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本日2話目です。
口に出したら少し落ち着いたので、改めて状況を確認だ。
四方全てが土の壁じゃなかった事に感謝すべきなのか悩みながら、リモコンのボタンを押してチャンネルを変えると監視カメラの画角が変わる。
「やっぱりこういう仕様なのか。カメラなんて無いのに……」
色々思う事はあったが、室内から周囲を探索出来るのは助かる。
さすがに外へ出る勇気はない。
最初に見ていたサービスルーム前から計量機を見守るような映像。
サービスルームの少し前にある灯油用計量機の映像。
サービスルームから裏口で出た所にある物置兼洗濯機置き場の小屋の映像。
鉄製の蓋付きのゴミ捨て場があるサービスルームの裏の映像。
光源はこのサービスルームから洩れる明かりしかないようだが、何故かサービスルームの裏まできちんと見えているのも不思議だ。
「ここは突き当たりなんだな」
サービスルームの裏の映像を確認して背後の土壁を視認した俺は、再度声に出してみる。
残念ながら答えは無いが、少し落ち着いた気がする。
「とりあえず、通路みたいな方が危なそうだから、そこに合わせておこう」
一人暮らしあるあるだが、独り言が増える。
誰かへ向けている訳ではなく、僕は声の出し方を忘れそうで気付くと声に出してしまっている事が増えた。
今はこの訳がわからない状況で落ち着くため声に出す。
喋っていないとその内、恐怖からあわあわとかおかしな事を口走りそうだったから。
「……あれ? 何か見える?」
最初に合わせたチャンネルというか画角にカメラの映像を合わせた僕は、先ほどまでは見えてなかった何かが画面に映し出されている事に気付く。
サービスルームの前から計量機を見るような画角の中、背景として見えている何処かへ続いている道らしき方の地面。
そこを何かが這っているようだ。
まだ遠いので何かよくわからないが動いている気がする。
カメラ越しではなく自分の目で見てみるが、かろうじて何か動いてるような気がする程度にしか見えない。
しばらく見ていると、だんだんとこちらへ近づいているような気がして、テレビの画面と外を交互に忙しなく見やる。
「もっとよく見たいな……」
ズームとかしないのかと手にしたリモコンへ目を落とすが、もちろんそんな機能があるテレビではない。
諦めて再びテレビの画面へ目を戻すと、映像が切り替わっている。
僕はリモコンを押してはいない。
だが、今映し出されていてるのは、さっきまでとは明らかに違う光景だ。
計量機を見守るように向けられていたはずのカメラは、まるでズームしたかのように僕が見たいと思った部分をハッキリ映し出していた。
それは──こちらへ向かって這ってくる、何らかの液体に塗れてテラテラとしている人型の生き物。
「え? 何だよ、あれ! ゾンビ? 大きなナメクジ?」
驚きと恐怖が自然と口から言葉となってこぼれ落ちるのが止められない。
どちらだとしても、ここが『地球』じゃないという考えないようにしていた可能性が、一気に現実味を帯びる。
そもそもの話だが、ガソリンスタンドごと移動してるし、中も外もいきなり変化してるし、普通じゃない事が起きてるのは確か。
「って、今はそれより、あれをどうにかしないと!」
考えてもどうしょうもない思考を放棄し、ひとまず目の前に迫る脅威へ集中する。
武器になるような物はときょろきょろと見回した僕の視線が止まったのは、外にある計量機だ。
ガソリンをぶっかけて火をつければ良いのでは……。
とても良い考えだと思った僕は、レジ画面を操作して計量機を使えるようにする。
これでノズルを持って握ればガソリンが出る。
いつもと少し画面が違った気もしたが、今はそれどころじゃない。
後で冷静になって考えれば、とんでもなく危険で、実行するにはヤバい事をしていたのだが……。
この時の僕はアレを撃退しなければいけないといっぱいいっぱいで、外へ駆け出して計量機に到着。
それとほぼ同時にレギュラーガソリンのノズルを掴み、目視でしっかり人型だとわかるようになった存在へ向ける。
いつもは絶対しない動作に、一瞬躊躇った後、僕はギュッとレバーを握り込む。
