EP6:俺様参上
「ハッ…クシュンッ!」
寒い。
乾いた大気と冷えた金属が俺から体温を奪っていく。
奴隷として売られてからどれくらい経ったのだろうか、もう半年近くはいる気がする。
俺は今…というかずっーと全裸で店の地下にある低い檻の中に閉じ込められている。
この『奴隷市場』では俺以外にも多くの人間が売られていた。
俺と同じ様な幼い子から大の大人まで、それも多種多様に。
俺の隣にはちょうど昨日、JKくらいの歳の女が入って来た。
その子の体には多くの痣があった、それに目も虚だ。
可哀想に……いや、それは俺もか。
買われなかったらずっとこのまま檻生活、買われたとしてもそいつの奴隷として一生を過ごして終わる。
…………詰んだな。
俺は既にこの時には人生を諦めていたのかもしれない。
俺が今日も諦めたまま汚い床を眺めていたら、この奴隷市場の店員の1人が近寄ってきた。
「出ろ、買い手がついた」
売られてから約半年、やっと俺に買い手がついたようだ。
俺の様な子供はもっと需要があるものだと思っていたが…でもまぁ、周りの人間と比べたら早いほうか。
店員はそう言って檻の扉を開けた。
俺は檻から出たものの低い檻にいずっといたせいで立って歩く事すら辿々しくなっていた。
「早く来いっ、お客様が待ってるんだぞ」
クソがそんな事言われたって久々に立ったから足に力が入んないんだよ。
(ドッ)
そんな俺を見てイラついたのだろう、店員は俺の肩を殴った。
痛てぇ…この野郎、毎回痣が出にくい所ばっか殴りやがって。
「…………ッ」
「ほら痛いの嫌なら速く歩こうね、ほら頑張って、頑張れー頑張れー」
キチガイが、死ねっマジで死ね。
俺は棒の様な足を何とか動かし、買い手の元へと歩いていった。
――
「お待たせしましたお客様、こちらがご要望の商品でございます」
「……おう、待ってたぜ…よー、久しぶりだなーステイ」
なんで俺の名前を知ってる?
いや名前くらい売却名簿にでも書いてあるか。
この時、俺は俺の買い手の顔を見ていなかった。
正確には怖くて見れなかったのかもしれない。
「おいおい元気ねーな、俺様だよ俺様、お前の命の恩人様だぞ覚えてねーのか?」
命の恩人?
………俺にとって命の恩人はリリスさんだけだ。
そう、リリスさんだけだった。
……顔を上げるとそこにはリリスさんがいた。
赤い肌に全身にわたってある紋様、綺麗に腰まで伸びた銀髪、頭に生えた2本の角、そこにいたのは間違いなくリリス・アクリアだった。
「っーリリスさん!」
「おう、久しぶりだなーステイ」
俺は再びリリスさんに会えて高揚した、これ以上ないくらい。
「おいっ、さっき金は払っただろ、さっさとステイの鎖を外せ」
店員はリリスさんの言葉にすぐさま反応し俺の足に繋がれていた鎖を外した。
俺は鎖を外されるとすぐにリリスさんの近くに駆け寄った。
「ではお客様、最後に『主従契約』の方を…」
すると店員はリリスさんに1枚の紙と針を渡した。
紙には良く見えなかったがなんか色々文字が書いてあった。
リリスさんはその紙に何かを書き込むと針を自分の指に刺し、そこから滲み出た血を1.2滴紙に垂らした。
そしてリリスさんはその血の垂れた紙を持ち上げた。
「『炎』」
リリスさんは指先から小さな火を出してその紙を燃やした。
燃えた紙は灰となりリリスさんの手の平に崩れ落ちた。
「良しっ、ステイこれ食え」
リリスさんは俺の口元に灰の乗った手の平を近づけた。
「えっ?この灰をですか?」
「おう、別に体壊したりはしねーよ」
そういう問題じゃないと思うけど、まぁリリスさんだし良いか…。
