記念日だから
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炎がキレイに燃え盛りお肉がよりジューシーに重厚感を持たせていく。これはフランベという調理法だ。
隣では新鮮取り立てのアサリのソテーを調理しており、クリームソースと絡ませているところだ。これはシルフィーナさまの好物である。
肉料理はフィレンチェさまが好きなメニューを手掛けており、この2つのメインディッシュはそれぞれお二方からリクエスト頂いたものである。
クリームソースをかき混ぜながら、2人のセリフを思い出す。
「結婚1ヶ月記念日なので彼(彼女)の好物をお夕食のメニューに加えて欲しいの(だ)。頼めるかしら(だろうか)」
「お任せください!」
2人の幸せは当家の使用人一同願っていたのだ。もちろんお安い御用である。もっと仲睦ましくして欲しいまである。
皿に盛り付けメイドに後は託す。
「頼みました。皆さま。」
「お任せあれ。トムじい。」
ウインクをし、公爵家一同メイドはミッションを開始したのだった。
*****
「ねえ。このスープにたくさん入っているお野菜が全部ハートマークなのだけれど。」
「本当だね。このパセリもどう頑張ったらこんなにハートになれるんだ!?」
「み、みんな。やってくれましたわね。」
「全くだ。あまりにも攻めて来てもなかなか刺さらないぞ!?」
スーンと使用人一同はすました顔をしてただ頷いた。
*****
さあ前菜は終わりですよ。
メインディッシュが盛り付けられ、それぞれの元に運ばれる。
「これは、シルフィーナさま(フィレンツェ)さまからのリクエストでございます。」
先ほどのハートマークのお野菜たちがここから仕事をしだした。頭からピンクが離れないのだ。
フッ。2人が真っ赤になるのを見届け、使用人一同は心の中で祝杯を上げた。
「・・・。」
「・・・。」
静寂が彩られたテーブルを支配する。
「あ、あの。あたしの好物覚えてくれたんですね。ありがとう。フィレンツェ。」
「いえ、そんな。私こそありがとう。シルフィ。」
「・・・・・・。」
「ゴホン。ところで次の休日に私の両親たちがシルフィに会いたがっていてな。そこで明日時間が取れたのでドレスの新調はどうだろうか。」
「フィレンツェとお買い物デートですね! もちろん行きたいですわ。」
「そうか。ありがとう。明日が楽しみだ。」
実は仕立て屋に何着か既にリクエストをしていた。明日彼女に着て貰うのが楽しみで仕方がない。
*******
店主は我が領主の経済事情が心配であった。
シルフィーナ公爵の肖像画が埋め込まれた懐中時計をみせながら、彼はこの女性に似合うドレスを仕立てて欲しいという。
だから数週間かけて私はいくつか案を持って彼のところへ行った。
すると・・・。
「これは何て素敵なデザインなんだ! 店主あなたの腕は最高だ! どれも欲しくなるものばかりであるなあ。さてどうしたものか。」
「ドレスは1着で良かったですね。」
「ああ。倹約家の彼女だからそう何着も買わないはずなんだ。」
「大変きれいな奥さまですものね。」
「ああ・・・。彼女は大変美しいのだ。きっと店主も彼女を見ると腰を抜かすに違いない。」
「お言葉ですが、私どもの元には世界各地の超一流の舞台女優やあのキャリー・スクワットアネットさまもドレスの購入に来られたことがあります。彼女たちは大変美しかった。つまり私は愛妻家である公爵さまよりも数多くの絶世の美女を見て来た自負がございます。」
「ああ。きっと店主の言う通りだろう。だが先ずは自分の目で見て欲しい。ではこの虹色のデザインを注文させて頂こうか。この他にも彼女に似合いそうなものを店主のおすすめで揃えていて欲しい。」
店主はこのドレス業界での第一人者とも言われるほど今まで名声を欲しいままにしてきた。
予約は後が絶たなく、各国の王や有力貴族が頭を下げて頼むほどだったのだ。
「承知いたしました。フィレンツェ公爵さま。」
彼が退室して彼女は思わず被りを振った。
やれやれ。世間知らずの旦那さまには困ったものだ。世界は広い。そして絶世の美女なんて星の数ほどいる。私は彼女たちに更に華を盛らせてきた。
まああの正直者で有名な公爵じきじきのお願いなのだ。力をふるいにふるって出迎えさせて頂こうではないか。
スッと布地の採寸から仕事へ取り掛かった。
*****
当日そこには、まるで周囲を光のオーラで包み込むようなホワイトブロンドヘアーを煌めかせた女性がいた。
いや。これは現実の出来事だろうか。未だに自身の目が信じられない。
だがそのご尊顔には龍王のような神々しさを醸し出す瞳が存在感を放っており、周囲を威圧する。私は胆を踏みつけられるような感覚を味わった。
「ここが例の仕立て屋ね。用意は出来ているかしら?」
「ハハア。」
今までこんなに気高く高貴な女性を見たことがない。
「では早速、準備なさい。」
私は久方ぶりに本能のまま走り出した。
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