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隠密〜あやかしの警察官〜  作者: 梅雨


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13/15

勘違いだと思います

 焼肉さんさんを出た昴と朝陽は、満腹と満足感に包まれながら並んで歩いていた。


「いやー!美味かった!」

「ごちそうさま!昴の奢り最高!」


 そんな他愛ない会話をしていた、その時だった。


「あ! いたぁ!!」


 張り上げられた声に、2人は同時に振り返る。


 そこには鬼の形相をした日和が、こちらへ一直線に駆けてくる姿があった。


「「!!」」


(……また何かやらかした?)

(え、私? 何かミスった!?)


 2人の心臓が、同時に跳ねる。


「朝陽! 長が探してたんだよ……っ」

「はぁ……っ、普段走らないから……きっつ……」


 息も絶え絶えのまま、日和は耳元のイヤホンに手を当てた。


「こちら日和。朝陽を発見しました。昴も一緒ですが……」

「え? 俺も!?」


 油断しきっていた昴の顔色が、一気に悪くなる。


「昴もですね。承知しました」

「えぇぇ……」


(またこれか……)


 満腹の胃が、嫌な予感とともに重くなる。



 一方、燦陽は先ほどとは別の執務室にいた。


 そこは畳敷きではなく、明治期の書斎を思わせる洋風の空間だった。重厚な木製机、壁一面の書棚、柔らかな間接照明。同じ建物内とは思えないほど、趣が異なる。


 燦陽はパソコンの画面を見つめていた。


(木村弦。東京都出身、18歳。父は大学病院の医師……母親の記録は、無し)


 眉間に深い皺が刻まれる。


(昇栄の話じゃと、ネックレスは母親の形見……)


「普通に考えて、母親が怪しいのう」


 ぽつりと零した呟きに、千晴が応じる。


「ええ。死別なのか離婚なのかも分からない……そこが一番引っかかりますね」


「あのジジイに聞いても、期待できんか」

「桂の長様は……自由なお方ですから」


 千晴も苦笑するしかなかった。

 しばらくして、コンコンと扉が叩かれた。


「入ってよい」

「失礼いたします。朝陽と昴をお連れしました」


 扉の向こうには、きょとんとした朝陽と、明らかに顔色の悪い昴が立っていた。


「こちらへ」


 千晴に促され、2人は燦陽の前のソファへ腰を下ろす。


 燦陽は、真っ直ぐ朝陽を見据えた。


「朝陽。単刀直入に聞く」

「あの人間、木村弦に以前会ったことはあるかえ?」


「……?」


 朝陽は一瞬首を傾げた後、首を振った。


「ありませんよ。顔も名前も、全然覚えがないです」


 隣の昴も、首を傾げている。


「なぜです?」


 朝陽が尋ねると、燦陽は静かに答えた。


「あの者が目を覚ましての。朝陽を見たことがあるかもしれん、と言ったのじゃ」

「勘違いの可能性もあるが、念のためじゃ」


「ああ、そうだったんですね!」

「それは勘違いだと思います!」


 朝陽は、迷いなく言い切った。


「そうじゃな。休んでいたところ、呼び戻してすまなんだ」

「いえいえ!あの子は……元気ですか?」


 朝陽の問いに、燦陽は頷く。


「怪我はない。今は昇栄が調べておる。今日はゆっくり休めるじゃろう」

「朝陽も休みなさい。昴は少し話がある、残ってもらうぞ」


「はい。失礼します」


 朝陽が退出し、扉が閉まる。


 足音が遠のいた後、昴は意を決したように口を開いた。


「長……差し出がましいですが」

「申してみよ」


「先ほどの質問ですが……」

「その内容だけで日和さんが必死に探していたことに、違和感を覚えました」

「別の理由があるのでは、と」


 燦陽は、ゆっくりと口角を上げた。


「……察しが良いのう」

「隠密として、一歩前進じゃ」


「え……?」


 昴が目を見開く。


「質問の内容は作り話じゃ。あの者が朝陽を見たことあるとはまだ言っておらん」

「しかしだな……朝陽が、あの者を“覚えていたら”大事じゃった」


 昴は息を呑む。


「じゃあ……本当に2人は会ったことがあるかも知れない?」

「なのに、朝陽はあんなに自信満々で……!!」


 言葉を失った昴は口元に手を当てる。

 燦陽は静かに頷いた。


「そうじゃ」

「朝陽は1度、忘術を受けておる」

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