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本日3話目。
ちょっとズレた主人公なのでは、と書いてから思っております。
「まだ名乗っていなかったね。私はリアム。冒険者をしているんだ」
キラッキラのイケメンさんは、キラキラの微笑み付きでそんな自己紹介をしてくれた。
敵意は無さそうだし、リアムさんは良い人そうなので僕は少しだけ肩の力を抜いて自己紹介を返す。
「僕は……紺といいます。ここの店員です」
リアムさんは僕より年上っぽいし、お客さんではあるので普段とは違って丁寧な口調で対応しておく。
あとぶっかけてしまったレギュラーガソリンだが、給油……とは言えないが出したからにはお金を払ってもらわないといけない。
魔力ポーションという訳のわからない物へ変わったのか、それともここではレギュラーガソリンが魔力ポーションなのか。
色々あり過ぎて、何から考えれば良いのかすら今はわかっていない。
何がわからないのかわからないって感じだ、正直なところ。
「コン。店員という事は、ここはお店という認識で良いのかな」
僕の喋る言葉はきちんと通じてるんだなぁと時間差で感動しつつ、僕は「はい」と頷いて答える。
僕の答えを聞いたリアムさんは、考え込む様子を見せてガラス張りで丸見えのサービスルームへ顔を向ける。
「初めて見るような外観の建物に、中も見た事がない物ばかりのようだ。それに、こんな大きく澄んだガラスとは……」
「それは、その、僕もなんでここにいるかわからないんです。いつも通り、仕事をしていたんですけど」
リアムさんの発言からすると、この世界でガソリンスタンドの建物は悪目立ちしそうだ。
やって来るのがリアムさんのような良い人ばかりならいいが、悪心を持つ者を惹き寄せる気がしてならない。
まぁ、今はそんな事より気になるのは、そもそもな話ここは何処なんだろう。
決してここが異世界じゃないのかもとか言いたい訳ではなく、異世界のどんな場所なのか、という意味での『何処なんだろう』だ。
その答え欲しさに濁してみた僕の言葉を聞き、リアムさんは難しい表情をして、
「おや、そうなのか。……こんな素晴らしい建物を造ったのはかなり力ある魔法使いだろう? 何か拠点を移さなければならないような事が起きたのかもしれない」
と、建物が場所を移した理由の推測をしてくれた。
「魔法使い………」
もうファンタジーで異次元過ぎる話だが、僕にはどうしようもない事態が起きているのは理解出来ている。
しかも実際は、異なる世界から建物ごと転移してきましたなんて、文字通り異次元な話なんだけど。
さすがにこれを初対面の人に相談するのは無理というか、しない方が良いな。
何とかこの場は適当に誤魔化して、様子を見ながら相談する事に決めた僕は、理解してますよ、といった風に頷いておく。
リアムさんが話してくれた推測は、ちょうど良いので色々と誤魔化す時に使わせてもらおう。
魔法使いが……って話し出しにすれば、そこそこ誤魔化せるかもしれない。
オーナーのおじいさんは、魔法使いっぽいといえば言えなくもない見た目だったから、嘘とも言えないしね。
一瞬、マジでオーナーが魔法使いなのではというトンデモ理論が過ったのは、頭を振って追いやる。
「大丈夫かい? ここが何処にあった店かは知らないが、急にダンジョンの中に移動するなんて思いもしないから、驚いたろう?」
一人百面相してたであろう僕を変な目で見る事なく、心配そうな顔をして話しかけてくれるリアムさんは、心までイケメンな模様。
「ダンジョン……」
リアムさんの思いやりに感動していたが、ここでさらなるファンタジーがぶっ込まれて、正直僕はお腹いっぱいだ。
それでも、まず一言リアムさんにお伝えしないといけない。
「お支払い、お願いします」
ここが何処であれ、僕はこのガソリンスタンドの店員で、給油をしたのだから。
●
「それでいくらだい? 通貨は同じかな」
