表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

応援

 「きゃっ!」

 

 朝陽は軽い悲鳴を上げながらも、男のナイフを反射でかわした。

 男は間髪入れずにナイフを喉元目掛けて振り上げる。


 朝陽は鎖鎌で攻撃を受け止めた。


 「!」

 

 男は驚いた顔をしてナイフを引き、距離を取る。


 (三日月のピアス。やっぱり被疑者だ)


 男の動きが止まったことで、朝陽は男の詳細な容姿をやっと確認することができた。

 そして、緊急任務の被疑者であると確信した。


 「天道の術……。お前桂じゃなかったのか」

 「え?」


 男の言葉に朝陽も驚いた顔をする。


 (桂? 桂一族? 私を誰かと勘違いしているの?)


 「霊力が漏れているぞ。もっと上手く隠せ」

 「!」


 (霊力が漏れている? 嘘? おじさんにも感知されてないのに。こいつヤバい。……それより私は隠術すらも完璧にできないの?)

 

 霊力が漏れていることを指摘され、朝陽は敵を前にしているにも関わらず、自分の実力不足に失望していた。


 「まぁ、天道1人やっても問題ねぇよな」

 

 男はポツリと呟いてから、また朝陽に向かって勢いよく飛び出し、攻撃を再開した。


 「っ!」


 男はナイフを両手に持っていた。

 左右から絶え間なく斬りかかる刃に、朝陽は防御で精一杯だった。

 朝陽は男の攻撃に圧倒され、だんだんと後退していく。


 *


 『きゃっ!』


 朝陽の軽い悲鳴は、任務遂行者達にも聞こえていた。


 「朝陽!」

 『エっ? あの声朝陽ちゃんっ!?』


 昴と明日香がすかさず反応した。


 「日和、どうなっているの?」

 『被疑者が朝陽に接触したよう。いま、虫をその場所に向かわせている』

 「急ぎ頼むよ」


 昇栄が日和に状況を確認させる。

 一行が日和の報告を待つ中、朝陽の霊力が放出されるのを感じていた。


 「朝陽の霊力だね。隠術を解いて金鎖でも出したな?」


 隠術と金鎖は同時に発動できない。そのため、金鎖を出すときは結界を張り、人間に見つからないように対処している。


 『蟲、到着。朝陽は金鎖を出して対処中。防御で精一杯な感じ。朝陽は結界を張れる状況じゃなさそうだから、私が蟲の霊力を増やして張る』

 「よろしく。周りに人間は?」

 『今のところ近くまで来る人はいない』

 「了解」


 日和から情報を得て、昇栄は顎に手を当て考え込み、一呼吸おいてメンバーに指示を出す。

 

 「暁斗と明日香は隠術を解いて朝陽の元へ向かってほしい」

 『承知しましta!』

 『霊力解放でさっきよりはスピード出ますけどっ、距離があるので少し時間かかりますよっ?』

 「かまわない」

 「昴と私は隠れながら実体を消し朝陽の元に向かうよ」

 「は、はい!」


 (さっきから朝陽の呼吸が荒い。日和さんによると押されているらしいし、なんで昇栄さんはすぐ向かう指示を出さないんだ? 俺が、「昇栄さんだけ先に朝陽のところへ行ってください」とも言えないし……、このままだと朝陽も怪我……いや、最悪の事態もあり得るぞ!)


 昴は、先ほどからずっと聞こえる朝陽の荒い呼吸が気が気ではなく、すぐ応援に向かわせない指示に苛立ちを感じていた。


 「どちらが先に着いても、まずは朝陽を被疑者から離すことを最優先! 接触場所は千代田区だ。男は裏(あやかし界)には逃げられない」


 (! 裏は天道一族の敷地内か。逆を言えば、朝陽も隙を見て裏へは逃げられないじゃんか!!)


 昴は更に朝陽を心配した。


 約100年前の天道一族の長は、あやかしが人間界から襲撃する場合を想定し、敷地全体に侵入できない結界を張った。

 現在も族長である燦燦を筆頭に、その結界が弱まらないよう日々霊力を注ぎ込んでいる。

 人間界から天道の敷地に入るには、借りているアパート以外道はない。

 

 『場所は路地裏だから狭いよ。気をつけて』

 「二次被害を出さないよう一層注意して任務を続けよう。」

 「『『はい』』」


 昇栄の合図とともにそれぞれ指示通り動き出す。


 「昴くんは、隠術を発動しながら実体を消すのは初めてかい?」

 「はい。上手くバレずに霊力をコントロールできるか」

 「大丈夫。まず感覚が安定するまでゆっくり進もう」

 「それでは!……」


 昴は、実戦で初となる隠術と透明化の同時発動に不安がありながらも、1秒でも早く昇栄が朝陽の元へ行かなければならないと思っている。

 彼は焦りと苛立ちを感じ、表情が歪む。

 

 「朝陽が心配かい? 朝陽は新人だけど、実戦を担当している捕縛班の一員だよ。相手は手強いかもしれないけれど、日和も監視してくれている。まずは自分が出来ることを考えよう」

 「はい……」


 (隠密候補だと言ってもまだまだ若手。親しい者がピンチに陥ると冷静さに欠けるか)


 昇栄は、昴の焦りからくる不安や苛立ちの感情を感じ取っていた。


 『昴くn! 心配なのはみんな一緒sa 』

 『日和ちゃんも付いているしっ、私たちもできるだけ早く着くように今向かっているからねっ!』

 『私も常に監視はしてる〜。朝陽がピンチなときは、一瞬だけど蟲で相手の気を散らすつもり』


 他のメンバー達も昴の不安や焦りを感じ取り、安心させる言葉を述べていく。


 「みんなそう言っているよ。私たちも早く援護できるよう集中しよう」

 「はい。みなさん、ありがとうございます!」


 昴の表情が緩み、霊力コントロールに集中し始めた。

 昇栄は、昴が落ち着きを取り戻したのを確認して歩き出す。

 昴は気づいていないが、彼の表情は険しかった。


 (そうは言ったものの、まずい状況なんだよね……。相手は霊力感知が優れているから、日和の蟲も派手な動きをしたらすぐ潰される。……相手はなぜ笑って走り出した? 朝陽が目的だったのか? 我々が応援に駆けつけたところで朝陽を人質されたら、どのように動こうか?……)


 被疑者の男は朝陽を勘違いで襲ったが、昇栄たちはその事実をまだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