第42話 配信で真利が宣戦布告
日曜日に秋葉原へ行った件は、菜乃にかなり不満を言われた。
それも結局、今度そのメイド喫茶へ菜乃を連れていくということで落ち着いた。
栗原専務からOKがでた3人コラボの企画は、ゲーム配信で決定。
互いに敵対しているナノンとカルロスが同じチームでバトロワをやることに。
ルリアはふたりのお守りだ。
「俺は準備できたぞ!」
『健ちゃん、こっちも準備できたよ。姫ちゃんは?』
『私もOKよ。ねえ、健太。あなたはカルロスなんだから、うっかり私に優しくしちゃだめよ?』
今回俺たちは自分の家から配信する。
あらかじめ互いをゲーム内フレンドとして登録しており、同じチームとしてログインした。
俺のチャンネルは配信前の一枚絵を表示中。
一枚絵はお馴染みの男前カルロスだ。
吹き出しで「今は、しばらく待て」と言っている。
今日は親戚の真利が配信の様子を観たいというので、俺の横に座っているのだが……。
「がんばってねっ!」
妹設定の真利が話すと配信が荒れるので、絶対に声を出さないよう言っておいた。
押すな押すなのフリじゃないので大丈夫と思う。
……たぶん。
さあ、これから3人でのコラボ配信を始めるぞ!
◇◇◇
『ふふふ、ルリア・カスターニャだ! 貴様ら、今回は予告通りに話題の2人とコラボだぞ』
「待たせた! ナカムラ・カルロス・ケンタだ」
『こんにちナノン! 聖天使ナノンだよ!』
《おお始まった》《このコラボは熱い》《同接少な》
《普通彼女らの配信を見るって》《俺らって……》
さあ、始まったぞ!
俺の画面に表示されるのは、俺のファンからのコメントだけだ。
彼女らには、それぞれのファンからコメントが来ているだろう。
同時接続が少なっ、500とか。
書き込みが少なくて楽勝で目で追える。
コラボを観るなら、そりゃルリアやナノンに決まってるか。
いや、俺は菜乃の応援が役目だからこれでいい。
えーと、お気に入り登録は……1.5万!!
勝手に増えたなおい!
これも変態シスコン枠の恩恵か。
よし、やる気出てきた!
『さあカルロス、ナノン! おまえらが今日プレイするのは予告通りのバトロワだ』
「俺の大好きなアペックスだな」
『このゲーム好きよ。でもねルリアちゃん! 何でカルロスがいるのよ?』
『今日は仲直りイベントだからな。吾輩はおまえらを心配してだな……』
「無理じゃないか? だって俺、妹しか興味ないし」
『私だってあんたなんか嫌いよ! 腹立つ奴ね! ねえ、ルリアちゃん。こいつをブチのめせるゲームがいいんですけどっ!』
『まあ抑えてくれナノン。とにかく今回は仲直りが目的だ。チーム戦に協力してもらうぞ!』
「こんなポンコツ天使と一緒とか。チーム戦なら妹がよかったな」
『はあ? 何言っちゃってんのシスコン野郎ッ!』
《いいぞカルロス!》《ナノンがブチ切れとるやん》
《ナノン煽り耐性なし?》《性格激変》《闇落ち?》
『さあ、開始だ』
「ルリアのランクが高いから、マッチングした相手が強そうだぞ」
『私がスタート地点を決めるね。いきなり激戦区は避けてと、じゃあこの辺の郊外にしよっ』
『よし! 近くに敵はいない。各自、まずは武器を集めるぞ!』
「ナノン、なんで前を走んの? あ、武器横取りするな! おい、ひとつアサルトライフルよこせって」
『え~え~、知らないよう。私は私の意志で移動してるだけよ~。あなたはボウガンでも使っててね』
《あーあ、ナノンいい武器二丁持ち》《ワザと妨害》
《よくあること》《カルロスはボウガンと拳銃とか》
『お前ら、少しは仲良くできんのか?』
「せんせい、ナノンちゃんがゲスいっす」
『ゲスにゲスとか言われたくないよーだ。配信者なら腕でカバーしてよね!』
目的地の方向に敵が動くのが見えたな。
俺らが向かう方向だから、気づかれていない今のうちに排除しないと……。
『向こうの建物に敵だ。私は左、カルロスは右から回り込むぞ。近距離で十字射撃だ。ナノンは後方から援護、いいか?』
「少佐だけは頼りになるな。妹ほどではないが」
『だけとかっ! だけとかっ! 腹立つわねー。ちゃんと援護してあげるから、さっさと行きなさい。ルリアちゃんに迷惑かけないのよ!』
《カルロスしれっと煽るよな》《ナノン企んでる?》
《俺ナノン側も見る》《ナノン視点あやしくない?》
お、ナノンがなんかやるのか?
うむ、期待してるからな。
だけどすぐ死んでも配信が盛り上がらんし。
ゲームは真面目にやるぞ!
まずは目の前の敵を倒すか。
『よし位置に着いた。カルロスはまだか? 10秒後に突撃するぞ』
「ああルリア、こっちもいいぞ! 残り5秒。ナノン、おまえは家の中から臆病者引きこもり射撃なんだ。援護ぐらいしっかりやれよな? さあ、突撃開始!」
『きぃいいーー!! もうあったまキタ。あんたなんか、やられちゃえぇぇーー!!』
いい感じで煽りコメントが言えたと満足げに走り出すと、それを聞いたナノンが高い声をあげた。
それと、同時に俺は激しい銃撃を受ける。
敵に見つかったか⁉
敵の動きは慌ててるようでおかしいが、奴らは撃ってきていない。
おかしい……。
一体どこから撃たれてるんだ??
