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ドラゴンさんと私

作者: パパイヤ

とある日常と娘の日誌 1頁目 心配性で人見知りの選択。

「分かった!明日だな!」


喜々として頷き、去っていくその背には竜人あるまじき姿で揺れる真白の尾があった。


一般的に亜人だと外での尾の動きは、その時の感情を表してしまう為隠されるべきものはず・・だけど


(ふってるなあ・・)


遠ざかって尚分かるほどにブンブンと力強く揺れている。

ふりすぎて通行人がぎょっとしている。


そんな愉快な後ろ姿に大きく溜息をつきながら私は日記も兼ねている仕入れ目録を開いた。


(竜人の生態に関しての本は・・と。読み直したほうがいいよね)


店舗の在庫もどうだったかなと思いだしながらぺらぺらと年季の入り始めたそれを捲る。捲りながらふとある日付に目が入った。


日付 雪解けの季節

続けて酷く寒い日と他のページより崩れた字で書かれていた。

そこでふと思い出す。


(そうだった、そういえばこの日だっけ。彼と初めて会ったのは)


______________________________________________________________________________________________


雪解けの月 


その日はちらほらと緑が見え始めてきたのに、季節はずれの北風で町中が一日で真冬の景色に戻されてしまったのだ。天気が変わりやすい地域にしても何年かに一度あるかないかな厳しい寒さの日だった。



街灯に薄く照らされた雪。

そこに埋もれるように立っていたのが彼だ。


初めは埋もれた木立があるのかと思った。

(でも随分と大きいなあ・・。そんなの昨日まであったけ?)


この天気で仕事が遅れ、膝まで埋まるほど積もった雪をなんとかかき分けて帰ってきた。日も暮れ夕食を取るにしても遅いと言える時間。

辺り音一つせず私以外誰一人いない。

街灯もちらちらと数件、店前のものが付いているだけで正に寒々しい景色の中、私は職員用玄関の鍵を指しながら一度通り過ぎたその木立を改めて見直した。


そこでやっと木立ではなく人____竜人が立っていることに気が付いた。


(驚いた。こんな所に竜人がいるなんて・・)


店先の軒下よりも高い背にフードから覗く人とも獣人とも違う顎下。

ローブの下に垂れる足以外のもの。地面に近づくにつれ細くなり表面は極めて繊細な乳白色の硝子が隙間なく埋まっている。くるりと回った背面側にも規則正しく棘のような凹凸が先まで伸びていた。


(鱗に尾・・本当に竜人だ。王都の方には竜人もいるとは聞いた事があるけど、只でさえ旅をしていても見かけないっていうのに)


そんな思わぬ邂逅に私は息を飲んだ。


*********************


驚きの余り隠れるように店内に入った私は、ふと心配事を思い出してしまった。


(あれ・・。竜人って寒さに強かったけ・・?)


 暖房がついた室内で極寒用の身に着けていたモコモコ外套をかけ、卸先から返却された書籍をほぼ条件反射で資料棚に片づけていく。


(前の資料本だと住む地域によっては体温調節が苦手で寒いのは弱かったような・・強かったような?)


 私は着実に本を片付けていきながら唸ってしまう。

 竜人は他種族に比べ人口が少ない為、自然と集まる情報も少なくなる。

 なんとなくそんな情報をちらっと本の隅に見かけた覚えはあるけど余りにも不確かで。

 長身を雪に埋もれて立つ姿にもはや気がつかなければ良かったと後悔しながら、でももしかして・・な罪悪感に内心板挟みになってしまう。


(そもそも本当に弱いなら外にいないはずだし、長命種だったら命に関わるはすがないし!よし!)


 彼?竜人さんが立っていた店は冒険者用の道具屋だ。

 服装も冒険者ぽかったし、あの長身では地方一般のお店は小さすぎるから大方中にいる仲間を待っているとかだろう。こんな極寒な日に長時間外で待つはずもないからすぐに去るか店主が声をかけるはずだ。


(寒さが苦手なら短時間でも暖もなしにこんな極寒の日に外にいるわけないよね!)


(・・でも苦手じゃなくでも寒いのは寒いかな。)


 そんなことを考えながら両手を着いた机を睨み溜息をつく。さほど量のなかった仕事はもう終わってしまい、後は上階の自室に戻るだけだった。


 私は恐る恐る玄関のガラス戸から様子を伺う。

 外との気温差で白く曇った戸は見にくく、制服の袖で拭きもういない事を願ってそっと覗く。



 木立の姿なくなっていた。


(良かった・・いなく・・・・・) 



 その代わりに雪玉が転がっていた。


(なってない!!) 


「なんか・・!木立から雪玉に進化してるっ!」


 それはもう立派な雪玉ができていた。安定性のありそうなどっしりとした丸。

 頭を置いたら皆大好き、野菜と木枝のスノーマンの完成という感じに。

 この短時間の間に一体何が。


「まあ雪男(スノーマン)の意だと間違ってないけど!なんで冬の風物詩に・・!?」


 私は笑っていいのか心配していいのかで扉の陰に崩れ落ちた。

 遠目から見えても綺麗な雪玉。これが昼間ならこぞって子供たちが集まり即雪だるまが完成しているだろうな出来だ。


(恐らく形的には倒れてはいなく、座り込んでいるだと思うけど・・)


「え・・冬眠?とかないよね~・・」


 もはや不安になるのも疲れたし、通りすぎて苛々してきた私は気合を入れ勢いで立ち上がる。


「ああっ!もう!」


 そのまま足元にあった予備の火鉢と温石を手に取り、自室に戻り他に使えそうなものを取り出す。


(確かお土産でもらった携帯食とお酒・・。後防寒しなきゃ。)


 片手に火鉢、片手にそれらをまとめた籠を持ち、さらに厚手襟巻・帽子姿で私は完成を待つ立派な雪玉に走り寄った。


 ざくざくと音を立て、傍に行くもピクリもしない雪玉。

 近づいて気付いたが予想より雪玉は大きい。

 横幅は私の両腕を広げた幅と同じくらいで高さも胸の高さほどある。


(いや・・でかすぎない?声聞こえてる?えっ・・息できてる(生きてる)?)


