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プロローグ 魔女

初めまして、ゆると申します!

この度、新作【魔女と呼ばれる私が自立するまでの話っ!】のプロローグを執筆させて頂きました。

他の昨日も執筆しているのでゆっくりにはなりますが、楽しんで頂けたら嬉しいです!

又、コメントや評価も沢山頂けると嬉しいです!

1

雷雨の中、私は箒で空を飛んでいる。

静かに身を隠しながら、人間の国へ買い物に行っていたのだ。

しかし、その日は天候に恵まれず、強い風が吹いていた。風によってフードが捲れ、その国に私の存在を知られてしまった。


「ま、ま、魔女だぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

「こ、殺されるぅぅううううッ!!!!!」


人間と魔女の見た目に違いはさほど無い。唯一違う点をあげるならば、魔女は魔法を使えるという事。その上、魔法を使う時は黒や紺色のローブにとんがり帽子を被らなければいけない。そんな服装をしていれば、自然と疑いの目は向けられるのだ。

もしも、人間にも魔法が使えれば。

もしくは、魔女に魔法が使えなかったのなら。

こうはなっていなかったのかもしれない。

…これが先代の魔女達が残した歴史。

人間達が魔女に恐れて逃げるだけならまだ良い。でも、それは過去の話。現代の人間達は、武器や石を持って再び私の元へと戻って来るのだ。


「出ていけッ!この害悪がぁッ!」

「この国から出ていけぇぇぇッ!」

「おいッ!にんにく持ってこいッ!」


飛んでくる石やナイフは当たれば痛い。苦手なにんにくが飛んでくれば吐き気を催す。当然魔女にも五感はある。だが、人間にとってそんな事は関係の無い事だ。

魔女を倒せば英雄となり、名誉が称えられるのだろう。

いわば魔女とは、悪魔なのだ。

私は必死の思いでその国から逃げ、箒に跨り空を飛んだ。


雨水が傷口が沁みる。耐えながらもひたすら飛び続けている。この箒が無ければ、私は今頃どうなっていたのであろうか。

何故人間と魔女は共存出来ないのか。

現代の魔女達は一体どのように暮らしているのか。

そんな事ばかり毎日考えながらもう二年も旅をしている。


ボーッと箒に乗っていると事故になりやすいと魔女学校で習った。気付いた時には木にぶつかって落ちていた、なんて話はざらだとか。

では、雷に撃たれた場合は?

それは良くあることなのだろうか?


「きゃあぁぁぁぁあぁぁぁあぁあぁっ!!!!!」


私は雷に直撃し、深い森の中へと落下した。箒はチリとなって、風と共に去っていった。

運良く木の枝や葉に引っ掛かりながら落ちた為、頭部を強く打つことはなかった。

しかし、長旅の疲労も相まって、この大雨だ。身体は悲鳴をあげ、寒気まで襲い始めてきた。


…あぁ…私は此処で死ぬのか…。


そう思いながらそっと目を閉じた。


2

次に目を開けたのは、温かいベッドの中に居る時だった。

温かい寝巻きに布団、ジリジリと音を立てる暖炉の火。これは夢か、あぁ私は死んだのだと何度も思った。

意識が朦朧とする中、奥の扉から一人の老人が姿を現した。その老人は、白色のローブに白のとんがり帽子を纏っていた。

「まだ熱が下がっとらん。今はゆっくり休むと良い。」

そう言って、私の目に手を当てた。

皺だらけの乾燥肌、でもどこか温かいその手に私の意識は包まれた。


鳥のさえずりと共に目を覚ましたのは何年ぶりだろうか。

周囲を見渡し、夢では無かったと私は再確認をした。すると、私の元へ白いローブの老人が再び姿を現した。

「すっかり元気になったのぉ。良い顔じゃ。」

「あ、あの…」

私が話そうとすると老人は私の口元へそっと人差し指を当てた。

「…何も言うまい。雷雨に呑まれかけていた貴方は偶然わしの家の前で落下した。これは奇跡ではない、運命なのじゃよ。」

何故か私は、その言葉に涙が溢れた。

止まらない涙はいつしか悲しみから喜びへと変わっていた。


ドンッドンッドンッドンッ


どうやら来客が来たようだ。扉を叩く音に反応した白いローブの老人は、ゆっくりと扉の方まで歩いて行った。扉の外から顔を覗かせたのは、三人の子供であった。三人の子供は小さな赤、黄、緑のローブととんがり帽子を被っていた。


