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EP4:出会いと別れはニコイチ

 

 ジケイ会館本館に着いた。


 俺達は受付けを済ませて本館のある一室に案内された。

 その部屋は縦横とても広く部屋一帯が金色の装飾で埋め尽くされ豪華だった。

 部屋には俺達と同じくらいの子供達がたくさんいた。

 その中には裕福そうな格好をした子やボロボロの服をまとっている子、獣人から魔人など色んな子供達がいた。


 「ねー見て見てこいつ!めちゃくちゃブスなんだけどーwww」

 「えーマジじゃんwwwキモ〜」

 「キャハハハ、かわいそっ」

 「おい!ブスは衛兵になれねぇからさっさと豚小屋に帰れよ!」

 「ホントそれなブスすぎw」

 「ほらブスは帰れ!」


 部屋に入ってすぐ、隅の方から女子達の甲高い声が響いてきた。

 嫌な声だ。


 声のする方には3人の女子達が1人の女子を囲い、髪を引っ張ったり顔を殴ったりしていた。

 殴られている子はしゃがんでいてうずくまっていて抵抗していなかった。


 『イジメ』か、俺とは無縁なイベントだなー。

 この世界でも当たり前にあるんだな……見ていて胸糞すぎるけど。

 止めた方が良いのは分かるが、俺とは関係ないしほっとこ。


 「ね、ねぇステイくん、止めてあげなよ」


 俺がそのまま行こうとしたら隣にいたアイルが俺の服を引っ張った。


 「……えー、めんどいからやだー」


 悪いなアイル、俺は『正義感』とか『正論』が苦手なんだ。

 それにあんま目立ちたくないし。


 「ステイくん酷いよー」


 アイルは真面目だから、こういうのはほっとけない性格なんだよな。

 まぁ、そこが良いんだけど。


 なので俺はアイルに嫌われたくないので止めることにした。

 けれどただイジメを止めても面白くないのでアイルに1つ提案をする事にした。


 「…………じゃあ、止めたら10ムニな」


 「10ムニ?……10回だけでいいの?」


 「良いわけあるか、10分コースってことだよ」


 「……わ、わかった!」


 よっしゃー!!赤文字、金枠、虹演出つまりは確定!!


 「じゃっ、止めてきまーす」


 俺はイジメをしている女子達の所に駆け足で近寄った。

 その足はとてもイジメを止めに行く軽さでは無かった。


 「う…ッ!」


 そして女子達の近くまで来てわかった事がある、匂いがキツすぎる事だ。

 3人の女子達は服装からみて結構お金持ちの家の出なのだろう。

 だからなのか明らかな香水の付けすぎだ。

 薬屋で育った俺だってこんなキツいのは始めてであった。

 そしてイジメられている子の臭いは更にキツい。

 生ゴミの臭いに近かった。

 この悪臭の原因の8割はこの子のものだろう。

 『ブス』ってイジメてたけど普通『臭い』って理由でイジメるだろ。


 なんでイジメている子達は平気なんだよ。


 こんな感じか?…(香水×生ゴミ=無臭)アホらし。


 「あぁ?あんたなに?」


 近くに行くとイジメっ子の1人が話しかけてきた。


 「……イ、イジメハヨクナイヨ。

 ナンノタメニモナラナイヨ」


 俺は単刀直入に伝えたい事を言った。

 さっさとこの空間から離れたいからだ。

 

 「なんで鼻声なんだよ、ナメてんのかあんた!」


 オメェ等がクセェからだよ!……って言ってやりてぇ。


 俺は鼻こそつままなかったが鼻からの空気の侵入を全身全霊で阻止していた。

 はぁ……早くアイルの所に戻りたい。


 「ナメテナイ、ナメテナイ。……マァ…トニカクイジメハヤメロヨ……ジャアナ」


 俺は注意だけしてアイルの元に戻ってきた。


 俺にしては十分だと心から思う。


 「アイルどうだ、良くやっただろ!」


 「……いや、ステイくん何しに行ったの?」


 「『何』って、止めにだよ?」


 するとアイルは俺の後ろを指した。


 振り返るとイジメが再開していた。

 嘘だろ、俺の努力を返してくれ。


 「ステイくん……20ムニ」


 「はい、すぐ行きます!」


 俺はまたすぐイジメっ子達の所に行った。

 臭いは相変わらず最悪だが口呼吸なら問題は無かった。


 「おい、お前らいい加減辞めろって」


 「何あんた、こいつの知り合い?」


 イジメっ子の1人が近づいて来て俺の胸ぐらを掴んだ。

 

