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目玉焼き

「はー。」「疲れた。」「にゃー。」

2人と1匹はベッドに横になり、疲れ切った体を休ませる。あれから何とかマリウスを捕まえお風呂に入れることに成功した2人だったが、その時マリウスが暴れたせいで2人もお湯でびちゃびちゃになった。そのため、2人も交代でお風呂に入り、今、こうして休んでいるというわけだ。

「もう動きたくねーなー。」

グノは疲労と慣れで砕けた口調になる。

「ほんとうだねえ。」

リズも心地よい疲労感に眠気を誘われながら呟く。開けはなれた窓から和やかな風が入ってきて2人と1匹の顔を優しく撫でる。太陽は沈み切り、もう眠りを邪魔するものはいない。2人と1匹は思い思いの体勢になり、眠りの中へと進んでいくのだった。


「グノ・シルバー魔力あり!」

グノのかざした魔力判定器が輝きグノを照らす。そして側で見守っていたものたちは口々にグノに言う。

「グノさすが私の息子ね!」

「グノ君は期待の新星だ!」

「きっとすごい魔女様になるわ。」

グノの周りにはその時確かに人がいた。しかし。

「どうしてあなたはこんな簡単な術もできないの?」

「グノ。君に魔女様と名乗る資格はない。」

グノの身体には魔力を十分に操れる力がなかった。

「あなたが息子だなんて情けなくて恥ずかしいわ。」

「僕も頑張っているんだ、でも…。」

「言い訳なんか聞きたくないわ。もうあなたには期待なんてしないから。」

「グノ。君はどうして何度やってもできないんだ。」

「すみません、先生…。」

「もういい、2度と私を先生と呼ばないでくれ。」

そう言ってグノの大好きだったものはグノの前からいなくなる。

「ほら彼が魔法を使えない。」

「できそこないの魔女。」

グノはただの魔力持ちの人間になる。しかしそれもグノにとって過酷な生活の毎日だった。グノは1人暗闇の中に残される。そこはどこまでも深くどこまでもグノを潜り込ませた。決して光を見せず、絶望ばかりが連続していく。抗っても抗っても暗闇はグノを引きずり込む。

「うっ。」

(やめろ。俺は、おれは!)


「グノ!」

その時、1つの光がグノを導く。リズの声だ。


「はっ。」

グノはその声で眠りから目覚める。そこは暗闇とは無縁の空間。リズの家だった。外はまだ薄明かりで太陽が完全に出てきていない。しかし窓から見える赤みがかったオレンジ光は優しく家を照らしている。

「だいじょうぶかい?」

リズは真ん丸な目で心配そうにグノを見つめる。

「あ、ああ。」

グノは自分がびっしりと汗をかいていることを自覚しながらなんとか返事をする。

「ほらホットミルク。」

差し出されたカップを無言で受け取り1口飲む。ミルクは人肌に温められ丁度良く、ほんのりと甘みのある味だ。

「おいしい…。」

グノはかすれた声で呟く。

「そうかい。」

リズはそれだけ言うと、優しくグノのことを見つめる。グノはその視線を感じながら、ホットミルクを1口2口と口に運ぶ。

「その…。」

グノは言うか迷う。

「きにしなさんな。ホットミルクはわたしのついでだよ。」

リズはグノに自分の持つカップを見せながらまねして1口ホットミルクを口に入れる。グノはさすがにそれがリズの気づかいだとわかった。グノは息だけで笑いながらリズに心で感謝する。

