表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切りの花  作者: あさ
1/2

1.

「どうして?どうして無視するの?」


「……ずっと前から思ってたんだけどさ、あなたの人当たりのきついところが嫌いなんだよね。最近学校休みがちだったのもみてて精神崩壊しそうだったからなの」


私の中で何かが壊れる音がした。それに気がつかないふりをして、自分が全て悪いと思わされて、私は惨めにも縋ってしまった。わたよりも軽く一枚の紙よりも薄っぺらい友情に。許しを請うてしまった。私のことをわかろうともせず否定した彼女に。

窓の外には赤々とした夕陽がぶら下がっていて、運動部の熱い声が聞こえてくる。冷え込んだ気持ちとは真逆に、あたたかそうだった。

眼の前の彼女は淡々と続けた。


「嫌だったからって無視するやり方は悪かったと思ってる。生徒会のこともあるしそこで少しずつ話せるように……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……さん…か…ざ…さん……神崎花さん!」


「はいっ......!」


目を覚まして、見えるのは黒板に書かれた英語と怒りに顔を歪めた先生。いつの間にか寝てしまっていたらしい。教室中の視線が痛い。

あぁやってしまったなとそんなことを考えながら、怒られるのを待っているがいつまでたっても怒号は飛んでこない。

不思議に思って顔を上げると、


「……先ほどの続きですが、空欄に入る英語は”as”になります。じゃあ次の英文を〜」


なんと先生は私を立たせたまま無視をして授業を進めていた。生徒の笑い声と同情する声に恥ずかしくなって私はそっと座る。なんとなく授業を真面目に受ける気がせず、窓の外を眺めると隣の二組が体育をしていた。

嫌な夢を見た。中学生の頃の夢。その夢を忘れようと、体育をしている集団を観察する。集団の中に見知った顔があった。


(あれは凛久(りく)......)


凛久は高校に入ってからの友人で、なにかと一緒に過ごすことが多い。彼はサッカー部の一員で顔もそれなりにいいからとてもモテる。彼の親衛隊にちょくちょく突っかかられるが、私は気にしないようにしている。凛久にも何もいっていない。


凛久が楽しそうにサッカーをしている姿を見ていると授業が終わる合図がした。


「いいなぁ......」


私のその声はチャイムにかき消された。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



3時間目の体育の時間、いつもどおり友人とボールを蹴り合っていると視線を感じた。


(神崎だ......)


神崎は長い髪を後ろで一つにくくり制服も着崩していないため、傍から見ると真面目でとっつきにくいように感じる。しかし委員会で一緒になって、話してみると意外に気さくな性格だとわかった。冗談も言うし、少しおっちょこちょいなところもあるし、そして繊細だ。

彼女が友人関係というものに恐怖を抱いていることを俺は知っている。一体何が彼女をあんなに臆病にしたのかは定かではないがなるべく彼女の負担にならないようにしたい。


「凛久ー?早くパスくれー!」


「ん?ああ、ごめんごめん!」


彼女の視線の意味には気づかずに俺はボールを回し始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「花ちゃん大丈夫だった?あの先生も意地悪だよね〜」


私が次の時間の準備をしていると、佐倉亜美が話しかけてきた。ふわふわのボブが似合っているクラスで可愛いと騒がれるような子だ。休み時間になるといつも話しかけてくれる。

私は持っていた教科書をおいて彼女の方に向き直した。


「大丈夫だよ。眠ってた私も悪いし」


そう言うと佐倉亜美はその細い指を口に当てて、言いにくそうに声を潜めた。


「あのね、私が思うに、あの先生は花ちゃんに嫉妬してるんだと思うの。だってあの先生、生物の神住(かすみ)先生好きでしょ?」


神住(きょう)は私達のクラスの授業担当でその甘いルックスから女子生徒及び女性教員に人気の先生だ。私は生物に関する進路を希望しているため、関わりがかなりある。

ちょうど次の授業が生物であるため、女子生徒は先程から化粧直しに忙しそうだ。


「そうなのかな......。別に神住先生のこと、なんとも思ってないんだけどね」


私は苦笑いをして教科書を手に取り生物の座席に移動した。


「きっとそうだよ!あ、そろそろ物理教室に行かないと。じゃあまた後でね!」


そう言って生物より遥かに薄い教科書と、遥かに分厚い問題集を持って教室を出ていった。そんな彼女の背中に手をふって、彼女と入れ替わりに入ってきた神住先生と視線を合わせないよう教科書に目を落とす。

この学校は高1から生物と物理が選択制だ。30人中18人が生物で残りの12人が物理を選択している。神住先生が前に冗談めかして、「生物を1年生で選んでくれた子は2年生になって物理に転科する人がいます。今年は一体何人が残るんでしょうかね」と言っていたのがふと頭をよぎった。


「神崎さん」


教科書をめくる手を止めて目線を上げる。すると目の前に資料集を携えた神住先生がいた。驚いて声が出せないでいると、先生の細く長い指がとあるページの真ん中あたりを示す。


「これがこの間聞いてくれていた質問の答えです。電気泳動法では短いものが近くに、長いものが遠くに位置します。そして、この図を見てください。このように順番に並ぶので塩基配列を解明することができるのです」


「あ、そうなんですね。授業の範囲外の質問なのにわざわざありがとうございます」


「いえいえ。生徒の疑問に答えるのが教師です。どうせ2年生で習いますしね」


にこっと笑う顔にはなんの裏もなさそうだ。おもわず長話をしそうになる。しかし周りの神住親衛隊の視線が怖いので深々と頭を下げて早々に会話を終わらせた。

......この学校には親衛隊が多すぎやしないだろうか。


先生にバレないようそっと息を吐くと椅子を引いて立ち上がった。

はじめまして、あさと申します。読んでくださりありがとうございます。次回投稿は12月25日を予定しております。ぜひ最後までお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