「じゃ、じゃあ…いただきます」
(ペロペロ………ゴックン)
俺はリリスさんの手の平の灰を1つのカスすら残さず食べた。
リリスさんはそんな俺を凄く嬉しそうにニヤニヤ見ていた。
「………ご、ごちそうさまでした」
正直これに何の意味があったのか分からないが今のところ特に何も起こらない。
「良しっじゃー行くぞステイ」
「何処にですか?」
「あー………とりあえず服屋だな」
俺は全裸のままリリスさんと一緒に奴隷市場を出た。
――
俺は滑らかな肌触りの良い素材のシャツに伸縮性の高いズボンを買ってもらった。
実に半年ぶりの服である。
人としての尊厳を取り戻した様な気分だ。
「ありがとうございますリリスさん。全部奢ってもらって…」
俺とリリスさんは今、服屋のを出て横並びで街を歩いている。
こう見ると親子みたいだ。
見た目は全く似ていないが……。
「ハッ、別に気にすんなよ。俺様は飯にしか金を使わねーから貯まる一方なんだよ」
リリスさんはお金が入っている鞄を揺らしながら答えた。
「そういえば俺っていくらしたんですか?」
確か俺の買取価格は金貨100枚くらいだったよな。
そうすると150枚くらいだろうか…。
「金貨250枚だな」
「っ高!…なんで俺にそんな払えるんですか?」
「……まー……ぶっちゃけ言うと俺様の趣味だな」
リリスさんはそう言うと俺の後ろに回り込み、俺の両脇を掴み持ち上げた。
赤子にもなった気分だった。
「趣味?」
「あーそうだ、趣味だ。だからステイ、お前には250枚分の働きをしてもらうぞ」
働き…?
今の俺に出来る事なんかあるのか?
「具体的に何すればいいんですか?」
リリスさんは辺りを見回してしばらく経ってから言った。
「…………そーだな……もう暗くなって来たし宿でも借りるかー…」
答えにはなっていなかったが俺はリリスさんをとりあえず肯定した。
「……そうですね」
「丁度あそこに良さそうな宿があるじゃねーか」
リリスさんは俺を両手で抱っこしたまま宿に入って行った。
……それにしてもリリスさんの腕が良い筋肉すぎる。
俺の足より太いんじゃないか?
リリスさんは宿に入ると地下にある一部屋を借り、地下へと降りて行った。
部屋に入りリリスさんは鞄を降ろすといきなり服を脱ぎ始めた。
服を脱いだリリスさんはいつのまにか服に滲むほどの汗をかいていた。
(ムワッ)と擬音が聞こえて来そうな程に。
「おいステイ、お前も服汚れるのが嫌だったら脱げよー」
「へ?」
そう言うリリスさんはすでに全裸になっていた。
俺はこのスピード感について行けなかった。
なんだ?
つまりそういコトか?
そういうコトなのか?
リリスさんは服を脱ごうとしない俺から強引にシャツを脱がした。
俺はされるがままだった。
「あーもうっ!こっちはもう1年以上ヤッてねーんだ。あんま焦らすなって…」
リリスさんは俺を脇に抱えると大きいベットの上に飛び乗った。
そうしてリリスさんは足をM字に広げると俺の頭を鷲掴み、自分の股に俺の顔面を押し付けた。
リリスさんの股は汗と体液でびしょびしょだった。
(ぐちゅ…くちゅっぴちゅ……ぐにゅーくりっ)
「ステイ……早っく……舐めろッ」
「……っぷはぁ…ちょ…ちょっと、ちょっと待って下さいリリスさん!」
俺はやっと現状を理解してきた。
つまりリリスさんは俺をディルドとして買ったのだ。
「なんだステイ?俺様のまんこ臭かったか?」
「いやそうじゃなくて!なんでリリスさんとセックスする流れになってんですか!?」
臭いはぶっちゃけ…少し臭ったがむしろ全然ありである。
いやっじゃなくて!
