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篭の中の鳥

最終話になります。更新遅くなりすみません。*一部変更あり。

牢獄へ投獄されてしまい私は絶望にふしてしまった。


まるで何かを挫折してしまったようで。結局は私は悪人にも完全にはなりきれなかったのだろう。


どんな人にも悪いところはある。そのありふれた言葉さえ見失ってしまうほどに。



壁をつたっている奇妙な蜘蛛に目がとまる。私はもう自由にはまわれないけれど。きっと君ならまだ外の空気もすえるから。


窓の外へ逃がしてあげた。


「何をしているんだい。シルフィーナ。」


少し厳しい声でフィレンチェが話しかけてきた。まるで最初にあったときのようなトゲトゲしさだ。


「もう話すことはありませんわ。もう全て話しましたから。」


「分かった。君には国家転覆罪が疑われている。君は奴と話したね。」


「・・・。」


「その無言は肯定と取らせてもらうよ。まあ、ここにはなにもないのだけれどゆっくりしていたまえ。全てが終わるまで。」


返事なんてできるわけがなかった。裁判でとわれた罪状はほとんどが眉唾物だったのだから。


ただ・・・。これだけは確かだ。私はある村への襲撃事件に関わってしまったのだから。そこからはときどきだが意識がのまれる。


空を見上げた。もうすっかり秋だ。女心のようですわね。


なにもすることのない独房はまるで本を読むページをめくるようにあっという間に終わる。


本当に何日たったのでしょうか。もう意識がハッキリしていない。


私はきっとあの狂人たちによって祭り上げられ見せしめとして見殺しにされるのだろう。


でもそれが嬉しくも感じてしまうのは私も狂人になりつつあるのかもしれませんわ。


ああ。フフフフッ。ねえ、フィレンチェ。私が生きた意味なんてあったのかな。もう楽になりたい。歴史上の最悪の悪女として汚名を残してしまうでしょうけども。


フィレンチェと一緒にいたあの日が懐かしい。


こんなに都合のよい思い出ばかり考える私は本当に愚かですわね。


ハハハッ。今まですっかり上手くやってきたつもりでいた。


もし、もしも悪の元凶である私が悪に染まらなかったら。もし世界の調整力が働いていたとしたら。


きっと私以外の悪が現れ世は乱れるただそれだけだったのだ。


もうどうでも良くなった。早く終わってしまえば良い。だいたいフィレンチェだってもっと私を蔑み罵れば良いのだ。


自分の信頼を裏切り悪事にそめた最愛のひと。私だったらとうてい許すことが出来ない存在なのに。


「シルフィーナどの。覚悟はお済みですか。ではこちらへ。」


「ええ。お世話様でした。」


軽く会釈をし、ここ数カ月の感謝を伝える。


「・・・。」


看守たちはなんともいえないような顔で私を横目で見ていた。廊下を歩くと他の受刑者が何人もいる。


みんな極悪そうな顔ばかりだ。そしてその中に私もいる。


「ここへどうぞ。」


一番奥の部屋へと通される。


ここは客室だろうか。小綺麗な部屋に思わず身構える。


「やっと来てくれたか。」


その声は数カ月ぶりの攻略対象その1であった。


寡黙な背中。夜空を照らすブルームーンのように少し肌寒くなっていた風にゆれるおかっぱ頭。


クルリと振り向き、自信にあふれた笑顔を見せつけてきた。


「どうぞ。座って。」

「はい。」


「すまないが。少し身軽にさせてくれないだろうか。」


「すみませんが、お断りさせて頂きます。」


「頼む。」


あまりにも澄んだ空のような瞳の美形にほだされてしまったのだろうか。


「公爵さま。分かりました。ですがこう言った例外は固く禁止されています。あなたを信用して特例としますが他言なきよう。」


「すまない。」


スッと視線が私へと戻る。真っ青な水色に吸い込まれてしまうような感覚が。これは錯覚!?


