もし戦争が始まり、徴兵になったら、俺たちの生きる道はどこにあるのだろうか
TVを付けると安倍総理大臣が映っていた
とても難しい顔をして、カメラのフラッシュがいくつも光っている
「我が国は未曽有うの危機に瀕しています!政府はあらゆる手段を尽くし、対義国交調整の成立に努力してまいりましたが、従来の主張を一歩も譲らざるのみならず、我が国の無条件全面撤兵、日米中同盟の破棄を要求し、我が国の一方的譲歩を強要してまいりました・・・」
日本と隣国の戦争が始まった
日本から太平洋側にある巨大な国、ギーロ。
中国の6倍の大きさがある巨大な国だ
土地柄は四季があり、災害も少なく、建国から8000年立っており、歴史、文化に置いて非常に成熟した国だ。
アメリカと中国とロシアとオーストラリアとアフリカとノルウェーとフランスに陸路で接続されており
日本と韓国にもスパイを送り込むことで、内部から手引きをさせ、海峡トンネルを建設しようとしている。
資源も海洋、地下水、油田、ガス、レアメタルや金などの鉱物、あらゆる物に恵まれている。
もはや最後のエデンとすら呼べるほどの潤沢ぶり、アメリカや中国がゴマ粒に見える。
チート・オブ・チート国家だ
ギーロは超の付く軍事国家で男女と子供に徴兵制を敷いていた。
国民の総数は84億30万人
保有する兵器の数は戦闘機だけでも1万2000機、アメリカ2700機の実に4倍、無論、すべて最新鋭機だ
これはギーロリスクと呼ばれ、彼らが一度侵略行為に及べば、世界人口78億人以上の人々が敵となると言われている
しかもかなり選民思想的でナチズムも真っ青になるほどだ。
ギーロ人以外皆殺しにしようとしているのではないかとにわかに噂されている
その証拠にアメリカも中国もギーロ人のスパイ活動に日夜脅かされていた
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ギーロ人たちは人間を怪人化させる技術を開発、兵士たちを改造し、生体兵器として戦場に投入していった。
日本からほど近い太平洋沖、午前1時
二機の戦闘機が空中戦を繰り広げていた
ドガーン!
敵の戦闘機が炎を巻き上げて墜落していく
パイロットが敵機撃墜に喜びかけたときだった
後ろに乗っている仲間が言った
「待て!機影がある!」
キャノピー「コクピットの透明な部分」から人型の何かを目視で確認する
「あれは・・・・・・怪人だ!」
「敵はまだ生きているぞ!」
怪人は肩にNのペイントをほどこしていた
シュゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
日本の戦闘機F-15Aが雲を突き破る。
それを追うのはマッハ2で空を飛ぶ怪人、右旋回しながら怪人の追跡を回避しようと試みる。
「後ろに付かれた!」
「OTAKU!待ってろ!いま引きはがす!」
バババババババ!
仲間のTACネームを叫び、別のF15が機銃で援護するも、怪人はくるくると回転し銃弾を回避、すれ違い様に腕を振り抜いた
ズガン!
戦闘機のウィングが両断、爆散する
「うああああああああああああああああああああああああ!やられた!脱出する!」
ドカーン!
自衛隊の決死の防衛によって、いまだ戦線を維持したまま1週間がすぎようとしていた。
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俺はオタク少年だ。
いじめを受けていたが引きこもらずに毎日学校に行っていた
電気も付けず、部屋に引きこもっているのも決して引きこもりになったわけではない。
最後になるかもしれないから好きなアニメを休む暇もなく見続けることにしたのだ。
ドゴォ!ドゴォ!バギ!
