EP25:別れ
「ステイ……良いのか?」
ジケイ会館屋外会場の奥深くにある地下室にて、俺とリリスさんは1つの扉を前にしていた。
「………はい大丈夫です…………あっ、後リリスさん」
「なんだ?」
「ここからは俺1人で行きます………行かせてください」
「……そーかよ」
「はい…じゃあ」
俺は目の前のその扉を開いた。
――
時は少し戻り、ジケイ大戦の1回戦第六試合が終わった直後…。
「はぁー…そうかーザヲォ・マイトの勝ちかー…」
「おや、ステイはコバヤシ・タツヤが勝つと?」
と、後ろからキリコさんが言う。
「いえ別に……ただ」
弓矢相手に大楯部であるタツヤが負ける要素は限りなく無かった。だが勝負の決め手となったのは終盤のタツヤを吹き飛ばしあの一射だ。
倒れた状態から流れる様な弓捌き……そしてタツヤを吹き飛ばすのに必要な威力を瞬時に出す瞬発力。
タツヤはザヲォ・マイトのその一連の動きが滑らか過ぎるのと盾が視界の陰となって反応出来なかったのだろう。
それにしても、あの一射は想像以上だ。狙って出来るもんじゃねぇ。
にしても、タツヤはベラベラ喋ってないでさっさととゞめをさしておけば良かったものを……そうすれば勝っていたのは違っていたかも知れないのに。
まぁ…どっちが勝ってもおかしく無い試合だったと言えるな。
「ただ…タツヤは友人なんで勝って欲しかっただけです」
「そうなのステイ!?」
と、左隣に座っている母さんは驚いた。
「そーだけど何でそんな驚いてんの?」
「だってステイったら昔から友達居なかったじゃない」
「……………あ、あぁそうだね」
それは…まぁそうだけど。母親にそう言われるとグサっとくるな。
苦笑いで返事するしかねぇ。
「あっそう言えばアイルちゃんとはどうなの?会った?あの子も成長して可愛くなったんじゃない?」
「……………」
『アイル』……その名前を聞いた一瞬、俺は何も考えられなくなってしまった。
「……どうしたのステイ?まさかアイルちゃんと喧嘩でもしたの?」
リリスさんとキリコさんは黙り顔を背けて何も言わない。
「あっあぁ……そんな感じ」
「あらー女の子と喧嘩なんてしちゃダメよー、ちゃんと仲直りしておいてね」
「……………わかってる」
そう……わかってる。
――
その後、俺とリリスさんは「トイレに行ってくる」と適当に言葉を並べてその場を離れ、誰もいない場所に移動した。
そして本来ならもっと早く聞かねばならない事を満を辞して聞いた。
「あのリリスさん……生き返ってからひと段落するまで聞く気無かったんですけど…………俺がアイルに殺された後アイルはどうなったんですか?」
「…………そーだな、まず俺様が…
俺の問いにリリスさんは少し間を置いて喋り始めた。
そしてリリスさんは淡々と全てを話してくれた、まとめるとこうだ。
〜〜
俺がアイルにナイフで刺され死んだ時。
離れた場所に居るにも関わらずリリスさんは俺の死を悟ったという。
もちろんリリスさんにその様な超能力めいたものは無い。なら何故俺の死を悟ったのか……それは俺の腰には深く刻まれた呪術があったからだ。
『一生リリスさんと離れられなくなる』呪術。
俺が死んだ事により呪術が無くなり、呪術をかけた者…つまりリリスさんに対して計り知れない喪失感を与えたそうだ。
リリスさんは呪術を俺にしか使用していなかった為すぐに俺に何か重大な異変が起こったのだと判断し、すぐ駆けつけてくれたのだという。
そして問題はそれから…。
リリスさんが駆けつけ最初に目にしたのは血まみれになった俺とアイル、そして近くで叫び続けるパルフェクトだった。
リリスさんは少し混乱したものの、すぐに状況を飲み込み動いた。
アイルは俺が動かなくなった後でもナイフで俺を刺していたという。
俺が死んだ原因が人だとわかった後のリリスさんは子供だろうが知り合いだろうが容赦しなかった。
リリスさんは「蹴った」とだけ言っていたが、どれほどの威力でどの様に蹴ったのかまではわからない。
そしてアイルは当然だが意識を失いその場で倒れ込んだ。
そのすぐ後、キリコさんが駆けつけヴァンパイア化する事によって俺は息を取り戻したという。
パルフェクトはというと、ヴァンパイアの存在を他人に知られるのは困る為、キリコさんが対処してくれたようだ。
その後、蹴られ気絶したアイルはリリスさんが担ぎ、近くの地下室に縄で縛りつけ閉じ込めておいたという。
