交錯
男の意識が朝陽から外れ、男子高校生に向かう。
「あのー……めちゃくちゃ怪我してない?救急車呼ぶ?」
男子高校生は男が目の前にいることに気づく様子もなく、朝陽に話しかける。
「あ……え?……」
(……私だけ見られた)
背中を冷たい汗が伝った。
朝陽はこの事実にたどり着くまでに僅かに時間がかかった。
男は一瞬で状況を理解し、喉の奥で低く息を漏らした。
(ゴミ虫に気を取られてすぎてたなぁ)
「お前かぁ……」
男の輪郭が、高校生の目の前にはっきりと現れた。
その一歩が踏み出されるのと、朝陽が異変を理解するのは、ほぼ同時だった。
「待――!」
声になる前に、男の腕は高校生の細い首をとらえようとしていた。
ーー考える暇はなかった。
鎖鎌が男の胴に巻きつき、寸前で動きが止まる。
「チッ……!」
男の舌打ちが響く。
次の瞬間、空気が爆ぜた。
扇状の武器が振り抜かれ、刃のような風が朝陽に向かい襲ってくる。
(――っ)
黄金色の鎖が風の刃に負け霧のように消えた。
朝陽は覚悟した。
その時ーー
身体が宙に浮く。
衝撃が来る前に、世界が横転した。
誰かの腕が強く締まった。
地面を蹴る感覚。
「昴……」
朝陽を脇に抱え、昴はビルの屋上へと駆け上がっていた。
(……ウゼぇ。まぁいい。)
男が視線を高校生に戻した瞬間。
巨大な光の蝶が、男と高校生の間に割って入る。
羽ばたくたび、霊力の膜が幾重にも重なり、見えない壁を作る。
「え!?……え?……」
高校生は、いきなり目の前に現れた男に、ビルの隙間を蹴って登る人間離れした昴、見たことのない大きさの光る蝶と情報量が多すぎて混乱していた。
「……ッ」
男は、露骨に顔を歪めた。
「ウゼぇ……」
苛立ちに任せて蝶を吹き飛ばそうとした途端。
空気が、重く沈んだ。
男の背後。
気配が、突然そこに“在った”。
「――日和。随分と派手な真似をする」
低く、静かな声。
振り返った男の視界に、霊力を解放した昇栄の姿が映る。
蝶と昇栄。
挟み撃ちの位置。
男は一瞬で状況を測り――
「……ふっ」
笑みを浮かべた次の瞬間、男を包むように風が渦巻く。
姿は、もうなかった。
残された路地に、静寂が戻る。
『……ひとまず、山場は抜けたはず。』
日和の声が聞こえ、蝶がスッと消える。
制服の高校生は、状況を理解できないまま立ち尽くしていた。
【ちょこっと小噺】
男子高校生は授業サボって街ブラしていた所、巻き込まれてしまいました。