「お腹すいたのか?」

「ああ、きのうたべなかっただろう?ペコペコさ。」

2人はマリウスの眠りを邪魔しないように小声でおしゃべりする。

「食いしん坊だな。」

「グノもだろう?」

飲み干されたホットミルクのカップを持つグノを指さし、リズはにんまりと笑いを作る。

「―っ。しょうがないだろ。」

グノは素直じゃない。

「すなおじゃないねえ。」

リズはそう言い、カップを流しに持っていこうとくるりとグノに背を向ける。

「俺がやるよ。」

グノはそんなリズの後に続き、立ち上がってリズの持つカップを優しく取り上げる。

「グノ。あんたいいやつだね。」

「あたりまえだろ。」

そんなことを言いながら、2人はキッチンへ入っていく。


「じゃあせっかくだし、あさごはんでもつくろうかね。」

リズはごそごそとグノが流しへカップを置いている間にフライパンを取り出しながらグノに言う。そして上着の袖をまくって、気合を入れようとする。

「じゃあ俺も手伝うよ。」

グノは、流しへカップを置くとリズの後方へ回り上着の袖をまくってやりながらそう返す。

「ありがとね。たすかるよ。」

リズは2重でお礼を言い、グノに冷蔵庫からとってほしいものを指示する。

「卵とベーコンだな。」

グノは冷蔵庫を開け、リズに言われたものを取り出す。

「ありがとよ。」

リズは踏み台に乗りながらそれらを受け取る。


「目玉焼きか?」

グノは自分も腕まくりをする。

「ああ、ていばんだろう?」

リズは油をフライパンにひき、火をともしながら返す。

「さて、グノたまごをわってくれるかい?」

「ああ。」

グノは卵を受け取り、そして固まる。

「あ。」

「グノ?」

リズはフライパンを置き、固まるグノとその手に持つ卵とを交互に見る。

「そういや俺、料理したことないから卵の割り方がわからない…。」

グノは本気でどうしようという目でリズを見る。

「…ははっ。」

リズはあまりにも可愛らしい理由と絶望したような顔のグノに笑ってしまう。

「笑うなよ、今思い出したんだ。」

グノは恥ずかしそうに顔を赤らめて卵を握る。リズはその様子がさらにかわいいと思ったがそこは笑わぬように我慢する。

「ほら、おしえてやるから1コおかし。」

「うん。」

素直にグノは卵を1個渡す。

リズは卵を受け取ると、フライパンの淵でコンコンと軽く卵をノックさせヒビを入れる。そしてその割れ目から手を入れ、殻を2つに割り、中の卵をフライパンに流す。するとフライパンはじゅっと言う音を立て、卵の白身を少し白づかせる。

「どうだい?かんたんだろ?」

リズはほらともう1つの卵をもたせグノにフライパンの近くに来るよう促す。

「ああ。」

グノも作業を見て、これなら自分にもできそうだと思いフライパンの側に立つ。そしてコンコンとフライパンの淵で殻を割る。つもりだった。

「ゴンゴンッ。」

グノには力加減がわからず、思い切り卵を叩いてしまう。すると中の黄身はわれ、殻と混ざり合いフライパンの中は殻と黄身のごちゃまぜになる。

「ああ。」

グノは情けない声を出し、自分の失敗に落ち込む。その激しい落ち込みようを見てリズはグノの肩をポンポンと軽く叩き、励ます。

「そんなおちこむんじゃないよ、はじめてはみんなこんなものさ。」

「でもリズは上手だ。」

グノはフライパンの中の自分の卵とリズの卵を見比べながら顔を下に向ける。

「なにごともれんしゅうさ。」

そう言って励ましてもグノは顔をあげなかった。

(これは夢を引きずっているのかねえ)

リズはそんなことを思いつつ、グノの顔を両手で挟みぐっと上にあげる。

「これからまいにちいっしょにつくればいいんだからさ。」

落ち込むグノを元気づけるべくリズは明るい声でグノに言う。

「毎日一緒に…。」

グノにはその言葉が刺さった。夢の中の言葉たちが少し薄れていくようにも感じる。

「ああ、まいにちいっしょに。」

グノはリズの手に挟まれた顔をリズの顔の方に向けリズに言う。

「絶対だぞ。」

「ああ、ぜったいだ。」

リズもそれに応えるべく、元気よくグノに言う。

フライパンの中の卵たちは熱で2つに融合し、固まって出来上がる。それは今後の2人のそして1匹の生活の様子を現わしているようだった。


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