部屋の扉がこじ開けられ、部屋の電気がパチ、と付いた。
警察官が5人、ゾロゾロと入って来る。
全員土足で、群青色の制服がすごく印象的だった。
中心の警察官が白紙を両手で見せつけるように持つ
「蛇神ユウジだな?徴兵だ。出頭命令が出ている。おとなしく同行してもらおう。」
「はい」
俺は特別な抵抗もせず連れて行かれることにした。
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数日前
日本国内で、政府は徴兵を開始、大々的なキャンペーンが開催され、愛する母国を守ろう。祖国を守ろう、恋人を守ろう、友を守ろう、家族を守ろう、お綺麗ごとのうたい文句をうたい。
よく言えば善良で蛮勇、悪く言えば無知ゆえに戦争の恐ろしさを知らない愚かな若者たちをたきつけて鼓舞して行った。
政府はアメリカから購入した怪人細胞「MTー38」正式名称ミトコンドリア・マトリックス変質薬38号を使い志願兵たちを怪人に変えていく
これは投与した怪物細胞と薬液のアンプルによってミトコンドリア内にあるマトリックスを刺激、変質させることで怪物の細胞を活性化させるものだ
志願兵たちに破格の褒章と年金、戦後の手厚い生活保護を約束する代わりに自らの肉体を改造し生体兵器化する片道切符の選択肢を与えたのだ。
当然、多くの人々はそれを拒む。
しかし、残された時間はそう長くない。
自衛隊の決死の活躍によって一時の平和を享受しているにすぎないのだ。
政府が投薬を焦るのは必然だった
戦火の脅威が、人々の眠れる恐怖心をジリジリと刺激していた。
そしてきっかけとなる事件が起きる。
東京、渋谷の中心に自衛隊の防空網をすり抜け、数発のミサイルが落ちたのだ。
死者543人、重軽症者2500人の大惨事を引き起こした。
結果、開戦よりいままでどこか他人事だった戦争は一気にリアルな日常の一部となり、恐怖心は膨れ上がる。
血気盛んな若者たちが能動的行動を開始するには十分な理由だった。
日本の若者たちが戦後ついに結束し、巨大な過激派中道勢力。リメンバーが誕生した。
過激派中道勢力リメンバーはすさまじく強大であり、もはや民意そのものだった
リメンバーが議事堂前に大挙して押し寄せた。
3万人で満員となる議事堂前は当然のように人であふれ返る。
その力を前には政府すらも従わざる得ない。
彼らの言い分はこうだ
本音では、自分たちが戦争に行きたくない。
だからこそ
建前では、こう言った。
社会性の低い人間、能力の低い人間、を選抜し、強制的に人的資源として消費しよう。というとても村社会的で野蛮で残虐極まりないものだった。
ようするに生贄だ。
その最たるものがオタクだった。
怪人兵士を欲していた政府もこれ幸いとオタク狩りに乗り出す
当然、日本中のオタクたちは反発したが、彼らは口うるさいだけのマイノリティであり、少数派であり腕力も平均して低く、御しやすかった。
たとえ自室に引きこもっていても、警察官5人がかりで家に押し入られ、扉をこじあけられては、いくらダダをこねようと赤子と変わりなく。
容易に引きずり出された。
ひっきりなしに各家庭をパトカーのサイレンが回っていたのは記憶に新しい。
こうして集められたオタク選抜部隊が日本を支える人材を保護することを大義名分にして、エリートや一般層、女性を守るための捨てごまとして徴兵されたのだった。
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警察官が言った
「学校の友達が君にお見送りの挨拶をする決まりになっている。通せ!」
そう言って刑務所のすりガラスの向こうに同級生たちがゾロゾロ集まって来る。
全員私服でついさっきまで放課後の自宅で休憩していた感じが伝わって来た
「おう、蛇神、お前徴兵だってな!」
そう声をかけたのは俺をいじめていた連中の主犯格、稲葉だった
「稲葉・・・」
「まあ、なんだ?頑張れよ。」
俺をゴミと呼び、クズと罵り、死ねと罵倒して、いじめていたあの稲葉がこんなことを言うなんて、ちょっと感動した
「稲葉、お前・・・」
「せいぜい俺らのために戦って来い。お前の分まで俺らが人生を謳歌してやるよ」
はあ・・・・・・?
一瞬、何を言われたのか意味がわからなかった
言葉では心配している風ではあるが、本当に感謝している人間ならありがとうの一言もあるはずだ。稲葉が言ったのは自分の幸せについてだけだった。大したことがない風に聞こえても俺に対する憐憫の気持ちが決定的に欠けている
「そうそう、お前ならできるよ。俺には無理だけど」
「こういうのは俺らより、お前みたいな雑魚キャラの仕事だろ?」
あまりに辛辣な物言いだった。
う、嘘だろ・・・。俺はそれらを見て唖然としてしまう
「ふふっ、」
いま、笑ったのか・・・?
よく観察すると、全員俺を小ばかにしたような顔をして、ニヤついていた。
女子たちは興味なさそうでダルそうだった
「てかなんで呼び出されないといけないわけ?私、彼氏と電話してたんですけど、帰っていいですか?えええ?ダメえ?」
俺は信じられなかった。
クラスでは特段目立つことのない俺だ。
いじめ以外で同級生たちとも接点はあまりない。
それでも同級生、同じ年月を学んできた連中だ。
その同級生からここまで取るに足らない存在として見られていたことに、彼らの中に俺という人間の存在価値がゼロであることに驚愕を覚えた。
いままでも薄々そうではないかと思ってはいた。
ただここに来てそれが事実であると確かに実感したのだ。
自分に取っていかに存在価値が低いとしても、それがゼロなんてこと人としてあり得る感覚なのか?
