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第1章 14節 「三民会戦」

 キエフを占領したとき、6月の6日だった。艦隊はここまでとし、主軍が降りて駐屯する。サルナは全体の半分に相当する23000人を率いて北上を始めた。最低限の輸送兵はドニエプルの沿岸管理に送る。

 東岸の平野を進軍中、オルシャから伝令がやってきた。

 「サルナ殿。ポーランド軍は賭けに出ました」

 指揮官はウサギを撫でながらきく。

 「モヒリョウの師団は動かさず、ミンスクに僅かな兵のみを残して南下しています。ドイツの傭兵もワルシャワからこちらに集中しているそうです」

 「そうか」

 サルナは北を見詰めた。南からの光が鋭い顔を際立たせる。

 奇襲の軍団を短期決戦で落とし、その勢いで旋回しスモレンスクまで駆け上るつもりだろう。それはロシア軍の分断と戦線の崩壊を意味する。

 同時に敵も滅亡を覚悟しなければならない作戦だ。

 「お前の指揮官にこう伝えろ。モヒリョウの師団とは戦わず距離を保てと。つまり万一そいつらも南下したなら離れてはならないが、そうはならんだろう。とにかく動くな」

 「承知。確かに伝言いたします」

 伝令はメモを大事にしまうと、高速の馬で去っていた。

 「ベルカ、あんなに速く走れる? すごいね」

 片手をその頭に置くと振り払われた。不服そうな横目で見られる。

 「じゃあ実力を見せてもらおう」

 ウサギを放ち、脇腹を蹴った。


 6月14日。サルナはレチツァの町に迫ろうというところで、川を渡り陣取っているポーランド軍を発見した。

 どうやらここは氾濫原のようだ。東に河岸段丘が続き、ポーランド軍は岸からその手前まで戦列を構えている。それより北の西岸に町を捉えた。

 サルナが行軍を止めると、ウサギが昇ってくる。小隊長たちを集めた。

 「おそらくドイツ人は左翼にいる。何かあったときに主人の方が早く川を渡れるようにな。そいつらは丘から砲撃を浴びせてしまえ。私は右翼に突撃する。傭兵どもは帰れるか恐れを成して逃げていくだろう。それから一挙に攻め込む」

 「はい」

 小隊長たちが部隊に指示を出すため走ると、サルナは川へ歩きながら騎兵に呼びかけた。

 「馬乗りたちよ。水を飲ませてやろう。この流路で我らは不敗だ」

 軍団がそれぞれの配置に移動しはじめる。

 準備が整い、ロシア軍の騎兵突撃で戦闘が始まった。

 国土を荒らされてきたポーランド騎兵に火が点く。受けて立つどころか飛び出してきた。

 「構えっ」

 サルナが小銃を構える。続く3列の動きが一致した。

 「放てっ」

 先頭1列目が死を与え、3列目が追い抜く。一斉の爆破で殺すと最後尾となった2列目も続いた。

 敵の出鼻を挫き、3列はもう1段スピードを落とした。背後から鋭い陣形の馬が現れる。

 ポーランド騎兵は突進力を失った。崩れた陣形でかち合うと壊れるようにロシア軍に轢かれていく。数カ所が背中まで決壊した。

 しかし個人の技巧は本物だ。

 乱戦が長期化するにつれ陣形の優劣は消え、やがてポーランド軍が反撃に転じる。その破壊力は一斉射撃に匹敵した。

 サルナは旋回して川沿いを目指す。大股でベルカを駆けさせると、かち合う2騎に割り込み右側を斬り倒した。

 「お前も来いっ」

 振り返ることもなく次の騎兵に衝突した。バランスの崩れたところを後続が斬る。

 河川敷に至ると飛び込んだ。手招きをして彼も来させる。その背中に遅れたウサギたちが飛び乗った。

 距離を見極めると反転し、彼の元に近付く。

 「失礼」

 ベルカはその馬の背に前足を乗せた。サルナは立ち上がり、愛馬の肩を足場とする。小銃を構えた。


 サルナを追って泳ぐ1騎を沈めた。轟音をきいたポーランド軍が敵将を討たんと殺到するが背後のロシア騎兵も小銃を構える。泳力の低い馬は正確に撃ち殺されていく。

 それでもポーランド騎兵は孤立する敵将を諦めない。おびただしい水死体の末、遂に十数騎が迫ってきた。

 サルナは最も近い1人を撃ち殺す。

 「ベルカっ」

 滑るように座って脇腹を蹴った。カタパルトのような勢いで飛び出し、死体を跳ぶ。前のめって次の騎兵の首を斬った。同じく馬を踏み台に跳ぶ。

 一通り殺すとベルカは下流に泳いだ。ウサギたちが肩や頭に昇ってくる。上流のロシア騎兵は水死体をかき分けて真っ直ぐ戻ろうとしていた。ポーランド騎兵が下流にやってくるがサルナは既に岸に近く、陸に上がって去ってしまった。

 乱戦に突撃し、互角の形勢で戦う。

 一方、ロシア軍右翼では誤算が生じていた。

 丘は湿地となっており足場が悪く、砲兵の展開が遅れた。更に敵左翼にドイツ人はいない。ポーランド軍は敵を中央に突撃させ、両翼から挟み込む算段だったのだ。

 彼らの左翼は、ロシア軍が側面から攻撃を仕掛けようとしていることに気付く。東西の戦列を南北に構えなおした。

 これに慌てたロシア歩兵は丘から駆け降り、支援砲撃もなく攻勢に出た。しかし優秀なポーランド騎兵はもちろん、同じ歩兵にも練度で劣り、壊滅的被害を受けて後退した。ここで砲兵の展開が終わるが遅かった。至近距離の砲撃は最初は大軍を叩き落としたもののすぐに反撃を受ける。敵左翼が盤石に固まって強打をぶつけた。

 サルナはその様子を見上げていたが、動じない。

 敵右翼は西に、左翼は東に引き付けられて中央が薄くなっている。

 「ベルカっ」

 反転し、素早いかち合いで乱戦から抜け出した。ロシア軍中央の小隊長に叫ぶ。

 「今すぐ攻撃を仕掛けろ。敵を分断するのだ」

 彼が剣を挙げると、また敵右翼に突撃していった。

 ロシア軍は直ちに行動を開始。隙だらけの中央に浸透し、敵のど真ん中に楔を打ち込む。ポーランド左翼は傭兵を支援するため騎兵を与えるが駆け降りるうちに砲弾の雨を食らった。勢い衰え、中央はむしろ混乱した。

 サルナは騎兵中隊を率いて河岸段丘を回り込む。敵左翼に北の側面から突撃した。反時計回りに押し込み、ロシア軍中央と合流する。包囲を完成した。

 日も暮れかけてしまい、ポーランド軍は撤退を決意する。右翼は橋を渡ることができたが左翼は包囲網を突破できなかった。

 ロシア軍は、膨大な捕虜を得て勝利した。

 この31000人のポーランド師団の惨敗により、戦線全体が崩壊した。オルシャとヴァルダイの軍がモヒリョウを攻撃して西に敗走させ、ミンスクに待ち構える軽装部隊とで挟み込んだ。彼らは降伏を選び、ブリャンスクのポーランド師団は完全に包囲された。それでも果敢に戦うが三方向から圧力を掛けられ、8月の上旬に降伏する。

 サルナの大軍はワルシャワに向けて行軍を開始した。12月中旬にこれを包囲する。

 勝利は間近だ。

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