第七話 お洋服を買いに行こう
「おかげさまで完売しました。ありがとうございました!」
私はニコニコしながらお客様にペコリと頭を下げた。
「えー。もう完売? 買えなかった……」
「あ、そうなんですか。ごめんなさい。明日も来ますので」
「よっしゃ! じゃあ明日は早めに来よう」
そんな会話をしながら、買いそびれたお客様たちは帰っていった。
今日もギルドで場所を借り、お菓子販売をした。
販売したのは紅茶クッキー(一袋4枚入で金貨3枚)だ。昨日の失敗を生かし、今日はちゃんと小さい袋も用意したので衛生面もバッチリだ。
購入したお客様は早速袋を開けて中を見ている。
そして一枚を手に取り、パクリと口の中に入れた。
「お前また……。ここぞと言う時に食えって言ってるだろ!」
「大丈夫だよ。4枚もあるんだから。あー、それより美味いー。サクサクした食感にほのかな甘み。なにより食べた瞬間、紅茶の華やかな香りが口の中いっぱいに広がるー」
「感想言うのやめろよ! 食いたくなるだろ!」
そんな会話を微笑ましく眺めていたら、テールがポンと肩を叩いた。
「よし。じゃあさっさと撤収するぞ」
「うん」
机の上を拭き、後片付けをしてから受付嬢に挨拶してギルドを出る。
首から下げた小さなお財布(昨日購入した)の中身を確認すると、自然とニヤけてしまう。
ふふ。昨日の分も合わせて金貨がいっぱい入ってる。お金持ちになったみたいで嬉しいな。
鼻歌を歌いながらテールと一緒に商店街に向かう。
昨夜テールと相談して、この街は一週間後に出ることが決まった。
今日は世界一周旅行のために必要な品々を、テールと一緒に買いに行くのだ。
歩きやすいブーツや日用品を買ったあと、お楽しみの服屋に向かった。
ここは冒険者ご用達の服屋だ。旅をするならただのお洋服だとすぐにダメになってしまうので、冒険者ご用達の店で買うのが必須らしい。
なかに入ると、アニメで見るようなカッコいいお洋服がズラリと並んでいた。
「冒険者の先輩として、俺が選んでやるよ」
「うん!」
テールオススメってどんなお洋服だろう?
可愛いのだといいな。
私はワクワクしながら待ったのだった。
※※※※
「よくお似合いですよー! お客様!」
試着室から出てきた私は、店員さんが褒めてもムスッとしていた。
だって全身ゴツゴツした鎧なんですもの。さすがテールチョイスね。おしゃれより実戦向きなのね。
「お? いいじゃん。これにするか」
「やだー。可愛くない」
「可愛いさ重視で装備を選ぶな!」
「でも、これじゃあ重過ぎて一歩も歩けないよ」
テールは心底呆れた表情をした。
「さすがレベル1だな……。非力過ぎる……」
そうよ。レベル1がこんな重い装備身につけられる訳がないのよ。
テールに任せたらまた可愛いさより実戦重視の装備を選んでしまう……。こうなったら自分で決めよう。
キョロキョロ店内を見回していたら、一番目立つ場所に、女の子用の装備を発見した。
ヒラヒラのスカートにフリルのついたトップス。胸元には大きな真っ赤なリボン。色は茶色で、まるでチョコレートみたいだ。
「店員さん! あれ可愛い! あのお洋服取ってくれませんか?」
「おぉ! お目が高いですね。あれは聖なる衣で作られたものです。丈夫で炎や吹雪にも強いんですよ。ただし、この店で一番値が張ります」
値段を聞くと、所持金でギリギリ買える価格だった。
「大丈夫です。あれ下さい!」
「はい。ありがとうございます! 今お持ちしますね。着替えて行きますか?」
「はい」
店員さんにお洋服を持ってきてもらい、試着室の中で着替える。
着替え終わったので、自分の姿を鏡で確認した。
うんうん。いいんじゃないかな? 冒険者と言うよりは、これからデートに行く人の服装みたいだけど。
などと思いながら試着室を出る。
「テール! これに決めた!」
「あぁ、そうか。じゃあ買ってやるよ」
「え!? いいよ。この服とっても高いんだよ? 自分で買うよ」
「Sランク舐めんな。一回の仕事でお前の数倍稼ぐから大丈夫だ」
「テール……」
テールはパチンとウインクしてからニコリと笑った。
「いつも美味い菓子食わせてくれるお礼だよ。受け取ってくれ」
きゃーー。テール優しい! それにカッコいい!!
こんなことされてときめかない女子はいないわ!
「テール! ありがとう!」
私がニコニコお礼を言うと、テールはなんてことない事のように「おう」と言ったのだった。
※※※※
「ありがとうございました。またお越しください」
店員さんに見送られながら店を出た。
新しい服は着心地がよく、着ているだけで楽しい気分になってくる。
ちなみに、前の服は手提げ袋に入れて持ち帰った。
あの制服もお気に入りだったのだ。もう着ることはないと思うけど、大事に取っておこうと思う。
そんなことを考えていたら、隣を歩くテールが、じっとこちらを見ていた。
「へぇ……。そんなヒラヒラした服のどこがいいのかと思ったけど、結構似合ってんじゃん」
「本当? 可愛い?」
「……」
テールは恥ずかしそうに私から顔を背けると、ぶっきらぼうに言った。
「……か、可愛いっ」
「!?」
え? 冗談で言ったのに。あの硬派なテールが、まさか本気で可愛いなんて言ってくれると思わなかった。
な、なんか恥ずかしくなってきたわ。
私は真っ赤になりながら、モジモジとうつむいた。
すると、テールが余計な一言をつけ加えた。
「派手でちょっとバカっぽいけどな」
「!」
なによ! またバカって言った!
本当に口が悪いんだから!
「バカじゃないもん!」
私は照れ隠しに怒っているフリをして、テールの背中をぽこぽこ叩いた。
テールは「なんだよ、いてーな」と言いつつも、優しく笑ってくれた。
こうして午後の穏やかな時間は過ぎていったのだった。