EP23:狂依存 ①
〈[ステイ・セント]視点〉
「……………んッ……」
謎の満腹感と共に目を覚ますと、そこには知らない天井があった。
「シンジくん………」
そう小さく呟くと、視界の右隅にいたキリコさんが近づいてきた。
「シーランさん、ステイが起きましたよ」
キリコさんの反対側には心配そうな顔で眺める母さんがいた、言われるまで気づかなかった。
「ねぇステイ大丈夫なの?貧血で倒れたって聞いたけど……」
貧血?……あぁ、そういうことにしてくれたのね。
確かに息子が人を食う化け物になりましたーなんて言える訳ないからな。
「……大丈夫大丈夫!なにも問題ナッシング!」
大アリだけどね!
「そう…よかったー」
「ん?」
そう、安心し肩を落とす母さんの左手には薬草が握られていた。
「母さん?それ『タチケツ草』?」
タチケツ草……血液の生成を促進し心拍数を上昇させる薬草だ。
「そうよ」
「薬草持ってきてたんだ」
「いえいえ違いますよステイ、これはあなたが貧血だと知りシーランさんが急いで家まで取ってきたのです」
と、キリコさんが右から言う。
「母さん……最高すぎるだろ。俺は母さんの息子に生まれて幸せです」
「ふふ…その感じなら本当に大丈夫そうね」
「母さん………せっかくだからそれ貰っていい?」
「えぇ、いいわよ。そのつもりで持ってきたんだもの」
俺は母さんからタチケツ草を受け取る。
まぁ…ヴァンパイアだから使っても使わなくてもどっちでも一緒なんだけどね………こういうのはお気持ちですから。
と、タチケツ草を食べているとある事に気がついた。
「ところでキリコさん、リリスさんはどうしたんですか?俺が……貧血で倒れる直前までリリスさんといたんですが…」
「さぁ?リリスならそこら辺にいるんじゃないですか?」
適当だな…。
「……そうですか……」
リリスさんはいつも隣に居てくれた。
死にそうになった時だって、絶望で振るえていた時だって、本当に死んだ時だって……。
近くにリリスさんがいないと何故かとても不安である。
「ちょっと探してきます」
俺はベッドから起き上がり、部屋を出た。
〈[リリス・アクリア]視点〉
「なぁ、サーフカース。俺様って強いと思うか?」
雨が風に乗り、少しの水滴が肌に当たる。窓の外はまだ白く濁っていた。
「まぁ〜強い方だと思うよ〜。実際、暴走したヴァンパイアを足止め出来るくらいには動けるんだからさ」
「ふーん………」
「君の理想はあれだろ、暴走したヴァンパイアを超ボコボコにして理性を取り戻させよう…的なやつでしょ?」
「あー……そーだけど」
「言っとくけどそれ無〜理〜、1回スイッチが入っちゃったら人間大量に食わせる以外止める方法なんか無いから、今回みたいに同族食わせれば一時的に理性は取り戻す事が出来るけど、あれだって結局はその場しのぎだからあと数日でまた暴れ出すよ」
「…………まじかよ」
「君の言いたい事はわかるよ、『だったらお前がずっと腹の足しになればいいだろ』ってね〜。だけどそこまでする義理無いよ〜、確かにあの子からは良質な『痛み』を提供して貰えるから悪くないっちゃないんだけどね〜……………男だからな〜……可愛い女の子だったら俺だって食われ続けたいけど………男だからな〜」
「じゃー無理か?」
「ん〜そだね、無理無理。俺だって暇だったらそれなりに構ってやりたんだけど……生憎今はツレが居るからな〜、君達には時間割けないや〜。
………まっ、タイミングが悪かったって話だね〜。じゃあ〜またどったかで〜バイバイ鬼人ちゃん♡」
[サーフカース・ヴァーカー]、あの男の名前だ。そしてサーフカースはそう言い残し、アッサリと暗闇の中へと消えていった。
残された俺様はその場で1人、やりようの無い虚無感を抱え、どうすればステイを助けてやれるかわからないまま……少しの雨に打たれ続けた。
だが1つだけ考えはあった……。
〈[ステイ・セント]視点〉
「リリスさーん!」