まったく理解できない。
そう育てられないとこうはならない。
俺の知る正義や悪、常識と倫理観の外の価値観、自分と自分が認める範囲以外の人間を同じ人間と思っていない虫けら同然と思っている連中がそこにはいた。
「お前ら・・・本気で言ってるのか?」
「ははっ、本気だけど~」
稲葉の適当に挑発するような物言いにすごく腹が立った
「クズかよ!」
そう吐き捨てる
稲葉たちが怒鳴り声をあげた
「はあ?おめえあああが悪いんだろうが!」
「そうだよおおお!」
「うぜえええ!」
いつもなら怖くて委縮しているところだが、さすがに俺もいい返す
「ど、どこが悪いんだよおお!」
「努力してこなかった自分を恨めよ!自己責任だろ!」
「そうだよ!自己責任!」
「お前らに、俺の!俺の何がわかるんだよ!」
「あ!?陰キャのオタク野郎が!きっ持ち悪いいいいいんだよ!」
ドン!
稲葉が壁を蹴った
「お前えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
アクリルの窓に握り拳を叩きつける
ドゴ!と音が鳴った
「あ!?お前、誰に口聞いてんのかわかってんのかよおおおお?」
「お前ら・・・」
「あ!?」
「それが命をかけようってやつに言う言葉かああああ!」
「あ!?しらねえええええええええええええええええええええええええよおお!」
刑事が言った
「君たち、一応彼はこれから戦地に行くわけだから。できるだけ優しくしてあげてくれないかい?」
「刑事さん、いいんですよ。こいつがゴミなのが悪いんだし!」
「そうだよ!死ね!死んで来い!ゴミ陰キャ!」
「うえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええきいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
絶叫したら、警官に後ろから羽交い絞めにされた
「暴れるな!退出!」
奥の扉からもう一人の警官が現れると2人がかりで俺を抑えつけた
「お前らあああああああああ!それでも人間かああああああああああああああああ!しねえええええええええええええ!」
警官がさらに俺を締め付ける
「こら!おとなしくしろ!」
「お前らなんて死んじまえええええええええええええええええええええええええええええええええ!しねええええええええええええええええええええええええええ!」
チャカチャカと機械的に引きずられ俺はその場を後にした
ガチャン。
扉を閉める音が響いた
「君たちも帰りなさい!」
もうひとりの警官がにらみつけるように、稲葉たちに言い放った
第三者から見ても今のは酷すぎたのだろう。
稲葉たちも、はいはい。と言った感じにだるそうに帰って行った
しかし、これがこの国の現状なのだ。
年功序列の崩壊、見合い制度の廃止、核家族化、行き過ぎた個人主義、新自由主義による規制緩和とグローバル化、経済的な不況、女性の社会進出により生まれた男女の軋轢、グローバリズムとネット社会による既存の価値観の崩壊と宗教の否定、ルッキズム、
これらが複雑に絡み合い。いびつを産み。
非情が常識となってしまった。
これは、価値のない人間を使い捨てにするという国内7割の民意であり大多数の国民の総意なのだ。
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パチ、
朦朧とする意識の中、手術台の8つのライトが目の前に現れる
「これより、被験者、蛇神ユウジの施術を開始する。メス・・・」
気が付くと、見知らぬ天井を見上げていた。
「いっ!」
痛みに胸を見ると包帯がぐるぐるに巻かれていた。
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それから2日後、驚異的な再生能力で傷は完治し、すぐに包帯を外せた。
俺の体は銀色のドラゴン怪人になっていた
「これが俺なのか・・・」
「失礼します」
扉の前に軍人が立っていた
それからまもなくして、次に通されたのは会場だ。
1000人近くの怪人たちがいて、俺と同じ立場の人たちが椅子に座っていた
「ここで待機してください」
軍人にそう言われおとなしく座ることにする
正面、牛怪人
左、ワシ怪人
右、サメ怪人
他にも大勢の怪人たちがいた
ここにいる人たちは全員オタクや能力の低い人たちの集まりなのだろう。