「シルフィ。あんまり見つめないでくれ。」

「す、すみません!」


思いがけず顔が赤くなった。


何か手元から取り出した。小さな瓶だろうか。


「手に入れるのに大変苦労したよ。これから起こることで心を揺さぶられるかもしれないが、準備は良いかい?」


きっと毒を仰げということだろう。胸がせつなくうずく。まさか最後をフィレンチェに看取ってもらえるとは。


神さま。きっとこれが私の最後の願いです。フィレンチェの人生に祝福を下さい。


私はきっと大丈夫ですから。


グラスを手にとり一気に中身を仰いだ。


「・・・。」


「すぐには効果は出ないはずだ。もう少し・・・。そう。なにか感じて来ないだろうか。」


猛烈な吐き気が下腹部を襲う。しだいに気道をこみ上げてき、なにかがまほろび出そうになった。


だがそれは口にしたものではなく。これはそう・・・。私が昔いた日本では魂というものだろうか。


不思議なことにを喉の奥が熱く脈打っていた。出ていきそうで出ていかない。


ふと手元にくすぶる呪いのようなものが浮かんで見えた。深黒の血管のような管がまきついている。


これはいったい!?


「やはりか。何かしらの呪いをかけられていたか。」


「・・・。」


「大丈夫だ。私を信じてくれ。ではひと息はさんでから。良いか? では始める。」


身体に悪寒が走るような震えがおきはじめた。私の命の炎が揺らいでいる。このような異変はじめてだ。


「私はどうなるの・・・。」


「あと少しだ。もう少しだけ。そろそろ吐き気も治まってきただろう。大丈夫そうか?」


不思議と気持ち悪さが抜けていく。ホッとひと息つけた。


コクコクっと頷いた。


彼の手の平の上にいつの間にかいくつもの魔法陣が浮かび上がっていた。この量はきっと私がもだえ苦しんでいた時も私に声をかけながら励ましてくれながらも魔法の術式を組み立てていたようである。


背中がスッと冷えていく。背中からいくつもの糸がフィレンチェの手に吸い込まれていっている。


ライオンのたてがみをもし持っていたら全体を愛撫されているようで。


なんとも言えない安心感に包まれていく。


耳元で天使のオルゴールと讃美歌を聴かされている気分だった。


薄れゆく意識にあらがい、彼の顔を見上げた。


彼は目をギュッとつぶりながら、聞き取れない小さな声で呪文を詠唱し続けていた。


大変な集中力を強いられているのだろう。頬をいくつもの汗がつたう。


術式が完成したのだろうか。今まで目が4つあり、世界を見つめていた感覚が消え去っていく。


元の思考、元の自分に戻っていくようで。


フィレンチェは私を呪いから救ってくれているのだ。そのことがただ嬉しくて。彼が愛おしかった。


感情が爆発し、思わず情緒がみだれる。フィレンチェ。本当に・・・。


彼はげっそりとした顔を見せながら、術式を完成したのを見届けそっと私の頬をなでた。


きっとどういうことだった。とか、今なにをしたとか言いたいことはあるのだろう。でも、彼が選んで言ってくれたのはそれのどれとも違っていた。


「良かった。いつもの君だ。」


彼はそういって心底ホッとした笑みを浮かべていた。


*****

↑(追加分になります。m(__)m)


断罪のときが来た。


これから私は自分の罪をさばかれる。


今あたまの中で思い浮かべるのはフィレンチェの後ろ姿だ。


「私、いや手柄のひとり占めは良くないな。私たち全員が君の帰りを待っているのだ。フフッ。ひと言にとどめておくが、それはドックハット公爵家君の実家の父母や屋敷のものたちがたいそう憤慨している。お嬢さまをはめたものたちには地獄を見せてやるとな。」


「ええ。今なら私も自分の無実を信じることができますわ。あなたのおかげです。フィレンチェ。」


「ああ。抜かりなく相手を倒しきる準備は整えてきた。まったく敵に同情したくなるくらいだ。」


「ではまた後で。」


「ええ。」


まったくこんなにも頼もしい味方はそういないだろう。なんせ私がもし本当に闇落ちしてしまった際に身近で私に剣を突き立てるほど尖ったポジションにいる方はフィレンチェしか思いつかない。


