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(牛乳なし。肉なし。卵なし。)

がちゃりと冷蔵庫を開けて、1つ1つ中身を確認していく。急に老女から幼女になるなんて聞いてないものだから、買い物に行かなければならない用事を後回しにしていたつけが回ってきた。

(これは買い物に行かなきゃいけないね。)

ベッドでぴょんぴょんと飛び跳ね遊ぶマリウスを横目に見ながらリズは考える。

(マリウス彼は何をしでかすかわからず危ないから連れていくのはまだ早い気がする。そして彼が何者か…の調査はまた今度でいいだろう。とにかく今日は私1人で行った方が安全だ。)

そう結論付けると、リズはさっそく行動にでる。


「マリウス。きいてくれ。」

真剣な声でマリウスを呼ぶと、彼はぴゅっとなってベッドから降りて膝をつく。正座がなぜか様になるマリウスだ。そんなことを思いつつリズはマリウスに聞く。

「いまからるすばんできるかい?」

何が待っているのかとワクワクしていた様子だったマリウスだが、その言葉を聞くとわかりやすくうなだれる。

「そのあいだ。やってほしいことあるんだよ。」

続けて言うと今度はピッと顔をあげる。まったくもってわかりやすい。そしてリズはベッドをきれいに整えておくようにという任務をマリウスに課したのだった。


「じゃいってくるよ。」

扉の前まで来てぎりぎりまでリズと居ようとするマリウスを何とか宥めてリズは扉を閉める。早くいかなければ幼女の歩幅では夜になってしまうからだ。夜になってはさすがに森を熟知しているリズでも危ない。


(さてぱっぱと行ってマリウスにお土産でも買って帰るかね。)

そんなことを思いつつ、幼女になってから初めての森へと足を踏み入れるのだった。

「はあ、はあ。」

30分後。いつもならとっくに森を抜けているはずの時間になってもまだリズは森の中にいた。

(これは想像以上に歩幅も体力もないね。)

ぜえぜえと息切れる中で、今のリズに丁度いい大きさの岩に腰掛けながらそんなことを考えつつ、体を休める。木々が揺れ丁度良く風がリズの顔をかすめた。

「てんごくだねえ。」

森のさえずりに耳を傾けながら、涼むリズにはここは間違いなく天国だった。


そうしてなんとか町に着いたリズ。まずはマリウスご所望の牛乳から買いにいく。

町はがやがやとしてにぎやかしい。みな歩くものはリズより大きく、踏ん張っていないと飲み込まれそうだ。

「へい、いらっしゃーい!」

そんな声が響く牛乳屋の屋台にリズは近づき声を掛ける。

「おじさん。ひとびんください。」

すると。おじさんはおやっというように下を見てリズのことを確認するとにかっと笑った。

「おう。嬢ちゃん。偉いね。」

そう言い、牛乳を2瓶とるとリズの前に差し出した。

「1つはおまけだよ。」

おじさんは優しい人で1瓶分のお金しか受け取らなかった。しかしおじさんは少し考えが及んでいなかった。幼児に牛乳瓶は重いことを。

(これはなかなか頑張り所だね。)

頭で苦笑いしつつ、親切なおじさんにお礼を言い牛乳屋を後にすると今度は精肉店に向かった。


精肉店ここは1つ鬼門だった。なぜなら元王宮魔女が働いている店だからである。何度も老体のリズとしてこの店を利用していたリズにとって、もしも元王宮魔女に相似点を発見されたらと思うと厄介だと考えていた。バレるかバレないか。少々の賭けだがリズは店に足を踏み入れることを選択した。


「いらっしゃいませー。」

明るい声が店内に入ると聞こえてきた。リズはなるべく下を向いて歩く。しかし幼女は目立つようだ。元王宮魔女の彼女はリズに一直線に向かってくる。

「お嬢さん。今日はどうしたの?」

幼女のリズの目線に会うように彼女は腰を屈めて優しく聞いてくる。しかしリズにとって今は、ほっておいておくれよ。という気分でしかなかった。でも聞かれたことには答えなくては。

「おにくかいにきましゅた。」

気づかれないよう目線は下向きのまま、よりたどたどしくリズは答える。

「そう。よく来たわね。何か困ったことがあったら言ってね。」

相変わらずその優しさは変わらないままリズにそう言うと彼女は離れていった。

「ふう。」

一息吐き、リズは心を落ち着かせる。こんなところでもしもバレたら…。そしてその話が間違って王にでも入ったら、私は魔女様たちと同じように王宮に…。そんな嫌なことを振り払うように首を振り精肉選びに集中する。

「それはね。」

しかし彼女は逃してくれないようだった。後ろからすすすと来て肉の説明が始まる。

(ひやひやさせてくるねえ。)

この状況に何年ぶりかのスリルを感じるリズ。不謹慎ながら少し楽しみつつ、この状況を打破しようとする。

「おかあさんのメモある。」

母からの買い出しメモがあると言い逃れる作戦。

「あらじゃあ私が持ってくるから見せて頂戴。」

これは失敗。

「しらないひとと、はなしたらいけない。」

これも母から注意されているという体で言う。

「お肉屋さんのジルバと言えばいいかな?」

これも失敗。

もうこの攻防はリズの負けだ。リズはそう思いおとなしく彼女がついてくるのを許容した。

(まあ、ここまでかかわってもバレていないのだから大丈夫だろう。しかし彼女も律儀だねえ。)

楽観視をして、彼女のことなどもう気にせずふむふむと肉を見て目を輝かせるリズであった。彼女はどうやら幼女になって少々考えることを放棄する気が強まったようだ。

そんなこんなで十分に精肉店を満喫したリズは、達成感を抱きつつ最後に肉と卵を買って帰路につくのだった。

マリウスにお土産を買うという約束をすっかりと忘れて……。


マリウスのその頃はというと。

「主。びっくりさせる。」

そう意気込んで自身がぐちゃぐちゃにしたベッドを片付けようとしていた。青年であるマリウスが暴れたのだ。ネコの時とは違い相当の荒れ具合である。

「…大変。」

一つ一つ毛布を直していくが何分マリウスの飽き性は伊達じゃない。すぐにマリウスは疲れが出てくる。

「ちょっと休む。」

そう言って魔の海域に身を沈めるマリウス。そうもうこの後はお約束であるとおり。マリウスの意識は、夢の中へと入っていく。


「えらいねマリウス。」

そう褒められている夢が意識と無意識のはざまで展開される。

「あるじぃ。」

むにゃむにゃと楽しいそうな寝言を言うマリウス。さあ、リズが帰ってくるまであと1時間。まあ結果はわかりきっている通りであった。


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