「おじいちゃん!おじいちゃん!木苺の実がね、こーんなに出来てたのっ!」

「暴れないでよぉ!木苺は緑のシミになっちゃうの!それにおじいちゃんじゃなくて村長でしょ!」

「村長、雷さん凄かったねぇ!あれぇ!お客さん?」


勢いよく話していた子供達の視線は、一気に私に集まった。

「お姉さんはね、今日からこの村に住む事になったんじゃよ。」

白いローブの老人は穏やかな表情で私の方を見た。

住処の無い私にとっては、本当に有難い話だった。

すると、目をキラキラと輝かせた子供達が私のベッド脇に集まった。


「じゃあ家族だぁっ!」

「わーい!お姉ちゃんが出来る!」

「雷さん凄かったね♪」


子供達は嬉しそうに小さく飛び上がっていた。

「こらっ!ヤックル、ジーノ、ピオラッ!もう、村長さん本当いつもすみません…ってほら謝りなさい。」

子供達は突然入って来た男性の言葉を無視し、元気に外へと走って行った。

「ほっほっほっ、子供は元気が一番じゃ。」

「そう言って頂けると…」

頭の上がらない男性の視線は、会話の途中から私に向けられていた。

「弟と妹なんです。騒がしくてすみません。」

男性は少し笑いながら頭を抑えて謝罪していた。

「…い、いえ。」

すると、男性は何かに気付いたのか私の近くへと歩み寄って来た。

「…な、なんですか?」

警戒する私を見て、男性は一歩引いて答えた。

「あ、いや!すみません!もしかして魔女さん何じゃないかと思いまして。」


まただ…。

やはり何処に行っても魔女は…。


「…い、いや…あの…。」

戸惑う私を見て、白いローブの老人が話に割って入ってきた。

「彼の名はカイル、元々人の子じゃったんだよ。今は正真正銘、我々の仲間じゃ。」

私が渋い顔で戸惑い続けていると、男性は慌てたように説明を始めた。

「すみません、挨拶が遅れてしまって!改めまして、カイルと申します。この村の魔術師として生活しています。といってもまだ初級になったばかりなんですけどね。」

カイルと名乗る男性は、後頭部を片手で抑えながら笑っていた。

「…元々人間だったんですか?」

カイルは笑顔で「ハイッ!」と答えた。

「…何故わざわざ嫌われる魔術師に?」

私の質問にカイルは穏やかな表情で答えた。

昔、助けてくれた魔女に会うためなのだと。


3

私は今、この村を散歩している。完全回復してから既に二日が経過していた。二日前に村の住人に挨拶を済ませ、今では目が合えば手を振り合う関係性にまで発展していた。この村の名前は【ホウルル村】と言い、魔術師や魔女などが住む村らしい。広い森の中にポツンとある小さな村だが、私はこの村が気に入っている。魔術師や魔女は長年苦労してきた事もあり、今では全員が味方であり家族なのだ。此処であれば私自身も幸せに暮らせるのではないかと思った。

森の中には自然の生き物が沢山いる。

鳥や虫が大半だが、時々現れるリスは私の心を癒してくれる。

暫く歩くとどこからか水の落ちる大きな音が聞こえてきた。

私は耳を澄まして、その方向へと歩みを進めた。

一度森を抜けると、そこは神秘の空間だった。

森は抜けたはずなのに、狭い森の奥にいるような感覚。滝が落ちる湖の中心には長方形型の祠がある。その上に座るように、人間と大きさの変わらない妖精がハープを奏でていた。滝の音でかき消されるはずのハープの音色は、滝の音よりも幻想的な音を奏でていた。