 「いや全然知らん……それより離せって」

 

 おニューの服にしわが出来てしまう。


 「だったら関係ないでしょ、どっか行って!」


 そう吐き捨てると服から手を離し、俺を突き飛ばした。


 「そうよ、平民の分際で生意気!」

 「顔見れば分かるわ、どうせまだ剥けてないんでしょwww」


 舐めんな、9歳にして既にズル剥けだわ。

 ありがとうパパ、ママ。

 

 「あのな…イジメしてるとモテないぞ」


 するとイジメっ子は黙り込み、殴る手をすぐ止めた。

 こういうイジメをする奴らは大体が恋愛脳だから良く効くんだよ。

 

 「べ、べべべ別にーモテるとか別に超ーどうでもいいし」

 「そ、そうよ、わわわわわたくしなんてもう10人からプロポーズされてますしー」

 「ハ、ハハハハー」

 

 思った以上に動揺してるな。

 イジメっ子達はそう言い残すとどっかに行ってしまった。

 清々しいくらいの小物感だ。


 「…………ぁ、あぅ」

 

 イジメっ子達がいなくなると、足元からうめき声が聞こえて来た。

 そこにはイジメられていた女の子が俺を見つめていた。


 俺は彼女の顔を見て思った。


 ………マジでクソブスじゃん。


 こうゆうのって『ブス』って言われてるけど本当は超可愛いってのがテンプレじゃないのかよ。


 あーあ、助けて損した。

 服も結局しわになっちゃったし、早くアイルの20ムニで癒されよう。


 俺はブスに何も言い残す事なくアイルの所に戻った。



――



 それから約20分後、俺がアイルの頬をムニムニしていると部屋の前方にある壇上に1人の男が上がって行った。


 その男はこの世界では珍しい真っ黒の髪で腰辺りまで生やしており頭のサイドからはエルフ特有の長い耳が突き出ていた。

 そして髪とは対照的な純白のローブで全身を包んでいた。

 ローブの胸元には『ジケイ会館』の紋章が刺繍されている。


 その男が歩くたび、部屋にいる子供達は静かになり、男は注目を集めた。

 もちろん壇上に誰かが上がれば注目はするものだ、だがこの男はどこか普通とはかけ離れた異様な雰囲気を醸し出していた。


 そして男が壇上の中央に立つと静かに喋りはじめた。


 「はじめまして、私はジケイ会館館長の[リッキー・G(グランド)・ケーキ]です」


 男…リッキーは落ち着いた声で淡々と話し始めた。


 「まず始めに言いたいことがあります。ここに来てくれてありがとう。

 私はあなた達を大いに歓迎します。

 ………本当にありがとう。

 …では挨拶も済んだことですし、早速ですが次にこれからの流れについて話をしていきたいと思います。

 私が館長を務めるこのジケイ会館は、この本館以外に数多くの分館があります。

 その分館とはそれぞれ扱っている分野が違います。

 例えば、隣町にある『ジケイ会館ナガノ街支館』では『魔法』を専門とした訓練を行っています」


 ……っていうことは俺達は行きたい場所にそれぞれ行く感じか?

 部活みたいだな。


 「と言うことでこれから皆さんは、それぞれ何処の分館に行くか決めさせてもらいます」


 ……ん?

 『決めさせてもらいます』?


 するとリッキーはローブから手の平サイズの水晶を出した。

 

 「こちらにある水晶は触れるとその人のステータスが映し出されます。

 そのステータスの中には本人でさえ知らない情報がいくつもあります。

 ………まぁ、つまりは水晶に映し出されたその人にとって1番才能がある分野を担当している分館に行ってもらいます。

 皆さんにはそこで5年間立派な衛兵となる為日々訓練していただき、そして5年後には隣にある『サッドアヴリル城』で働いてもらいます。

 ちなみにもう拒否権はありません」


 なるほど確かに行くなら自分にとって1番合う所が良い、俺だとマースメロの遺伝があるから『剣系』かな。

 でもこの方式だとアイルと一緒の所に行けない可能性があるんだよな。


 いやだー!

 アイルと離れたくない!


