その3 女の戦い
「こんなのにどうやって勝つのぉ~?」
蘭子が俺たちの心の声を音にした。
「まずは冷静に分析してからね。映像をもう一度見ながら解説するわ」
部長がチャプターを戻しながら言う。
「俺も意見を所々で挟まさせてもらうぜ」
「いいわよ。陸と私の認識の違いも確認しておきたいわ」
画面に3人の男性が映し出される。
「彼らは寿司屋割烹『魚鱗鮨』の料理人よ。『ギョギョギョ』の愛称で親しまれているわ。星もひとつ持っている世界的な評価の高い店ね」
「寿司屋って事は寿司の腕前が高いって事だな」
「りっくん、当たり前だよ~、お寿司屋さんなんだもの」
「そうね、高いと思われるわ。いえ、店の評価を見ると、確実に高いわ」
「そこが、彼らの恐ろしい所だな。誰にも負けない『料理』を持っている。これは強い」
「そうね。じゃあ、蘭子ちゃん、あなたが戦うとして、先攻を取ったら『料理』『食材』『テーマ』のどれを選ぶ?」
「もっちろん『料理』だよ! 相手に『料理』を取られて、寿司を指定されたら、敵わないもん」
蘭子よ、それではきっとお前は負ける。
俺だったら、選ぶとしたなら……
「陸は?」
「『食材』だな」
俺は答える。
「さっきのビデオを見れば明らかでしょ、ああなったら俺は勝てません。ちなみに部長は?」
「私は『テーマ』よ」
そうきたか! 確かにそれもありだな。
「みんなバラバラだね~、でもホントにお寿司であの人たちに勝てるの? 特になでちゃんは満足に魚を捌けもしないのに」
「くっ……」
部長が痛い所を突かれている。
「それでも『食材』を指定されるよりましよ。蘭子ちゃんこそ、あんな魚を捌く事ができるって言うの?」
「鮟鱇なら捌けるよ~、吊るし切り出来るよ~」
「そうそう、俺っちが冬に1,2回は鮟鱇を持ってくるで。お嬢ちゃんは七つ道具もばっちりさね」
ブビュ!
俺と部長が吹いた。
「そ、そ、そう。女子高生の割には経験値高いわね」
「えへへ~、あたし経験は多いんだ~」
うん、そこだけ聞くと仄かにエロくて良いぞ。
「それでも、私は蘭子ちゃんが勝てるとは思わないわ」
俺も部長と同意見だ。
あいつらはきっと寿司には必殺料理と言える料理を用意している。
確証はないが、俺の勘がひしひしとそれを告げている。
「えー、じゃあ勝負しましょ! あたしとなでちゃんで!」
話が意外な展開に跳んだ。
「わかったわ。三日後の定休日に勝負しましょう。あたしから少しハンデをあげるわ」
「またハンデ~、今度はあたしに~、なでちゃん、それはちょっと調子に乗りすぎじゃない」
「その代わり、蘭子が負けたら……」
「いいよ~、何でも言う事聞くよ~」
男どもの目がカッと見開かれる。
もちろん俺も。
今、何でもって言ったよね、という心の声も同じだ。
「そんな事はしないわ。ただ、私が勝ったら大会期間中の指示や方針はあたしに従ってもらうわ。陸にもね」
「いいよ~」
蘭さん、俺を巻き込むんじゃない。
「よろしい、陸は本気で取り組む事だし、私に逆らう事はできないわ。いいわよね!」
部長が俺に顔を近づけて言う。
「えっ、えーと」
「いいわね!」
「……はい」
蘭子がんばれ、超がんがれ。
「で、ハンデって何~?」
「お題は今決めましょ、考える時間をあげるわ。ご家族と相談してもいいわよ」
蘭子の頭は悪くない。
だが、部長に比べると劣るのは確かだ。
時間を与えられるのはありがたいだろう。
「それに、審査員はそこの魚吉さんとお友達に頼みたいわ。よろしい?」
「まかせとけ!」
魚吉さんとその仲間が力強く胸を叩いた。
「よし、じゃあお題を決めるわよ。蘭子さん『先攻か後攻か好きな方を選びたまえ』」
やっぱそうくるか。
ロールプレイってやつだな。
「じゃあ『料理』を選ぶよ~」
「それでは、私は『テーマ』を選びますわ」
そして二人は紙にお題を書き始める。
「はい、りっくん」
「ん、陸」
二人に差し出された紙を開き俺は読み上げる。
「決まったー! 二つのお題は『料理:和菓子』『テーマ:アメリカン』だー! 和と米! 二律背反するようで同盟をも結びそうなこの二つのお題に、大和撫子とカントリーガールはどのような戦いを見せるのだろうか! チャンネルは三日間そのままにしておいてくれ!」
俺も俺でノリノリだな。