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貨幣価値とか手探りです。考えるのは楽しいんですけどね。
後で訂正が入るかもです。
本日は2話更新。こちらは1話目です。
「では、金貨一枚だ」
本当にこれで良いのかと疑わしげな表情のままのリアムさんが腕を伸ばして差し出してきたのは、言葉通り金色をした五百円玉より少し大きいぐらいの硬貨だ。
蛍光灯の明かりを反射する金色の物体を恐る恐る受け取ると、見た目よりずしりと重い。
本物の金なんて触った事はないが、重いという話は知っている。たぶん、メッキとかではなく本物の金が含まれた硬貨なんだろう。
すり減っていてよくわからないが、人の顔のような絵柄と文字が描かれている。
「はい、ちょうどいただきます」
お預かりしますと言うと、じゃあ返せと言ってくるトンデモ理論なお客さんがいるらしいので、こう言っとけとおじいさんから言われていた台詞が自然と口から出ていた。
さて受け取ったは良いが、レジを開けて入れれば良いのかとタッチパネル式になっているレジ画面を見つめて悩んでいると、唐突に手の中の重みが消える。
えっ!? と手元を見るのと、僕の手から離れた金貨がレジの画面にシュンッと吸い込まれるのは同時だった。
そう来るかと目を見張って固まる僕の前で、支払い完了という文字が日本語で表示される。
さっきから少し画面が変わったと思っていたが、勝手にお金を吸い込むとは……。
まさか僕まで吸い込まれたり……とちょいちょい画面へ触れてみるが、普通にタッチパネルが反応して画面が変わってしまう。
ちょうど発注のアイコンに触れたのか、切り替わった画面は燃料の発注を行う為のページだ。
やはり違和感を感じてしっかりと画面を見ようとした僕は、そこで何処からか視線を感じてそちらを見る。
なんて格好つけてみたが、どう考えてもリアムさんの視線だ。
リアムさんは何故かサービスルームの中へと入ろうとはせず、開け放たれた入り口からこちらを見ているだけだ。
しかも、サービスルームは給油スペースより一段高い位置にあるので、サービスルーム前にはポーチ……で合ってるかな、そういうスペースがとられているのだが、そこに乗ってすらいない。
先ほどもそこから身を乗り出して腕を伸ばしていたのだろう。
「あの、リアムさん、何故中へ入らないんですか?」
僕の問いに、先ほどまでの自信満々なキラッキラなイケメン顔がしゅんとして、まるで迷子の子犬のような情けない表情をみせる。
「……勝手に入って大丈夫だろうか」
その表情のまま小声でそっと訊ねてくる姿に、ギャップ萌えという感情を理解しそうになってしまった。
キュンッとなった胸を押さえつつ、僕は色々誤魔化す為に咳払いして「どうぞ」とリアムさんを中へ導くように手を動かす。
動きとしては、どうぞこちらへ〜、と手の平を上にして横へ動かすアレだ。
人差し指をちょいちょい動かしてクールに呼び込むのも格好良くて憧れるが、僕には絶対似合わないな
そんなどうでも良い事を考えていた僕は、視界の端で捉えていたレジ画面にピロンという音と共に『入店許可確認』という文字がポップアップで出て驚く。
高級マンションの玄関じゃあるまいし、いつの間に入店が許可制になったんだ、このスタンド。
なんて、考えるまでもなく、ここへ移転……転移……どっちでも一緒か、まぁ、それしたせいだよな。
僕の動揺に気付く事なく、リアムさんが「……では、お邪魔させてもらおう」と恐る恐る扉を引いて中へと入って来る。
一瞬そこまで警戒しなくてもと思ったが、僕が逆の立場でも警戒するかと思い直して「いらっしゃいませ」と笑顔でリアムさんを迎える。
「あれはなんだい?」
まずリアムさんが気にしたのは自動販売機だ。
トイレへの動線途中にある自動販売機は、赤いボディでピカピカとボタンを光らせているので目立つのは当然かも知れない。
「……何か筒のような物が並んでいるようだね。銅貨一枚と書かれているが、何か買える魔道具なのかな」