 「では受付でもらった番号札をお出しください」


 俺達がもらった札は105番と106番だ。

 アイルが105番で俺が106番である。

 

 「出しましたら1番の方から壇上にお上がりください」


 ……それから子供達は次々と壇上に上がり水晶に手をかざして行った。

 子供達の中には行きたい場所に配属され歓喜するものや行きたい場所に行けず落ち込んでいる子供がいた。


 「………94番[レオン・ローラ]…『戦斧』」

 「95番[フレックス・ストーム]…『槍』」

 「96番[ネーシー・フロー]…『大剣』」

 「97番[リラ・サヴェイ]…『弓』」

 「98番[ハント・タイル]…『魔法』」

 「99番[ログール・ジェイ]…『槍』」

 「100番[ソール・ロコ]…『大剣』」

 「101番[ファンネル・ピライス]…『片手剣』」

 「102番[ノヴァ・ドン]…『弓』」

 「103番[シネイド・アストリッド]…『大楯』」

 「104番[フレイヤ・ビー]…『短剣』」


 来た、次がアイルの番である。


 「じゃ、じゃあ行って来るね」


 「あぁ」


 アイルは壇上の階段を登り中央まで行くと、おそるおそる水晶に手をかざした。


 「105番[アイル・ストゥー]…『()()』」


 「…っ…!」


 嘘だろ、よりにもよって『魔法』かよ。


 俺は絶望した。

 なぜなら魔法とは俺が幾ら練習しても使えなかったからである。


 アイルと一緒の所に行くのは99%不可能だった。


 だがまだわからない、ワンチャンあるかもしれない。

 次の番である俺は少しの希望を持ち水晶に手をかざした。

 頼む!

 『魔法』来いっ!

 『魔法』来いっ!

 来いっ来いっ来いっ……。


 「106番[ステイ・セント]…………フッ」


 ずっと無表情だったリッキーは俺を見て不敵な笑みを浮かべた。


 なんだ?


 「すまない、続けよう。106番[ステイ・セント]……『素手喧嘩(ステゴロ)』」


 「……はぁ?」


 素手喧嘩(ステゴロ)ってあれだよな、あれっていうかなんていうか……は?

 するとリッキーが話しかけてきた。


 「そうかお前は『素手喧嘩(ステゴロ)』か…フフッ………まぁ頑張るんだな」


 リッキーの口角はあり得ないくらい上がっていた。

 

 「………」

 

 俺はリッキーに何も返す事なく壇上から降りた。

 降りた先ではアイルが待っていてくれていた。


 「ス、ステイくん…ステゴロって何?」


 アイルの質問は至極真っ当なものだった。


 「ステゴロってのは、まぁ素手だけで戦う事だな」


 「……なんで?」


 アイルの質問には様々な意図があったのだろう。

 だがそれは俺にも分からなかった。


 「……俺も知りたいよ」


 「………」

 

 「………」


 「そ、それよりっ一緒の場所に行けなくて残念だね」

 

 アイルは思い出したかの様に話を変えた。

 

 「本当ーにそうだよ、これからアイルをムニムニ出来なくなるって考えたら毎日が憂鬱だー」


 「わ、私もステイくんと離れちゃうのは悲しいな」


 「アイルー」

 

 なんて良い子なんだ、今すぐにでも嫁にしたい気分だ。

 俺は泣きそうになりながらアイルに抱きついた。


 「ちょっステイくんっ」


 アイルは困惑していたが俺は止まらなかった。


 「アイル、最後にムニムニさせてくれー」


 「最後にって、さっきまでずっとしてたじゃん」


 俺はアイルを可愛子ぶりながら見つめた。

 我ながら女々しい奴だ。


 「もー……仕方ないなー。じゃあ10ムニだけね」


 「っし」


 俺はすぐにアイルを連れて部屋の端っこまで行き正座をした。

 アイルには先程同様、正座した太ももの間に頭が入るよう寝てもらった。

 

 (ムニムニムニ……)


 相変わらずアイルの頬は最高だ。

 明日からこの頬を触れないとなるとどうにかしてしまいそうだな。


 そのくらいの中毒性がアイルの頬にはある。

 

 「……なぁアイル、アイルは魔法とか使ったことあんの?」


 「…無いかな、わ、私も『魔法』って言われた時は自分に魔法の才能があるのかよくわからなかったんだよね」


 「俺の1番才能はステゴロだぜ…せめて剣とかが良かったなー」


 「で、でもステイくんなら大丈夫だよ、だって私を魔物から守ってくれたでしょ」


 「ん?……あー」


 そうかアイルはリリスさんの記憶無くなったから俺が助けたって事になるのか。


 「でもあれはリリスさんって人が…

 「良いの」


 アイルは俺のセリフを遮った。


 「良いんだよ、私の中じゃステイくんが私を助けてくれた事に間違いは無いから」


 そう言ってアイルは俺を真っ直ぐ見つめてくれた。

 俺は小っ恥ずかしくなり、顔をそらしてしまった。


 「そ、そう…」


 「……ねぇステイくん、ステイくんが行くステゴロって何処に分館あるの?」

 

