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隠密〜あやかしの警察官〜  作者: 梅雨


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8/15

想定外

高校生は一瞬でいろんなことが起こりすぎてキャパオーバーしています。

 昴は朝陽を抱えたまま、ビルの屋上から地上へと降り立った。

 着地の衝撃を最小限に抑え、そっと彼女を地面に降ろす。


 「……立てるか?」


 問いかけに、朝陽は小さく頷いただけだった。

 息は浅く、顔色も悪い。


 「うわ……」


 その様子を目の当たりにして、男子高校生は思わず声が漏れる。


 (さっき壁蹴って登ってた人が、この高いビルから飛び降りて無事なんだけど……しかも女の人抱っこして)

 (本当にコイツら何者だよ……)


 理解が追いつかず、ドン引きしている。


 「おっと、これha……」

 「うぉ!」

 (次から次となんだよもぉー)


 背後から足音もなく現れた2人に、高校生の肩は思わず跳ねた。


 暁斗と明日香が合流し、周囲の状況を一目見て察する。


 (……これは最悪ねっ)


 2人は張り詰めた空気から、ことの重大さを悟った。

 合流はしたものの、普段おちゃらけている彼等でさえフォローできる空気感ではない。


 この重い空気の中、昇栄が動く。


 「……君。驚かせてしまって申し訳ないね」


 穏やかな声で、昇栄は高校生に近寄り話しかけた。

 優しい口調でも眼帯の大男が近づいてくるのだ。高校生が思わず背筋を伸ばすのも無理はない。


 霊力はすでに抑えられており、まず人間には感じ取れないはずだが、その場の空気を変えるほどの存在感は隠しきれていない。


 「私たちは警視庁の特殊部隊でね。危険な犯人を追っていたところなんだ」

 「巻き込んでしまった身で申し訳ないが……いくつか確認をさせてほしい」


 昇栄がそれらしい理由をつけ、書類を差し出す。


 「な、名前と、生年月日、住所……ですか?」

 「そう。形式的なものだよ」


 高校生は恐る恐る書類を手に取り、素直にペンを走らせる。


 それを横目で見つめている昴の顔はだんだん青白くなっていく。

 青白い顔がすーっと朝陽に寄せられ、囁く。


 「おい……やばいぞ。これ後で説教コースだ」

 

 だが返事はなかった。

 朝陽は一連の出来事を目に焼き付けつつ、呼吸を整えるのに精一杯だった。


 「ありがとう。木村 弦(きむら げん)くん、でいいかな?」

 「はい」


 昇栄は書類を受け取り、静かに続ける。


 「念のため、怪我がないかボディチェックをさせてほしい。いいかな?」

 「……? はい」


 一瞬だけ不思議そうな顔をした弦だったが、断る理由もなく頷いた。


 「では、目を閉じて」


 (……目、閉じる必要あるか?)


 そんな疑問を抱きながらも、弦は目を閉じた。


 昇栄が、そっと弦の額に手をかざす。


 次の瞬間――。

 淡い、暖かな光が広がった。


 これは“忘術(ぼうじゅつ)”。


 隠密にのみ伝えられ、使用が許可される秘伝の術。

 相手の記憶から、天道一族にとって不都合な部分だけを消し去る。


 使用は、「金鎖を人間に見られた場合」に限り、1人につき1度だけ。

 2度目が起こらぬよう、術を受けた者は本人に知らされることなく、生涯にわたり天道一族の監視下に置かれる。

 ――それほど重い術。


 ……のはずだった。


 「……あのー」


 その瞬間、昇栄の指先がピクリと動いた。


 弦が、目を閉じたまま話しかける。

 「もう、開けていいですか?」


 この問いに昇栄は反応できなかった。


 (術はしっかり発動させた……。本来なら、忘術を受けた者は、即座に意識を失うはずだ)

 (……例外は、存在しない。)


 昇栄以外の誰も、もちろん動けなかった。


 「……?」


 誰からも反応がないことに弦は首を傾げる。


 気絶していない。

 意識もある。


 その場にいた全員が、言葉を失っていた。

高校生の名前は 木村きむら げん

高3(18歳)受験真っ盛りです⭐︎

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