…もしかしてリリスさんの趣味って…。
「……だってステイは俺様の奴隷なんだから俺様の発散を手伝うのは当たり前の事だろ…なんだ?もしかしてステイは嫌なのか?」
……嫌では…無い。
むしろ続行したい気分だ。
だが俺にはアイルがいる!
ここで他の女とセックスなんてしたら俺は漢じゃない!
ここはリリスさんに正直に言って今回は引いてもらおう。
「……リリスさん俺、恋人がいるんです。そいつは俺とリリスさんが始めて会った時隣で一緒にいたアイルです。俺はアイルを裏切れません……」
「んー………ダメだ、舐めろ。…あんま言いたくないけど……これは『命令』だ」
すると俺の体は俺の意思と関係なくリリスさんの股を舐め始めていた。
なんだ?
クソッ体が勝手に動く。
「ステイー…奴隷のテメェが意思を突き通せる訳ないだろ。お前は俺様に買われた時点で誰の物でもない、俺様の物なんだよ。
…って事でこれからよろしくな。もちろんお前の世話は俺様がやってやるから安心しろよ」
クソが…。
俺は抗えない性欲とリリスさんと共に1夜を過ごした。
悔しい、こんな簡単に俺の意思が無下にされた事が。
でも、何より悔しいのは途中から俺はリリスさんの体しか考えれなかったからだ。
俺はリリスさんに夢中だったのだ。
情けない……。
――
「痛ったぁー…」
一夜が過ぎ、目が覚めた。
全身が筋肉痛になっていた、特に腰。
そりゃそうか昨夜あんだけヤってたらそうなるよな…。
そんなリリスさんは隣でまっ裸のまま寝ている。
「ステイー……抱けー……むにゃむにゃ……」
「………」
寝言か、昨夜あんだけヤったのにもうこんな事言ってんのかよ。
昨夜、ヤっている途中『逃げよう』と考えたがこれは得策ではない。何故なら金が無いからだ、リリスさんが寝ている隙に鞄から金をくすねてしまおうとも考えたがそれもただリリスさんから恨みを買うだけなので辞めた。
結局俺は覚悟が無かったのだ。
リリスさんは俺にレイプまがいな事をしたが一応俺とアイルの命の恩人だ。
…まぁ今更……そう考えたら俺の体くらい安い物だな。
「………おう、ステイー起きてたか、キスしろー」
リリスさんは目覚めるとすぐキスを要求してきた。
……せめてうがいくらいして欲しい。朝一のキスは口が乾燥してるから嫌なんだよ。
だが俺は逆らう事なく舌を絡めた。これは俺の意思だった。
俺はすでにクソになっていた。
「おはようのチュー…ハハッ…ステイ、今日もここで1日耐久だ!」
なんて無垢な笑顔なんだ。
「………リリスさんは疲れないんですか?俺はもう筋肉痛で出来そうにないんですけど」
「……俺様は鬼人だからなー、体力も性欲も人一倍あるから問題無いぞー」
俺には問題しかないぞ。
「……そう言えば前にアイルも言ってたんですけど『鬼人』って何なんですか?」
「…んあ?……あー…鬼人ってのはなー、魔物と人とのハーフみたいなもんだよ。ステイは見たことねーかもしんねーけど魔物の中には人間の構造に近い魔物も存在するんだ。
で、俺様の祖先はイかれた性癖だったんだろーな、そういう魔物とヤッて産まれたのが俺様の一族だ」
「魔物とのハーフ……」
ヒューマンジーみたいな物か…なるほど。
「どうした引いたか?」
「いえっ全然」
「ふーん……やっぱ良いなお前。高い金払って買っただけはある」
リリスさんはそう言ってニヤニヤしていた。
だがその瞳は昨日の邪な瞳とは異なりどこか純粋だった。
「…よしっ続きだー!」
リリスさんは俺の顔を自身の左胸に押し付けた。
「……リリスさん、その前にご飯にしませんか?」
(グゥぅー)
すると丁度のタイミングで俺とリリスさんのお腹が同時に部屋中に響き渡った。
「……だな」
俺とリリスさんはちゃんと服を着て街に出た。
――
〈[リリス・アクリア]視点〉
俺様の故郷は世界の最南端にある『ウィニフレッド島』だ。
〜その島には大昔に『クラウストール』と言う頭に大きな角を生やした魔物がいた。
その魔物は他の魔物と違い感情があった。
そしてその魔物は1人の少女と出会い、子を成し親となった。
