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第六話 で、ですよねー

 とりあえず食品を扱うので衛生面が大事。受付嬢に清潔なふきんを借りて机を綺麗に拭く。

 それからテールの収納魔法で保管していた大きな袋を出し、中からマフィンを取り出す。

 形が崩れているか心配だったけど、潰れもないし、綺麗な見た目のままだったので安心した。

 机に十九個丁寧に並べていたら、それを見ていた冒険者たちが興味津々で集まってきた。

 テールに肩をつつかれる。


「ほら。呼び込みしろ」

「う、うん……」


 私はこちらを見つめる冒険者たちに、震える声で叫んだ。


「え、えっと……。お菓子のマフィンを販売しまーす。一個金貨3枚です。お一ついかがですかー?」


 冒険者たちは顔を見合わせたあと、腹を抱えて笑った。


「たけーよ! 高過ぎ! 金貨3枚とか! 金貨3枚ありゃあ超一流の宿で、食事付きで一泊できるぞ!?」


 う……。そうよねぇ……。私も高いと思ったのよぉ……。やっぱりそこがネックになっちゃうわよねぇ。


「で、でも……一応お砂糖使ってるんです」

「砂糖!? 本当かよ! 実は代用甘味料で誤魔化してんじゃね? あれ砂糖に比べると大分味落ちるんだよなぁ!」

「ち、違います」

「とにかく高過ぎー!! ぼったくりかよ!! 可愛い顔して悪どい姉ちゃんだなー!!」


 冒険者たちは見下すような表情でゲラゲラ笑うと、これでもかと私のマフィンをけなした。


 うぅ……。ボロクソに言われちゃったわ。

 そうよね、マフィンなら銅貨5枚くらいが妥当なのよ。

 金貨3枚なんて、どれだけ強気価格なのよ。

 マフィン……。一生懸命作ったのに、売れ残りそう。

 悲しい。泣きたくなってきた……。

 私は涙をこらえながら、ギュッとスカートの裾を握りしめた。

 すると、見かねたテールが口を開いた。


「待て。このマフィンには治癒、体力・魔力が回復効果や状態異常も治せるんだ。それで金貨3枚ならお得だろ」

「テ、テールさん……。それが本当なら、特級ポーション並みだ。でも、ただのスイーツにそんなバフ効果付けられる訳がないですよ」


 冒険者たちはうなずき合うと、次々に批判を開始した。


「そうだそうだ! そんなスイーツあるわけねーじゃん!」

「テールさんには悪いけど、信じられませんよ!」

「そんな怪しいもん買うくらいだったら、素直に特級ポーション買います!」


 テールは苛立ったようにスッと目を細めた。


「テメーら……」


 その視線が怖かったのか、冒険者たちはビクッと体を震わせた。

 私たちのせいで、ギルド内はとても気まずい雰囲気になっている。

 も、もう帰りたい……。ザコメンタルの私には耐えられない。などと弱気になっていたら、突然入り口の扉がバタン! と開いた。


「誰か……! 誰か特級ポーションを持ってる奴はいねーか!? 回復魔法師でもいい! とにかく相棒を助けてくれー!!」


 驚いてそちらへ目を向けると、真っ青な顔をした男の人と、その人に肩を貸している涙目の男の人が立っていた。

 真っ青な顔をした男の人は、冷や汗をかいて苦しそうだ。それに、左足も怪我しているようでダラダラ血が流れている。


 受付嬢が慌てて二人に駆け寄った。


「どうしたのですか!? なんの魔物にやられたのですか!?」

「コカトリスにやられたんだ。なんとか討伐は出来たけど、このザマだ」

「コカトリスですって!?」


 辺りはざわめいた。


「コカトリスって言ったら猛毒じゃねーか……」

「コカトリスの解毒は回復魔法師じゃ無理だ。賢者じゃねーと……」

「誰か特級ポーション貸してやれよ」

「特級ポーションなんか持ってるわけないだろ……。王都とかバカデカい街でしか売ってねーよ……」


 みんなあきらめムードだ。気の毒そうな表情をしながら、真っ青な顔の男の人を眺めている。


 そんな中で、テールだけが諦めていない。

 マフィンを一つ掴み、毒に侵された男の人に近付いていった。それから傍観する冒険者たちに向かって叫ぶ。


「丁度いい! お前ら見てろよ!」


 テールは男の人の口元にマフィンを近付けた。


「苦しいとこわりーけど、ちょっとだけ食ってくれねーか?」

「……」


 男の人は藁にもすがる思いだったのだろう。ガクガク震えながら小さく口を開き、一口だけ食べた。


「!?」


 途端に血の気が戻っていく。冷や汗もおさまり、呼吸も普通になった。と、同時に傷がもの凄いスピードで塞がっていき、あっという間に治癒されてしまった。


「な、なんだあれ……。解毒と治癒を同時に行ったぞ……?」


 ざわめく冒険者たちに見守られながら、男の人はガシッとマフィンを掴んだ。それから狂ったようにガツガツ咀嚼する。


「なんだこりゃあ! めっちゃうめー!! しかも、毒と傷も治ったーーー!!」

「マジかよ!!!」


 冒険者たちは目を見開き、一斉にどよめいた。

 

「こりゃあ……神の御業だ!」

「特級ポーションは金貨5枚で、入手困難だ。それに比べてマフィンは、金貨3枚で特級ポーションと同じ効果がある!」

「しかも、超うめーらしいぞ!」


 冒険者たちは一斉にマフィンに目を向けると、ごくりと喉を鳴らした。こ、こわ……。目が据わっているわ……。

 ビクビクしていたら、一人の冒険者が前に出た。


「くれ! そのマフィン一個くれ!」


 その声を皮切りに、マフィンの前に冒険者たちが殺到した。


「ギャーー!!」

「ぎゃあじゃねーよ。ちゃんと接客しろ」


 テールに言われてハッと我に返った私は、そのあと大忙しでマフィンを販売した。


 結果、五分足らずで全て完売!

 まさかな結末に、私は開いた口が塞がらなかった。


 マフィンを購入した人が、試しにパクリと一口食べてみたようだ。すると、ブルブル体を震わせて叫んだ。


「う、うめー!! なんじゃこりゃあ!!」

「バ、バカ。今食うなよ。ここぞという時に食えよ」

「でも……でも……、やめられねーよぉ!」


 そう言ってあっという間に一個平らげてしまった。

 それを見ていた冒険者たちも、ごくりと喉を鳴らし、一口だけ食べた。


「ほ、本当に美味い! これ、本物の砂糖使ってるぞ!」

「おいしー! 手が止まらないわ!」

「ほんとに美味い。半分取っておいて、妻と子供に食わせてやろう」


 などなど、嬉しい反応のオンパレードだ。

 なかには次の販売について聞きに来る人もいた。


 私はホッと胸を撫で下ろした。

 良かった……。私のマフィンが、困っている人を助けられたんだ。

 などと感動していたら、テールがポンと肩を叩いてくれた。


「良かったな、エリー」


 私はちょっと涙目になりながら、ニコリと微笑んだ。


「うん!!」


 こうして私の初めてのお菓子販売は、大成功に終わったのだった。

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