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隠密〜あやかしの警察官〜  作者: 梅雨


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14/15

守ると決めた

 昴は執務室を出ると、廊下を1人歩きながら思考の渦に沈んでいた。


**


「昴は、なぜ忘術を受けた者が監視対象になるか分かるかの?」

「2度目の術を受けるのを防ぐためです」

「そうじゃ。忘術は膨大な霊力を脳という局所に注ぎ込む術。2度も受ければ、身体にどんな影響が出るか分からん。人間で実験などできんしの」


 燦陽は穏やかに笑いながら続けた。


「では、座学では教えぬ“もう一つの理由”があるのは知っておるかえ?」

「……え?」


 一瞬の沈黙の後、燦陽は静かに告げた。


「忘れた記憶を、思い出させないためじゃ」


 昴は思わず眉をひそめる。


「術によって強制的に忘却させるのですから、基本的には問題ないのでは……?」

「ほとんどの者には影響はない。じゃがな、万が一失った記憶に関わる“何か”と再び遭遇した時、それが引き金となり思い出す可能性もゼロではない」


 燦陽は背もたれから離れ、前屈みになる。


「それが本人にとって、本当に大切な記憶であった場合じゃ。思い出した時、どんな影響が出るか分からん。精神が壊れてしまう者が出るやもしれん」

「……朝陽にとって、あいつの記憶は“引き金”になり得る……」

「そうじゃ。ならぬ場合もあるじゃろうが、危険は避けるに越したことはない」


 燦陽は昴を真っ直ぐに見据えた。


「昴。あの2人が遭遇せぬよう、注意を払っておいてくれ」

「これは極秘事項じゃ。隠密とぬししか教えておらぬ」


**


「……あいつ。何の関係が……?」


 昴は考え込みすぎるあまり、前方から来る人物に気づかなかった。


「昴くん? 昴くん?」

「ーーっ!? あ、昇栄さん!すみません!」


 ぶつかる寸前で声に気づき、慌てて頭を下げる。


「ずいぶん難しい顔をしてたね。考え事かい?」

「……はい」

「それは……あの子たちのことかな?」


 昴は昇栄の目を見て悟った。“あの子たち”が、朝陽と弦であることを。


「そうです。ちょっと……頭の中を整理していました」

「そう……」


昇栄は少し考え込んだ後、問いかけた。


「今、少し時間はあるかい? 話をしよう」

「……はい!」


 少し驚きながらも、昴は即座に頷いた。


 本部を出て、2人は近くの岩に腰を下ろす。月明かりが静かに辺りを照らしていた。


「うん。ここなら周囲に気配はないね」


 昴が口を開いた。


「昇栄さん。あの時は……指示を無視してしまい、申し訳ありませんでした」


 昇栄は微笑み、昴の頭を優しく叩く。


「今回はいいさ。結果的に朝陽を助けてくれた。むしろ感謝しているよ」


 昴の表情が、ふっと緩んだ。

 少しの沈黙の後、昇栄が切り出す。


「さっきの考え事だけど……昴くんの口から聞かせてもらえるかな?」


 どこまで燦陽から聞いているかを探るような問いだった。

 昴は隠さず、すべてを話した。


「……そう。朝陽が術を受けたのは、5歳の時なんだ」

(このくらいなら、伝えていいよね)


「え……!? そんなに前なんですか……」


 昴の表情が陰るのを、昇栄は見逃さなかった。


(少し意地悪だけど)


「どうして、そんなに2人の関係が気になるのかな?」


 昴は一瞬、言葉に詰まる。


「……朝陽は幼馴染で……一番長く一緒にいるのは、俺だと思ってました」

「でも……俺が知らないところで、誰かと深く関わっていたかもしれないって思うと……」


 自分でも理由が分からないです。と苦笑する。


 昇栄は優しく微笑んだ。


「気持ちは分かったよ」

「だからこそ、朝陽を守らなきゃいけないね」


 代々族長を継ぐ血筋。

その立場を思えば、これから先が平坦でないことは明らかだった。


「……そうですね」

「まず俺にできることは、2人を会わせないことですね」


 昴の目に、覚悟が宿る。


「そうだね」

「それと、どんな時でも朝陽を守ってあげてほしい」


 それは僕個人の願いだけどね。と昇栄は笑った。


「ありがとうございます」

「気持ちが楽になりました!」


 清々しい表情で昴は立ち上がり、昇栄と別れる。


 夜は、さらに静かに更けていった。

面倒見の良い昇栄に、昴はもう懐いてます笑


次回、弦が動きたがります。

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