だが産まれた子は生物と呼ぶにはあまりにも程遠い見た目をしていた。
魔物は酷く落ち込み少女から我が子を奪い…食べた。
少女は悲しみ激昂した、いつしか少女の怒りは体にまで影響を及ぼし、少女の頭には角が生え体中に痣が出来ていた。
そしてその怒りは未だ消える事は無い〜。
なんて伝承が俺様の故郷にはある。
まぁ……これが俺様達…鬼人の一族が生まれた理由らしい。
何千年も前の事だから本当かなんて分からない。
本当だからなんだって話だ。だが問題はそこじゃーない。
俺様の一族は他の多種族から差別されている。
何故なら鬼人は産まれた時から全身に紋様が入っているからだ。
この世界は体に紋様が入っている人間は罪人か悪人という常識がある。そのせいで俺様達の一族は悪人というレッテルを貼られている。
俺様が外に始めて出た時も周囲の視線が厳しく暴言なんかは常に吐かれたし、酷い時には知らない奴に蹴飛ばされた事もあった。
反撃してぶっ殺してやろうとした事もあったが本当に悪人になってしまうので我慢した。
唇から血が滲む程に。
俺様は17の時にはもう冒険者として活動していた。そしていつも通り依頼を終えた帰り道、1人の男と出会った。
その男は俺様より体が小さいのに俺様の何倍も強かった。
俺様は何もする事が出来ず負けた。
悔しかった…差別されているとはいえ、腕っぷしだけでこの世界を渡り歩いて来たというのに……。
なによりそいつは何も持たず素手で俺を圧倒したのだ。
なので俺様はその男の弟子になった。
何故なら男が強かったからだ、理由なんて他にいらん。
男は『ステゴロ部』とかいうふざけた道場の師範をしていた。
男は俺様に素手での戦い方を教えてくれた。
それから俺様は武器を使わなくなった。
数年後、俺様は道場を出て冒険者としての活動を再会した。俺様は不思議な事に武器を使って戦っていた数年前より何倍も強くなっていた。
そしてある時、俺様は魔物に襲われているステイとアイルに出会った。
ステイはガキの癖に妙に大人びて君の悪い奴だった。
アイルは……とにかく可愛らしい奴だったな。
ステイ達と別れて俺様はすぐにこの『ダフト街』に来た。
この街は良い、俺様の様な日陰に住むべき人間しかいない。
おかげで俺様が普通の存在になれる。
ある日、この街のギルドに寄ったら面白そうな依頼があった。
『街の外れにある廃墟に住み着いた魔物の討伐。賞金は金貨50枚、依頼主は[ポルン・サホス]廃墟の持ち主』という依頼だった。
俺様はこの依頼を受けることにした。
依頼を受けたその日、早速その廃墟に向かった。
廃墟は想像していたより大きく、想像していたよりボロかった。
だがその廃墟には魔物どころか羽虫1匹もいる気配が無かった。
俺様は廃墟の中に入り建物中を探索していると1つの広い部屋に出た。その部屋は屋根が突き抜けており、日が当たるように大きな卵が4つあった。
おそらく魔物の卵だろう。
(ぐぅぅー…)
その時、俺様は腹が減っていたので丁度あったその卵を食べた。
食べておいてなんだが魔物の卵は他の卵と比べて卵白の弾力が強くて食べづらい、黄身にいたっては生臭くて吐き気がした。
「……っぷふぅー」
まぁ、腹の足しにはなった。
すると(キシャー!!)と甲高い鳴き声が上から鳴り響いた。
そこには卵を食った俺様を睨みつける魔物がいた。
おそらくこの卵の親だろう。卵を食べられて怒っている様だ。
「小型かよ……おもんない…」
魔物ならせめて30m台はいっていて欲しかったな…。
だけど少しは知恵があるようだ、卵を襲った相手とはいえ俺様を見てすぐ襲って来なかったのは正しい判断だ。
「だけど…」
すぐ逃げなかったのはやっぱ魔物だな。
俺様は飛んでる魔物より上空にジャンプし魔物の背中に乗った。
そして乗られて暴れる魔物の両翼を両手で掴み引き上げると同時に背中を踏みつけた。
魔物の両翼と胴体は引きちぎれ魔物は真下にあった自身の卵の上に勢いよく墜落した。
「終わっと…」
これで金貨50枚、美味しすぎる依頼だ。
(キシャー!シャーシャー!)
