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人間!?

(さてどうするかね。)

老体用にセッティングされたベッドを見て幼女のリズは頭を悩ませる。老女だったが足腰はしっかりしていたリズは背が高く、その分ベッドの高さは高い。またリズは寝相が悪いため、落ちたときの老体への衝撃を考慮し落下防止用の柵も左右の端端についていた。

「あがるのはむずかしいね。」

悩ましげに呟くとマリウスは自身の寝床に入り尻尾をパタンパタンとして合図をリズに送る。

(まるでここで寝ればいいじゃないと言っているみたいじゃないか。でも、さすがにそこは2人では狭いねえ…。)

「ありがとね。だいじょぶだよ。」

丁寧にお礼を言ったつもりだが、この喋り方で伝わったか。


そんなこんなで思案したのち、リズは床で寝ることにした。布団スタイルを採用したのだ。

大きなマットレスは動かせないが温かい毛布は子供でも取りやすい薄さのものが何枚もベッドに乗っている。温度管理が老齢のリズは下手だったからだ。

(以前の私は良いことをしていたもんだ。)

そんなことを思いながら毛布に手を掛け引っ張る。

「うんしょ。うんしょ。」

1枚1枚時間をかけてゆっくりと床に敷いていく。5枚ほど敷けただろうか。ようやっと固い床の感触から解放された気がした。

「これでよい。」

はきはきとしゃべれる単語を探し喋る。もう2枚毛布をベッドからとり、1枚をくるくるとまいて枕に、さらに1枚を毛布として使うことで布団スタイルの完成だ。

「できた。」

毛布を敷いただけだが達成感はすさまじい。喜ぶリズに対しマリウスは鳴き声を出す。

「おうえんありがとよ。」

応援してくれたであろうマリウスの鳴き声に感謝をし、ポカポカしている毛布へとリズは入る。


しかし数秒後。

「あったかすぎる。」

小さい体になり体温が上がったのか、暑すぎる。むしろ身の丈よりも大きい服に包まるくらいでちょうどよさそうだ。

「ようじょ。らくじゃないね。」

老女リズは幼女リズに不満を漏らす。

「なあん。」

なぜかそのつぶやきにマリウスが答える。

しょうがなくかけた毛布を力任せに剥がし、洋服をかき集め丸め眠りにつく。

「よし。おやすみよ。マリウス。」

マリウスに声を掛け包まった洋服に包まれリズはようやっと夢の旅へと出るのだった。


およそ70年ぶりに幼体となったリズは疲れていた。そのせいでリズは意識が深く眠りに落ちており気が付かなかった。明け方にマリウスの周りを包む光にも。マリウスの「なあーん。」という鳴き声にも。


次の日。リズはいつもより遅く目が覚める。

(これは老体のときと違うんだねぇ。)

そんなのんきなことを考えて体を起こす。寝るときにかき集めた洋服はリズの寝相で散らばりぐしゃぐしゃだ。

(…着替えよう。)

その乱れた洋服を脱ぎ、彼女は大人だった時の上着を今の体にまとう。

「ちょどいいじゃないか。」

上着だけだが、今の幼体にはぴったりだった。

(さて。マリウスのご飯でも準備するかね。)

頭をぼりぼりと掻き、まだ寝ているであろうマリウスの寝床を見る。が。

「いない。」

そこにマリウスはいなかった。

「マリウス。」

彼の名を呼ぶがマリウスは反応しない。

「マリウス。」

よいしょと歩きながら、部屋中を探すがマリウスがいない。扉も空いていないから外に入っていないはずなのに。

(おかしいね。これは。昨日から変なことが続くじゃないか。)

だんだんと焦りが忍び寄ってくる。

(これはまさか出ていったのか?いや誘拐か?そんなまさか。)

リズはその体で必死に考える。


すると。

「ぎぃぃ。」

扉がひとりでに開く音がする。

「バッ。」とリズはその音に振り向く。しかしそれはひとりでに空いたのではなく、人によって開けられたものだった。

「主。おはよう。」

そう言った男は、黒い髪に綺麗なブルーの目をした綺麗な青年だった。

「だれだい。」

リズは警戒心をあらわにしてその男を見る。

「主。俺。マリウス。」

にぱにぱとした笑みを浮かべその青年はリズに向かってマリウスだと挨拶する。

(何言っているんだいこの男は。)

