表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1.脱出者は地縛霊?

 その夜、参野尊泰(さんのたかやす)は札幌の予備校学生寮の居室である111号室で目を覚ました。

 夢の中でどこかの部屋の窓と網戸が開いた音を聞いた気がする。恐らくそれが原因で目が覚めたのだろう。

 最近は少しくらいの物音で夜中に目を覚ますこともなくなっていたが、予定していた入学試験が全て終了し、試験の出来についてもそれなりの手応えを感じていたこともあって、開放感からちょっと神経が昂っている自覚はあったので、そのせいなのかと半分寝ぼけた頭で考えていた。


 すると隣の110号室の窓の前あたりからドザッと雪を踏みつける重い音がした。続いて網戸と窓を閉めて鍵を掛ける音と、ザッザッと雪を踏みつけ歩いて遠ざかる音がした。

 そこまで聞いてあることに気付いた参野の意識が一気に覚める。


(110号室は空き室だろ!?)


 寝ぼけてたとはいえ、何故そんな肝心なことに気付くのが遅れたのか?というのは理由がある。

 この寮は脱走防止のため、1階の窓は全て室内からみて左側の窓は嵌め殺しになっており右側の網戸を金具で固定している。

 右側の窓は動かせるので空気の入れ替えはできるが、窓からの人の出入りはできないようになっているのだ。

 しかし、隣の112号室だけが網戸の固定が甘くなってたらしく網戸を動かせるため、3日前に部屋の住人が退去するまでは、住人やその友人がちょくちょく窓から出入りする音が参野の部屋に聞こえていたのだ。

 なので、さっきまでの寝ぼけた頭では『いつもの脱走か』と思っていたわけだ。

 しかし足音は明らかに112号室とは反対側の110号室の前から聞こえた。


(これってどういうことだよ!?……あっ!)


 そこで参野は思い出した。110号室が何年も空き室になっているのは昔受験に悩んだ寮生が自殺した部屋だからで、今でも時々その地縛霊が現れるのだという噂を。


(いやそんな話がリアルであるわけない!……あるわけないよな?……)


 スマホで時間を確認すると0時過ぎだった。

 その後数時間、一睡もできずに参野は朝を迎えた。

 朝日が射して明るくなってみると夜の出来事が夢のように思えてくる。


(ひょっとして夢だったかな?)


 窓のカーテンを開け、窓ガラス越しに外を見る。

 そこに110号室の窓の前から続く雪上の足跡を見た参野は1分程絶句した後に叫ぶのだった。


「こんなとこに居られるかーっ!俺は出ていかせてもらうぞーっ!」


 ◇◆◇


「と、いうことが今朝あったらしくての。参野君はずいぶん怯えてしまっているそうなんじゃ。できれば安心させてやりたいんじゃが、ワシが話を聞いてもその幽霊(?)の正体などさっぱり見当がつかんでの。瀬川君、知恵を貸してくれんか」


 学食で昼食を摂りながら、今回もまた面倒な頼みごとを引き受けた南山田先輩から事件のあらましを聞いていた。

 説明しておくと南山田先輩は僕の通う大学の先輩だ。昔話に登場する爺さんみたいなしゃべり方をしているが外見は普通に若い。

 しかし幽霊と幽霊嫌いか。前もそんな事件あったな。


「あれ?でもその参野氏って予備校の寮に入ってるってことは実家は札幌から遠いんですよね?南山田先輩とどんな接点が?」

「うむ、今回はワシの友人の友人で釧路出身の溜腰(ためこし)君という男から相談を受けたんじゃが、その釧路の高校時代の部活の後輩ということじゃ」

「今朝がた起こったばかりの面倒ごとの解決を押し付けられる程の仲じゃないですよね!?」


 南山田先輩の周囲の人間!先輩にまる投げ過ぎだろ!もう少し自分で頑張れよ!

 あと本当に先輩は人が好過ぎる!


「で、参野氏が希望しているとおり寮を出て、実家に帰るなりするわけにいかないんですか?受験は全部終わったんですよね?今日すぐに帰れなくても、1~2日その溜腰とかって人の家に泊まりゃいいじゃないですか」

「それが週末の合格発表後に自分で入学後に入居するマンションなんかの下見や諸々の手続きをするよう実家から言われとるそうでの。その間寮を出てホテルに泊まりたいから金を送ってくれと実家に頼んだところ『バカ言うな』と一蹴されたそうじゃ。あと、溜腰君は付き合い始めた彼女と半同棲してるらしくての、泊めるのは難しいそうで、他に頼る宛もないとのことじゃ」

「なるほど理解しました。その溜腰氏とかいう奴には色々と言いたいこともありますが。あと一つ、このことは寮の管理会社なんかには言ってないんですか?」

「言ってしまうと、それまで112号室の脱走を報告してなかったこともバレるわけじゃしな。下手したら自分も脱走常習者と疑われかねんので気が進まんようじゃ」

「ああ、そういうことですか……事情は分かりました。午後は講義もありませんし、僕でよければお手伝いしますよ」

「いつも済まんのう」


 その後、南山田先輩が参野氏に連絡をとり、これから現場の寮に行くことを約束した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