まだ生きていたのか…小さくても魔物は魔物か…火なんか吹かれる前にトドメさしておかないとな…。
「………ん?………んだこれ?」
魔物が墜落した衝撃で廃墟の床に大きな穴が空いた。
だが俺様が疑問にもったのはそれではない。墜落した衝撃で空いた穴の先に地下に続く階段があったのだ。
(キシャー!シャー!)
っとその前にトドメっと。
(ゴチャッ…)
俺様は魔物をどかし地下へと続く階段を降りて行った。
降りきった先は真っ暗で何も見えなかった。
「…『炎』」
明かりをつけるとそこには幾つもの扉があった。
俺様は試しに1番手前にあった扉を開けようと手をかけた……。
「……ッー!!」
手をかけた瞬間、凄まじい悪寒がした。
俺様はすぐに扉から離れ臨戦体制に入ったが、特に何も起こらなかった。
どうやら扉を開ける事により発動する何かの様だ。
だったら……。
「帰るか…」
俺様が1人で今開けるにはリスクがデカすぎる、俺様は魔物と人間のハーフの種族だが魔物では無い。
何もしないでおこう。
今回の依頼の賞金が良い理由にはこの扉の存在があったからだろう。
俺様は魔物の死体から少し肉を剥ぎ取りさっさと廃墟を出た。
その依頼から数日、俺様がいつもの様にギルドに向かう途中『奴隷市場』を通りかかった。
「奴隷…か」
少し興味はあった。
なので俺様は店内を覗き売られている人間の名前を眺めているとそこに[ステイ・セント]の名前があった。
最初は人違いかと思ったがそれ以外の情報もステイと同じだった為、俺様は笑った。
「にして……金貨250枚か…あいつもお高くとまりやがって、ハハッ」
ステイか、見てくれは悪くないし礼儀もなってるし俺様を見ても嫌な顔1つしなかった珍しいガキだったな………買うか。
ステイには俺様の発散の手伝いをしてもらおう。
後何年かしたら絶対良い男になるしな。
俺様はその場の勢いでステイを買った。
そして今、ステイを買ってからまだ2日目だが今の所後悔は無い。
っていうかむしろ……。
――
〈[ステイ・セント]視点〉
俺とリリスさんはご飯を食べる為、宿から少し歩き『ダフト街ギルド』に入った。
「リリスさん、ギルドでご飯ですか?」
「あーそうだ、ギルドの方が安いし量が多いんだ」
「へぇー…」
俺とリリスさんはギルドの2階に上がり飲み物と料理を注文した。
運ばれて来た料理は山の様な肉の塊だった。
食い切れんのかこれ?