「なにいってんだい。マリウスはうちのネコだよ。」

怒りをあらわにしてリズは言う。するとマリウスと名乗った男は悲しそうな顔をする。

「俺。迷惑?」

(この男は。)

「もくてきはなんだい?」

リズは相変わらず警戒しながら聞く。

そう聞くと青年は、ぱあっと笑顔になり言った。

「主の幸せ。」

「なにいってんだ。」

2度目の何言っているんだが出た。リズにとってこの男の得体が知れない以上、気を抜くことはできないのだがこの返答にはあきれてしまった。

(どこまでもマリウスになりきろうという気なのかね。)

「カネない。あたしだけ。」

強盗は金か人が目当てなことが多い。とりあえず私を安心させてこの家にがさを入れようとしているのなら権勢をしておかないといけない。

(この体になったリズでも老人の貫録をなめるんじゃないよ。)

そんなことを思って発した言葉だったがこの青年の返事はこうだった。

「知ってる。」

もうあきれを通り越してしまった。じゃあ何のためにこの家に来たのかと。まさか。

「もくてき。ゆうかい?」

小さい子供も金にはなる。この家に私一人だと昨日夜中にでも見てそう考えたのかもしれない。再び臨戦態勢になる。

「違う。」

もう何が何だかわからない。まさか本当にマリウスだというのか。

「マリウス?」

試しに呼んでみる。

「何。主。」

マリウスらしい返答が帰ってくる。

「ほんとうにマリウスかい?」

「そう。俺マリウス。」

にっこにっこと返すその男をどうにも信じがたかったが、もう老女幼女は疲れてしまった。ネコが人間になるなんて魔法でもない限り不可能だ。でもリズは魔法を使えない。付近に魔女様がいるわけもない。ならやはりこの男はマリウスではないのだが…。

(もうマリウスということにしようかね。本物のマリウスはこの男が空けた扉から出ていったのかもしれないし。そうなれば時期帰ってくるだろうよ。)

リズは渋々この男をマリウスとして迎えることにする。


「じゃ。マリウス。き、もってきておくれ。」

かまどにくべる用の木々が必要だった。まあ本来は薪だろうがそこは老女だったリズ。落ち葉や枯れ落ちた枝などを使っていた。

今日もかまどに火をともすために木々が必要だった。いつもならひょいひょいと行くのだが、幼女だ。さらに変な男ときたものだ。ここは彼に任せるのがちょうど良い。もしもただの変な男ならこの命令でどこか逃げるだろう。そう考え、リズはマリウスだという青年に頼んだ。

「わかった。俺。役に立つ。」

そう元気に言い、青年は外へと颯爽と出ていった。

(本当によくわからない男だねえ。)

そんな感想を抱きながらも、昨日から碌に食べていないお腹をさする。お腹は幼児らしくぽこりとでている。以前のがりがりだった体からは想像できない柔らかさだ。

(もしや味覚も子供使用になっているのかね。)

ふと疑問に思いながら、リズはうんしょと台所へと向かい、唐辛子を瓶の中から一つ取り出す。

(これはどうかい。)

自分への挑戦だ。老女だった時は平気だったが、小さい時は食べられたものではなかった記憶があった。今の味覚を試すにはちょうど良いものだ。

「いきましょう。」

掛け声をかけ口へと運び入れる。

結果は。

「うええええええええええええええん。」

子供らしい泣き声を出すこととなった。

(まあ、ちょっとはわかっていたよ。)

そんな負け惜しみを思いつつ、リズは牛乳を飲み干す。

(牛乳はうまいね。)

ごくごくと服にこぼしながら飲むリズのもとにガチャリと扉があく音が届く。

「かえったのかい。」

青年が帰ったのかどうか。それを確認するためリズは声を出す。

「マリウス。帰った。」

案の定マリウスだという青年の声がする。

(まったく。帰らない根性は認めようじゃないか。)

そんなことを思いながら玄関の扉へ向かうとそこには手にいっぱい何かを持ったマリウスがいた。そう手いっぱいにネズミを抱えた青年がにこにこしながら玄関に立っていたのだ。


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