第1章 22節 「代理戦争の親たち」
野から小麦が収穫される季節となり、1年の苦労がまた穏やかな休憩に入る。来年もまた来ると約束して、農民は人の道を歩む。
戦争は終わった。
ポーランド軍はワルシャワ防衛を放棄せざるを得なくなり、ロシア軍がこれに迫った7月1日、クラクフは和平を懇願。イワンもこれに応じた。
軍は武装を解き、都市は復興を始め、真の戦後が訪れる。
9月上旬、ポーランド王ジグムント、ツァーリイワン、神聖ローマ皇帝フェルディナント、ローマ教皇ピウス、スペイン王フェリペ、デンマーク王フレデリック、スルタンスレイマン、イギリス王エリザベスがプラハに集まり、それぞれの戦利品を話し合う。
指揮官たちは蚊帳の外だった。
マラトとサルナは一応和約パーティーに呼ばれたが、発言権はない。この戦争は地球儀から見ればイギリスとスペインのものであり、マラトも保安官ではなくドイツ人の傭兵隊長なのだ。
赤紫の軍服でプラハの町に入る。
実に綺麗な眺めだ。ところどころ丘で高くなっているが屋根の連続で斜面は見えず、高い教会がアーチを飾った壁と尖塔の数々を突き立てる。上質なガラスが窓に使われていた。
思わず見とれてしまったが、ブルタバ川の前でサラセタを降りる。対岸の商店街は1階部分が開かれており、その上に黄色がかった壁とオレンジの屋根を見せつける。真っ直ぐな建築と斜めに入り組む通りが人の豊かさを表していた。
パーティーは夕方からだ。マラトはサラセタに笑顔を見せる。
「来るの早すぎたね」
背中を叩いて少し皮肉っぽく褒める。だが町の雰囲気に楽しみを広げた。プランターと植木鉢の散見される路地に曲がる。
「うわっ」
何者かに足を引っかけられ転んだ。
「ふざけんな」
膝を立てて見上げると、お団子の女がサラセタに頬擦りをしていた。
「エレータさんっ?」
「久しぶり」
チョコの混ぜられたパンを食べ終え、サラセタから離れる。マラトも挨拶をした。
「久しぶり。ウィーンにいるんじゃなかったの」
立ち上がって表情を見せると、エレータは腕を振って否定した。
「あれから2年も経ってんのよ。戦争お疲れ様。こっちも色々あったんだから」
そう言うと歩き出し、マラトもついていく。
「小さな貴族さんに仕えてたの。小さな町で税金取ってた。割に私兵さんが結構いたからかなり重税でね。で」
顔を近づける。
「ちょっとずつちょろまかしてたら見事にばれて、部屋に呼び出されたのよ。でも力ずくで脱出成功。それから1年くらいはカブとかお肉の畑を回ってのんびりしてた。プラハに来たのは半年前かな? いい町よね。こんなに長居できたのいつ振りだろ」
「慌ただしいね」
19歳と27歳が広場で塀に寄りかかる。サラセタもしゃがみ込んだ。
「お前はどうなのよ。会ったの? サルナって女の子」
マラトは2度頷いた。
「お互いに勝ったり負けたりした。一騎打ちにもなったけど本当に強い。全く歯が立たなかった」
「言う割にはお前も生きてるけどね」
格好つけるような横目で見る。
「可愛かったかい」
青年は苦笑した。髪の豊かな首を傾げる。
「まあ美人だったんだろうと思う。でも顔なんてしっかり見てないから」
「もう1度会えるってワクワクしてんでしょ」
「別に、特別そういう訳では」
「どういう訳? 強い人と会うの楽しみじゃないの」
マラトは笑いながらエレータの頭を叩いた。更に足首も蹴ってやる。
彼女の歯が光った。
「お前にはあの子がいいだろうね。あとは向こう次第」
「もういいって」
マラトはサラセタを起こして歩き出した。
「いい暇潰しを知ってるんだけど」
「大丈夫だって」
「お前をかっこよくする暇潰し」
マラトは固まって下を向いた。
また歩き出す。
手首を掴まれた。
「私の方が年上なんだからね。黙って来なさい」
半ば強引に連れ去られる。