俺と同じ社会から見捨てられた人たちだ
牛怪人が言った
「俺たち、どうなっちゃうのかな?」
ワシ怪人が頭を抱えてうろたえる
「どうして俺なんだよ・・・うああ・・・」
サメ怪人が励ます
「大丈夫ですよ。何とかなりますって」
「あの・・・」
優しそうなサメ怪人に話しかけてみた
「あ、あなたもですね。隣開いてますよ」
「はあ、失礼します」
俺は少し頭を下げてから隣に座った
自己紹介をする
「蛇神ユウジです」
サメ怪人が言った
「大野とおるです」
サメ怪人が牛怪人とワシ怪人を指して
「こちらが和田さんに、佐藤さん」
「あの・・・」
話しかけたが二人とも、俺のほうをチラリと見てから、
「よ、よろしく」
「ああ、よろしく」
とだけ言って、再び悩み始めた。自分のことで精いっぱいのようだ
「俺たちどうなるんでしょうか?」
「これから起こることを想像すると、1時間か、2時間後に軍人が来て、俺たちに作戦をレクチャーしたあとに現地に投入でしょうね」
「え、俺たち戦場に駆り出されるんですか!」
「どう考えてもそのための待機場でしょう」
「に、逃げないと!」
席を立ちあがりかけると大野さんが言った
「おやめなさい。おそらく俺たちが逃げた場合も想定されている。この建物の周囲は数百の武装した兵に囲まれていると見てまず間違いない。」
「そ、そんな・・・」
愕然として席に座る
どうしたらいいんだ。こんな、こんな、逃げ場なんて。ないじゃないか・・・。
ポンと肩を叩かれる
「そう落ち込まなくてもいいですよ。俺はあなたの味方ですから」
サメ怪人が、大野さんが優しく言ってくれた
「はい、ありがとう・・・ございます」
大野さんの優しさに涙が出そうになると
軍服を着た男が入室してくる
「傾聴!」
ビシ!バシ!と機敏な動きで立つと、軍服の男はこちらを見た
会場がシーンと静まり返る
「以後、諸君らの指揮を担当することとなった。沼津亮大佐だ。よろしく頼む」
沼津大佐がボタンを押すと、後ろの壁にスクロールが下りて来る。
彼は両腕を後ろに組み、話始めた
「諸君らの呼称は怪人第一大隊とする。」
「さて、これから諸君には甲から乙までの目標まで進軍してもらう。」
「諸君が施術をしている間に事態は大きく前進した。敵軍は本土まで進軍してきている。我々の国と街がやつらの脅威に脅かされている。」
ワシ怪人の佐藤さんが小さな声で毒づく
「けっ、我々のじゃなくてお前らの街の間違いだろ」
「生憎、我が軍の兵士たちは戦闘中だ。申し訳ないが諸君らを悠長に訓練をさせている時間がない。諸君にはこれから最前線に行ってもらう!」
・・・・・・・・・・・・。
しばし、沈黙が流れ、会場は静まり返っていた。
沼津大佐が口を開く
「こう言っては何だが・・・私個人としては民間人をこんな形で戦場に駆り出すなど、あってはならないと思っている。政府の放心には非常に遺憾の気持ちだ。一軍人として、本当に申し訳ない。この通り、謝罪させてほしい。申し訳ない!」
沼津大佐は、深々と頭を下げ、謝罪した。
「・・・・・・気にすんなよ!」
「そうだよ!あんた悪くないよ!」
「ありがとう!沼津さん!」
会場から暖かい声が届くと、
パチ、パチ、パチ
パチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!
拍手が上がった
みんな拍手していた
ワシ怪人の佐藤さんが、両腕を組みながら、けっ!と悪態をつく
俺も素直には喜べなかった
沼津大佐はいい人かもしれないが、結局は戦うことは変わらないのだ。
こんなものは慰めにもならない。ならないじゃないか。
沼津大佐が言った
「それでは始めよう。自分の定着した怪人細胞の性質に合わせ、陸、海、空で3人1グループを作ってもらう。」
「1番、後藤太一!」
「は、はい!」
番号順に呼ばれた俺たちは陸地で活躍できる怪人、海で活躍できる怪人、空で活躍できる怪人と組まされて行った
「774番、蛇神ユウジ!」
「はい」
案内された場所に向かうと
「よろしく」
サメ怪人の大野さんと同じグループだ。ラッキー、見知った人で少し安心する
「よろしくです」
もう一人は牛怪人の和田さんだ
「よ、よろしく」
そうなると、ワシ怪人の佐藤さんが気になるが俺たちとは別の班のようだ
大野さんが言うには輸送は空自のC-1輸送機を使うそうだ。
うん、名前を言われても意味がわからない四駆?四駆なの?
