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本日2話目です。
説明書を確認しますと言った後なのだが、
「すみません……聞きたい事があり過ぎて、何から聞いたら良いか、ちょっと混乱しちゃって……」
となってしまった僕に、セオドアさんはそうでしょうねぇと呟いて優しい微笑みのまま、背広の胸ポケットからスマホを取り出してみせる。
普通にスマホを出した事に驚いていたら、あれよあれよという間に僕とセオドアさんの間で某通信アプリのID交換が行われていて。
「え、これ通じるんですか?」
これが通じるなら、両親と連絡取れるのではと希望を抱いた僕に、セオドアさんはゆっくりと首を横に振る。
「申し訳ありませんが、こちらの世界にある私のスマホとしか通じません」
困った顔をしたセオドアさんは、そう説明しながら自らのスマホを操作している。
何をしているのかと思ったら、僕のスマホから某通信アプリの通知音を鳴り、ハッとした僕が画面に目を落とすとそこには通知を告げるマークがしっかりとあった。
もしかしてとアプリを開いた僕は、追加されたばかりのセオドアさんの名前をタップすると、
『何かございましたら、商品以外の事も遠慮なくご相談ください』
というメッセージと共に、デフォルメされた可愛らしいウサギみたいな生き物がニコニコしているスタンプが送られてきていて。
それを見て誰かとの繋がりが出来たという事に妙に安心してしまった僕は、震える手で何とか『ありがとうございます』というメッセージを送り返し……。
「ありがとうございます、セオドアさん。不安はありますが、何とかやってみます」
スマホを握りしめた僕の決意に、セオドアさんは柔らかく微笑んで頷いてくれて、ではまた、と言って去っていった。
来た時と同様に、さらっと去っていってしまったので、今さら「僕も一緒に……」とは言えなかったので、少し後悔したが言わなくて良かったとも思う。
このガソリンスタンドをこの世界へ転移させた存在の目的は、ここで僕がスタンドを営業させる事のようだし、僕でもまだ何とかやれそうだから。
これが、やれ『魔王を倒せ』とか『悪しき人間を滅ぼすのだ』とかだったりしたら御免被るが、場所と売る物とか、施設とかは少々…………かなり変わってるが、基本は物売りだ。
まだ死にたくはないから、生きるために出来る事からやっていこう。
そう気合を入れた僕は、まずは分厚い説明書を取り出してページを捲る。
去り際、真顔になったセオドアさんから、スマホはレジと連動させられますので説明書をお読みください、と言われたので。
たぶん言っておかないと僕が説明書を読まないと見抜かれていたんだろう。
真顔になったセオドアさんは、やっぱりちょっと怖かった。
思い出して身震いしていると天井付近にある回転灯が青色の光を灯して回り出す。
スマホとのレジの連動を終わらせたばかりだが、早速さらに説明書が必要となる事態のようだ。
そういえば先ほどは慌てて気にしなかったが、リアムさんが近寄って来ていた時にも回っていた気がすると思いながらページを捲ると、回転灯の説明はすぐ見つかった。
「えぇと、色と速度で来店した相手の危険性の可視化? 設定すると、音でも知らせてくれるのか」
便利そうなので早速レジを操作して音でもわかるようにしておく。
これは標準装備みたいで、特に代金の請求はなかった。
職場はチートかもしれないが、僕自身は武道の経験なんて体育の時間の剣道ぐらいしかない、それもサボりがちだったぐらいの戦闘力だからな。
打てる手は打っておかないと。
あとで『あれやっておけば』となって後悔はしたくない。
そんなこんなしているうちに、コンビニの来店音のような呑気な音がして外に複数の気配が……まぁ監視カメラを確認しただけなんだけどね。
見るからに恐る恐る敷地に入って来ていたのは、三人の若い男女だ。内訳は男二の女一。
どう見ても仲良さそうだし、仲間なんだろう。
パーティーを組んで、このダンジョンに挑んでいるのかもしれない。
パーティーを組むという言葉はゲームでもよく聞くから、僕でも知ってる。
そのまま監視カメラ越しに観察していると盾を持っている男性が怪我をしている事に気付いた僕は、慌てて閉めたままだったサービスルームのブラインドカーテンを開けてスマホを片手に外へ飛び出す。
レジと連動した事によって、スマホを操作すれば計量機を動かせるはずだ。
「だ、誰にゃ!?」
「近づくな!」
何も考えず駆け寄ろうとしたら、怪我をしている男性以外の二人から思いきり警戒されてしまった。
それもそうだよな、こんな見たこともないような建物から出て来た相手なんて、警戒されない方がおかしい。
しかも、相手は怪我人を抱えていて、気を張っているんだから。
僕は足を止めて、大きく一つ深呼吸をして、出来るだけ穏やかに見えるように微笑んで、武器を持ってないアピールで軽く両手を上げてみせる。
警戒されているのは変わらないが、とりあえず武器を抜かれるような事態にはならず、三人は揃って不審そうに僕の方を見てきている。
とても気まずいが、最初にかける言葉は決まっている。
ここはガソリンスタンドなのだから。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
さぁ、異世界スタンド、初めてのお客様をきちんともてなそう。
こうして、僕の異世界でのスタンド業務がスタートする事になった。
これからどうなるか、僕ごとスタンドを転移させた存在でもきっとわからないだろう。
どれだけ気合いを入れてみても、僕はただの一スタンドスタッフとして燃料……じゃなかった、ポーションを売るだけなんだけど。
あ、第一異世界人なはずのリアムさんは、お客様というより、完全なる闖入者だったから、ね。
ある意味、特別かな。
それと、今目の前にいる『お客様』達は、イケメンコスプレイヤーなリアムさんより遥かに異世界していたから。
僕はそれぞれのもふもふした耳と尻尾に戸惑いと警戒を表している三人組へ、もう一度ゆっくりとお馴染みの台詞を繰り返す。
「いらっしゃいませ。レギュラー満タン……じゃなかった、ポーション満タンでよろしかったでしょうか?」
三人組からは警戒が消え、戸惑いと──残念な相手を見る眼差しを向けられる事になってしまった。
これはちょっと前途多難かもしれない。
いつもありがとうございますm(_ _)m
これで第一章終わりとなります。
ここからやっとコンの異世界生活本格スタートとなります。
色々気付いてなかったスタンドのチート性能に気付いたり、疑問を抱きながらも、そこそこ開き直って生きていく予定です。
またしばらく空けて、書き溜めてから連続投稿するつもりなので、よろしくお願いします。
まずは、章で分けるという初めての作業に挑戦します(๑•̀ㅂ•́)و