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第三話 甘いものが好きな人に悪い人はいない!

 ぷりぷり怒る私は無視して、男の人はキョロキョロ辺りを見回した。

 そして、オーブンがあることに気がつくと、ケラケラ笑い始めた。


「お前っ。なんで森の中にオーブンなんか持ち込んでんだよ。背負ってきたのか? ウケる」

「違うわよ! これは魔法で出したの! お料理の材料も調理器具も、全部魔法で出したの!」

「へー。お前、収納魔法使えんの?」


 収納魔法? なにそれ?

 ……い、いやいや。これもアニメで勉強したわ。

 確か、持ち物を異空間にしまい込む魔法ね?

 これがあればいちいち手に持って歩かなくていいから楽なのよね。


「ううん。使えない。別の魔法よ」

「別の魔法?」

「まぁ、なんでもいいでしょ! それより助けてくれてありがとっ。一応お礼を言っておくわ」

「なんか偉そうだな」

「だって初対面で私のことバカとか言うんだもん! 言っとくけど、私はバカじゃないわ!」


 ただ、まだちょっと異世界に慣れてないだけよ。

 慣れれば私だって立派な異世界人になれるんだから。

 そんなことを思っていたら、男の人が苦笑した。


「そうかよ。そりゃあ悪かったな」

「……」


 謝ってくれた……。

 てっきり「いや、バカだよ」とか言うと思ったのに。もしかして、そんなに嫌な人じゃない?

 私の中で男の人に対する怒りがだいぶ薄れた。

 確かに森の中で呑気にクッキー焼いてたらバカっぽいわよね。ちょっと反省……。なんて思いながらなんとなく男の人の右腕へ視線を向けた。

 服が破れ、ドクドクと血が流れている。


「!」


 さっきの戦いで怪我をしたんだ!

 私は慌てて男の人の腕を掴んだ。


「大丈夫!? ごめんなさい。さっきの戦いで傷つけたのね!?」

「あぁ、こんなのかすり傷だよ。回復魔法唱えるまでもねぇ」

「でも……痛そうだよ……」


 薬箱でもあればいいんだけど……と思っていた私はハッとした。

 そう言えば女神様は、私の作ったお菓子には、傷を癒す効果があるって言ってた。

 私は急いでオーブンへ行き、クッキーののった鉄板を持ってから男の人の元に戻った。


「食べて!」

「へ?」

「いいから食べて!」


 男の人は不思議そうに鉄板を見つめたあと、「お!」と嬉しそうな声をあげた。


「クッキーじゃん! え? マジ? 食っていいの?」

「うん」

「やったぜ!」


 男の人は目をキラキラさせながらクッキーを一枚掴み、サクリと咀嚼した。

 次の瞬間、男の人はカッと目を見開いた。


「うっま!! なんだこれ!? こんな美味いクッキー食ったことねー!」


 感動する男の人の腕をじっと凝視する。

 すると、血が止まり、みるみる傷が癒えていくのが確認できた。

 ……凄い。本当に治癒効果があったのね?

