長の座す処
4人でドキドキ!長への面会!
一行は、日和が開いた時空の歪みを抜け、天道一族の敷地内へと戻っていった。
「朝陽、すまなかった。よく耐えてくれた」
昇栄の低い声に、朝陽は小さく頷く。
「私の力不足が原因だよ。でも……相手は舐めてた。全力じゃなかったと思う」
「急に笑って、朝陽の方に向かったよねぇ」
日和が思い出すように言う。
「狙いは朝陽?」
「ううん。勘違いされたみたい。桂じゃなかったのかって聞かれたしれ
「しかもあいつに、隠してた霊力を感知された。」
(……霊力、うまく隠せってまで言われたし。)
胸の奥が、じわりと重くなる。
「桂一族だけを狙っている可能性が高いな……」
昇栄が眉を寄せる。
「桂一族って、そんなに霊力弱いの?」
朝陽の問いに、昇栄はすぐには答えなかった。
そんな会話を交わしながら、一行は長の待つ本部へと歩を進めていく。
敷地内は江戸時代の城下町の街並みに近いが、ところどころにビルやコンクリート建物など人間界の技術が混ざっている。
(吐きそう……)
昴は一言も喋れずにいた。
話せば、何かが出てきてしまいそうだった。
この中で、長と直接対峙するのが初めてなのは昴だけ。
(2人は長とよく会う隠密、1人は愛する孫……これは緊張しないわけないだろ)
1人ツッコミをしながら、半歩後ろを歩く。
やがて、本部が見えてきた。
それは巨大な社殿だ。
白木を基調とした神宮建築様式。高く伸びる屋根と整えられた玉砂利。
まるでこの地そのものが、長の存在を祀っているかのようだ。
その周囲には、社殿を取り囲むようにして小さな屋敷が点在している。
いずれも簡素ながら手入れが行き届き、ここが一族の暮らしと任務の中心であることを静かに物語っていた。
本部の外に立つだけでも、燦陽の霊力が肌に刺さる。
昴は思わず息を呑んだ。
「朝陽は実家に帰る感じだもんね」
日和が軽く笑う。
「まぁね」
(まじか……)
「よし。入ろうか」
昇栄がそう言って、ぽんと昴の背を押す。
そのささやかな行為に、昴は少しだけ救われた気がした。
最奥の扉を引き、昇栄が一礼する。
「失礼いたします。報告に上がりました」
中は意外にも簡素な畳敷きの部屋だった。
奥中央には、袴姿の白髪の老婆。長の燦陽が端然と腰を下ろしていた。
背筋は真っ直ぐで、その存在感は圧倒的だ。
両脇には2人の側近(千晴、照久)がそれぞれ静かに座している。
「大体の話は聞いておる。詳細を述べよ」
昇栄は道中、朝陽から得た情報も含め、これまでの経緯を余すことなく説明した。
・桂一族のみを狙う男の存在
・朝陽への襲撃は、相手の勘違いによる可能性が高いこと
・忘術が一切効かなかった青年の存在
照久が、淡々と筆を走らせ記録を取っている。
「うむ……複雑かつ、深刻じゃのぅ」
「誰一人、天道に犠牲が出なかったことは、不幸中の幸いといえよう」
「それで、被疑者の種族はどちらかえ?」
燦陽が深刻な表情で問う。
「おそらく、“天狗”かと」
「姿は人間に扮しておりましたが、特有の団扇を所持しておりました」
「うーむ……それまた面倒な相手よの」
「それで……ここまで“やらかした”というわけか」
その一言に、4人の背筋が一斉に伸びた。
「昴よ」
「は、はい!」
不意に名を呼ばれ、昴はびくりと肩を跳ねさせる。
「任務開始から2年目と聞いておるが、主の活躍はよく耳にしておる」
「あ、ありがとうございます」
「じゃがな。上官の指示を無視するのは、いただけぬ」
穏やかな口調とは裏腹に、言葉は鋭い。
「今回は助かったが、1人の判断の乱れが、隊全体を危険に晒すことの方が多い」
「今後は、より一層心して懸かれよ」
「……はい」
昴は深く頭を下げ、自身の行いの重さを噛み締めた。
「次、昇栄」
「はい」
「いつも面倒な役回りを任せておること、こちとら申し訳なく思うておる」
「滅相もございません」
「緊急任務とはいえ、相手の情報が不足しておった」
「結果として、予測が甘かったようじゃのぅ」
「はい。朝陽様を危険に晒してしまい、誠に申し訳ございません」
その名を聞き、朝陽がギョッとする。
「朝陽も任務に就く者じゃ。立場の違いで扱いを変えるつもりはない」
「そのような謝罪は不要じゃ」
朝陽は何度も何度も頷いた。
「それで……その朝陽と日和についてじゃが」
「はい」
「は、はい!」
「襲撃への対応で精一杯であったことは理解しておる」
「じゃがな。金鎖を人間に見られることは、何より避けねばならぬ」
場の空気が、一段と重くなる。
「その上、今回は忘術が効かぬという前例のない事態」
「その少年への対応については、これから上層部で協議する」
その言葉に、朝陽の血の気が一気に引いた。
「さて」
燦陽は一拍置き、静かに告げる。
「4人の処遇についてじゃが……」
全員が唾を呑む。
「昴は2日間、任務から外す」
「チームワークについて、もう一度見つめ直すがよい」
「はい」
「昇栄は3ヶ月の減給」
「はい」
「日和は6ヶ月の減給」
「はい」
「朝陽は1週間、任務停止」
「基礎を改めて見直すことじゃ」
「……はい」
「なお、昇栄と日和は仕事が山積みじゃ」
「それもまた、処遇の一つと思うて対応してもらおう」
「……はい」
(あ、そっちの方がきついやつだ)
朝陽は心の中でそう呟いた。
「昴と朝陽は、もう下がってよい」
「「はい……失礼致します」」
「昇栄と朝陽は、今後の対応について会議に参加してもらう」
「「はい」」
2人は千晴に促され、退出しようとした時、
「あ!」
朝陽は思い出した。
【ちょこっとQ&A】
Q:時空の歪みから、あやかし界へ逃げることはできるの?
A:できます!
ただし、各一族)(特に五大妖怪や天道一族など)の敷地内には、強力な結界が張られていることが多く、裏側(あやかし界)が結界内にある場合、人間界から時空を歪ませて侵入・離脱することはできません。
なお、今回朝陽が襲われた場所の裏側は、天道一族の敷地内にあたります。
Qアパートって何?
A天道一族が人間界へ出入りするために契約している拠点(アパートの1室)です。
他のあやかし達にバレないよう強力な結界が貼ってあります。
全国に数カ所あり、天道一族の敷地内へと戻ることができます。




