EP29:〈2回戦第四試合〉ビーニー・スター対ウィーンズ・B・ダウン ①
どの世界にも絶対的な支配者は居るものだ。
日本で言うなら総理大臣。
アメリカで言うなら大統領。
なら異世界で言う支配者とは誰なのか?
それは王である。
王……種族ごとにたった1人だけ存在する絶対的な支配者。
例えば純人間族の王と言えば[オースティン・S・アヴリル]。俺がジケイ大戦で優勝し支える予定の人だ。
そしてその王の中でもヒエラルキーは存在する。それは単に軍事力や経済力などでは無い。
王としての存在を上げるモノ、それは影響力である。
人をどれだけ動かせるか、人をどれだけ信じさせるか。
そして、その力をこの異世界で1番持っている者。
それこそ、魔人族の王であり、世界から『覇王』と呼ばれた男。
[バイツ・B・ダウン]
ジケイ大戦2回戦第四試合に出場するウィーンズ・B・ダウンの実の父親である。
「……女」
と、ビーニースターは小さく呟く。
何故なら今から始まる2回戦第四試合、ビーニー・スターの相手は今大戦唯一の女性出場者…[ウィーンズ・B・ダウン]だからである。
だが、ビーニー・スターは相手が女という事に何も思わない。
彼はただ、前に立った者を自身の戦斧で嬲り殺す事だけを想っていた。
「ギャハッ!……女のくせに俺に勝てると思ってんのか?思ってるから俺の前に立ってるんだよなー……クソが、ナメやがって!俺をナメた奴は誰だろうと殺す!ぶっ殺してやる!!」
そう叫ぶビーニー・スターの額に太い血管が浮かび上がる。そして握られた戦斧はビーニー・スターによって硬く握られ、ミシミシと音を鳴らしていた。それは彼にある本質的な攻撃性を観衆たちに判らせるには充分だった。
だが、そんな彼と堂々と向かい合うウィーンズ・B・ダウンは怖気付く様など一切見せず、ただ眉をひそめビーニー・スターの目をジッと見つめていた。
つまりメンチを切っていたのだ。
そして、試合開始の号令が鳴る。
「でわでわァ!!2回戦!最終試合!戦斧部[ビーニー・スター]対!短剣部[ウィーンズ・B・ダウン]!!試合………始めェェ!!」
審判のフェア・ジャッチの号令と共に先制攻撃を仕掛けたのはやはりビーニー・スター。
彼は肩に巻いていた長い鎖を戦斧の持ち手のかねに引っ掛け、鎖鎌の様に振り回しはじめた。
持ち手も含め全長50cmもあるそこそこ大きい戦斧がブレて見えなくなる程、鎖は勢いよく回っている。
「ギャハハッ!さっそくイクぜ女ァァ!!死ねやァァ!!」
そして、汚い言葉と共にウィーンズ・B・ダウンに戦斧が襲いかかる。
遠心力で勢いを増した戦斧はウィーンズ・B・ダウンの脳天目掛け轟音をたて飛んで行く。
当たれば即死確定………だが。
「フッ………遅いわ」
ウィーンズ・B・ダウンは軽々と戦斧をしゃがみ避けた。
「ギャハッ!いいねェいいね!!1回戦の雑魚はこれで終わりだったからヨォ!!」
ビーニー・スターは自身の攻撃が避けられたというのに、何故かその事を喜んでいた。
そしてウィーンズ・B・ダウンは戦斧がビーニー・スターの手元から離れているこの瞬間を見逃すことなく、姿勢を低くし一気に距離を詰めた。
「シッ!」
ウィーンズ・B・ダウンの短剣はビーニー・スターの喉元へと向かう。
「うォッ!」
この時、ビーニー・スターは始めて死を感じたという。
〈[ビーニー・スター]視点〉
短剣……首……突き刺さる………死……負け……?
女に?
この俺が?
