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遭遇

 「はっ、はっ、はっ」


 攻撃を防ぐたびに朝陽の息が荒くなる。

 イヤホンで繋がっている仲間のやり取りを聞く余裕はない。いや、目の前の相手に集中するあまり聞こえていない。


 (全然攻撃の威力が弱まらない。このまま守りだけでは私の体力が持たない……)


 なるべく持久戦にしたくは無いが、攻撃できる隙が見つからないまま体力だけが削られていく。


 (中々しぶといな。そこらへんにキラキラ光ってるゴミ虫もウザい。霊力が増えてるし、何か仕掛けてくるな……。)


 男は攻撃を続けながらも、まだまだ周囲を警戒する余裕がある。


 (まぁ、一掃するから関係ねぇけど)


 心の中で呟きながら男は朝陽と距離を取り、両脇の建物を交互に蹴り上げ高く跳んだ。その姿は太陽と重なり朝陽は目を細めた。

 男は空中で身体を回旋させると旋風が巻き起こる。


 「!」


 朝陽からは日光が眩しくて男の様子が確認できず、旋風に気付くのが遅れた。

 急いで後方に跳んで回避しようとしたが、旋風のスピードは増していった。


 (! やばっ!)

 

 朝陽は男の霊力が竹串ほどの針状になって旋風に混じっているのを目撃し、鎖鎌を盾にして防御しようとするが、壁のように襲ってくる風に体全体が巻き込まれる。

 

 「うぁ!」


 朝陽は左に飛ばされ壁に全身を強打する。

 また、身体中に針による刺し傷や切り傷が無数にできていた。

 

 (うぅ……痛い。カマイタチの時より威力が強いしこの霊力。上級以上のあやかしかも。落ち着け、落ち着け……。相手をよく見て体を動かせ)


 朝陽はよろめきながらも立ち上がり、相手を睨みつけた。


 *


 日和はサーチ室で蟲を通して二人の様子を見ていた。

 

 サーチ室とは、主にサーチ班が任務で使用する場所だ。霊力が地図上に表示される“霊力サーチスクリーン”をはじめ、パソコン等精密機器が並んでいる。

 人間界で言う消防司令センターのような場所である。

 

 (一方的だな。男はきっとあたしの蟲にも気づいているはずだし。! 何だ? 上に跳んで……よく見えないな)


 蟲も男が上に跳ぶ様子を捉えていたが、朝陽同様、日光の影響で男の姿は見えていなかった。

 日和は男の様子を急いで確認しようとするが、全ての蟲が風で宙に浮いた途端に霊力が途絶えた。


 「! 蟲がやられた!! 暁斗たちはあとどのくらいで到着する?!」


 『E?! あと5分くらいかna』

 『日和、どういうことだい?!』


 全ての蟲を一瞬で潰された日和は焦っていた。

 いつも気怠げに話している日和が突然大声でリアクションをしたことに、朝陽以外のメンバーは驚愕する。

 

 「被疑者が術を使って蟲を一掃した!日光をうまく使われてタイミングが分からなかった! 今、朝陽の状況が分からない!」


 『分かった。相手を侮りすぎていたね。私たちもスピードを早めるよ』


 焦りが混じる説明に、昇栄は冷静に答えた。


 (くそっ! ずっと監視してたのはあたしだけだ。もっと相手をよく観察しろ!)


 日和は自分を責め始めた。霊力サーチスクリーンを睨みつけながらデスクを強く叩く。


 周りにいたサーチ班のメンバーがビクッと肩を振るわせた。彼女が感情的になるのを見るのはみんな初めてだった。

 スクリーンを睨み続けながら、日和は右の掌を上に向けた。すると、ピンポン玉ほどの大きさの光る球体が現れた。

 次第にそれはスズメバチの形に変わり、どこかへ飛んでいく。


 「すぐに虫を作り向かわせた。それまではスクリーンで動きを確認する」

 

 (霊力が底ついてきて目眩がする。あの虫が最後……)


 日和は緊急任務が入るまでは、朝陽達の通常任務に加えて複数の任務を兼任していた。

 スクリーンからは目を離さないが、額には汗がにじんでいる。


 *


 朝陽の悲鳴と日和の言葉が同じタイミングで昇栄達に聞こえた。

 昇栄と昴は足を止める。


 「!」

 「日和、どういうことだい?!」


 昇栄が日和に状況を聞きながら、スピードを早めて向かうことを共有していた。


 (本当にどうなってるんだ!? このままじゃマジで!)


 一連のやり取りを聞いていた昴は、居ても立っても居られず、霊力を解放し飛び出した。


 「おい! 昴くん! 状況がわからないままは危険だ!!」

 「後で説教されます!!」


 昇栄が制止を促すも、昴は無視して朝陽の元へ急いだ。


 『えっ? 何っ!?』

 『どうしたんda!!』


 昇栄の大声に他のメンバーが驚き反応する。


 「昴くんが飛び出した。暁斗たちはこのまま向かってほしい。私は彼を追う!」


 昴を追いながら説明する。最新の注意を払うため、隠術と透明化を併用し追いかけた。


 (やはり速いな。私じゃ追いつけない)


 昴は、天道一族の中でもトップクラスのスピードを誇る。昇栄も分かってはいたが、昴の背中が小さくなっていく。

 

 *


 「ゴミ虫は全部消えたな。……はぁ。まだ立ってんのかよ。マジでしぶといな。」


 (すぐ消せると思ったんだけどなぁ。選択ミスったなぁ。めんどくせぇ)


 男はフラフラながらも立っている朝陽を見て、ため息をつく。


 「はっ……はっ……」


 朝陽は男の言葉に反応する余裕は無かった。ただひたすら呼吸を整え、痛みに耐えていた。


 その時だった。


 「ふぇーー。路地裏ってビル風すげぇんだな」


 制服を着た青年が周りを見回しながらこちらに向かっていた。


 「あ?」


 男がダルそうに後ろを向いた。


 「……人間の……高校生?」


 朝陽も男と同じタイミングで呟く。


 「ん? 女の子? 光る鎖? てか大丈夫です?」


 男子高校生は傷だらけの朝陽に話しかけた。

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