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第1章 24節 「決闘」

 パーティー会場は最大の盛り上がりを見せた。食事を止めて演奏にきき入り、踊りを見るとこちらも弾んでしまう。芳しい香りに楽耳と目のしみが入り乱れた。やがてクライマックスを迎え、拍手と供に静かに去っていく。

 そうして余韻が続くと、デザートが運ばれる。生クリームを入れ、更に上からもかけて固めたパンだ。雪だるまのようで、チョコの線が巧みに表情や服の模様を担っている。

 サルナは手であおいで匂いをかぐ。鼻のラインがいい。

 「森の、しかも木々と草花と虫と太陽とが快く生きる森のような香りだ」

 「そうだね」

 マラトが言うとサルナは頭から食べてみせた。中のクリームが控えめにとろけている。

 「西欧のこういう部分にはつくづく憧れてしまう」

 保安官は温かい空気だけ感じて口に入れる。緩やかな味がした。

 「ロシアはどうなんだい。温かいビスケットを食べてそうなイメージだけど」

 サルナは口を拭く。上品に布を置いて話しはじめた。

 「勘違いするな。大人はみんな酒を飲んでいる。若い者が暖を取るには肉で十分だ」

 強い精神を入れる肌を見ながら、マラトは体部分に噛み付く。肘が鋭い。

 食事は終わったがまだイベントは続くらしい。部屋を移動するため案内される。

 外に出ると中庭だった。とても広く、育てられた草木が切られて花と共に景色を彩っているが、芝生だけのスペースに集まった。左右に簡潔な門が立てられる。

 「これより、各国の代表によるサッカーの試合を開催します」

 「え?」

 2人は司会の言葉に目を丸めた。マラトにとってそれは殴り合いであり、ロシア人はサッカーを知らない。同じくポーランド人、トルコ人にも馴染みがなかった。

 「時間の都合上、デンマーク対神聖ローマ帝国、イングランド対スペインの2試合のみとさせてもらいます」

 サルナは少しマラトに体を傾ける。

 「サッカーって何か分かるか」

 「下界の民が好きな殴り合い」

 保安官は何歩か前に出た。

 「ちょっと待ってください司会さん。本当にサッカーをやるんですか。怪我人が出たらどうするんですか」

 西欧の一同が彼に優しく笑う。司会も歩み寄ってやった。

 しかし、戦場にいなかったイングランド人が大笑いで石を投げる。

 「そうか。お前らはこうやって遊ぶもんな。汚らわしいことだ。とっとと高貴な場を立て去って野蛮人と絡んでろ」

 オーストリアとスペイン、教皇を戴くイタリアの代表は嫌悪を見せる。一方のデンマークは媚びを売るしかなかった。

 司会がまとめる。

 「まあまあ。これは平和を愛するパーティーですから、万民と遊んでやりましょう。そして、試合はもちろん貴族のルールで行います。殴り合い、ぶつけ合いなどは禁止。足のみを使ってください」

 デンマークと神聖ローマの者が準備を始め、その他の者は脇に移動する。

 サルナは塀に寄りかかると背中を引きずりながら座った。

 「なるほど。民衆に広まったものを貴族が取り上げたのか知らんが、両者でやり方の違う競技なのだな」

 マラトもすとんと膝を曲げる。

 「ロシアにもあるかい、そういうの」

 サルナはうなじを曲げて考え、マラトの方を向いた。

 「駒遊び。農家の子供とやったら1度に3つも取られたりいきなり王手をかけられたり、困らされてしまう」

 「それ多分話が違う」

 少し笑い合うと試合が始まった。球を蹴り、味方に渡し、敵から奪う。門にくぐらせると一帯が盛り上がった。

 「サッカーとはこういうものか」

 サルナは引いた視線で見入る。

 「ロシアに持ち帰ってみよう」

 そうして試合が終了し、イングランドとスペインの番となる。マラトは立ち上がった。

 「行ってくるよ」

 「お待ちなさいっ」

 中庭を見下ろす窓から女の声が響いた。

 エリザベスだ。

 「お前たち、何故スペインの者共と戯れるのですか。そのような汚らわしいことをしてはなりません。国に戻った暁にはあなた方を燃やさなければなりません」

 司会が腕を広げて弁明する。

 「しかし国王陛下。これは平和を愛するパーティーなのです。万民が関わり合うことで互いを理解し、憎むことが如何に愚かなのかということを学ぶのです」

 エリザベスは高らかに笑い飛ばした。城の備品を投げつける。

 「世界にはあまりにも多くの人間が住んでいます。彼らを争わせぬようにするには、まさしく強力な王が必要でございましょう。邪魔する者を即座に排除するこそ平和なのです。今なおカリブの海では私の海賊たちが財宝を集めてくれていますが、地中海では芳しくなく気に障っているのです。セウタ封鎖という倫理に反した愚行は忘れておりません。お前たち、早くその場を離れなさい。私の邪魔をするつもりですか」

 イングランドの代表は満面の笑みで歩き出した。振り返って次々に中指を立て、デンマーク、トルコも続く。

 サルナがロシアの代表を止めた。

 「エリザベス陛下。あなたが何をなさろうとあなたの勝手でございます。しかしロシアの知ったことではありません。ロシアの勝利はロシアのものです」

 エリザベスは傲慢の怒りに震え、備品を連続して投げつける。破壊額は1年分の食事代に相当した。

 「生意気な小娘め。むぅ、死ねっ」

 刃物を落として立ち去った。

 サルナは司会に提案する。

 「スペインとロシアで試合をしようじゃないか」

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