EP23:狂依存 ②
「リリスさん……体…冷えますよ」
薄暗く小さな窓が1つだけある小さな物置、窓から侵入する雨がパラパラとリリスさんの真紅の肌を濡らしていた。
「………ん?………あー、そーだな」
リリスさんは窓の外を眺め、背中越しにそう答える。
「リリスさん…その………ありがとうございました」
「んあっ?何がだよ」
リリスさんはそう眉をひそめながら振り向く。
「なにがって…俺がさっき空腹で暴走して止めてくれたのリリスさんじゃないですかー」
「ッ…いやそれは……」
リリスさんは言葉を詰まらせ、顔を歪ませた。
「……………?」
「………なんでもねー」
「いやー、マジでリリスさんには数えきれない程助けられてますね、俺。リリスさんがいなかったら何度終わってたことか……」
「………………」
「5年前、俺が魔物に襲われた時だって……あの時は本当に女神が現れたのかと思いましたよー」
「………………」
「それに、奴隷として売られてた俺を買ってくれて……それだけで充分なのに人並み以上に扱ってくれて…」
「………………」
「それと!さっきキリコさんから聞きましたよ。アイルに刺されて死にそうになった時、真っ先にリリスさんが異変に気付いて駆けつけてくれたって………ほんっと…何度も助けてくれてありがとうございます…」
「…………別に全部大した事じゃねーよ」
リリスさんは強めの口調でそう言う。
「いやいや、俺にとっちゃ…
「なーステイもういいだろそんな事、それよりステイ、俺様こそお前に用があんだ……」
リリスさんは俺のセリフを遮り、深刻そうな顔で見つめてくる。
「なっ……なんです?」
「お前……今腹減ってるか?」
「え?…そっ…そうですねー………7分目ってとこですね」
「まー……減ってよーが減ってなかろーが、ヤルことは変わんねー。早いか遅いかだけだ」
リリスさんはゆっくりと立ち上がり近づいてくる、表情は逆光でわからない。
「リッ、リリスさん?何ですか?」
「ステイ……………んっ」
リリスさんは俺の目線まで屈むと頭を鷲掴み、舌を入れキスをしてきた。
「んッ………んあ…ちゅじゅ……ちゅるっ…ぞるッ」
リリスさんのキスはいつもより激しくそれでいてとても苦しかった。
〈[リリス・アクリア]視点〉
あー……やっぱサイコーだ。
舌先で感じる柔らかくヌルヌルと絡みつく感触と生暖かい体温。そして荒くなる鼻息で解る『頑張ってる』感。身体だけじゃなく心までもが幸福で満たされてくる。
俺様とステイがキスによって口から全身までもが1つになっていく様な……溶けて堕ちていく様な感覚がモノスゴクタマラナイ。
「…むふゅ………ンレロっ…クァク……チュ…んあー」
願うならずっとずーっとこうしていたい!
だけど俺様はステイの為にこれからやんなきゃなんねーんだよな。
パートナーとして、ちゃんと…。
〈[ステイ・セント]視点〉
リリスさんとのキスはそれはそれは長かった。
終わった時には既に体中が火照り、服を脱いでいた。
「リリスさん……脱がせますね」
「あー…」
「………………じゃあ……」
「……んっ!……………ッー」
「っ……」
「……………んっ」
〜〜
それから〜分程経ち行為もラストに迫ってきた時。
「リリスさんっ…もう……」
「…ダメだ」
「え?」
「………ステイ………ちょっと悪いな」
(ザリュ!)
俺はリリスさんに何をされたか一瞬理解ができなかった。
近くで聞こえた嫌な音の正体……音のした方に顔を向けると、何故かリリスさんの腕が俺の心臓を貫いていた。
すると(ドバァア!)と胸からマーライオンの如く噴き出す血。
返り血がリリスさんの体を更に紅くしていった。
「ッ!?…なん!?」
俺はヴァンパイアになった、だからこれくらいでは死なない事は理解しているがリリスさんの行動の意味は全く理解出来ない。
「なー……ステイ、腹減ってるよな?」
さっきと同じ質問…。
「……………」
言われるまで気が付かなかった。先程リリスさんに聞かれたら時は腹7分目と答えたが、何故か今はもう既に空腹だった。
「………ステイ、大丈夫だから言ってみ」
「……………ま、まぁまぁですかね」
「フッ、わかりやすいなお前……じゃー食べないとだよな」
「……………そ、そうですね」
「ステイ……腹一杯になるまで食えよ」
リリスさんはそう言うと、俺にのしかかった。
「……………リリスさん」
「……………」
リリスさんは何も応えない。
無抵抗で無防備な……ただの肉塊がそこにはあった。
「…ッ……………いっ、いただきます」
(ガリッ…グチブチっ……グチャッ…ガリュッ)
あっヤバ。
超美味しい……。
前世も含め今まで食べたどんな物より、リリスさんは美味しかった。
だから食べた、食べて食べて食べて食べて食べ尽くした。頭からつま先までリリスさんを全て味わった。
特に首筋が美味しかった。筋張って硬いかと思ったが中々に柔らかくそれでいて一部コリコリとした食感が『血』本来の深みを際立たせる。
肉だけじゃなく内臓も美味い。
最初こそ抵抗はあったが一口噛んだ瞬間からそれは無くなった。何と言うか…風味に癖があるのだが、それがまた良い。お酒の肴にしたい。特に子宮。
漫画とかでよく見る眼球は…なんというか虫みたいな食感だった。
あと骨も美味かった、基本的に肉は味が濃いので骨はチェイサー的な役割をしてくれた。
「ごちそうさまでしたー!」
久々にこんな美味しい物を腹一杯に食べた。
心から幸せを感じる。
目の前には俺が食い散らかしグチャグチャになったリリスさんがある。
すると……。
「おっ!リリスさん!」
なんということでしょう……リリスさんの体がみるみると元通りに戻っているじゃないか。
「なる……そういう事ですか…」
原理はわからないがリリスさんはまた元通り肉塊へと元に戻った。
…………おかわりだ。
〈[リリス・アクリア]視点〉
ッー!!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いィィィィィィイイイイイ!!!!!!
「…………ッ……」
ダメだ!声を殺せ!
ここで叫んだりしたらステイが食うのを躊躇ってしまうかもしれねー!
大丈夫、俺様は今ヴァンパイアの血を全身に浴びてるおかげで死ぬ事はねー、痛みを我慢さえすればステイにありったけの人肉を食わせてやる事が出来る。
肉が千切られようとも、内臓が無くなろうとも、骨が砕けようとも、ステイが腹一杯になるまで…耐えろ!
耐えろ!!
「…………………………………………………」
(ガリュクチャ…ゴリガリ……クチャックチ)
小さく薄暗い物置の中は雨音と共に静寂と咀嚼音だけが鳴り響いた。
あー…………『痛み』っていうのはそもそもなんだ?
感覚……ポイっけど今求めてる答えじゃねーな。
じゃー感情か……いやこれも違うな。
だとしたら思考……でもないか。
んー…体が危険だと判断して感じる異常……とかか?
だとしたら……今は大丈夫だ。
俺様を食ってるのはステイ。
ステイに食われている俺様。
……そう考えると、この異常も苦じゃねーな。
むしろ、悪くない。
「…………なーステイ」
「なんですか?」
「俺様とお前はパートナーだ、遠慮しねーでお前は俺様だけを食え、いつでもどこでも好きに食え。
だから……だからお前は一生一緒に俺様の隣にいろ。
そんで……俺様が死ぬ時…隣で笑っててくれ…」
「はい」