当然の如く、ノズルの先端からはオレンジ色をしたレギュラーガソリンが勢い良く噴き出す。
それはコンクリートの床を叩き、少し離れた位置に這っていた相手をビシャビシャと濡らしていく。
恐怖のせいかいつも感じている特有のガソリン臭さは感じない。
何処か冷静な部分でそんなどうでも良い感想を抱く。
肌の弱い人なら炎症を起こす事もあるガソリンを浴びまくっても、這っていた相手は大きな反応を見せない。
これはやはり最終手段として火を点けるしか……と思った所で、僕は重大な事に気付く。
僕は煙草を吸わないというか、未成年だから吸えないし、ライターなんて持ち歩いてない。
サービスルーム内も禁煙となったため、お客さん用に置いたりもしていない。
つまりは火を点ける方法が…………あ、休憩室の中には小さいキッチンがあるから、そのコンロから火を……。
目まぐるしく思考を巡らせた僕が、思いついた考えのまま動こうとしたのと、今までほぼ無反応だった相手が動くのは同時だった。
ガバッと音がしそうな勢いで、這っていた相手が上体を起こす。
そこで腕を使ったので完全に人型をした生き物だとわかり、さらにこちらを見た顔が、色んな液体に塗れていてもキラッキラなイケメンさんだと知る。
様々な驚きのせいで固まった僕を前に、キラッキラなイケメンさんはニコリと微笑んで立ち上がり、パチンッと指を鳴らす。
途端に色んな液体に塗れてもキラッキラなイケメンさんが、キラキラとした光にまぶされる。
僕も背は低い方ではないが、立ち上がったイケメンさんは僕より拳二つは背が高い。
色々びっくりしてるが、とりあえず相手は化け物とかではなく人間のようでそこだけは一安心だ。
化け物と心通わすようなファンタジーな展開もあるだろうが、人間相手の方が安心というか、確実に楽だ。
そこではたと新たに発生した困った事に気付いて、僕はキラキラとしているキラッキラなイケメンさんを見る。
現代日本ではコスプレ会場でしか見ない、ゲームやアニメでお馴染みの冒険者と呼ばれる人々がしそうな格好で、髪の色はたぶんグレージュが近いかな。楽しそうにこちらを見ている瞳は鮮やかな緑色。
万が一イケメンさんの格好が特殊な趣味で、ここが地球だったとしても、言葉が通じる気がしない。
悩んでる間にキラキラが消え、色々な液体に塗れていたイケメンさんの服が綺麗になり、イケメン度がアップする。
まるで魔法のような光景に度肝を抜かれた僕だったが、下手に黙っていて敵意があると思われたくない。
第一声は何にしようかと考えて、僕の口から出た言葉は……。
「は、はろー?」
相手は腰に剣を差しているように見えるし、まずは敵意がない事をアピールするために挨拶をしてみる。
僕が最初にガソリンをぶっかけたのは忘れて欲しい。
失態を誤魔化すため何とか口角を上げて笑いかけると、ニコリというキラキラエフェクトが見えそうな爽やかな笑顔が返ってくる。
先ほどの謎のキラキラは消えたはずなのに。
「すまない、それは君の国の挨拶かな? 私の言葉はわかるかい?」
「わ、わかります、ごめんなさい!」
声までイケてるイケメンさんの言葉が普通に日本語で聞こえてきて、僕は反射的に謝ってしまった。
自分でも謝った意味はわからない。
「何故謝るんだい? 君は私の命の恩人だよ」
「へ? あの……?」
どちらかといえばトドメを刺そうとしていた犯人じゃ? という突っ込みは、いくらなんでも自爆過ぎるので何とか飲み込む。
「うん? 君は先ほど私へ素晴らしい品質の魔力ポーションをかけてくれただろう?」
「魔力、ポーション?」
いえ、僕がぶっかけたのはレギュラーガソリンです。
ただ今、リッター百七十円なり。
「ふむ。それは金貨何枚だろうか」
心の声が駄々洩れていたらしく、イケメンさんがちゃりちゃりと音のする小さな布袋をかざして見せてくれたのだが、僕には答えなどなく。
これが僕と第一異世界人なイケメンさんとの出会いで。
僕には特に変化が訪れなかった異世界転移。しかし、勤務先のガソリンスタンドは僕の代わりとばかりに、ポーションスタンドへと変わっていたらしい。
いつもありがとうございますm(_ _)m
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次から、ちまちま付け足した部分ですm(_ _)m