 遅かったかと生存を疑う程の不動さと反応のなさに色んな意味でドキドキしてるとボスっという音と共に雪玉が震えくずれた。


 頭が現れ、眼が合った。

竜人独特の炎の様に揺らめく新緑の虹彩が私を写す。


(・・・。雪玉が雪だるまに)


確かに頭が現れ、目が合ったが。それは現れたというより生えたという表現が近い。

今の視界を表現するとぼすっと頭が生え、下は巨大な雪玉のままであって

まんま竜の頭がついた雪だるまになってしまった。これまた子供たちに人気がでそうである。


(頭も白いのか・・。違和感が働かない)


思わず瞳の優美さだけでなく雪だるまとかしたそれに無言で見つめあって(観察して)しまったが、頬に触れる冷気で我に返る。


「あっ・・あの!もし良かったらこれ使いますかア!」


力みすぎて声が裏返ってしまった。

きょとんと瞬きをし心なしか不思議そうにする雪だるま。


「・・・・・・・・・・・・・」


間にして数秒後、返事はなく胴体が崩れたかと思うと体格のいい腕が現れスッと正面のスペースを勧められた。


(これはこのスペースで使うって意味でいいよね)


私はこれ幸いと設置していく。火鉢を置き火をつけ上に鍋を置き、酒は鍋に入れて温める。その横で携帯食の練り菓子を焼いていく。

正直冒険者であれば自分でできるので道具だけ置いて去っても良かったのだが、木立が雪玉に進化したのを目撃して、これ以上予想外なことが起きないよう完璧に設置して去る事にした。親切心より私の心労の為に安心できる状態にしたいというのが本音だ。

さあ焼くぞ、さあ温めで終わりと用意をしているとなんだか正面から視線を感じた。


(見られてる?・・なんかむっちゃ見られてる!)


「・・・・・・・・」


気のせいかと思い、ちらっと手元から視線を上げると端正な竜の顔が音がでそうな程ジ-------------っと私を見ていた。


(確かに人っ子一人いないから声かけたら、怪しいかもだけど!制服着てるしそんな見れれるほど変じゃないはずなんだけどっ!//// )


自分の選択にまたもやくじけそうになりながらやっと一通りの設置を終え立ち上がる。私の動きと一緒に動く視線。・・もう勘弁してください。


「あっあとこれも使ってください・・・」


懐に入れていた温石の存在を思い出し、段差に腰掛け屈んでいる竜人さんの手に渡す。大きく厚い指と鋭い爪が受け取り視線が温石に写る。


「使い終わったらそのまま置いて下さい。明朝取りに来ますので・・では失礼します!」


視線がそれた内に一息で伝えて頭を下げたあと、私は逃げるように店に飛び込んだ。


(き・・緊張したあ・・・)


自室に戻りボフッと倒れんだ寝台で顔を埋め大きく息を吐く。

最近は他人との会話を仕事と買い物以外でしていなかったことを思い出して

それ緊張もするよと再度溜息をついた。


(慣れない事はするもんじゃないなあ。変だったよね。声裏返ったし、竜人さんも驚いてたし、失敗したかな。いやでもあのままほっとくのは・・)


行動した後だというのに、胃や胸のあたりから圧迫されるような気恥しさと罪悪感が沸き上がってくる。

毎度慣れないとこをする時は決まってこうなるのに・・・なんでしちゃうかな。


そのままモソモソとベッドの上を這いながら窓から下を覗くと渡した火鉢を囲って先程の竜人さんと店の人がなにやらにぎやかに話しているのが見えた。


(良かった。楽しそうにしている)


ここからではさすがに表情は見えないが暖かな雰囲気に先程の不快感が薄くなった気がする。


「ふあ・・・・・。」


そこでさすがに眠くなってきた。


(疲れた~。よく頑張った私)


よく考えたら今日は色々予想ができない忙しい日で急な悪天候、不測の仕事、いつもと違う時間に帰宅し、竜人さんと遭遇する事になったのだ。そんなふうに今日を振り返り考えている内に私は眠りに落ち

一日が終わった。


_______________________________________________




パタンと日誌を閉じる。

これが彼と出会った日の記録だった。

ベットの上でなんとか書いたそれは最後の方は文字がよれている。今読んでも色々と多忙な日だった事が分かる程に。この時の私はこれまた予想できていなかった。まさかこの日誌が半分も過ぎる頃。

記録を読み直す事もないくらい日々が過ぎた頃に、またその彼とあんな事になるなんで・・。

あの日の小さな行動でこんな騒がしい日々を送る事になるなんて本当に・・本当に!予想もできなかった。


ちなみに彼とまた遭遇した日の日誌にはこう書かれていた。
























『なんか変な竜人に告白されたんだけど』



続く?

*いつか長編になるかも短編投稿

前日譚(人慣れしてない毛玉黒猫なメカクレ主人公にラブぞっこんで日々求婚する竜人冒険者の日常ラブコメディ)


その後の日常

竜人「結婚してくれ(こんにちは)」 「愛している(今日もいい天気だな)

主人公 「しません」 「世辞は結構」

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