやる。体中に傷を受けて数も減らしてしまった隊列が追いつく。

 「お前ら、こんなことではブルゴーニュ伯の軍に全滅させられてしまうぞ」

 「ただでさえ多くの兵と物資を失った。このまま突き進めば腹は飢え、流血は止められず、今まさに隣に立っている仲間は首を斬られて倒れるだろう」

 サルナは小銃を構えた。


 森に撃って鹿を殺す。その方に小走りで行くと首を取り、森から出て兵士たちに見せつけた。

 「お前らはこうなるのだぞ。こうなるのだぞ。弱い者は食われる」

 マラトは剣を抜き、鹿の目玉を隊列に飛ばす。

 「さあどうする。貧弱な勇気にすがってジュネーブを目指すか、戻って勇気を蓄えてから挑むか」

 隊列が静まり返ると、おもむろにルイが拍手をした。歩いて前に出る。

 「素晴らしい鼓舞だ、若者よ。お前ら、死ぬ覚悟で来い!」

 坂道を生き残った兵士が雄叫びを返してしまう。

 ルイに続いて駆け下りた。行列が2人の間を割る。

 岩を踏み台にして加速し、仲間が落ちても気にしない。馬が倒れれば徒歩で麓の農村を目指した。

 「追うぞっ」

 向こうから叫んだサルナにマラトも脇腹を蹴る。

 岩よりも更に外へ跳んで木の幹を蹴る。それを壁に駆けて隊列を追い抜いていった。真似できぬようところどころの木を切り倒してしまう。山が終わると同時に先頭が見えて飛び降りた。

 サルナも反対から近付き、ルイを挟み込む。

 「おいっ。軍団を止めろ。負け戦に命を使うな」

 「何度も言っただろう。1人でもカルヴァン殿にお会いできればいいのだ」

 マラトは剣を挙げた。

 「農村に入るまでに引き返せ。できないなら君が最初に死ぬ」

 ルイは、剣を抜いた。

 マラトとかち合って加速する。

 「クソ」

 マラトが態勢を直す間に兵士たちは展開した。農村に広く突撃する。

 向こうも対抗してきた。

 「イングランドに侵された同胞よ、目を覚まさせてやる」

 農民は優れた弓の戦列を並べた。一斉射撃で騎兵を倒し、槍に持ち替えて突撃と張り合う。それを越えても背後に馬乗りが構えていた。

 「マラトっ」

 サルナが隣に並んできた。

 「ルイを探せ。あいつに撤退を命じさせるしかない」

 「うん」

 そう言って平野を駆ける。

 農民の味方だと分かるように叫んだ。

 「敵将ルイ、出てこい」

 小銃を構え、申し訳ないが兵士たちと戦う。農民に振りかぶるところに撃って奥の騎兵も貫いた。片手で剣を持って首を斬る。

 小銃を直すと、サルナが穀物倉庫に入った。そちらへ行ってみる。

 サルナは隠れる農民を狙う騎兵の背中を斬った。そのまま跳んで台を順に踏み、窓から飛び出る。

 ルイが視界の右に消えていった。

 直ちに視線で追って旋回する。

 最低限の剣でかち合い、前から来る者は強く払って背後に転ばす。ルイが3人の農民とやり合っていた。

 「敵将ルイ、こっちに来い」

 彼は1人殺すと反応した。サルナに迫っていく。

 鋼の騎兵は左足を馬の背に置いた。

 前転で跳ぶ。


 勢いのまま落として抑え込んだ。右手首を剣の柄で封じる。

 「もういい。王太后とカルヴァン殿が会談できるよう私たちが伯爵に頼む。お前はこの無駄な軍団を引かせろ」

 「だが」

 ここでマラトも駆けつける。

 「ルイさん、兵士たちにも母親や恋人がいるんです。故郷に帰らせてあげてください」

 ルイは、苦しそうな顔をして、しかし叫ぶ。

 「お前ら、このままではカルヴァン殿に危害が及ぶ。戻るぞ」

 兵士たちは直ちに止まった。

 ルイが馬に乗って山に向かっていくのを見て、自分たちも撤退を始める。

 乱戦の跡に残された2人は、農民たちと片付けを始めた。死体を埋葬し、壊れたものをまとめる。

 夕方になって、騒ぎをききつけた保安官がやってくる。マラトを見つけた。

 「同僚、ここで何があったのですか」

 「フランスのブルボン家が、ジュネーブのカルヴァンに会おうと通行しようとした。王太后の許可あってのことらしい。このままでは戦争に発展する。伯爵に伝えてくれないか、王太后とカルヴァンを会わせてほしいと」

 その後は全員で農村を癒した。


 それから2週間経たない頃、フランス王太后カトリーヌがブルゴーニュ伯と民に謝罪、また感謝しながら、ギーズ家当主と共にジュネーブに入った。マラトとサルナも館を警備する。

 このジュネーブ協定では以下のことが決められた。

・カトリーヌ、ブルボン家はカトリック教会において特赦を受ける

・フランス王国は新教徒の信仰を認める代わり、2倍の税金を課す

・新教徒の長老はフランス王の監督の下で選出される

・監督のため、ギーズ家はフランス王に6000人の兵士を派遣する


 これをもってフランスの内紛はひと段落した。

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