防弾チョッキを着こみ、重機関銃、キャリバー50を持たされる
「ははは!レッドショルダー!グラアア!」
大野さんが銃を手に格好付ける
「意味わかんないです。何で笑ってるんですか?」
俺は冷めた目でそれを見ていた。
いい歳した大人が何をやってるんだとあきれた
「そう言うなよ。最後になるかもしれないだろ」
そう言われてドキッと、した。
それは思ってもいない言葉だった。
最後になる。
とても寂しい響きに聞こえた。
ちょっと泣きそうになったのを、かぶりを振って涙を引っ込める
「そうですね。すいませんでした。」
自分は馬鹿だ。
こんなになってまでいまさら何をと、自分の言動に後悔と自己嫌悪を覚えた
「いいさ。仲間だろ」
大野さんの優しさをかみしめるように、俺は・・・。
「はい!」
できるだけ明るく返事をした
「どうしよう。どうしよう。」
牛怪人の和田さんはまだ怖がっているのか、ぶつぶつと何かをつぶやき、顔が青白い。
みんなで輸送機に乗り込むと離陸、浮遊感が体を襲う
揺れる機内はゴーゴーとした音が響き、常に騒音に見舞われていた
和田さんが十字を切り、ぶつぶつとキリストの念仏を唱えている。違うか、聖書の一説だったか、どちらでも構わない。
死んだら罪人同士を1兆6000億年喧嘩させて反省しないと救わんぞおじさんか。
愛の名のもとに人類リセットおじさんの違いでしかない。
「天におわします。我らが父・・・」
「神様に祈ったっていまさら・・・」
そう俺たちはこの国の人間に見捨てられた。
その段階で神などいないとわかりそうなものだが、この人はいまだ現実を認められていないのだ。
「和田さん!和田さん!」
大野さんが呼びかけると
「はっ!な、何?」
驚いたように和田さんがこっちを見た
大野さんは和田さんの肩にぽんと手を乗せると
「大丈夫、俺がいますから」
「あ、あ、ありがとう」
そうだった。こんな状況だ。仲間は大事か。
俺も大野さんを見習うことにした
「俺もいますよ」
と一言そえてから、大野さんと反対側の肩にぽんと手を乗せた。
「ありがとう」
和田さんは俺にもお礼を言っていた
「降下する!」
後部ハッチが開くと、猛烈な強風が吹き荒れる。
パラシュート部隊として降下していく
「降下!」
「降下!」
シューーー!
風を切り、怪人たちが地上に着陸した
まずはパラシュートを切り離し、パートナーとなる仲間たちを確認だ。左右を見ると、すでに銃弾が飛び交い、街はパニックになっていた
都心のど真ん中に非日常的な爆発音と銃弾が飛び交う
ダダダダダダダダダダダダダダ!
「うっ!がっ!」
さっそく、胸をボコボコに撃たれる。
防弾チョッキが損傷するが自分の体は無傷だ
怪人でなければ死んでいただろう
「伏せろ!」
体を引き寄せられるように伏せさせられる
大野さんだった
そばには和田さんもいる。
「バババババ!バババババ!」
「うあああああああああああああああああああ!うあああああああああああああ!」
和田さんが叫び、両手で頭を抱えてちじこまった
しかたないから俺と大野さんで銃を手に応戦していく
「くたばれええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
ババババババババババ!
大野さんが撃ちまくる
もう俺も勢いに任せて叫んだ
「うぃぃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
みっともなく金切り声をあげて、素人丸出しで銃を撃ちまくった
大野さんが怒鳴った
「蛇神!あそこが見えるか!!」
「はい!」
「いいか!あそこにショッピングモールが見える。全員で一気に走り抜けるぞ!」
銃撃が止む
「いまだ!」
武器を両手に握り締め全速力で走り抜けた
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」
和田さんが肩から大量の血を噴き出していた
俺は戻ろうとすると
「止まるな!」
大野さんがそう叫んで、自分だけ和田さんのもとまで走った。
俺は逆に一気に駆け抜けた
大野さんは和田さんのえり首をつかむと、引きずるように連れて行く
何とか銃撃の弾雨から逃れられたようだ。
タイル張りの床が、和田さんの血で赤く塗れている。
モールに入ると傷を見る
銃器の傷ではない。何かの液体をかけられたようだ。
あくまで素人推測だが、怪人の体を溶かす武器、おそらく敵怪人の消化液か何かだ。
水で洗浄し、急いで止血した
とりあえずこれで応急処置はできた
安静にしていれば大丈夫だろう
足音がして振り向くと
ワシ怪人の佐藤さんがいた
腕から血を流している
