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混ぜるな危険!塩素消毒系男と酸性洗剤系女

『混ぜるな危険!塩素消毒系・男と酸性洗剤系・女』


出会うはずのない二人が出逢ってしまった。

出逢ってしまったからには、運命は動き出すしかない。



彼の名は白素しらもとクロム。

公共施設のトイレ清掃歴15年、愛用のスプレーは次亜塩素酸ナトリウム。

漂白のように潔癖、除菌のようにストイック。

「菌は心の乱れが生む」と豪語する、消毒系男子の権化。


彼女の名は赤木サン。

ドラッグストア勤務、担当は洗剤コーナー。いつもポケットに酸性洗剤の試供品。

溶かすことが得意で、笑顔の奥に哀しみを秘めている。

「汚れは落とせても、記憶は落ちないのよ」と、泡のようなセリフを吐く酸性女子。


ふたりが出会ったのは、とあるトイレの前だった。


「次、入ってます?」


振り返った男は、マスク越しでもわかる真剣な目をしていた。

手には500ppmに希釈した透明なスプレーボトル。


「どうぞ。ノロ対応で塩素消毒しておきました。床も取っ手も」


「……ふぅん。次亜塩素酸ナトリウム、ね」


女はわずかに眉をひそめ、ポケットから細長いボトルを取り出して掲げた。

ラベルには**『酸性洗剤(塩酸+界面活性剤)』**の文字。


「今どき、塩素なんてナンセンス。刺激臭で咳き込む人も多いし、金属は傷むし、しかも有機汚れには効きにくい。下処理してからじゃないと意味ないって、知ってます?」


「でもノロには塩素が一番有効だ。アルコールじゃ死なない。酸性洗剤じゃ、殻は溶かせてもウイルスには弱い」


「……だからって、そんな高濃度で撒くなんて。漂白主義者、こわっ」


「安全は、臭いの向こうにある」


「……は?」



一瞬、空気がピクリと震えた。

ああ、これはまずい。

化学的にも、物語的にも——。



クロムは迷った。彼女に惹かれてしまった自分に。

サンは悩んだ。彼の真っ白な性格が、どうしようもなく眩しかった。

だが、混ざり合えばガスが出る。

恋なんて、命がけ。


「どうしても君に会いたかった」

「私だって。でも私たち、化学反応しちゃうのよ」


それでも、ふたりは会い続けた。

近づくたびに、咳き込み、涙がにじむ。

けれど、それはきっと毒ガスのせいじゃなかった。



ある日、クロムは言った。

「俺、最近、弱めの中性洗剤を試してるんだ」

「……浮気?」

「違う。君と一緒にいるためさ」

「バカね。中性になったら、あなたじゃなくなるじゃない」


そうして彼女は消えた。

ボトル一本の酸性洗剤を、棚に残して。



数年後、クロムは静かな老人ホームの清掃員になっていた。

「昔はな、混ぜちゃいけない女がいてな…」

「またその話〜? クロムさんの“混ぜるな恋愛”伝説でしょ?」


今日も誰かが笑っている。

だけど彼のポケットには、今でも赤木サンの試供品が入っていた。

——それは、混ぜるとちょっと危険で、でも確かに綺麗にしてくれるもの。



出会うはずのないふたりが出逢ってしまった。

だからこそ、少しだけ、世界が清潔になった気がするのだ。






ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


本作に登場した「塩素消毒系男子」と「酸性洗剤系女子」は、実は清掃の現場でちゃんとした使い分けが必要な存在です。

現実世界では、一緒に使うと有毒ガスが発生するため絶対に混ぜてはいけません。ですが——順番を守れば、最強の清掃コンビにもなりうるのです。



●効果的な使い方の手順(例:嘔吐物処理など)

1. まず「酸性洗剤」などで有機物(汚れ)を取り除く

 → 嘔吐物や便などの有機汚れがあると、塩素系の効果が弱まるためです。


2. 十分に水で洗い流し、換気を行う

 → 酸性成分が残っていると危険なので、しっかり流して乾かします。


3. 最後に「塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)」で消毒する

 → ノロウイルスなど、アルコールでは効かないウイルスに有効です。



★注意事項

酸性洗剤と塩素系消毒剤は絶対に混ぜないでください。

 → 有毒な「塩素ガス」が発生します。命に関わります。


使用の際は、換気・手袋・マスクの着用を忘れずに。

製品ラベルの使用方法・希釈倍率は必ず確認しましょう。



現場でも恋愛でも、“混ぜるな危険”には理由があるんですね。

でも順番と距離を守れば、最強のペアになれるかもしれません。


それでは、また別の作品でお会いしましょう!


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