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本来の役割

短めの投稿です。お久しぶりに書くと筆が走らない( ;∀;)

今日は少し恥ずかしすぎて私はめずらしくフィレンツェにイラっとしている。


私がフィレンツェに対して苛立つ感情を持つのは大変めずらしい。他の女性と楽しそうに会話をしているとき以外は。


事態は数日前から始まった。


我が領は広大である。それゆえに領主の顔が領民に行きわたってないことが問題視されていた。まあこの忠言も私が政治の担当の一役として一任している部下からである。


そういう訳で私は今似顔絵を描いてもらっているのだが・・・。


「あああああ。もう、こんなもんじゃない。おお、神よどうして世界はこうも残酷なのですか。私には公爵さまの美しさを表現する腕が技術がなさすぎるのです。ああなんて嘆かわしい。私の職へ捧げてきた想いは技術はこの程度だったとでもいうのか。もっと命を魂を燃やして取り掛からねば!」


ホロホロと涙を流し嗚咽にあえいでいるのが世界一の腕前とも称されるアリストエロスである。


そしてそのとなりで「分かる・・・。分かるぞ。しかしそなたほどまでに彼女を神秘の存在として人類の限界点まで描こうとしたものがいただろうか。」と言っているバカが私の夫である。


あああ。もう。さっきからずっと同じ姿勢ばかり・・・。もう大変ですわ。そして私に注がれる世界一の悪役令嬢であれという期待に満ちた4つの目・・・。


その期待がどれほど重たいか。まるで聖母のような微笑を浮かべ続け、微塵も辛さを感じさせないようにふるまうのがどれほどに過酷か。


おのれおのれおのれ。結局はフィレンツェあなたも・・・。思考が赤く染まっていくのを感じる。


お花をつみに行きたいですし、何かと鼻のさきがかゆくて気がきではない。


「ねえ。そろそろいったん休憩をはさもうか。流石に座りっぱなしだと大変だからねえ。シルフィ無理はしないで。」


私が建前だけでも反論をしようとしたところ笑顔で制してくれたフィレンツェカッコイイもう好き。


部屋を出て用事をすました帰りの廊下でふと気になりガラス窓越しに映っている自分の顔をのぞく。目鼻立ちがくっきりとしたまなざしが強い圧倒的な美貌。未だに自分の顔になれない。


でもなにか違和感がある。先ほど感じた強い感情あれはいったい何なのでしょう。恐ろしくなり背筋がゾワリと震えた。目頭の奥がズキズキと痛む。


私はもう自分が分からない。今まで感じたことのない憎悪の念。この気持ちははたしてコントロールができるものだろうか。自分を信じ切れずに自信が揺れ動きどんどん憂鬱な気分になって行ってしまう。


絶対にフィレンツェを傷つけたくない。迷惑をかけたくない。


ああ。私は彼のことをこんなにも愛してしまっていたのだと今さらながらに自覚した。


ドアをあける前に気を引き締める。不安を顔に出してはいけない。


靴の下のザラザラした床を意味もなく強く踏み込んだ。


「今回の作成段階はもう十分とのことだ。今日はもう画伯にはお帰り頂いたよ。」

「あら。そうでしたか。最後にあいさつでもと思いましたのに。」


「シルフィ。お疲れさま。おや。もうそろそろ夕食の時間だね。カフェテリアに移動しようか。」

「ええ。そうね。」


2人そろって歩くのが今は辛かった。彼の背を恨めし気にみる。


ねえ。もし私が本当の”悪役令嬢”になってしまったら、あなたは私をどう思うかしら? きっと彼との穏やかな日常は花と散るだろう。


いえ。乙女ゲームが終わった世界線では、”悪役令嬢”ではなく単なる”悪女”ですわね。


私の視線に彼は気付いたのだろう。


「どうかした? シルフィ。」

「いえ。何でもありませんわ。」


彼に全く心の中を見せずに完璧な笑顔で嘘を吐く。この口が、演技力が憎かった。きっと彼の目にはいつもと変わらぬ私の顔が映って見えているのだろう。


今日彼は自身が治める領へ帰還する。そこには何人かの商人が来る予定であるということをこの間彼の口から聞いた。


そしてそこにはやり手の女商人たちの名もあった。


彼女たちは商才はもちろんだが、圧倒的な美貌をほこる。彼の目を奪うことなんていともたやすいことだろう。


ねえ。私はこれからもあなたの一番でいられるかしら。私の元いた世界では美人は3日で飽きられるという言葉があった。


私には誰もが認める世界一の美貌がある。でもそれ以外は領民のことを第一に考えて治めるいわば堅物の女公爵だ。お世辞にも愛嬌があるとはいえない。


見かけにたがわず着飾ってはいるものの、やはり華やかさでは世間一般の女公爵や令嬢たちには劣っているのは私でもわかる。


そして女商人たちは教養もあり諸外国との公益があるのだから話題も豊富で着飾って凄く美しくて、コネをつくるためな自身が女であることを最大限に利用してくるだろう。


フィレンツェとの夕食も私はいつもの自分を完璧に演じきった。ああ。私は良くやったわ。そうよ。まだ大丈夫だから。だから明日もきっと大丈夫で。だから今も大丈夫と言えるでしょう?


「では行ってくるよ。シルフィ。お土産を期待していてくれ。」

「行ってらっしゃい。あなた。別に気をつかわなくても良いのだけれど。フフフッ。でも楽しみに待っているわね。」


偽りの笑みを浮かべる私がいる。最低な気分である。最も愛する人の前で平気で仮面を被っているのがとてもしんどい。


ごめんなさい。フィレンツェ。でもきっと私は・・・。そう大丈夫だから。















読んでくれてありがとう♪

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