第二話 スイーツレシピ大全集、早速試してみよう
女神様が指を差した方向を走っていたら、前方に光が見えてきた。
あの光の先が異世界なんだ。
私は喜び勇んで光の中を走り抜けた。
「……っは!」
そこで目が覚めた。
なんだぁ、夢だったのかと思い、体を起こしてギョッとした。
目の前には見渡す限りの木、木、木。
どうやらここは森の中のようだ。
不思議だな。
さっきまで白い世界を走っていたのに、なぜか森の中で目が覚めた。
これも女神様の力なのかな? などと思いながら立ち上がる。
……それにしても女神様。どうせなら街とかに転送してくれれば良かったのに。なぜに森!?
どっちに行けばいいのかさっぱり分からないよ……。
ひとまず落ち着こう。
とりあえず女神様がくれた贈り物を確認だ。
そういえば、私のステータスってどうやって見るんだろう?
女神様にやり方を聞きそびれちゃった。
アニメでは念じれば出てくるんだよなぁ。一応それを試してみよう。
(ステータス……出よ、ステータス)
すると、本当に目の前に半透明のウィンドウが現れた。
「きゃー! やったぁ!」
まさか本当に出てくるとは。アニメ見てて良かった。
浮かれながら画面を確認する。
《名 前》 戸塚絵里
《年 齢》 17
《職 業》 高校生
《レベル》 1
《体 力》 15/15
《魔 力》 5/5
《攻撃力》 1
《防御力》 2
《素早さ》 1
《スキル》 スイーツ創造(スイーツレシピ大全集を開くと、材料・調理器具・調理環境が自動で生成される)
「しょぼ! 攻撃力1しかないの!? 防御力も素早さも低すぎる!」
……でも、最初はこんなものよね。これからどんどん上げていけばいいのよ。
あとは、スキルね。
スイーツ創造……。スイーツレシピ大全集を開くと、材料・調理器具それに調理環境まで揃うらしい。
よく分からないけど、試してみるしかない。
(スイーツレシピ大全集、出てこい!)
念じると、ポンという音と共に、分厚いアンティーク調の本が手の中に現れた。
おお、本当に出たわ!
ワクワクしながらページをめくる。
シュークリーム、ショートケーキ、マカロン……。色々あるけど、今はクッキーが食べたいわ。
クッキーのページを開くと、「材料等を転送しますか?」という文字がふわりと浮かび上がった。
「はい」をタップすると、ポン、と白い煙の中から材料や調理器具が出現した。さらに、可愛らしい白のアンティークオーブンまである。
「え? オーブン? しかも可愛い!」
でも、ここ森だし電気なんてない。使えるのかな……。
試しに加熱ボタンを押すと、ブーンという音とともに温まり始めた。
すごーい。電気がないのに動く!
これはただのオーブンじゃない! 魔法のオーブンなのよ!
材料もあるし調理器具もオーブンもある!
これはもう、クッキーを作るしかない!
と、言うわけで、私は腕まくりをして早速クッキー作りを開始したのだった。
※※※※
オーブンが出来上がりの合図を知らせるため、「チーン!」と鳴った。
出来たわ! ちゃんと美味しく作れたかしら?
私はオーブンを開けて、出来上がりを確認した。
甘いバターの香りが広がる。
丸く形どったクッキーはきつね色で、とっても美味しそうだ。
熱々の一枚を手に取り、口に運ぶ。
サクッと良い音がして、舌にのせるとホロホロ溶けた。優しい甘さが口の中いっぱいに広がる。
「んー。美味しい!」
久しぶりにお菓子作りをしたから上手くできるか心配だったけど、大成功ね。良かったぁ。
もう一枚食べようと手を伸ばしたところで、後ろからガサガサ動く音が聞こえた。
「!?」
なにかいる。
心臓がドクンと跳ね、背筋が冷たくなった。恐る恐る振り返ると、木々をなぎ倒し、巨大な生き物がこちらを見ていた。
「ギャーー!!」
なにこれなにこれ!?
ツノが生えててサイっぽいけど、大きさは二倍ある。
ゲームで見た『ベヒーモス』みたい。
さすが異世界。魔物までいるのね!? などと感心している場合ではない。
どうしよう。なにか武器になるものはないかしら!? 辺りを見回すが、木の棒一つ落ちていない。
「グオーーー!!!」
ベヒーモスは前足でザッザッと地面を掻いたあと、こちらに猛スピードで突進してきた。
もうダメ! 絶対絶命よ!
私は頭をかばうようにしてうずくまった。
――その時だった。
「グオッ!?」
なにかが真横から猛スピードで飛び出してきて、ベヒーモスに体当たりをかましたのだ。
「え?」
ベヒーモスはズシーン! と音を立てて横に倒れた。
ベヒーモスの前に誰か立っている。
男の人だ。
恐らくベヒーモスに体当たりをかましたのはこの人だろう。あの巨体を体当たりで倒すなんてどれだけの力とスピードが必要なのだろう?
驚いて声も出ない私を、男の人はチラリと見つめた。
銀の短髪で、目が金色に輝いている。
顔立ちは彫りが深く、鼻筋がスッと通っていた。
い、異世界人だ! キャアー! アイドルみたいにカッコいい人じゃない!
私がドキドキ胸を高鳴らせている間に、ベヒーモスが立ち上がった。
ブルブル首を振り、男の人を睨む。そして、また前足を掻いたあと、今度は男の人に突進した。
「危なーい!」
私が叫んでも男の人は表情一つ変えず、腰に差していた二本の短剣を引き抜いた。
そして、閃光のごとき一撃で、あの巨体を斬り伏せたのだ。
ベヒーモスは、ドシーン! と音を立てて地面に倒れた。
ピクリとも動かない。恐らく、もう死んでいるのだろう。
い、一撃だわ……。この人何者!?
驚きと恐怖でガクガク震える私に、男の人が近づいてきた。
「大丈夫か?」
「は、はいっ」
震える足を叱咤しながら立ち上がると、男の人はアホを見るような冷たい表情をした。
「しかし呑気な女だなぁ。魔物がうじゃうじゃいる森の中で料理とは……。お前、バカなのか?」
「!」
前言撤回!
カッコいいって言うのは取り消すわ!
それよりも、失礼な人!
私はぷくっと頬を膨らませ、男の人を睨んだのだった。