ありえない。
そう、ありえないんだよ。
「ギャハッ!まんまと俺のテリトリーに入って来たな女ァァ!!」
――
戦斧……斧……。
そもそも斧とは武器では無い。
斧とは日々の生活で火を使う時の薪であったり、建物を作る時に木を切る為の物である。
だが、斧というのは木を切るよりも人を切るのに適した物だった。
この世界、短剣は無くとも家には必ず斧がある。
剣よりも身近な斧という物は木を切る物として、魔物から身を守る護身武器として、そしていずれは……戦で最も使われる強力な武器と成った。
何故戦斧が戦で最も使われたか?
簡単に言ってしまえば、戦斧とは剣にも鎚にもなるからだ。
生身に当たればもちろん切れる。
相手が鎧を着ていたとしても重い斧の衝撃は通る。
だから実際として、剣が戦で使われる事は余り無いと言う。
そして………この異世界、剣と魔法の異世界では、近接最強武器は戦斧であるというのが一般常識だ。
それは決して地球も変わらない。
中世の時代だって……最強の象徴は『戦斧』である。
――
(ガキィィィン!)
ウィーンズ・B・ダウンの短剣がビーニー・スターの喉元に届くよりも速く、ビーニー・スターのもう一方に握られた戦斧が、短剣を粉々に破壊した。
「ギャハッ!終わりだァァー」
ビーニー・スターは短剣を破壊した戦斧を勢いそのまま、ウィーンズ・B・ダウンを下から上に切り裂いた。
「ッグ……!」
(プシィィィー)
ウィーンズ・B・ダウンの右頬から目を通過し額にかけて顔面から血が溢れ出した。
「ギャハッ!」
ビーニー・スターは止まらない。次はウィーンズ・B・ダウンの首目掛け、戦斧を振った。
「だから!遅いわッ!」
2撃目の攻撃…彼女はなんとか避けた。だが初撃で受けた傷は大きかった。ボタボタと顔面から多量の血が流れる。
「グッ……」
「おいおいー俺の攻撃が遅い?顔面もろ喰らっといて何言ってんだバカ………はっ、仕方ねェなーじゃあヨォーもっと速くしてやっても問題ねェよ……な」
そう言うとビーニー・スターは鎖で繋がれた戦斧を手元へと戻す。
「女ァ……今の内に人生振り返っとけよォ。死んでからじゃ遅いからなァ」
ビーニー・スターは戦斧と繋がっている鎖を半分に千切った。そして半分に千切った鎖の端にもう一つの戦斧を引っ掛けた。
「よしッ…最強」
ビーニー・スターの準備が終わったのに対しウィーンズ・B・ダウンはまだ止血すらままならなかった。
「…………ッー」
「おいおい血よりも汗がすげぇな、戦えんのか?」
「黙れ、お前ごときに心配される筋合いは無い」
「ギャハッ!確かに筋合いはねェな!
…………でもヨォ、今テメェ俺に向かって『ごとき』って言ったよな………はっ、そんなに死にてェかよ」
「はぁ……さっさと来なさいよ………クソ男」
「言われなくてもイクっつーの」
「はぁ……はぁ…」
〈[ウィーンズ・B・ダウン]視点〉
まっずいわね……右目が血で見えない。
斬撃自体、瞼は真っ二つになったけど眼球ギリ避けてるから失明はしてないけど……この血が止まらない限り右目はあって無い様なものね……。
にしても、自分も下手こいたわ…まさかあの距離から自分の短剣より速く斧を振るなんて、おかげで自分に残ってるのは一本の短剣だけ、それも折られたやつより耐久性が低いやつ。
結構…結構ピンチだけれど、自分は負けれない。
自分が負ければ父の面に泥を塗ってしまうから。
そもそも自分には優勝以外の道は無い。
本気はもう出してる、じゃあ後何を出せばビーニー・スターに勝てるだろうか……。
「……」
そんなの決まってる!
全部だわ!
全部全部全部!
落ちこぼれの自分ごときが何か成し遂げたい時!
渋る余裕なんて自分にあるの?
ないだろウィーンズ・B・ダウン!
『覇王』の娘として生を受け、5人の兄弟の中たった1人女として産まれ、平穏とは程遠い日常を過ごしたじゃない!
やるのよウィーンズ・B・ダウン!
解放の刻だわ。