「…素敵。」

私が見とれていると近くの茂みからカイルさんが現れた。

「此処良いでしょ、あの妖精さんも毎日いる訳じゃないんだ。」

「そうなんですか?」

「あの妖精はこの島を守る妖精なんだ。ハープを奏でている時は、妖精の束の間の休息なのさ。だから決して邪魔をしてはならない。」

カイルさんの話を聞きながらも、頭の中ではハープの音色が流れ続けていた。

「…私、この村に住みたい。」

無意識ながらもそんな事を口にしていた。

カイルさんは横で微笑みながら、「いいですよ。」と答えた。

そして、私は毎週のようにこの場所へ訪れた。

初めて此処へ訪れた日から一年、私はカイルさんと結ばれた。そのまた一年後には、子供を授かった。

「…私の元へ来てくれてありがとう。」

「名前は考えてあるんだ。」

カイルはカバンの中から一枚の切れ端を出した。

「この娘の名前はメメだ。」

「メメ、良い名前。私が生きている間は、貴方を必ず守り抜くわ。」

私とカイルは、魔法を掛けられたかのように娘に夢中になっていたのだった。


4

私は両手を枕替わりにして草原に横たわっている。脇にはお母さんに貰った本が置いてあり、読書で目が疲れた所だ。目を閉じれば、森や草、花の香りが風に乗ってやってくる。目を開ければ、晴れ渡る空を見上げている。ただひたすらに左から右へと流れていく雲を目で追う。この退屈を最初は心地よく感じていたが、最近はこの退屈が無くならないのかと考えてしまっている。

今日はとても良い天気。今日から三日間快晴、夜には心地良い風が吹くとお天気オババが言っていた。

お天気オババっていうのは、名前の通りお天気占いをするおばあちゃんの事。

私はゆっくりと身体を起こし、後頭部や背中に付いた草を払った。そして、本を持って村へと戻った。


このホウルル村は、私が生まれるずっと前からあったの。私が生まれる前に、お母さんも此処を気に入って住み始めたらしい。

お母さんも色々な所を旅して、この村でお父さんと出会った。初めて聞いた時は、なんてロマンチックなんだろうと思ったわ。出会うはずの無かった二人が結ばれる世界線、それは奇跡に近い事なの。

そんな事を考えながら家に戻る途中、手押し車を押している野菜を売るおじさんと目が合った。

「やぁ!メメ、おはよう!」

「おはよ!今日は早いのね。」

「かみさんに叩き起されてね。ほれ、一個持ってけ。」

おじさんは大きなトマトを一つポンっと私に投げた。

「わぁ!美味しそう!ありがとう!」

「お父さんお母さんによろしくね。」

私はトマトと本を持ち、「はーい!」と返事をしながら自宅へと急いだ。


「お母さん、ただいまぁ!野菜のおじさんにトマト貰っちゃった!」

私は勢いよく扉から入り、満面の笑みをお母さんへ向けた。

「メメ、扉は静かに開けてちょうだい。何度も何度も修理出来ないのよ。」

「ごめんなさい!トマト食べていい?」

「洗ってきなさい。おじさんにお礼は言ったの?」

私は母の話が終わる前に洗い場に向かい、「言ったー!」と答えた。だが、私の脳内は既にトマトでいっぱいだ。

私は「いただきまーす!」と言い、大きな口でトマトを頬張る。採れたてのトマトはみずみずしく、とても甘かった。美味しいなんて言うまでもなかったわ。

「…幸せ。」

私の姿を見てお母さんは笑っていた。

「ねぇメメ。魔女学校に行きたいと思う?」

「魔女学校?」

お母さんが言うには、一人前の魔女になるなら魔女学校に通った方が早いらしい。


「嫌!」


私は首を左右に振った。何故なら私には既に目標があった。

「私、人間の住む国に行ってみたい!人間達と一緒に暮らしてみたい!」

母は目を見開いてポカンとしていた。恐らく、思っていた返事と全く違ったのだろう。

「…メメ?本気なの?」

「本気だよ!だって私もう十五歳よ?色々な所を旅しながら、人間達と暮らすの!」

「あのね、メメ…」

お母さんはいつも言う。外の世界は怖い、人間とは暮らせない。だからこそ、私は自分の目で見たいと思った。

「私、どうしても行ってみたいの。私もう立派な大人よ!ちゃんと手紙も出す!」

「…人間の国に魔女の住む所や働く所はないのよ?それでどうやって生きていくの?」

「お金を持って行くわ!少しくらい持ってるもの!」

私とお母さんの会話に終わりは見えず、ただひたすらお互いの思いをぶつけ合い続けた。最終的にお母さんは諦めた。

「…今晩お父さんにも聞いてみましょう。」

「お父さんが何て言っても私は行くからね!」

そう言い放ち、私は二階の自分の部屋へと駆け込んだ。そして、ベッドへと飛び込み、涙目になりそうなのを布団で押さえた。


その日の夜、お父さんにも思いを伝えた。でも、お父さんはあまり反対しなかった。

「ナナ、メメのしたいようにさせてみよう。道は一つじゃないんだし。」

お母さんは終始納得いかない様子だったが、最後は渋々頷いた。

「ただし、メメ。辛かったら帰ってこようなんて甘い考えはいけないよ。人と違う道を選ぶならそれなりの覚悟を持ちなさい。少なくとも、学校と同じ三年間は帰ってきてはいけない。三年間しっかりやり遂げたら元気な姿を見せておくれ。」