と、俺は薄暗い廊下で叫ぶ。
だが、雨音が俺の声を掻き消していく。
「うーん……」
やっぱ闇雲に探しても意味ないよな……。
と、俺がリリスさんを探していると前から大きな盾を持った同じ歳くらいの男が来た。
その男は俺の顔を見るなり目を大きく開き勢いよく近づいてきた。
「…よぉ!よぉ!よう!お前ステイ・セントだよな!さっきの試合マジで凄かったわ!」
男は大きな声で盾を持っていない右手で握手を求めてきた。
「お、おう……」
俺はそのグイグイとくる距離感に戸惑いながらも堅い握手をした。
男の手の皮は尋常じゃないくらい分厚かった。
俺はこの男が持っている盾とこの馴染み深すぎる見た目でこの男が誰なのか察しがついた。
「なぁ…そういうお前は[コバヤシ・タツヤ]か?」
コバヤシ・タツヤ…確か俺の次の試合に出る大楯部の奴だ。
ちなみにジケイ大戦は雨の影響で試合会場が屋内会場となり観客の移動とやらの関係で進行が遅れている。
「あぁ!そうだ!俺は[小林達哉]だ!」
「…………ふっ」
やっぱり…トーナメントを見た時から分かってはいたが、コイツは日本人だ。
しかも、見た目からして純ジャパ、俺と違って異世界転移って感じだろう。
にしても……。
「コバヤシ・タツヤ…ねぇ……日本人すぎる名前で、なんか……涙出そう」
「ん?………おい、お前今『日本』って言ったか?」
「あぁ、言った言った。俺はステイ・セントだけどあっちじゃ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎だった。………異世界転生者ってやつだな」
「おいおいおいおい………まじか!まじか!まじか!こんな奇跡あんのかよ!こんなとこで日本人に会えるって!エグいだろ!ワンピースの正体くらいエグいって!」
「えっ!?ワンピースって完結してんの!?」
「えっ?うん」
「マジか!えーまじか!」
俺が死んだのが202⬛︎年。コバヤシ・タツヤはからして転生者ではなく異世界転移者だ。そして外見からしておそらく15歳、そう考えて色々逆算するとワンピースは2030年くらいに終わっている!あぁクソ!後ちょっと生きてさえいれば!
「な、なぁタツヤ君……そのワンピースの正体ってなんだったの?」
「一言で言うとX X X X Xだったよ」
「ははーん!なるほどさすが尾田栄一郎先生!」
と、ワンピース談義に華を咲かせている場合では無いというのに、それから俺達は久しぶりに会った日本人同士、喋りたかった話を話しまくった。
もう一生出来ないと思っていたアニメの話やゲーム、音楽の話。年代は少し違うがそれでもそれはもう楽しすぎた。
〜〜
「〜で……iPhoneが20までいっててー…」
「俺の時代は14?15くらいだったわ…」
「古っ、なにそれ5G?」
「そうそう5G」
「俺の飛ばされる前は7Gまであったぞ」
「スゲェななんだそれ」
俺とタツヤがこんな感じで楽しい無駄話をしていると、タツヤの向こうから獣人の大男が姿を現した。
「…………なぁタツヤ、後ろにお前に超ガン飛ばしてる奴いるぞ」
俺がそう言うと、タツヤは振り返った。
すると、振り返ったタツヤの顔からは血の気が無くなり汗が額を湿らせていた。
「おい……誰だあの獣人?」
「お、俺の師匠……やばいやばいやばい、試合が始まるまで部屋で大人しくしてろって言われてたのに……勝手に抜け出してきたのがバレちまった……殺される」
「えー……てかお前、ただの日本人なのによくジケイ大戦出れたな」
「まっ、まぁな……それに関しちゃ試合観てくれたら分かるからっ。とりあえず今は師匠んとこ戻るわ。じゃあなステイ!」
「おう!勝てよ!」
タツヤはそう言い残すと駆け足で獣人の元へと行ってしまった。
それにしても……異世界に来てから始めて出来た男友達がまさか同じ日本人だとは思わなかったな。
「………って、そーいやリリスさん探してるんだった」




