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緊急任務

 「え? おじさん?」

 「あ、親戚ではないよ。昔からの癖で」


 朝陽が昇栄を「おじさん」呼びするもので、昴がつい突っ込んでしまった。


 (隠密なんて、年に数回しかお目にかかれないのに、昔から親しく接しているところがお姫様だよなぁ)


 朝陽に言うと怒られるため、彼は心の中で嘆いた。

 

 朝陽の実家は天道一族の本殿であるため、彼女は幼い頃から隠密達に遊んでもらっていた。

 特に昇栄は、父親と年齢が近いこともあり「おじさん」と呼ぶほど仲が良かった。


 「あ、申し訳ありません! 任務が入ったという事ですよね?」

 (ひぃぃ! 昇栄さんの前なのに!)


 昴は隠密に認められたいという欲が強い。険しい顔のままの昇栄を見て慌てて話を戻す。


 「ああ、そういう事だ。緊急任務が入った」

 「品川区で女性があやかしと思われる者に殺害された。そいつを今、23区内にいる一族一同で緊急捕縛する」

 「これは族長命令だ」


 昇栄の緊迫した様子から、二人は一気に緊張した。

 朝陽はもとより、昴も緊急任務は初めてだった。


 『緊急任務。緊急任務。東京都23区内で任務外の者達に一斉通告』

 『品川区で殺人事件発生』

 『1分後より任務遂行者の通話を開始します』


 イヤホンに本部からの緊急連絡が入る。


 「連絡が来たな」

 「とりあえず、朝陽は今回の任務から外れなさい」


 「え!? なんで……」


 昇栄からの言葉に、朝陽は驚きと同時に悲しさが込み上げてきた。


 「初任務を終えたばかりで、気持ちは高ぶっていても身体は疲れ切っているはずだ」

 「それに今回、先に対応していた晃輔(こうすけ)晴明(はるあき)が相手にやられて治療中だ」


 「あのお二人が……」


 ベテラン二人の負傷に、昴はより一層緊張が走った。

 

 「それくらい手強い相手という事なんだね……」

 (足手纏いになるから下がれということだね)


 朝陽は昇栄の目を見て口を開いた。


 「そうだ」


 昇栄もまた、目を逸らさずに言う。

 朝陽が発した言葉の意図を感じながらも、はっきりと答えた。


 「……わかった。私はアパートに戻ればいい?」

 (本当はみんなと任務がしたい。けど、私はまだ……)


ーー天道のくせに霊力が低いのかよ、雑魚が。


 朝陽の脳裏にはカマイタチの男が言った言葉がよぎった。


 「そうしてほしい。だけど、今後の勉強も兼ねてイヤホンはそのまま繋いでおく。いいね?」


 昇栄の言葉に朝陽は頷いた。


 人間界では常に霊力を隠し活動する一族にとって、いかに()()になりきれるかが重要である。

 好きな場所から人間界に入り、偶然見られてしまった場合に説明がつかない。その予防として天道一族は人間界を往来するためにアパートを借りている。

 一族の敷地は、人間界の千代田区周辺と繋がっている。そのため、アパートは千代田区の一室を利用している。

 ちなみに、本殿の裏側は東京大神宮と繋がっている。


 「そろそろ通話が始まる。昴くん、結界を解いてくれ」

 「はい」


 昇栄の合図で、昴は結界を解除した。


 「朝陽、念のため()()()移動してほしい」

 「はい」

 

 朝陽が覇気無く返事をし、歩き出した。


 一族が人間に紛れることができるのは、あやかしが発する霊力を遮断できる“隠術(おんじゅつ)”のおかげだ。

 この術は、金鎖同様、天道一族のみ使用できる「太陽の恩恵」の一つである。


 あやかし、特に中位ランク以上の者たちは、人の姿に扮して人間界に紛れ込む。

 しかし、いくら人の形をしていても霊力は放出されたままのため、人には気付かれずともあやかし同士では扮装が意味を成さない。

 そのため、人間界で罪を犯したあやかしを捕まえようとしても霊力を感知され逃げられるのだ。

 

 天道一族が人間界での治安維持を任されているのも納得がいく。


 朝陽の霊力が隠されたのを確認し、昇栄は昴に指示する。


 「よし、私たちも隠れて出発しよう」

 「はい……」

 「朝陽には厳しい対応かもしれないけど、今のレベルでは緊急はできないよ」

 「本人も、理解はしてると思います……悔しがってますけど……」

 「その悔しさが強くなる。これからの一族を背負う者だからね」


 歩きながら会話をしていると、イヤホンに連絡が入った。


 『こちら本部。これから任務遂行者と詳細を話す』

 『サーチ班、隠密日和。捕縛班、隠密昇栄・暁斗(あきと)明日香(あすか)・昴・朝陽。以上6名』

 『詳細、品川区で女性が殺害され死亡。被害女性は桂一族(かつらいちぞく)。遺体からは霊力痕あり。被疑者はゆっくり北上中』

 『隠密昇栄をリーダーとし任務を遂行せよ。以上』


 (なんか詳細アバウトすぎねーか?)


 昴は分かりづらい本部からの連絡に困惑している。

 隣の昇栄を覗き見た。彼は平然としている。

 

 (え? コレ通常運転?)


 昴は余計不安になった。

 そんな中、すぐ通話が開始された。


 「じゃあ、始まるよ。心してかかるように」

 「『『はい』』」

 

 隣にいる昇栄の挨拶で日和以外は返事をした。


 「その前に、朝陽は初任務を終えたばかりだから辞退させたよ。でも今後のため通話は切らないでね日和」

 『了解〜』


 (日和さんは緊急でもこのテンションなんだ……俺だけ? こんな緊張してるの)

 

 日和が軽い返事をしたことに昴はまた困惑した。


 『フフ、日和ちゃんがいると緊急と感じなくなっちゃうわっ』

 『hahaha! 明日香もだyo! それに僕もca!』


 明日香と暁斗が楽しそうに話し出す。

 

 (……)


 昴は開いた口が塞がらない。

 恐る恐る、隣の昇栄を覗き見た。


 (“無”だ! 限りなく“無”だ! 何考えているか分からない! 怖すぎる!)


 『昴くんがいるんだからみんなしっかりしましょっ』

 

 いきなり自分の名前が呼ばれたので、昴は驚いて肩をビクリと震わせた。

 

 「……緊急は初めてなので、皆さんの迷惑にならないよう努めます……」

 『ha! そんな固くならないde! いつも通りで大丈夫だyo aceクン!』


 「……はは」


 (二人は昇栄さんの様子が見えないからそんなお気楽なこと言えるんだよ。こっちの身にもなってよぉ……)

 

 昴はげんなりした顔をしている。

 読んでいただきありがとうございます。

 作品を編集しましたので、ご報告です。

 以前のエピソードタイトル「あやかしの警察官-3-」は、ep.3「緊急任務」とep.4「狙いは…?」の2つに分割いたしました。

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