だからこそだ。彼が味方についてくれるのは心底心強い。



******



「さて、被告人。そなたは今からさばかれる。用意は良いかシルフィーナ公爵。それでは裁判を始める。」


開廷の音が鳴り響いた。


私は被告人として出席している。だが、なんだろうこの雰囲気は。


私の弁護側の熱があふれかえっており、まるで室温を変えてしまっているようである。


フィレンチェの背は怒りを込めているのが全く身じろぎもしないところから伝わってくる。


「被告人。そなたは罪は国家を転覆する罪だと進言がある。それは真か。」


「いいえ。全く身に覚えもありませんわ。」


「となりの村の惨劇に始まり。有力貴族を懐柔し悪事に加担させるように脅迫していたそうだな。それについてはどう答える?」


「その通りです。裁判長! 彼女こそが悪の元凶です! 私の貴族領もずいぶんと辛酸をなめさせられたもんです!」


「その通りですとも! ブルドーザー公爵家にも弊害が!」


「静粛に!」


カンカンカンッ。金づちが打ち付けれた。


まあ。このわたくしをはめようとしているのだもの。偽の記憶を植え付け、人格を分離させる呪いをかけてまで。


なんで鬼畜だろう。私に全て罪をなすりつけ、自分たちの平穏な生活を守ろうというつもりらしい。


ああ。許しておかないわ。そうよねえ。あなたたち、誰に手を出したかお分かりでないようね!?


「フフフッ。ねえ。あなたたち。いくら欲をだしても、絶対にしてはいけないことをしてくれたわね? まさか私を貶めてからフィレンチェの権力の基盤を崩しにかかるなんてねえ?」


裁判長は私を制止しなかった。彼にも何かしら思うことがあったのかもしれない。


「まず。あなたたちはこう考えるべきだった。なぜ私の罪状は万死に値するのに陛下が裁判をこの時期まで伸ばすことに決めたのか。そしてこの国家にとっても重要な裁判になぜ陛下が出席していないのか。」


「な、なんだと!?」


「ええ。あなたたちは良くやったわ。どんな悪事もいつかは暴かれる。あなたたちは私の警備隊たちでさせもなかなかあなたたちの証拠をつかむことが出来なかったのですもの。でも、あなたたち、油断したわねえ。」


「なんだと! 我々がなにかしたとでも!?」


「ええ。」


私はただ笑顔で肯定した。


「ここからは私から話させてもらおう。裁判長、発言の許可を。」


「フィレンツェ公爵。許可する。」


「感謝の意を捧げます。裁判長。さて本題に入ろうとしましょうか。まずブルドーザー公爵あなたたちの罪状についてです。我が国の機密情報及び内乱の火種の元凶はあなたたちだ。それにあの例の男たちとの関与の疑いもある。」


「ハッハッハ。なにを言うかと思えばそのような戯言を。そのように私どもを非難するお覚悟があるのならば、さぞしっかりとした根拠や証拠があるのでしょうなあ?」


「面白い冗談を! その証拠が今日そろう。これこそが醍醐味ではありませんか!」


なんという悪い顔でしょう。フィレンチェが私を断罪する側にいたらもう絶望でしかない。


だがまだ話は続きそうである。


「今陛下直々に他国とのいざこざの火種を消しにかかっております。国の中心に国家の関心が集まっている時に謀反をおこすつもりだったのでしょうが。そうですねえ。先ほど首謀者を捉えたと密偵から連絡が入りましたがなにか言い残すことは?」