 良かったぁ。

 ホッと胸を撫で下ろしていたら、男の人が期待するような眼差しで私を見つめた。


「もう一枚食っていいか?」

「……」


 この人、甘いものが好きなのかな? 甘いもの好きに悪い人はいない! よし、私の自信作をいっぱい食べてもらおう。


「いいよ。全部食べちゃって」

「マジかよー。じゃあ、遠慮なく」


 そう言って男の人は両手いっぱいにクッキーを掴み、ガツガツと食べ始めた。

 口の中に大量に詰め込むので、ほっぺたがリスみたいに膨らんでいる。

 いっぱい食べる男の人って可愛いよね。作って良かったー。

 私はニコニコ微笑みながら、夢中でクッキーを咀嚼する男の人を眺めていたのだった。


※※※※


「はぁー、美味かった。ご馳走さん」


 男の人はドカリと座り込み、満足げにお腹をさすった。


「ふふ。喜んでもらえて良かった」

「って言うか、お前貴族か?」

「へ? なんで?」


 不思議に思って理由を聞くと、どうやらこの世界では砂糖はそこそこ貴重で、高級品らしい。

 クッキーなどのお菓子は、一部の貴族しか食べられないんだって。


「まぁ、俺もたまには菓子食うけど、高いから毎日は無理だ」

「そうなんだー。残念だけど、私はただの高校生だよ」

「コーコーセー? なんだそれ?」


 しまった。こっちの世界で高校生なんて言っても分からないか。


「な、なんでもない。それより傷治って良かったね」

「あれ? 本当だ。治ってる。なんでだろう?」


 男の人は怪我が治ったのが嬉しかったのか、右腕をぐるぐる回しながら話を続けた。

 

「それよりさぁ、なんかすげー元気になったんだけど。このクッキー、隠し味に上級ポーションとか入れてる?」

「う、ううん。入れてないよ?」

「そうか? おっかしいなー。疲れが吹っ飛んじまった」


 私の作ったお菓子を食べると、傷だけじゃなくて体力や魔力まで回復するのよね。

 でも、それをこの人に伝えたらややこしくなりそうだから黙っていよう。


 それよりも、さっきベヒーモスを倒したときは凄かったなぁ。

 ピカっと閃光が走ったような気がした次の瞬間、ドスーンってベヒーモスが倒れたのよね。

 この人、結構強いんじゃないの? どのくらいのレベルなんだろう?


 私はだんだん好奇心が湧いてきて、居ても立っても居られなくなってきた。


 この人のレベルが見てみたい。

 別に恥ずかしいものを見るわけじゃないし、いいわよね?

 よし! ステータスを見ちゃえ。

 私は心の中で念じ、男の人のステータスを確認した。


 《名 前》 テール

 《年 齢》 21

 《職 業》 冒険者

 《レベル》 126

 《体 力》 1024/1024

 《魔 力》 725/725

 《攻撃力》 1300

 《防御力》 1250

 《素早さ》 1568

 《スキル》 雷鳴疾風斬(雷を放ちながら、瞬きの間に風のように切り裂く。あとに残るのは、残光と轟音のみ。双剣を極めたものに贈る称号)


「な、なんじゃこりゃー!!! レベル126!? 双剣を極めたものに贈る称号!? この人超強いじゃない!」

「!?」


 私の言葉に、男の人……いや、テールさんは目を丸くした。


「今、俺のこと言ったのか? なんで俺のレベル知ってんだ?」

「え!? えーっと……」

「レベルは『ステータス確認』が出来るやつしか使えねーんだ!」


 テールさんは起き上がり、私の両肩をガシッと掴んだ。


「お前、何者だ?」

「いや……その……。近いです、顔が。落ち着いてください」


 ダラダラ冷や汗を流す私を、テールさんは疑うような眼差しで見ている。


「森の中で仲間も連れず一人でクッキーなんて高級菓子を作っている……。それだけでも怪しいのに、ステータス確認まで出来るなんて……。お前、もしかして名のある冒険者なのか……?」

「ぼ、冒険者? 違います! 私はただの一般人です!」

「本当かぁ……?」


 テールさんが顔を近づけて、ジーッと私を凝視する。

 やだ、近くで見ると本当にカッコいいわね。ドキドキしちゃう。などと胸をときめかせていたら、テールさんが冷たい声で言い放った。


「もう一度言う。お前、何者だ? 正直に言わねーとぶっ飛ばすぞ?」


 こわ……。女子にも躊躇(ためら)いなくぶっ飛ばすとか言えるその精神がこわ……。

 適当に誤魔化したら、本当にぶっ飛ばす気概がこの人にはあるわ。

 に、逃げられない……。


 私は誤魔化すことを早々に諦めて、今までのことを洗いざらい喋ってしまったのだった。

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