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2.現地調査

 寮の門を通ると、小柄でややぽっちゃりとした少年が正面玄関前におり、駐車場に車を停めて出てきた僕達に近づいてきた。


「南山田さんと瀬川さんですか?参野です。迷惑かけちゃってほんとに済みません、でもやっぱり気味が悪くて」

「いやいや、今回みたいなことがあれば気味悪く思うのは当然じゃろう。早速じゃが足跡の場所まで案内してもらえんかの」

「あ、はい、こっちです」


 参野氏の案内で、正面玄関のある西面から今回の事件のあった南面に案内された。そこで現場を見て南山田先輩と僕は一つ納得する。


「なるほどのう、こんな状態じゃったのか」

「ええ、こういうことだったんですね」


 事件のあらましを聞いた時点でちょっと気になっていたのだ。

 ここ最近は気温が上がって積雪が融け、街中はほとんど雪など見なくなっているのに『雪上に足跡』なんて残るのか?と。


 しかし、案内された場所は一面奇麗に雪が積もっており、話に聞いたとおり2つの部屋の窓の前から続く足跡が残っていた。


「原因はあれですよね」

「そうじゃろうな」


 僕らの入ってきた正門から続く高さ2メートルを超えるであろうブロック塀が、この寮の南壁面から3メートル程の位置に立っているのだ。

 今も昼過ぎでよく晴れているというのに壁面と塀の間の細長い敷地にはほとんど日光が当たっていない。積雪が融けないわけだ。

 寮の管理会社でも人がここを通ることを想定していないので雪かきもしてないのだろう。していたら足跡から脱走がバレて対処されてただろうし。


「で、えーと、足跡がある2か所の窓のうち、手前側が110号室、奥側が112号室っていうことでいいのかの?」

「はい、そうです」


 参野氏に確認をとった南山田先輩と僕とで画像を撮影しながら110号室の窓に近づいていく。

 足跡は窓左側(室内から見て右側)の網戸の前から始まっていた。


「これは……思ったよりはっきり残っておるの。結構なサイズの靴じゃな。ワシの靴より大きいかもしれん」

「ええ、歩幅も広いですし、この足跡の主は結構長身なんじゃないですかね……あと、歩行に影響するような怪我や障碍は無さそうですね」


 某ホームズ御大のように靴跡や歩幅から緻密な情報が分かるわけではないが、この推測はそれほど外していないと思う。

 

 窓から塀までの足跡は概ね奇麗に残っているが、唯一、窓に一番近い足跡、すなわち窓から出て着地したときについたと思われる左右の足跡のうち、左足の足跡だけが酷く乱れて足跡の原型が分からない。このことから察するに、


「着地後に窓と網戸を閉めた後、左足を軸に回れ右するように回転しながら右足を塀に向かって踏み出し、そのまま塀に向かって進んだ。塀に突き当たると左に直角に曲がって塀に沿って進み、正面玄関と反対側の裏門から敷地を出たってとこですかね」

「まあ、そんなとこじゃろうな」


 直線的に裏門に向かって歩かなかったのは、寮生たちに気付かれないよう、なるべく一旦建物から遠ざかりたかったからなのだろう。

 また、風の影響か建物に近い側が塀近くの側よりも積雪が多かったことも、まずは塀に向かって歩いた理由と思われる。


 110号室前からの足跡を調べた後、一応112号室前からの足跡も確認してみる。

 足跡、とは言っても参野氏によれば『3日前に住人が退去する前は、受験が終わった者が多いせいか毎晩のように脱走したり、帰寮に遅れたものが入ったりしてた』、とのことですっかり雪が踏み固められて足跡というより通路になってしまっており、個人の靴跡など特定できる状態ではなかった。

 この通路も110号室からの足跡同様、左側の網戸前から始まっており、一旦塀に向かって塀に突き当たったところで左に直角に折れて塀沿いに進んでいる。

 同じ裏門に向かう110号室からの足跡も当然この通路に合流しており、そこからは個別の足跡を追える状態ではなくなっていた。


 ……今思ったけど寮から出てった時点で『地縛霊』ではないのでは……いや、余計なことを考えるのはよそう。


 一通り足跡を調べ終わったので今度は窓を確認してみることにする。

 多くの人が出入りしていていたことから、人の手の跡や靴跡が多数見られた112号室の窓とは対照的に、110号室の窓、網戸、サッシには掴んだり踏んだりしたような目立った痕跡は見当たらなかった。

 窓ガラスを通して見える室内には備え付けであろう机やベッドが見える。

 目視を終えた後、南山田先輩が足跡を踏まないように脚を広げて網戸の前に立ち、網戸を掴んで力を込める。

 するとザリザリザリザリッと音を立てて網戸がスライドした。


「おおっ!?、動かせたの!」

「出入りは可能だったってことですか。でも……」


 窓ガラスを通して窓の内側のクレセント錠が掛けられているのが見える。当然外から錠を操作するのは不可能だ。


「窓から出た脱走者Aとその後内側から窓の錠を掛けた協力者Bが存在するってことじゃろうか?う~ん……」

「いずれにせよ今ここで確認できるのはこれくらいですかね……それじゃあ寮内を見せてもらいましょう」


 僕らは離れて待機していた参野氏と再び合流し、正面玄関へと向かった。


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