「わ、私たちは無関係だ!」


「おやおや。陛下はそこまで寛容じゃありませんよ。寝言はほどほどに。さもなくば一命を受けている私がこの場であなたたちを切り伏せても良いのですから。」


「それははすがにご遠慮頂きたい。」と裁判長。


「ググウ。クソが!」「覚えてやがれ!」「楽に死ねると思うなよ!?」


裁判官「これにて閉廷する。」


テンプレな悪党の退場っぷりを拝みつつ私は弁護団に迎え入れられた。


マリリン「お嬢さま。お嬢さま会いたかったです~! ウウウ良かったです。」


アンジェリカ「昔私をかばってお嬢さまは世間に汚名を轟かせてしまったことを私ずっと忘れていませんから。本当はお嬢さまは心優しいのに。グスン。」


「わ、分かったから。みんなご心配おかけしました。ごめんなさい。とりあえず馬車に座らせて!? ね?」


私は仲良しメイドたちに絡まれ疲労のあまり意識を失いそうだった。


そんな私を心配して抱きかかえようと後ろでスタンバイしているのがフィレンチェだ。今はなんとか我慢しているのだろうか。手をひいてくれるだけにとどめてくれている。


「大丈夫シルフィ? 頼むから無理はしないでくれ。」


3人の心配そうな顔に囲まれ私は気が緩んでしまったのか崩れおちた。


そっと抱きかかえられた私を馬車に横たわらせると、馬車は音もなく走り出した。


馬車の中で3人はしばし沈黙を守っていたが、現状を確認し始めた。


「ああ。ブルドーザー公爵も哀れだよなあ。全く。シルフィを篭の中に閉じ込め、すっかり追い込んだつもりだったのだろうが、彼女のことだ。普段からみんなに世話を焼いているせいで、彼女のために命を投げ出さんとする忠臣たちがこんなにもいるんだ。逆に外から包囲をかけられているのはお前たちのほうだというのに。」


「ええ。それにしても公爵さま。奥さまのこの慕われぶりはどうなんでしょう? あの血にうえた世界中屈指の猟犬ども(棟梁たち)がお嬢さまに心酔なさっていて。ここまで活躍してくれるとは思いませんでした。」


「確かにな。彼らの働きぶりは見事だった。我が国に害なさんとする輩はこの前の武力侵攻もそうだが、内部からも常に狙われてきた。それをこうも容易く屠って魅せるとは。恐ろしいばかりだ。」


その通りだとばかりに2人のメイドはうなずきあった。


少し冷えてきたのだろうか。ぐっすり眠っているシルフィがくしゃみをした。


くしゃみをするシルフィが可愛い。おっとそれどころではない。そっと背中をさすって暖をとってあげる。



*****



眼を覚ますと、もうお屋敷の前だった。


「お嬢さま~!」

「公爵さま!」


「お嬢!」


みんなの笑顔がはち切れんばかりである。馬車の前にはたくさんの手がてんやわんやとあり、ハイタッチを求めていた。


開かれた扉。止まぬ喝采。天地が震えるほどの歓声。


「ワアアアアアアアア!!! シルフィーナ公爵万歳! ばんざーい!」


くたくたになっているというのに。みんなの気持ちに応えたい。私はキュッとお腹に力をいれ、手をふった。ちゃんと笑顔を作らなきゃ。


ぐらりと視界がゆれる。まだ体力が万全でない。裁判が早く終わって休憩もできたというのに。


「すまない。シルフィは今たいへん疲労が蓄積している。また後であいさつの機会をもうけさせてもらっても良いだろうか。」


シーンとなった一同は思いを小声で口にした。


「お大事になさってください。」


「いつもありがとうございます。大好きです。シルフィーナさま。」


「早く元気になってください!」と子供たち。



*****



後日陛下からお手紙が届いた。重要書類のようなので、私ははやる鼓動を抑えながらそっとレターナイフを手にとる。


おそるおそる手にとって目を通す。


そこには・・・。


~先日はお世話になった。

 我が国のためにこれからも励んでくれ。新しい指令を言い渡す。

 そなたの警備隊の実力を見込んでの頼みだ。

 

 名をMFC(mal fille chef)とし、国家の秘密機関とするよう。

 その司令塔こそがシルフィーナ公爵、そなただ。~



「ふぁ!?」


「どうしたんだい? シルフィ!? なにか問題でも?」


「私が悪の親玉ですって!?」


「似合ってるよ。ごめん。シルフィ。無言でたたかないで。」


「どうなっていますのよー!」


悪役令嬢わたしの悲痛な嘆きが屋敷に響き渡った。


「痴話げんかだな。」

「痴話げんかね。」

「痴話げんかですか。」


屋敷のみんな誰もが思いつぶやいた。







































読んでくれてありがとう♪ 作者ここ数カ月つらいことが多かったので、癒しが欲しいそう思ってできたのが今作です。


読者の皆さまにも幸ありますように♪


ごめんなさい。一話分話が消えておりました。最終話に追加させて頂きます。読んで下さった皆さままことに申し訳ございませんでした。m(__)m

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