 「あー、確か『ブロー町』ってとこだな」


 「ええっ、…遠いなぁ」


 ブロー町はここから5つくらいの街を超えた先にある小さな町である。

 聞いた話によるとブロー町は米に似た作物があり、ご飯が美味しいらしい。

 そう考えると少し楽しみでもある。


 「まぁ、5年後にはまた会えるんだから、お互い頑張ってこうぜ」


 「そ、そうだね……5年後また会える……よね」


 アイルはとても寂しそうな顔をしていた。

 そんな顔をされたら俺も寂しい、せっかく兵隊になれるって一緒に家を出たというのに、すぐ離ればなれになってしまうのだから。


 「そういえば俺達って出会ってまだ7日しか経ってないんだぜ」


 「………た、確かに考えれば短い付き合いだけど………でも私は人生で今が1番幸せかな」


 「ハハッ、俺も」


 「……寂しいね、会えなくなっちゃうの」


 「そうだなー……」


 「…………」

 

 「…………」


 また無言が続いた。


 「…………ね、ねぇステイくん………ス、ステイくんってさ、好きな人とかいるの……?」


 アイルは急に俺がムニムニしている手を掴み止めた。

 俺はそんなアイルを見ると今度はアイルが目をそらした。

 

 「す、好きな人…?」


 ムニムニしていたアイルの頬は紅くなっていた。


 「……………う、うん。そう」


 俺はアイルの考えている事が分かってしまったかも知れない。

 

 「………………いるぞ」

 

 こうなったら男である俺から言わないと格好がつかない。

 

 「だ、誰…?」


 「ッ………『アイル』お前が好きだ!」

 

 アイルはそらしていた目を大きく開き俺を見つめた。


 「ッ……わっわ私も『ステイくん』が好き……です」


 アイルの眼からは涙が出ていた。

 するとアイルは俺の太ももに頭を乗っけたまま俺の頭を掴み自分の顔に引き寄せた。


 「ず、ずっーと好きでいてくれる?」


 アイルの声は震えていた。


 「あぁ」


 俺はこの世界で始めてキスをした。

 アイルの唇は少し力が入っていて固かった。

 だがアイルの唇はとても温かかった。


 

――



 俺達は部屋から出て人目の少ない所に移動した。

 

 「アイル、俺これから暇な時はお前に会いに行くよ」


 「う、うん!私も、絶対会いに行く」


 「アイルー!」


 俺はアイルの頬をムニった。

 アイルは逆に俺の頬をムニってきた。

 お互い頬に手を当てた状態になった。

 そうなると当然だが俺達の顔の距離は近くなる、俺達は再度キスをした。


 アイルにはさっきまでの緊張は無く、突然アイルの方から舌を入れてきた。


 「ッ!?」


 アイルは俺の右太ももにまたがっていた、俺の右太ももはもの凄く熱くなっていた。

 舌が絡み合い、俺の脳は底知れない幸福感が支配した。


 あぁ、両想いのキスはこんなにも気持ちいいのか。


 アイルは俺の上唇を咥えたり唾液を絡めたり、性に関してはとても大胆であった。

 

 「ス、ステイくぅん、すきぃ、だいすきぃ」


 ヤバいっ、そんな甘えた声でキスされてると爆発してしまう。

 俺のステイJr.が!


 俺は何とか理性を保とうとした。

 だが俺は我慢など出来るはずもなかった。


 「アイルっ」


 俺はキスをしながらアイルの腰と頭を掴み更に抱きしめ体を密着させた。

 もちろん股間を押し付ける様に。


 「ちょっ!ス、ステイくん、何か当たってるよぉ」


 アイルは顔をそらした、たが嫌がっている様には見えなかった。

 むしろ少し喜んでいる様にすら見えた。

 

 「仕方ないだろ、アイルが可愛いから当たっちゃうんだって」


 まるでアホである。

 惚気も良い所だ。

 だがこの時の俺は下半身で会話していたので許してほしい。


 「もうー」


 俺達はまたキスをした。


 さすがに人目が少ないといってもここではこれ以上の事は出来ない。

 なので俺とアイルは絶対に人が来ないであろう倉庫に移動した。

 移動した。



――



 俺達は手を繋ぎながら部屋に戻った。

 もちろん恋人繋ぎである。

 俺達が部屋を出てからだいぶ経ったが、まだ子供達の選別は続いていた。


 そして待ち続けること10分、最後の1人が壇上から降りた。

 