そして今のところ衛兵に引き渡す気は無いとの事だ。
〜〜
「まー俺様的にはアイルがどうなろうがどうだって良いんだがよー、一応お前の……恋人なんだろ、無責任に衛兵にゃー任せられねー」
「……ありがとうございます」
良かった……本当に良かった。
アイルが衛兵にでも引き渡されていたら、俺はもう話す事も触れ合う事も出来なくなっていた。
アイルは俺にとって希望だ、易々と居なくなって貰っては困る。
だからリリスさんの配慮には感謝してもしきれない。
「……………それで?ステイどうする?」
「会いたいです」
俺は即答した。
「……そうか…まーそうだよな、じゃーついてこい」
リリスさんはどこか寂しげな顔をし、俺に背を向け前を歩いた。
そして屋内会場の外に出て、雨にあたり人1人居なくなった屋外会場へと来た。
誰もいない薄暗い廊下に俺とリリスさん、2人の足音が響く。
そして地下への階段を降り、更に奥へと進む。
「……………」
空気も冷え、周りは真っ暗だ。
「……………」
リリスさんは結局あれから一言も喋らなかったし、俺もどこか話しかけられなかった。
「……………」
そして…。
「…………ここだ」
リリスさんは古びた1つの扉を前にしてそう呟いた。
「ここにアイルが…いるんですね」
「あー…それより…………ステイ良いのか?」
それはリリスさんなりの心配だった。
リリスさんが心配するのも無理はない。逆の立場だったら俺は無理にでも止めるだろう。
「はい大丈夫です」
だが、俺は今立ち向かわなければならない。
アイルと、ちゃんと。
「…………あっ、後リリスさん」
「なんだ?」
「ここからは俺1人で行きます………行かせてください」
「……そーかよ」
「はい…じゃあ」
俺は目の前のその扉を開けた。
――
扉の錠を外し、扉を引くと(ギィー)と軋む音が鳴る。
そしてその先にあるのは闇そのものだった。
真っ暗過ぎてでヴァンパイアの視力でも何も見えない、灯でも持ってくるべきだった。
だがそんな事はどうでも良い、俺はアイルと2人っきりになる為扉を閉めた。
「…………」
さて……何から話そう…。
……てか、そもそもアイルはリリスさんに蹴られてから目が覚めているのだろうか?
まぁ…いいか、とりあえず話しかけてみよう。
「おーいアイルー起きてるかー?」
……………
返事が無い、まだ気絶して倒れているのだろうか?
「おーいアイルー?」
……………やっぱりまだ気絶して寝てるのか。
クソッ部屋が真っ暗でアイルがどこに居るかわかんねぇ。
仕方ねぇ…床でも這って探すか…。
と、俺が膝を折り、しゃがみ込んだ瞬間。
「……………ッ!?」
一瞬だがなにかが俺の唇に触れた。
それは決して気のせいなどではなく、確かな感覚と温度があったのだ。
「アイル?」
俺は何故か彼女の名前を口にした。
それは一瞬だが唇に触れた時の感触が、アイルの唇の感触と似ていたからだった。
「おいっアイルッ!返事してくれ!」
俺はすぐさま声を荒げた。
……………
だが返事は返ってこない。
「クソッ……」
『じゃあねステイくん』
「えっ?」
暗闇と雨音の中、微かにソレは聞こえた。
俺はすぐさま声のした方に振り返ったが、もうそこには何の気配も無かった。
「……………アイル」
その後、部屋中をうろつきアイルを探してみたが、もうこの部屋には誰もいなかった。
ひとしきり部屋を探してもアイルがいなかったので俺は部屋を出てリリスさんにその旨を伝えるとリリスさんは「あっそ」とだけ呟き地上へと帰っていった。
俺もアイルがいたであろう部屋に背を向けリリスさんの背中を追った。
リリスさんの態度からしてアイルが逃げる事は想定していた事態なのだろう、いや、むしろそれがリリスさんの狙いだったのかも知れない。
まぁそんな事、アイルがいなくなってしまった今どうだっていい……俺はただ、俺はただアイルに会って謝って、許して欲しかった。
そして願うなら、もう一度アイルの隣を一緒に歩きたかった。
だがアイルはもういなくなった。
もう俺の人生で2度と会えないのかも知れない。
この広い世界の中で一度離れた人間同士が、偶然出会うなんて事は限りなく低い。
だがら、アイルが本当に遠くへ行ってしまう前に、たとえ伝わらなくとも伝えておきたい。
「………アイル、ありがとな。俺に道を示してくれて。
この世界で始めて出来た恋人がアイルで良かった」
と。