なぜか被弾はないが、相当激しい銃撃だ!
『どうしたカルロス、別チームか⁉』
「いやどっから撃たれてるか分からん。でもノーダメージだ! おっかしいな……って後ろからかっ! ん? 撃ってんの……ナノンじゃないかッ!!」
『女の敵のあなたなんか、あたしが始末してやるから! 早く敵に発見されなさいよ!』
《ナノン仲間撃っとるがな!》《ノーダメージww》
《あははカルロスあはは》《隠れた位置バレるだろ》
『くっ、ナノン、カルロスに何を! ダメだ、我輩は先行し過ぎてる。このまま敵を強襲するぞ! カルロス! ついて来い!』
「ちょ、ナノン、おまえ最悪だな! 周りに着弾しまくって目立つだろ! あ、敵からも撃たれた。てめえ! 敵に見つかったじゃないかよ!」
『うふふふふ! 人をバカにした報いよ。シスコンには、私が天罰を与えちゃうから!』
俺の位置は敵から完全に死角のはず。
でもナノンの銃撃で目立って位置がモロバレ。
たぶん敵にはナノンが別チームの敵として、反対側から挟撃してるように見えるだろう。
『よし! ひとり倒した! 敵がそっちに気取られていい囮になってる。カルロス! そのまま突っ込んで来て! ナノン! そのままカルロスを撃って!』
「ひでえよ! 俺、敵からも味方からも撃たれてるじゃんかよ!」
『あ、これ、気持ちいいな~! ノーダメージだからいくらでも撃てる。ルリアもああ言ってくれてるし、撃ち放題ね!』
左サイドから襲撃したルリアが華麗に無双。
暗殺者のようにふたり目の敵をダウンさせる。
最後の敵は、俺とルリアにはさまれたままで抵抗したが……。
『ふう、最後のひとりもダウンさせた! もう平気だ。さあ、こっちへ……って、おいカルロス、どこへ⁉』
「うわぁあ! お、おまえ、勝手に何やって……」
「ケンタにいが可哀そう! もう頭キタ! ケンタにい、ちょっとどいてて! 私がやり返してあげる!」
『え!? ちょっと、誰? カルロス!? ねえ、誰か別の人がいるの??』
なんと、横で観ていた真利が割り込んできた!
俺は彼女に椅子を勢いよく後ろへ引かれて、デスクから遠ざけられる。
そこへすかさず真利がデスクの前に立つと、マウスとキーボードで操作を始めた
楽しそうに俺に向かって親指立ててるし!
彼女は俺のキャラを華麗に操作して、序盤で拾ったアイテムを素早く2個連続で投げる。
それは、きれいな放物線を描いてナノンが引きこもる家へ飛んでいく。
彼女が銃撃してた戸口へ落下して、開いた扉の中に吸い込まれていった。
先に投げた方が家の中で大爆発を引き起こす。
後に投げたアイテムも家へ入り、今度は炎で包まれて大炎上となった。
《おおお》《無茶苦茶だ》《だれ今の?》《妹か?》
《ケンタにいだって!》《過激な妹好き》《妹ラブ》
『カルロス、今の誰! まさかまた妹が乱入して事故ってるの??』
「ま、まあ、あれだ。お、俺の愛する妹がしたおちゃめだ。だから、許してやってくれ……頼む……」
「ケンタにい、ナノンは無傷よ! グレネードも味方にはダメージ入らないから。でも今のはケンタにいの仕返しができてスッキリした。ナノンに言っとくわ。ケンタにいのこと、譲る気ないんだからね!」
『なるほど、そういうことね! へー、ふーん。配信中に大胆ね。褒めてあげるわ、カルロスの妹さん! あなた、あとで覚えてなさいよ?』
《いいねいいね》《熱い対立》《女の戦い好き……》
《挟まれたルリア可哀そう》《ルリアは面倒見いい》
《ルリア先輩は大変だ》《ナノン黒くなった》《草》
そんな感じで、途中から真利が普通に割り込んだまま、予定通りを装って配信が終了した。
◇◇◇
『はい、みんな、おつかれちゃん!』
「お疲れさま。みんな、今日は助かったよ」
「栗原さん、姫川さん、健太にいも、おつかれさまでした!」
『おつかれさま……って、真利ちゃん普通に混じっちゃってんだけど大丈夫なのかな?』
どうも真利は、栗原専務から割り込むように言われていたらしい。
いくら盛り上げるためだからって……。
でも一般人も電話ゲストとかはありえるし……。
専務取締役がマネージャーとして考えたアイデアだから、会社的には問題ないのか……。
一息ついたところで、急に俺のスマホが震える。
配信終了から少しして電話がかかってきた。
栗原専務からかと思ってビクついたが、着信は予想外の相手だった。
「カ、カレン! あ、うん、電話久しぶりだな。え? 今のを観てた⁉ Vtuberのことで話がある? お、俺はないけど……。時間作らないと誰が演じてるかバラすだと⁉ あ、ああ、分かった……」
俺は突然のカレンからの電話に驚いて、横にいた真利と顔を見合わせたが、通話アプリで繋がる菜乃と瑠理も、俺の受け答えを聞いて驚いた様子だった。
※現在のチャンネル登録者数
聖天使ナノン 登録者17万人
ルリア・カスターニャ 登録者106万人
ナカムラ・カルロス・ケンタ 登録者1.5万人
※あと4話でこのお話は一旦、完結します。




