第1章 23節 「軍師たち」
日が傾き、人々は働きの疲れを気前よく忘れてしまうため通りに繰り出す。ブルタバの如く喧騒が溢れ、強かな思いやりを運ぶ。
ボヘミア最大の広場にそびえるプラハ城。ゴシック時代の傑作的建築で、由緒正しい宮廷の者にさえ礼をさせる荘厳さを降ろす。城の前に全ての人間は平等だ。
純粋な青年も受け入れてくれた。
サラセタを柵に繋ぐ。
「しばらく待ってろよ」
整えられた爪の手を振り、真ん中で分けた貴族らしい髪で入っていく。
神々しい廊下に迎えられた。花のような模様を散りばめる床はよく磨かれ、柱はアーチ状に連なって間にシャンデリアを下ろす。大きな窓から洗練された光が入ってくる。靴の音がよく響いた。
思わず顔を上げると、美しい死後の世界のような絵画が見下ろしていた。
「お、おお」
やがてパーティー会場に入り、席に案内された。4人席であるが他には誰も座ることはなく、周囲には8人席を埋めるところさえあった。
そうして辺りを見回していると、入口からポンチョの少女が入ってきた。1人で席に座る。
保安官は完璧な服を意味もなく正した。
上品に立ち上がり、長い腕で席を戻す。ゆっくり歩いていった。
「ちょっといいかい」
サルナが見上げてくる。
「ここ、空いてるでしょ。座っていいかな」
サルナは、赤紫の軍服を見ておもしろそうに笑った。頬杖を突く。
「参加者をよく確認しておくべきだった。恐ろしい傭兵隊長め」
そう言って周りを見てみると、マラトが言った。
「1人で呼ばれたのは君と自分くらいかな」
「若さ故に舐められているようだな。失礼なことを」
太い眉毛が強く寄る。
「座れ。お前から目を離すと思うと身が震える」
「もう敵じゃない」
上品な足を滑らせて座ると、ステージに楽団が上った。演奏を始める。
料理が運ばれてきた。前菜だ。
「おもしろい。トマトだ。初めて食べる」
だがマラトはじっと皿を見つめていた。
「何か変か」
「いや。こんなお高そうなサラダにキノコが入ってるから」
サルナは野菜をかき分けてそれを見つけると、首を横に振った。
「これはただのキノコではない。豊かな森を探して100人かかって見つけるような代物。この機会に味わえよ」
見下す横目で笑い、小さな口にキノコを入れる。マラトも興味津々に続いた。
「いつも食べてるのと同じなんだけど」
サルナと息遣いで笑い合う。
「お前はここに来るべき人間ではなかったようだな」
「ベルリンでいいお仕事もらってたのに」
「所詮は沼に築かれた町だろう」
サルナはレタスを食べ、飲み込む。
「職業軍人め」
次に運ばれてきたのはスープだ。マラトは丁重な味付けに圧倒される。サルナを見ると何でもなさそうだった。
1つ気付く。
「そう言えば、あのウサギたちはどうした」
サルナは、パーティーに連れていい訳がないだろう、と見下しの目を向けた。
「馬と一緒に外へ置いてきたが」
「寂しくない? それ」
「別に、すぐ会えるだろう」
今度はサルナが顔を前のめる。
「それはさておき、お前、ドイツ人か」
「うん」
「嘘をつけ」
マラトに指をさす。
「何度かドイツ人の富豪を見たことがあるが、もっと虚ろな顔をしている。だからと言ってポーランドでもないな。お前、何者だ」
マラトは、この少女に隠すことでもないだろうと思った。
周囲を確認し、耳に心地よい小声で話す。
「誰にも言わないで。自分はスペインの保安官なんだ」
「スペイン」
サルナはラテン人は見たことがなかった。
「なるほど。大国は代理戦争に直接介入していた訳だ」
スープを一口飲む。
「面倒事はごめんだ。秘密にしておこう」
次がようやくメインディッシュだ。分厚いステーキが運ばれる。
「お肉だ。いただけまーす」
マラトは片手で抑え、ぎこぎことナイフを動かした。
「おいおいおいおい」
サルナが笑いながら立ち上がる。
「保安官。ここはお前の仕事場ではない。貴族の約束事を守ってもらおうか」
マラトの背後に回り込み、手首を握る。
「ぇっ」
「ナイフとフォークを持て」
何とか声を抑え、言われた通りにする。
指を絡められた。
「ナイフはこう。フォークはこう。そしてこうやって切るんだ」
感覚で教えられ、ひと塊切り出してもらう。
「もう覚えたな」
サルナは自分の席についてしまうが、指の形は崩れない。
その調子でステーキを切り続ける。
「おいおいおいおい」
指をさして笑われた。
「ひと塊ずつ切って食べるのだ。一挙に全部切るな」
マラトは、火照りながら言語野を回す。
「それは、効率が悪いと思うけど」
「面白い奴だ」
貴族と保安官が端くれで語らう。




