EP12:異世界でも案外世間は狭いって話 ①
「キリコさん、ジケイ大戦は明日ですよね?
今日は結局何しに本館まで行くんです?」
俺は今、キリコさんと2人でジケイ会館本館に向かっているところだ。
ちなみにリリスさんは母さんと家に残っている。リリスさんが今までの俺について変な事言っていなければいいが……。
「今日は明日行われる大戦の組み合わせを決めに行くんですよ」
「あー…なるほど、ジケイ大戦はトーナメント形式だから……って今年は何人でるんです?」
「そうですね、例年だとジケイ会館の分館はステゴロ部を除いて14つあるのですが、今年はステゴロ部が加わるので15人出場する形になりますね」
「トーナメントって考えるとシードが1つ出来て……優勝まで最低で3回…普通に考えれば4回ってとこか……」
シードになれる可能性は15分の1だから可能性的にはシードを狙うのは難しいな。ただでさえ素手で戦うのだからなるべく戦いたくはないのだけれど。
「大丈夫ですよステイ、たったの4回勝てば良いだけです。ハッキリ言って余裕ですよ余裕」
キリコさんは以前と同様、黒のローブに身を包んでいるし仮面を付けているから表情が分からないが、そう言ってもらえるだけ俺を信じてくれているのだろう。
「……そうですよね、余裕っすよね余裕」
「えぇ」
この5年間、キリコさんやリリスさんという化け物相手にずっと修行をしてきたのだ、俺に不覚は無いと思いたいのだが、本番を迎えるという事でやはり内心は緊張でいっぱいいっぱいだ。
と、なんやかんやで話していたら思いの外早くジケイ会館本館に到着した。
「では入りましょうかステイ」
「……ッはい」
俺達はジケイ会館本館の大きな門を通った。
――
キリコさんは「後ろについて来てください」とだけ言い本館の中を歩いていった。
そして歩くこと数分、1つの扉の前で立ち止まった。
「キリコさん?」
「ここですね」
「何がです?」
「ステイ、[リッキー・G・ケーキ]という男は知っているでしょう?」
「……あぁ、ジケイ会館の…」
確か総長?いや違うな部長だったけな?
「そうです館長です」
そうだ、館長だ。
「そのリッキーって人がどうしたんですか?」
「この部屋の先にその人がいます」
「へぇ……挨拶でもするんですか?」
「まぁ…そんなところなんですが……ステイ」
キリコさんはそう言いかけると仮面を外しこちらに振り向いき静かに言葉を続けた。
「何があっても許可が無い限り変な行動は起こさないで下さいね」
「はい……?」
そう言うキリコさんの今までにない真剣な表情に少しビビってしまった。
だがそれほど気をつけろという事だろう。
そしてキリコさんは扉に指を当て、3回ノックをした。
(コンコンコンッ)と木材と骨の当たる鳴り止み、少しの間をおいて扉の向こうから透き通った低い声で返事がきた。
「どうぞ、入室してきて下さい」
その返事を聞き、キリコさんは扉を開け部屋に入っていった。俺はそんなキリコさんの後ろを静かについて行くしかなかった。
「……やっぱり、キリコじゃないか、久しいね」
「私的にはもう200年会わないと思っていましたけどね、ハハッ」
第一印象として、リッキーとキリコさんって思っているよりフレンドリーだなと思った。
5年前にリッキーを見た時はもっと堅物なイメージだったのけれど……まぁ実際はそんなもんか。
「フフッ……それで?その後ろの子が今回出場する子かい?」
リッキーはそう言うと俺に目線を向けてきた。
「えぇそうです」
「名前は?」
リッキーは俺に名を聞いてきた。
「はじめまして、今年のジケイ大戦に出場します。ステイ・セントと申します。よろしくお願いします」
俺は名前を聞かれたと思ったので普通に頭を下げながら名乗った。
俺のした事はただそれだけのはずだ。
だが……。
挨拶が終わり頭を上げた目の前には、どこから出したらわからないが俺に向けて剣を振り下ろすリッキーとそれを手のひらで受け止めるキリコさんの姿があった。
「…えっ?」
目の前に起きてる事の全てがサッパリ意味不明だった。
本当に何が何だか……。
「リッキー……私の弟子を殺そうとするのは辞めてもらいたいな」
「そこをどけキリコ、知っているだろう?私は私の許可無く行動する奴は大嫌いだと」
「えぇ、ですが今のは彼に非はありませんよ」
「あ゛ぁ?」
「ですから…………早く剣をしまえよリッキー。今から本気で私とやる気なんて無いだろ?」
「…………………チッ…まぁ今回だけ見逃してやろう。だがキリコ、弟子くらいちゃんと指導しておくべきだ」
「えぇ………分かってます」
「もういい、さっさと行けっ」
「…………ステイ、出ますよ」
「えっ?は……はい」
キリコさんはそう言いリッキーに背中を向けて部屋を出ていった。俺は何が何だかわからなく、ただ殺されかけたという恐怖で足が動かなかったが、キリコさんに手を引かれながらなんとか部屋を出た。
(バタン)と扉が閉じる音と共に油汗が体中から噴き出てきた。
そして俺は急いで少し離れたところにある日陰に移動した。
「ブッ……はぁーーー」
精神的疲労が肉体を超越しやがったので、ため息があり得ないくらい出た。
「ステイ…だから言ったじゃないですか」
「いやいやいや、あれは絶対、変な行動じゃないですよ。ただの挨拶ですよ挨拶」
「えぇ、ですがリッキーにとってはそれも殺しの動機になりうる行動です。次から気をつけてくださいね」
いやまじで意味わからん。理不尽すぎんあいつ。
「もう2度と会いたくないですよ」
「ハハッ、私もです」
「?……キリコさんも?」
友達とかじゃないのか?仲良さそうだったし。
「えぇ、ステイには言っておきますが私はリッキーに色々やられてましてね、近頃殺そうと思ってるんです。今日は最後の挨拶をしに来た感じですねー」
「…………は?」
おいおい、さらっと殺人宣告したぞ。
「あぁ、理由は聞かないで下さい。弟子に話すにはちょっと恥ずかしいんで。ハハッ」
「じゃ、じゃあ、あいつとどんな関係なのかだけ…聞いても?」
俺がそう言うとキリコさんは少し間を空けて口を開いた。
「………ただの家族です…って言っても血は繋がっていませんが」
「……」
「あぁ、ちなみにステイにこの事を言ったのは言っても問題無いからです」
俺ごときじゃどうする事も出来ないって事だろう。
まぁ、どうするつもりも無いが。
「別にどうもしませんよ。……それよりキリコさん、そろそろトーナメントの組み合わせ決めに行きますか」
「そうですね、行きましょう。案内します」
キリコさんとリッキー・G・ケーキ、2人の間に何があるかはわからない。
そしてその先に何があるのか、何を失うのか、それはナニかあってからの………。