ひとりのようだ
「お前ら、」
大野さんが言った
「佐藤さん無事でしたか」
「ああ、仲間たちは全員殺されちまった。それと・・・」
ワシ怪人の佐藤さんが奥の方を見ると避難できなかった一般人たちが大勢いた
中には子供もいる
大野さんが言った
「みなさん、もう大丈夫です。助けに来ました」
一般人たちから声が響く
「おお!」
「よかった~・・・」
「助かるのね!」
これから避難行動に移ろうとしたときワシ怪人の佐藤さんが言った
「待て!俺たちは最前線に行かないとまずいんじゃないのか?戦後の保証だってかかってる。ここでこいつらを逃がすために、戦線から抜ければ、俺たちは脱走したことになる。こんなやつら見捨ててさっさと前線に行かないか?」
サメ怪人の大野さんが言った
「それはつまりこの人たちを見殺しにしろってことか?」
「お前らだってこんな戦争押し付けられたようなものだろ。死ぬ気があるやつは間違いなく自殺してる。怪人になってでも生きたいやつだけがここにいるはずだ。適当にサボってうまいところだけもらうのが利口ってものさ?違うか?まさか、正義感とか言わないよな」
佐藤さんは一般人たちをいちべつすると
「こいつらが、俺たちを先に見捨てたのさ・・・」
佐藤さんはすべてを諦めたかのような悲しい目をして言った。
それが俺にはすごく理解できた。
それは大野さんも和田さんも同じ気持ちだったのかもしれない。
いや、きっとそうだ。同じ気持ちだった。だってそうじゃなければ、そんなときまで独りだなんて、あまりに寂しくて悲しい。
俺たちには俺たちしか仲間がいないのだから
「よく見ろ。子供も女の人もいる。助けないのか」
佐藤さんは言った
「お前ら趣味は?」
俺は言う
「アニメ鑑賞を少々」
和田さんが言う
「鉄道マニア」
大野さんが言った
「アニメ、漫画、コスプレ、プラモ、電車、アイドルオタク」
最後に佐藤さんが言う
「俺はアイドルオタクだ。お前ら普段どう扱われていた?ああいうやつらから虫けら同然に見下されていたんじゃないのか?」
「そ、それは・・・」
全員黙ってしまう
「心当たりがあるようだな。いまや、世の中の子世代は大人をなめきっている。親たちが、俺たちオタクを見下す姿勢を見て、俺たちオタクたちをまるでゴキブリ扱いだ。5歳の子供に馬鹿にされたことはあるか?にらみつけられたことは?罵倒されたことは?子供だから、女だから、だからどうした。そんなものはウソだ!弱いはずのやつらが俺たち強いはずの男たちを口先で責め、ストレスのはけ口にし、おもちゃにして笑っているじゃないか。そんなやつらが、なぜ男の義務を求められる。助ける価値を放棄したやつらが、なぜ助けを求められるというのだ!」
俺たちの会話を聞いていた民間人が会話に加わって来た
「そんなの私たちには関係ないでしょ!」
佐藤さんは言った
「そう!関係ない!それは俺たちも同じことだ!俺たちは普通の人間だ!お前たちがよく知りもしないで、理解しようともしないで、どうでもいいやつらだから適当に扱っていいと思い込んでいるだけの、普通の人間なんだ!そんな俺たちを見下し痛めつけるお前たちを、俺たちにどう助けろって言うんだ?まずは謝罪!謝罪を要求する!話はそれからだ!」
「男だろ!」
「時代は男女平等なんだろ!女も責任を果たせよ!」
そんなことを話しているときだった
建物のライトがすべて消えた。
上の階でコソコソとうごめく陰を見る
「囲まれている!」
時刻は午前2時くらいだ。
闇の中にオレンジ色のランプがいくつも灯り、こちらを見下ろしていた
佐藤さんが言った
「まさか、敵怪人の部隊!多いぞ!」
大野さんが言った
「話は後だ!やつらを倒し、ここを死守しよう!」
佐藤さんが言った
「悪いが俺は逃げるからな!」
「勝手にしろ!外は戦場だ!ひとりで生き残れるものならやってみろ!」
「クソ!いいだろう。ただしいまだけだからな!」
俺は俺で和田さんに言った
「和田さんはそこで動かないでください!」
「だ、大丈夫・・・俺もやるよお・・・!」
和田さんは重傷だったが立ち上がる
「よし!みんな!行くぞ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ババババババババババ!バババババ!ババババババババババ!
撃って撃って撃ちまくる。
敵を寄せ付けないよう撃ちまくる
銃撃をすることで敵の装備を剥ぎ落していく
不意に目の前に敵が降って来る
上の階から落ちてきたのだ。
怪人の身体能力はこうした三次元的機動の戦闘をも可能とすることをこのときはじめて学んだ。
敵怪人の振り下ろした銃を銃で受け止める
「くっ!」
ギャイン!