 「これで合計548名の選別が終わりました。裏口の方にそれぞれの分館に向かう馬車が用意されていますので自分が乗る馬車に乗ってください。

 馬車は20分後に出発しますので遅れないよう気をつけて下さい。

 ではこの場は解散とします。どうかご無事で」


 リッキーは壇上から降り、俺達の前から姿を消した。

 リッキーは最初から最後まで無表情だった。

 俺の時以外を除いて。


 それから少し経ち、俺達はリッキーの言っていた裏口に来た。

 裏口にはリッキーの言っていた通り無数の馬車が用意されていた。

 だがこの馬車は俺の知っている馬車と少し違く、車を引っ張るのが普通の馬ではなく馬の様な何かであった。


 「あっ、ここら辺の馬車『ナガノ街支館』行きだぞ」


 『ナガノ街支館』はアイルが行く魔法専門の分館だ。


 「うん、そうだね……」


 アイルは馬車を見つめたまま乗ろうとしなかった。

 それは俺と別れるのが寂しいからだと思う。

 

 「アイル……またすぐ会えるからさ、心配しないで元気でやっていこうぜ」


 「う、うん、そうだね。じゃあまたねステイくん」


 俺はアイルとハグをした。

 

 アイルは俺を振り返り見つめながら馬車に乗り込んだ。

 だがアイルはもう寂しそうな顔はしなかった。

 俺は笑顔のままその場から立ち去った。


 「…………」


 これでアイルともしばらく会えないのか。

 あぁ、寂しいなー。



 そうして俺は『ブロー町』行きの馬車を見つける為歩き出した。



――



 「あっ、あった」


 ブロー町行きの馬車は裏口の端っこに、それも1つだけあった。

 だがこの馬車は他の馬車より何故か豪華だった。

 

 「……これで合ってんのか……?」


 俺はブロー町行きの看板を持っている、スーツを着た爺さんに話しかけた。


 「す、すいません。この馬車って『ブロー町』行きで間違いないですか?」


 爺さんは俺を睨みつけるとしばらくして答えた。


 「……えぇ、間違いないですが、貴方はもしや[ステイ・セント]様ですかな?」


 なんで俺の名前知ってんだ?   

 ……いや、送る人の名前くらい知ってて当たり前か。


 「は、はい[ステイ・セント]…です」


 「そうですか、これは失礼しました。ではお乗り下さいませ」


 どうやら本当にこの馬車で当たっていたようだ。

 

 「どうも…」


 俺が軽く会釈をすると爺さんは馬車の扉を開けた。

 馬車の内装は外と同じくとても豪華であった。

 

 「ねぇ、ちょっとアンタ誰よ」


 馬車の扉を開けると少女の高い声が聞こえて来た。

 中を除くと馬車の中には俺と同じ歳くらいの女の子がいた。


 その女の子は綺麗なドレスに身を包み、それに見劣りしない綺麗な顔立ちであった。

 アイルの褐色肌とは真逆の真っ白な肌。

 だがアイルと同じくらい綺麗な金髪で瞳さえ金色であった。

 体の線は細く、ドレスから出ているスラっとした手の平と足、大きな口と小さな鼻。


 一見しただけで育ちの良さがわかる見た目だった。


 「ねぇ、聞いてんのに無視しないでよ」


 彼女は馬車に取り付けられているソファーの上で肘を立てて寝そべっていた。

 その姿からは寝大仏を彷彿とさせる。

 

 「……………俺はステイ・セント」


 「ふーんそっ。で、何でこの馬車に乗る訳?」


 彼女は初対面の俺に対してかなり高圧的であった。


 「何でって、俺もブロー町に行くからだけど…」


 「はぁ!?何でよ!

 私だけのはずじゃないの!?」


 「……『私だけ』?」


 「っなんでもないわよっ!…だったらさっさと乗りなさい、寒いわ」


 「あぁ」


 俺は彼女の言う通りにさっさと乗った。


 俺が彼女の目の前に座り、彼女を見ていて思った事がある。


 ん?待てよ……っていう事はこの子も『ステゴロ』が1番の才能なのか?

 見た目からは全然向いてなさそうだけどな…。


 「なによ、あんま見ないでくれる」


 「悪い……」


 「………ふんっ」


 「………」

 

 気まずぃー……この空気間のまま後5年やって行ける気がしねぇ。


 出来れば仲良くしたいんだけどなー……。


 「………な、なぁお前名前はなんて言うんだ?」


 「………………………………………[クレン]よ」


 彼女…クレンは無表情のまま小さな声でそう呟いた。


※ステイ君はキスをするとIQが著しく低下します。

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