決まったぜ! と内心でドヤっていた僕は、たぶん異常過ぎる現状にちょっとしたハイになっていたんだと思う。
恥ずかしさからニコリと微笑んだリアムさんの顔が直視出来ない。
まだ苦笑いとか、ウケて笑ってもらえれば良かったんだけど、リアムさんは真面目に受け取ってお金が入ってるらしい袋を揺らしてちゃりんと鳴らして僕を見ている。
居た堪れない気持ちになった僕は、視線から逃れるためサービスルームの扉を開けて室内へ入る。
やっと冷静になってレジからレシートが出ているのではと気付いたからでもある。
うちのガソリンスタンドのレジは、サービスルームへ入ってすぐ会計が出来るように、入り口とL字……直角になる位置取りになっていて、ガラスとの間に人一人分の隙間があるのでスタッフはそこを通ってレジカウンターの中へと入る。
まぁ、レジカウンターはそこまで長さはなく、奥側にゲートがある訳でもないので、そこからでも出入り可能だ。
お客さんが入ってしまわないよう、西部劇で見る酒場の扉みたいなのをつけるという話もあったが、結局そのまま今日を迎えた。
そんな事は今は置いておいて、普通なら燃料を給油した後、ノズルを元の場所──フックと呼ばれている部分に戻すと、自動で精算されて、入れた量に応じた金額が書かれたレシートがレジから発行されるのだが……。
「あれ?」
レシートの吐き出される部分から紙は出て来てはいる。しかし、いつものレシートではない
いつものレシートは、ここのスタンドの名前、電話番号、日付が上から順番に書かれ、その下に油種とリッターあたりの単価、数量が横並びになっていて、金額が少し大きめな数字で書かれていたはず。
だが、今出てきた紙に書かれていたのは、レギュラー魔力ポーションという文字のみ。
単価は……ない。
金額は、金貨一枚………………金貨?
これは高いのか安いのか? 僕には判断がつかない。つく訳がない。
「それが請求書かな」
僕が謎のレシート(仮)と睨み合っていると、開けっ放しにしていた入り口からリアムさんが顔を覗かせ、僕の手からひょいっとレシート(仮)を奪う。
「変わった紙だね」
そう言ってレシート(仮)をしげしげと眺めていたリアムさんは、書かれた文字を読んで驚いたのか目を見張っている。
その表情もイケメンだ。
イケメンずるい。
「あれ、僕、字が読めた?」
イケメン過ぎる相手への怨嗟を内心でブツブツしていたら、今さら気付いた点に僕も目を見張る。
レシート(仮)に書かれていた文字は少なくとも日本語ではなかったが、ちゃんと読めてしまった事に時間差で気付いたのだ。
「このダンジョンのある国は大きいからね。公用語は周辺の国でも使われているんだよ」
優しい表情で説明してくれるリアムさん。
どうやらリアムさんはいい感じに『そこそこ遠くの国から魔法使いによってここへ飛ばされた可哀想な人』と僕を認定してくれたようだ。
それで僕が『飛ばされた先で言葉が読めて感動している』と勘違い……ではないが、起きた事態はその通りだな。それが日本語なだけで。
あえて訂正しないで、曖昧に笑っておく。
「そんな事より、だ。コン、あの量の上質な魔力回復のポーションがこの値段で良いんだろうか」
いい人なリアムさんが本気で心配してくれて、先ほど抱いた疑問の答えが思いがけず出てしまった。
だからといって、僕の言える答えは決まっているのだけど。
「値段は、僕が決めている訳ではないですから」
値段を決めてるのはオーナーのおじいさんです。
この魔力ポーションの値段付けは誰がしてるのかわからないが、僕ではないのは確かなので。
サービス業の武器、スマイルで誤魔化すと、リアムさんはハッとした表情をした後、うむとばかりに重々しく頷いて納得してくれた。
きっとリアムさんの脳裏には、見た事もない大魔法使いの幻が見えていたのだろう。
いつもありがとうございますm(_ _)m
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