火花が散る
「おらあああ!」
佐藤さんが助けてくれる
俺たちは銃撃をやめ、接近戦に切り替えた。
大野さんが的確に指示を出していく
先発、ドラゴン怪人、俺
奇襲、ワシ怪人、佐藤さん
バックアップ、牛怪人、和田さん
当然、銃弾が飛び交うがあれらは相手を殺傷するより、相手怪人を疲弊させたり、人を掃討するための兵器だ。
そう簡単に死ぬことはないが、受けすぎていい物ではないのも確かだ
それらを理解したうえで俺たちは銃弾をものともせず突っ込む
敵に突っ込むと火を噴き、牙を振るい、空から音速で羽根を叩き込み、肉体で押しつぶし、各々の能力をフルに使って敵怪人たちを殺していった
特に顕著だったのが牛怪人の和田さんだろう。
自分のタックルで敵が粉みじんになる光景を見て、自分の強さを自覚している風だった
俺の炎は敵を燃え盛らせた。
火を噴いて顔を振るえば、敵が木っ端みじんにぶっ飛ぶのは、正直快感だった。力に酔うってこういうことを言うのかもしれない。
いまの俺はどんな敵もひねりつぶし、殺せる力を持っていた。
あれ、稲葉たちいじめをやっていた連中もこんな気持ちだったのかな。
そして、どうやら俺たちは並みの怪人よりはるかに強かった。
4人が一騎当千の強さを持っているのだと何となくわかった
ただ敵は多勢に無勢、少しずつ追い詰められていく
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
傷の具合が悪いのか和田さんが一番息切れしていた
敵怪人たちが和田さんを狙い撃ちにして銃撃する
凄まじい銃弾の嵐が和田さんに迫る
「はあ!」
和田さんを助けたのは佐藤さんだった
ワシの力で敵の銃弾を弾き飛ばしていく
「あ、ありがとう!」
「気にするな!」
空から佐藤さんが、大地を和田さんが蹴散らす
大野さんもサメの牙で、敵を噛みちぎる。大野さんが顔を振るえば敵が両断されるので、斬り殺すかのようにも見えた。
俺も火を噴きまくった
戦いが終わった。
天井ではスプリンクラーが発動し、雨が降り注いでいる
対して床の上で燃え盛る敵怪人たち、全員変わった装備をしている。
何かの特殊部隊だったようだ
・
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このショッピングモールに立てこもって1時間がすぎた
外ではいまだ。爆発音が響いているが、音はどこか遠くだ。
大野さんが言った
「これだけの食品だ。食料に困ることは当分ない。」
「ショッピングモールには50年分の食べ物が置かれているそうですからね」
「みんなに荷造りをさせよう。戦地から遠のくのにも、飲まず食わずじゃしのぎ切れない。」
「そうですね。俺も手伝います」
「すまない。」
「当然ですよ」
大野さんが声を大きくして言った
「みなさん、聞いてください!」
人々の視線が大野さんに集まる
「これからみなさんを安全な場所まで避難させます。できるだけ水と食べ物をリュックに詰めてください。避難には何日もかかるかもしれません。できるだけ準備をしてください」
サラリーマン風の男が話しかけて来る
「君たち、すまないね」
「いえ、それよりこれをどうぞ」
大野さんが手渡したのは敵怪人たちが持っていた重機関銃だ。
十数名分がまだ使える状態で手に入った
「この銃は本来、陣地に据え付けて使うものです。絶対に立って撃たないよう徹底してください・・・」
大野さんが知る限りの知識でレクチャーしていく
一般人たちがそれで武装していった
準備を済ませ、数十分後、避難を開始した。
時刻は早朝の4時、敵怪人との戦闘が終わったのが3時くらいだから、戦闘からまったく休んでいない。それでも、寝ている場合じゃない。またいつ襲撃されるかわからないうえに、できるだけ暗いうちに動いたほうが安全だからだ。
ワシ怪人の佐藤さんが悪態をつく
「ふん、人間が・・・」
それは自らに対する皮肉と避難者たち、普通の人間に対する侮蔑の意味も込められているのかもしれない。
俺たちは道中話をした。
普段何をしているか。何が好きで何が嫌いで何がつらかったか。
当たり障りのない話から次第に自分の人生を語り、自分たちがどうしようもなく似た苦しみを共有している存在なのだと理解して行った
俺たちは仲間だった。
最高の戦友だった。
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「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!」
後方の一般人一段の一角から悲鳴があがる
