リフレッシュ旅行
作者スライムになっております。せめて人になりたい。皆さまも熱中症にお気を付けて!
「ではお気を付けて行ってらっしゃい。2人とも。息子よ。シルフィーナちゃんに怪我でもさせたら、承知しない。後は分かっているな・・・?」
「もちろんですとも。父上。そうなったら舌かみ切って自死を選びます。」
どどどどどうしましょう。何やらお義父さまからのあたしへのデレが思いっ切り限界突破しておりますわ?
「そんな事絶対にしてはいけませんからね!? 残されたあたしを悲しませても良いのですか?」
「その考えに至らなかった私を許してくてくれシルフィ。」
サッと顔を青ざめる親子2人。全く似た者同士である。となりで何も語らないがニコニコッとしているお義母さまが唯一の癒しである。
見送りに来て下さったお義父さまとお義母さま。お義父さまは意外と寡黙に送り出していたが、お義母さまは奥ゆかしく気品ある仕草で手を振ってくれた。
あたしも手を振り返し、何度かお義母さまを視線で追ってしまった。
やがて馬車が遠ざかり義両親が見えなくなってしまい思わず名残惜しく感じてしまった。
「シルフィ。いろいろ気疲れさせてしまっただろうか。すまない。私の両親は個性的で賑やかだろう?」
「ええ。とても素晴らしい方たちだわ。夫婦なかも理想的な円満さよね。」
「そ、そうか。そう言ってもらえると嬉しい。」
「特にお義母さまは素敵な方ね。私もお義母さまのような歳の取り方をしたいものだわ。」
「その言葉を母上に教えたらとても喜んでくれると思う。」
目を合わせると同時に思わず微笑みがこぼれた。
*****
少し進んで行くと農場のような所が見えてきた。最初は牛でも飼っているのかと思ったが、窓辺からチラリと見えたのはあれは純白の翼の先端ではないだろうか。
「そう。今から行くところはグリフォンの飛行場だ。一緒に空を駆けようシルフィ。」
空・・・。空ですか。一度は飛んでみたかったのです。少しドキドキしますけれど。
「楽しみですわ。」
笑顔で返事しておいた。彼の嬉しそうな顔をみれたのでもうお腹いっぱいである。
*****
フィレンツェが飛行手続きをしてくれている間にあたしは農場を散策していた。柵の木が良くしなっており、木目がきわだっていた。
地面を3匹のふさふさのしっぽがクルミを集めてまわっている。
こぐまリスだろうか。肉球の模様が額にチラリと見えた。
「本当に可愛いらしいわねえ。」
大きな音をたてないようにそっとしゃがみ込んでそっと手招きしてみせる。
「キキキッ」
リスたちは少し遠巻きにあたしから遠ざかってしまった。野生動物はなかなか人に懐こうとしないものだ。
袋から取り出したひまわりの種が風に飛ばされた。
ヒュウウ~~~。虚しく耳にかけていた髪がほどけた。
「シルフィ。どうかした?」
「いいえ。何でもありませんわ。」
シュンとした表情も可愛い。いや違う。この胸が締め付けられる感覚を私はなぜかそう思った。
何といえば良いだろうかあれだ。飼い主に遊んでもらえなかった子犬のような喪失感をまとった生き物。
彼女ととのデートプランに少し変更を加えても良いかもしれない。
「さあ行きましょうか。シルフィ。」
「ええ。ダーリン。」
「え!? 私の事をそう呼んでくれるのかい?」
「ち、違う! 今のはそう! 言い間違い! そう言い間違いなのです!」
「わかってるよ。ハニー。」
「分かりましたわ。ごめんなさい。謝るから許して。」
「仕方ないですね。じゃあ行きましょうか。シルフィ。」
エスコートされる手に熱を帯びる。なんて失態を・・・。先ほどまでの自分を殴り飛ばしたい。
「お2人方準備出来やしたぜ!」
遠くでマスターが読んでいる。
「す、すぐ行きます!」
私たちは急いで誇り高き空の獅子の元に向かった。
*****
とてつもない威圧感が空間を支配する。人を2人なんて余裕で背負って飛べるような大きな逞しい鋼の肉体。
あたしの腕なんていともたやすく折ってしまえるような大きなくちばし。サーベルのような艶のある大きく湾曲したかぎ爪が顔をのぞかせている。
「これに乗るのですか?」
「ああ。彼はとても賢い幻獣だそうだ。どうぞよろしくお願いいたします。私はこの地方を治めておりますフィレンツェと申すものでございます。」
「クエエエッ。」
マスター「どうやら公爵さまの礼儀正しさを彼は気に入ったようです。」
「光栄でございます。」
彼は涼しげな笑みを浮かべてそっと敬礼をした。
マスターに手取り足取り教えられ、私はシルフィの手を取り上にのせて頂いた。
そっと体に触れる黄金色の神々しい毛並み。左右に広がるは真っ白で雄々しいたくさんの大きな羽毛でつくられている翼。
翼が羽ばたかれる度にブウウウウウンと空気が震える音がする。何故だろう? 何か違和感があった。
「シルフィ。」
「ええ。これは空間が振動してますね。魔素の動きが活発しておりますわ。どうやらグリフォン様の能力のせいですわね。」
{人間・・・。フハハハハハ。久しぶりにわきまえた奴よ。良いだろう。目的地をイメージするが良い。言葉をかいしても私には伝われらぬからな。おい、お主の頭の中の目的地での隣の小娘の笑顔が度アップすぎて場所が分からないのだが・・・。良し分かった。しかしお主本当に愛妻家だな。正直引いたぞ。}
「すみません。お手を煩わせてしまい。」
「え、そんなにですか。ええ~~~。」
正直あたしもちょっと引いている。
{そんなにだ。安心しろ。この会話は隣の坊主には聞こえていない。お主も災難だなあ。小娘。愛が重すぎてもな。ほどほどにしてほしい所だな。}
{そうなんですよ! 彼はあたしのことが好きすぎるんですよ!}
{ま、まあ。嬉しそうで何よりだ。ゴホンッ。そろそろ出発するからな。しっかり捕まっておけ。}
重力を感じさせない急上昇であっという間に地面が遠くなった。
風圧はあまり感じない。グリフォンさまの身体を覆っている魔力があたしたちも包み込んでいた。
スリルがないといえば確かになかった。その代わり爽快感だけはあった。この不思議な感覚はなんなのかしら?
{ふむ。違和感に気づいたか2人とも。私の飛行魔法は特殊でな。半導*+)(?*・・・を使っている。まあ人類には扱えないものだから、正直聞こえているかどうかも分からんのだがな。}
{ええ。聞こえなかったです。(同じく私も)}
次の瞬間あたしたちは山の向こう側に物理法則を無視した速さで飛び去っていた。翼を一振りするだけで何十キロも移動する事ができるというのか。
全くの神業である。
読んでくれてありがとう♪ *作中では特に触れてませんが、フィレンツェのお義母さまの裏設定として、世界一美しいお声というのがあります。ただあまりの美しさゆえにデメリットがあり、一日に一声しか発声出来ないそうです。もちろんビジュアルも大変美しいそうですが、何より美しいのがその声・・・。お義父さまは一瞬で恋に落ちたとか・・・。ま、まあそれよりもだいたいのその一言を「おはようございます。あなた。」で使ってしまっている日常のただのおしどり夫婦です。




