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無事でいてくれ

「リズ!」

グノは森の中を大声出しながら駆けずり回る。森はいつもからは考えられないほど、しん。としており、グノの呼びかけに答えるざわめきすらもない。

「くそっ。」

グノは走り回りきれた息を整えながら、焦りを抑えようとする。しかしグノの心臓はどんどんと逸り、落ち着いてくれない。さらに汗はとめどなく溢れ、地面にしたたり落ちる。

(どこ行ったんだよ…リズ…。)

グノはそう思いリズを責めそうになるが、自身の最近の行動を思い反省する。

(俺がもっとリズのことを気にかけていればよかったんだ…。リズは俺のことをいつも気にかけてくれていたのに俺は…。俺は…。)

グノは最近の自分の理不尽なリズへの態度を思い返す。リズとの会話は最小限。グノのためにリズが続けてきてくれた食事の準備はグノから放棄する。リズとの生活リズムを極力ずらす。振り返れば振り返るほど自分の行動の結果だと思う。

(リズはリズなんだ。それはわかっていたのに、俺は。)

グノは自分の行動を心から反省する。

(頼むリズ、家に、俺らの家に帰ってきてくれ…!)

そう思うと同時にグノの顔からは大粒の涙が流れた。

(そうだ何で忘れていたんだろう。リズがいたから俺には帰る家ができた。リズがいたから俺は俺でいられたんだ…。)

涙は溢れとどまることを知らず、汗と混じって口に流れ込む。

「はは、しょっぱ。」

何故か笑いがこみ上げてきたグノは笑いながら涙を流す。その姿は痛々しく悲しい。グノはそんな呼吸もままならない状況でも歩みを再開する。

「リズ…。」「リズ!」

鼻声のグノの声は森に響くがやはり返事はない。

(森じゃないならまだ町に?)

グノはそんな考えをもって、町に続く道を選び入っていく。


町は夕暮れ。人の姿はまばらで活気はなくなっている。その中でもかろうじて外にいる1人1人を確認しながらグノはリズの名前を呼ぶ。

「リズ!」「リズ・フランボン!」

注目を集めていることがわかっても気にせずグノはリズのことだけを考え続ける。

「どうしたんだい?」

すると、見かねた女性がグノに声を掛けてくる。その女性は以前リズとはぐれたときにリズとともにグノを探してくれた人だった。グノはその懐かしい顔に藁にも縋る思い出聞く。

「リズ、リズがまだ帰ってきていないんです。何か知りませんか?」

その慌てぶりに女性はただ事ではないと思う。

「まずは落ち着きな。それからいつどこでいなくなったかだ。」

背中を叩きしっかりしなお兄ちゃんと言われ、グノは呼吸を意識する。そして大きく一息した後、女性にこれまでのあらましを語る。昼頃町に買い物に出ると言ったきり家に帰ってきていないこと。家周辺を探してもリズはいなかったこと。自分は夕方まで寝てしまっていて今まで気づかなかったということ。すべてを話した。黙って聞いていた女性はそこまで聞くと頷く。

「よしっ。私も手伝うよ!」

そう言って女性は、行き交う人々にも協力を募りながらリズを知らないか聞いていく。

「リズちゃんって言うんだけどね、背は私の腰丈くらいで綺麗な黒髪にルビーみたいな目の色をした女の子で…。」

グノはそれを見て、自分も同じように道行く人に声を掛ける。

「すみません。女の子見ませんでしたか?」

「すみません、リズっていうんですけど…。」

グノはなりふり構わず目についた人全員に声をかけていく。しかし結果は惨敗。

「いや、知らないね。」

「すまないね。」

リズのことを見たという人は見つけることができない。また女性の方も結果は芳しくないようだ。

「困ったね。」

女性は手詰まりを感じてしまうが、それはグノも同じだった。

「くそっ。」

(ほかにできることは…何か何かないか。)

グノは苛立ちながら悩む。しかし良い案は思いつかない。

(この悩む時間がもったいない。とにかく行動しないと…。)

そう思い市場を抜け、住宅街に走り手当たり次第に戸を叩いていく。

ドンドン。

「すみません、ちょっといいですか!緊急なんです!」

「グノ君…。」

その必死の様子に女性は胸を打たれる。女性もあきらめず、住宅街の通行人に話しかけるのを続ける。

「ちょっといいですか!」

家々を尋ねまわり、もう何件目かわからなくなった時だった。

「はい。」

グノが家の戸を叩くと出てきたのは、中年の男性だった。

「すみません。今迷子を捜しているんですけど、リズっていう名前で、特徴は…。」

グノは男性の了承も得ずにどんどんと話していく。

「ちょ、ちょっと待って、もう少しゆっくり頼むよ。」

男性はグノの勢いに圧倒されながら、グノの話をしっかり聞くため間に言葉を挟む。

「はい。えっと、リズっていう名前の…。」

グノはその男性の言葉に目をぱちぱちさせるがすぐに話を再開する。今度は気持ちゆっくりと話すように気を付けながら。そうしてもう1度リズのことを話すとグノは最後に聞く。

「見たとか聞いたとか何でも構いません。何か知りませんか?」

「うーん。」

男性は首をひねりながら少々考えこむ。グノはその瞬間さえも惜しく感じる。

「っ。あの、俺他の家回っているんで何か思いついたら…。」

グノが痺れを切らし、その場を立ち去ろうとした時だった。男性は思いついたように声を出す。

「あ。」

グノはその声に走りかけていた足を止め、振り返る。

「何か!?」

グノは期待を込めて聞く。

「ああ、多分だけどその子に似た子を見た気がするよ。」

男性は保険を掛けた言い方をしながらグノに言う。

「どこにいましたか?」

「市場の入り口付近さ。でもその子は騎士と一緒にいたよ。」

「騎士?」

「ああ、迷子なのかと思ってその時は特に気にしなかったけど。」

「…。」

グノはリズの手掛かりが見つかったと喜んでいた気持ちが一気にしぼむ。


「どうしたの?リズちゃんの行方に関する手掛かりでも見つかった?」

男性の前で立ち尽くすグノに、一緒に探していた女性は心配になり尋ねる。

「はい…。でも迷子ではなく…。」

グノの脳内には「王宮」「実験体」という単語が浮かぶ。


「騎士と一緒にいるところを見たって話したんだ。」

「あらそうかい、それなら迷子になって騎士様に助けてもらっていたのかね。」

グノの頭が最悪の想像をしているときに2人はそんな会話をしていた。しかしその会話がグノに届くことはない。


「俺、王宮に行ってきます!」

「え、」

「女性が引きとめるのも待たず、グノは王宮に向かって駆けだしていた。


「リズ…。」

グノは走り回りつかれた身体に渇を入れながら走る。

(大丈夫だよな?なあリズ!)

グノは無駄な事とは思いつつも不安な気持ちに蓋をしてただひたすらにリズが無事に王宮で保護されている姿を想像して心を宥めるのだった。


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