敵怪人が人々を銃撃していた
「クソ!」
みんなで応戦する。
人を挟んだ状態で対岸の敵を撃つのはとても精密な技術が求められた
不用意に撃てば人に当たる
俺たちは人々が散るのをしんぼう強く待ち、応戦した
ババババババババババ!ババババババババババ!バババババ
戦いが俺たちの勝利に終わる
「やった!俺たちの勝ちだ!」
互いの健闘をたたえ合う
「和田さん!和田さんも!」
和田さんは死んでいた
「うそだろ・・・さっきまで生きてたのに」
みんな泣かなかった。でも悲しかった
俺たちが追悼の気持ちで悲しんでいると
一般人の男が言った
「おい!いつまで待たせんだよ!たかが怪人が死んだだけじゃねえか!」
佐藤さんが立ちあがる
全身から怒りが沸き立つのがわかった
「たかが怪人が死んだだけだと・・・怪人じゃねえ・・・人間だコラああああああああああああああああああああああああああ!」
佐藤さんが翼で串刺しにしようと襲い掛かる
「やめろ!佐藤さん!」
「邪魔をするな!」
「やめるんだ!」
佐藤さんと大野さんが激しい戦いを繰り広げる
ワシの力とサメの力が激突し何度も攻防を繰り返した
佐藤さんが言った
「はあ・・・はあ・・・わかっているはずだ!こんなやつら守る価値がないと!」
「価値ならある!俺は信じる!」
互いの全力の一撃が交差した
「ぐおおおおおおおおおおおおおお!大野おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ドカーー----ン!
佐藤さんは大野さんの牙攻撃で爆散した
「大野さん!」
駆け寄ると佐藤さんの翼が大野さんの腹に刺さっていた。
かなり深い傷だ。おびただしい量の血液が流れ出ている
「大野さん!しっかりしてくださ!」
「大丈夫だ!これくらい!それよりも、彼らを避難場所まで逃がさなければ」
大野さんはふらふらになりながら歩き出した
いつまでも終わらない道を歩き続け、ついに目的地まで来ることができた。
ここからまっすぐ行けば戦地から逃げることが可能だ。
「みなさん!もう安心です。ここをまっすぐ行けば軍のキャップがあります!」
俺たちは一度軍のキャップに戻ってきた
ただ奇妙なことに大量の銃口が俺たちを見ていた
サイレンから声がする
「そこで一度、止まれ。戦死した沼津大佐に代わり陣頭指揮を執ることになった田崎だ。貴君らが敵前逃亡をしたことはすでに調べはついている。貴君らには射殺命令が出ている。無駄な抵抗をせずおとなしく投降したまえ。まずは怪人たちだけでこちらへ来い!」
「わかった!おとなしく従う!いま行く、撃つなよ!」
俺たちは両手をあげてゆっくり近づいていく
「撃て!」
バババババババババババババババババババババババババ!
俺たちの頭上を通り抜けて銃弾は一般人たちを掃討していった
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
あとには血だまりと、糸の切れた人形のようになった人間たちが倒れていた
「貴君らが引き連れている民間人の中には敵のスパイ怪人がまぎれている可能性があった。情報によればやつらは人間の細胞を変質させる病原細胞を所持している。それがここで使われれば多くの人々が強制的に理性なき凶暴な怪人にされていたことだろう。かと言ってひとりひとり調べている間に病原細胞を使われれば多くの有能な兵士たちが怪人にされてしまう。そこで彼らは処分することにした。これは非常時の緊急処置だ。理解してほしい」
「そんな・・・」
あぜんとする大野さん、俺たちのこれまでの苦労はいったい。
ここにまともな正義などあるわけがなかった
俺は大野さんの肩をゆすった
「大野さん!もういいでしょ!逃げましょう!こんな、こんなやつら守る価値ありませんよ!」
「・・・いや、ダメだ。君は逃げなさい。これは大人の仕事だ。君はまだ若い、君が俺と同じくらいになったとき、同じように誰かを守ってあげてほしい!」
「大野さん・・・」
俺は弾雨の中を背にして、ひたすら逃げた。
それから10年の月日が流れた。
戦争は終わり、日本は負け、国民の人権は踏みにじられギーロ人へと同化されて行った
俺はいま弾圧される日本人のためのヒーローをやっている。
あのとき見た大野さんの言葉は一言一句、本気だった。
中二病とか勘違いしたサバサバ系とかそんな風に馬鹿にされていいものじゃなかった。
本当の覚悟と正義感を持っていた
尊敬できる大人だった
俺たちには何もないわけじゃなかった。
俺はこれからもヒーローで在り続ける。
散って行った仲間たちの想いを受け、このちっぽけな正義を、あとの世につなげるために。