昼食デートですか?
ゆっくりした進行になるはず。多分!?
「どうだ? 少し落ち着いてくれただろうか?」
「ええ。少しだけ。」
「それは良かった。」
そう言いながらもこの男は私の手を放してくれない。いや。なんか変にめちゃくちゃ意識を私だけがしてると思われるのも癪になってきた。
「私は変な呪いや病気ではなかっただろう?」
ぎゅっとあたしの手を握る。ああああああ。カッコイイ好き! じゃなくて!?
「そうですね。それは認めざるを得ませんね。」
「そうだろう。」
なぜニコニコしているのでしょう?
待てよ私。今私はきっと閉まらないデレデレした顔をしているに違いない。
「少し、失礼。」
彼の手をパッと払いのけ、手鏡を見て顔を整えた。
ほら。これこそがが私のポーカーフェイス。
「それでは仕切り直しをさせて頂きます。」
彼女の目がカッと開き瞳孔が開いた。それはまるで獲物を狩る肉食獣のような鋭さである。私はこの目にいつも恐怖を感じていた。
ビクリと思わず距離をとってしまう。急に動かされたグラスのアイスがカランとなった。
「あのう? 急にどうしたんですか?」
「い、いや。何でもない。(怖すぎるのだが・・・。)」
そう。いつも通りの彼女はやはり怖いので、私は彼女がいつ持ち直しても良いように下調べをしてきたのだ。
そうだ。私がこの小さな店にわざわざ足を運んだ理由は・・・。
ここの店主と店員である。
アイコンタクトでヘルプを求める。恋愛で埋まらない溝は惚気話で茶を濁すと良いとシルフィーナの側近が言っていた!(この男いろいろ入れ知恵されてきている)
「お二人はご夫婦さまでいらっしゃいますか?」
「ふ、え~!? 夫婦? ち、違います!」
急に先ほどまでのキャラはどこへやら彼女は顔を真っ赤にして慌てだした。
グッジョブ!! やっぱ可愛い! 好きだ!
「いづれ私はそうなりたいと思っております。」
キリッとなんか言い出したよ!? この攻略対象その1が!?
「お2人は大変仲の良さそうなご夫婦ですね? 良かったら馴れ初めをお聞かせ願えませんか。」
「え。そう見えますか? 照れますね。ありがとうございます。」
照れた顔の女将さん。実はねえ・・・。ゆっくりと昔話を始めた。
*****
ある快晴の春の柔らかな斜陽が射す日。この世界に古の邪神が復活した。
邪神はそれはそれは悪い存在で、古の勇者と聖女によって封印が解かれた直後で、直ぐにでも喰らえる獲物を探していた。
前を見れば、20歳ばかりになる小娘がのほほんと歩いているではないか。
「我の糧になるが良い! 光栄に思え!」
そう言って掴みかかって生命力を吸い付くそうとした。
だがその牙が彼女に突き刺さる事はなかった。
彼女はヨロヨロと突然塞ぎ込み、咳き込み始めたからだ。見ると手に血を吐いている。
もしかして、こいつ病気なのか!? 我こいつを吸収して腹を壊さないだろうかとその時真剣に考えた。
ふいに彼女が我の殺気に気付き、振り向いた。
「どちらさま!? まあ。ありがとうございます。ご親切にして下さり光栄でございます。魔族のお方。」
どうやら我がこやつの首をへし折る為に伸ばした手を倒れたから立たせてくれようとしていると勘違いしたらしい。
彼女はおれの手に支えられながら立ち上がった。
不意に背後から彼女を探していたのか、両親が現れた。我がこのような者たちの接近に気づけないとは。とても弱体化してしまっているのを感じる。
今ならこの雑魚ども3人がかりなら我討伐されてしまうのではないか?(さすがにそれはない。)
もしや、この2人は手練れなのか!?(ただの天然系おしどり夫婦)
「お母さま、お父さま。私この方に助けて頂いたんですの。」
「まあ。そうなのねえ。ありがとうございます。娘がご迷惑をおかけしまして。本当にすみません。あの、良かったら、我が家で夕食いかが!?」
「ぜひ、お礼をさせて下さい!」とお父さん。
「あ、ちょ、違う! なんだお前ら!? やめい!」
我の叫びは虚しく、食卓まで通される。
「ごめんなさいね。飛び込みの来客だから。たいしたものはお出し出来ないけれど!」
「なんだこれは! 旨い!」
「そうだろう、そうだろう!」 とても上機嫌なお父さん。続いて我妻の料理は世界一だと言っていたとか言っていなかったとか。
「フフフッ。たくさん食べて下さいね! 邪神さん!」
そんなこんなで流される毎日だった。
いつの日か。お母さんに捕まって我は告げられてしまった。
「あなた良いの男ね! もう我が家の息子になりなさい!」
「い、いや。我は・・・。世界征服という野望が・・・。」
「あら。器まで大きいの! 素敵だわ~。ねえ父さん。」
「ああ。見込みあるな!」
「世界征服も素敵だけれど、あなたが帰る世界、大事な世界を作ってみましょうよ!? ね!?」
「分かった。我ガンバル。」
そしてさらに流され数年が過ぎる・・・。
「また小娘が体調を崩して寝込んでしまったの。ねえ。ジャーシン。あなたが側で看病してくれないかしら。」
「わ、我がか? なんで?」
「あの子ああ見えて、ジャーシンの事が好きなのよ~。ね!? 絶対に喜ぶからね!?」
「分かった。我ガンバル。」
枕元で日々看病をした。時々ふとミラーは我を見て泣き出す。
我はそのときオロオロするしかなかったが、頑張ってある日理由を説いただした。
聞くと・・・。
「ジャーシンは私といつか離れてしまう気がするの。」
だそうだ。我はここで以前お母さんに言われた、帰る場所が欲しいのに。
「我の帰る場所、ここにある。ミラーの側がずっとそう。それじゃダメなのか?」
「いいえ。とっても嬉しいわ。ジャーシン!」
そう言っていつもの家族のスキンシップとは違う熱を帯びた包容をしてきた。
「私はジャーシンの事が好きなの。ジャーシンも同じ気持ち? ねえ。教えてよ。」
我の胸倉に掴みかかってミラーが半泣きである。
「我もミラーの事が好きであるのかもしれない。」
「愛してるって言って?」
「ミラーの側我ずっと離れない。ミラーをあい、して、いる。」
我に刻まれた数百年我の身を蝕み続けていた聖魔法の古傷がしだいに消滅していくのを感じる。
*****
と、まあそんな感じで今日の今日まで続いて来ましたとさ!
「それからの毎日、主人は私の事をずっと大切にしてくれているのです。お恥ずかしながら。父も母も天国から私たちの事を応援してくださっているに違いないわ。」
「お2人はまだこれから! 我オウエンする!」
「なんて、感動する話だったんだ。ありがとうございます。私もきっと彼女を幸せにして見せますから。」
なんか一人で感動して私の肩を抱き寄せている。ヤバい。幸せすぎて。ヤバい。
雰囲気に飲み込まれてしまう私が憎い…
でも、ジャーシンとは邪神の事じゃないでしょうか?
という事は邪神が天使に拾われたただそれだけのお話だったのかもしれない。
読んでくれてありがとう♪