っと…それより今は俺のこれからについてどうにかしないとな…。
「リリスさん……リリスさんはこれからどうする予定なんですか?」
俺はこのままリリスさんとずっと一緒に居続ける訳にはいかない。
出来るだけ早く、『ブロー町』に行って衛兵としての修行をしなくては…俺はアイルに合わせる顔がない。
俺は奴隷として売られていた半年の遅れを取り戻す為焦っていたのだ。
「……俺様は別にどうもしねーよ。毎日ぐーたらして、偶にギルドで依頼受けたりしながらゆっくり過ごしていくつもりだ。もちろんお前と一緒にな」
リリスさんは運ばれて来た肉を頬張りながら答えた。
「だったら俺、行きたいところあるんですけど…」
「どこだ?」
「ブロー町の『ジケイ会館ブロー町支館』ってところなんですけど、知ってますか?」
「んにゃ、知らねーな」
「そうですか…実は俺、そこに行かなくちゃ行かなくてですね…」
「なんでだ?」
「俺、そこで『サッドアヴリル城』の衛兵になる為に修行しなくちゃいけないんです。でも行く途中に拉致られちゃって奴隷として売られてたんです」
「………はーん、なるほどねー」
興味無さそうだなおい。
「……じゃあ行くかー…」
リリスさんは肉を飲み込むとそう呟いた。
「えっ良いんですか?」
俺は驚いた。賛成して貰えると思っていなかったからだ。
「おいおい、なんで驚いてんだよ?俺様は別にお前の敵じゃーないんだぜ」
「……そ、そうですね…すいません」
「じゃー食べたらすぐ向かうかー」
リリスさんはやるとなったらすぐ行動に写せるタイプなのか…。
俺は俺より男らしいリリスさんを改めて尊敬した。
「はい……お願いします」
「ステイ…」
話がひと段落つくと、リリスさんは俺の目を見つめた。
「な、なんですか?」
「食えっ」
(ずぼっ)
リリスさんは持っていた肉を俺の口に突き刺した。
飯に誘ったのは俺なのに全然食べてなかったのが悪かったのだろうか。
「グエッ…!」
俺は肉の勢いで椅子ごと後ろに倒れた。
「ハッハハッハー良い食いっぷりだな!………………なーステイ………お前笑ってるか?」
リリスさんは倒れた俺に手を差し伸べながら問うた。
俺はそんなリリスさんの手を取り立ち上がるだけだった。
「へ?」
「『へ?』じゃねーよ、笑えって」
リリスさんは俺の口に親指を突っ込むと、俺の口角を無理矢理引き上げた。
「俺様よー会ってからお前が笑った所見た事ねーんだよ……お前、楽しむ事知らねーのか?」
「………」
俺はリリスさんの真剣な顔を見て思った。
俺は生まれ変わってから今までずっと何かの使命感で生きてきた。
それはおそらく前世で出来なかった『やりたい事』と『幸せになる』という義務感からだろう、俺はその2つの考えが前に出過ぎて『楽しむ』という考えが影に隠れてしまっていたのだ。
そして俺は心のどこかで『楽しむ』という考えはどこか『悪い事』と考えていたのかもしれない。
「………すいません」
「ハハッ。おいステイ!人生ってのは楽しんだもん勝ちだぜ」
「……はい」
「良しっ、じゃーまずはこの残ってる肉全部食えっ!」
山の様に盛られた肉はまだ半分以上残っていた。
食べ切る事など不可能だ。
だが、俺はリリスさんの笑顔を見たら食ってみようと思う事ができた。
それに…そっちの方が楽しそうだからだった。
「……ハッ…リリスさん、俺がもし食べ切ったらどうしますか?」
「そーだなー……………そうだっ!俺様の処女やるよ」
「……ケツ穴のですか?」
「あーそうだ」
「……いただきます」
「どっちの意味だよ?」
「どっちもすよ」
もういい、今は何も考えず楽しもう。
ただ楽しもう。
考えるのは後でいい。
そうして俺は大きな肉の塊を口へと運んだ。