「まどうぐ……?」
魔法の魔に、道具で魔道具か? と推測しながら呟くと、リアムさんは馬鹿にした様子もなく微笑んで頷いてくれる。
「コンは何か知らなかったんだね。魔道具とは、文字通り魔法で作業が自動化された道具だ。さすがここの主たる魔法使いだ。私もこんな魔道具は初めて見るよ」
いえ、それは自動販売機です。
内心で突っ込んだ僕だったが、ふと湧いて出てきた疑問に、レジ前から離れて自動販売機の方へ近寄る。
「銅貨一枚……?」
それも少し気になる。
朝までは缶は百三十円、五百ミリリットルのペットボトル飲料は百五十円だったはず。
だが、サービスルーム内の設備が変化してるのは予想の範囲内。
銅貨一枚と値段が示された自動販売機はちょっと違和感があるが、それより抱いてしまった疑問が一つ。
「で……動力はどうなってるんでしょうね?」
電気と言いかけた言葉を飲み込み、リアムさんへ訊ねる感じで呟いてみる。
「魔道具は中に魔石という物が入っていてね、そこに魔力を溜めてあるんだ」
「へぇ、そうなんですね」
これは、大魔法使いが雇った何も知らない店員設定な僕なので、何の問題もない相槌だ。
リアムさんも気にしてないし。
実際、僕はなんでこの自動販売機がなんで動き続けているか分からないし。
転移する前はもちろん電気で稼働していた。
今は…………そういえば、サービスルームの中の明かりも消えてない。計量機もレジも動いている。
なんで動いているかわからないが、リアムさんの言葉通りなら魔法というか魔力なのか?
それが何処から流れてきているのか。
考えても答えは出ない。出る訳がない。
勝手によくあるライトなファンタジーの文明な世界と思っていたけど、実は魔法で発展していて、地球より進んだ文明なんて可能性もある。
つい考え込んでしまっていた僕の耳に、聞き慣れた電子音と続いてガコンッという音が聞こえてくる。
「これはここから取れば良いんだろうか。ふむ、冷えた金属の筒のようだが……」
そちらを見ると自動販売機を使ってみたらしいリアムさんが、取り出したコーヒーの缶をしげしげと眺めている。
現代日本な風景のサービスルーム内に、フルアーマーではないが鎧を着けていて、さらにマント、腰には剣なんてゲームや漫画でしか見ない格好のイケメンさん。
違和感しかない。
缶を観察するリアムさんを眺めていた僕は、重要な事実を思い出してしまい、反射的にリアムさんの腕を掴んでしまっていた。
「コン? どうかしたのかな?」
驚いたリアムさんから不思議そうに問われ、そこで初めてリアムさんの腕を掴んでいる事に気付いた僕は、わたわたとしながら手を離そうとする。
「コン、落ち着いてくれ」
離そうとした手は逆にリアムさんから掴まれる。思った以上に力が強い。
「あ、あの、すみません! リアムさんが怪我をされていたのを、今になって思い出しまして……」
ジッと見下ろしてくるイケメンの真顔に耐え切れなかった僕は、一気に捲し立ててペコリと頭を下げる。
「…………あぁ。あの血は返り血だから、大丈夫だよ」
しばらく僕の顔を見つめていたリアムさんは、痛みを堪えるような顔をして笑いながら答えてくれ、握ったままだった僕の手をやっと離してくれる。
「そうだったんですね。早とちりしちゃってすみません」
「謝らなくて良い。心配してくれたんだろう? コンは優しいな」
先ほどの表情の意味はわからないが、リアムさんが気分を害した様子もないし、怪我がなかったというのなら気にしなくて良いかな。
「それで、コン。これは何をする物なんだ?」
色々な疑問は尽きないし、まだ僕自身もこのスタンドの事を調べきれていないが、一先ず目の前で好奇心で瞳をキラキラさせているイケメンに、缶ジュースの飲み方を教えなければならないようだ。
いつもありがとうございますm(_ _)m
このままとりあえず第一章終わらせちゃいますよー。
と、暑さでへばりそうになりながらぽちぽちしてます。
皆様も熱中症にご注意を。