一瞬、迷う自分もいた。でも私は、旅に出る事を選んだ。

「…そうか。いつ出るんだい?」

「明日には出ようと思うの!お天気オババが三日間は快晴って言ってたし!」

「わかった。村の皆には僕から言っておくよ。」

私は大喜びで部屋へと戻り、準備に取り掛かった。


「ナナ、間違いなく君の娘だね。」

「…えぇ、そっくり過ぎて嫌になっちゃう。今、漸く母の気持ちが理解出来たわ。」

「そうだね。古いしきたりだけど、僕達は十五歳までに旅をさせろって言われてきた世代だしね。お義母さんと君の血が流れているんだ、きっと立派な魔女になって帰ってくるよ。」

「…そうね。元気でいてくれればそれで。」


翌日、旅に出る事を聞きつけた村の皆が私に会いに来てくれた。


「身体に気をつけてね?」

「これ少ないけど持っていって。」

「雷さんに注意するんだよ?」


ヤックル、ジーノ、ピオラが寂しそうな表情で私の手を握った。三人はお父さんの妹らしいけど、なんでずっと赤、緑、黄のローブととんがり帽子を被っているのか気になっている。

他にも野菜売りのおじさんやお天気オババも来てくれた。

「メメの大好きなトマト、一個持ってけ!」

「三日間は晴れるよぉ…大丈夫だぁ…。」

私は全員にお礼を言った。お天気オババがまた三日間快晴と言った事だけが引っ掛かった。


「メメ、村長に挨拶に行っておいで。」

そう言われ、私は村長のお墓へと迎った。

暫く歩くとどこからか水の落ちる大きな音が聞こえてきた。

私は耳を澄まして、その方向へと歩みを進めた。

一度森を抜けると、そこは神秘の空間だった。

狭い森の奥にいるような感覚は変わらない。滝が落ちる湖の中心には長方形型の祠がある。そこには亡くなった村の皆が眠っている。その上に座る妖精はハープを奏でながら、島と祠を守っているらしい。滝の音でかき消されるはずのハープの音色は、滝の音よりも幻想的な音を奏でていた。

「妖精さん、いつ見ても素敵ね。私ね、村を出るの。だから眠っている皆に挨拶に来たんだ。」

妖精は決して目を合わせず、ハープを奏で続けていた。

私が「行ってきます。」と告げ背を向けると、ハープの音色が少し変わった。それは「行ってらっしゃい」と言っているように感じた。


家に帰るとお母さんが白いローブととんがり帽子を持って待っていた。私の背丈や体型に合わせて直してくれたらしい。

「ねぇお母さん。魔女のローブは黒か紺色なんじゃないの?」

「本当はね。でもこの白いローブは特別なの。前の村長さんが着ていたローブなのよ。これを着ていれば何かあった時、村長さんが守ってくれるわ。念の為、予備で私の御下がりも鞄に入れておいたからね。」

私は「ありがとう」とお母さんに抱きついた。決心こそ変わらないが、お母さんとも三年は会えなくなると思うと急に寂しくなってしまった。

「あらあら。どうしたのかしら?」

「…お母さんエキス吸引してるの。」

「ふふっ。お父さんはあぁ行ったけど本当は寂しいのよ。何かあったら帰って来ても良いんだからね?」

「…うん、ありがとう。」


その日の夜、私は家の前で箒と肩掛け鞄を持って出発の前の挨拶をしていた。

同い年の男の子や女の子に囲まれながら、「旅先での事とかいっぱい手紙に書いてね。」と言われ続けた。

最後にお父さんお母さんにハグをして、私は箒に跨った。

「…飛べ!」

ゆっくりと上昇し、時速三十キロ程のスピードで村から飛び立った。私は途中で振り返り、大声で手を振った。


「行ってきまぁーすっ!!!」


ふと見下ろした滝の上。そこに妖精さんと村長さん達が笑顔でこちらを見上げているように見えた。

多くの人に見送られながら、私は月の方角へと飛び立った。


次回もお楽しみに!

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