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超絶! 悶絶! 料理バトル!  作者: 相田 彩太
第一章 大会前
12/87

その6 アイエエエ! コーチ!? コーチナンデ!?

 「さて、指揮権も私が取った事だし、まずは大会の方針を指示するわ!」


 勝った部長はご機嫌に言った。


 「方針ってなんだ? 得意料理を習得して、それを狙い目にするのか?」


 得意料理があれば、それは強い。

 実力なら勝率は1~2割でも、得意料理だったら勝てるとすれば、勝率は単純にコイントスで先攻が取れる5割に上昇する。


 「あたし、小鉢が得意だよ~」


 蘭子の旬の野菜や魚、筍、豆腐で作った小鉢は絶品だ。

 味付けが濃いめなので、小鉢以上に食うともたれるが。

 確かに、蘭子は小鉢だったら高確度で勝てそうだ。


 「違うわ! 必要なのはキャラクター付けよ!」


 え、語尾にプリを付けろと言い出すのか!?

 それはごめんだ。


 「キャラ付け? それってどうすればいいの~」

 「蘭子ちゃんはそのままでいいわ。ホンワカぼ……牧歌的(ぼっかてき)なキャラでいいわよ」


 うん、ボケキャラって言いそうになったな。


 「私は高慢ちきな悪女キャラでいくわ!」


 うん、似合っているというか、素のままだな。


 「そして陸、あなたは中二病キャラでいくのよ!」

 「断固として拒否する!」


 ふざけんな! この悪女!


 「はぁ!? あんた全力で大会に臨む上に、指揮権まで私に預けた上で逆らうって言うの!」

 「中二キャラって何だよ! それで勝てるなら苦労せんわ!」


 キャラ付けは重要だし、エンターテイメント料理ショーなら少しは評点に繋がると思う。

 だが、俺の恥かしい姿を全国に広げるのはごめんだ。


 「難しく考える事はないのよ。あんたが脳内で私や蘭子にあんなこと(・・・・・)こんなこと(・・・・・)をしている時のキャラを顕現(けんげん)すればいいのよ!」

 「そんなキャラはいません!」


 ごめんなさい、います。


 「そーだよ、りっくんの脳内妄想は純愛派なんだから!」


 くっ、心が痛い。


 「あくまでも反対って事ね……」

 「勝利に必要ならばやりますが、そう思えなければ反対します」


 独裁、ダメ絶対!


 「わかったわ……じゃあ料理勝負で決着としましょう!」


 自然な流れでデュエルに入るように部長は言った。


 「いいですよ、俺と部長で勝負しましょう」

 「ちっちっちっ、あんた、私が何も策も無しに来たと思う」


 指を目の前で指を振りながら部長が穏やかじゃない発言をする。


 「私は大会に向け秘密コーチを雇ってきたわ! 先生! お願いします!」


 ガラッ!


 準備中の札を揺らし、ひとりの人物が入ってくる。

 アイエエエ! ニンジャ!?ニンジャナンデ!?

 ここが新埼玉(ネオサイタマ)だったら俺はそう叫んでいたに違いない。


 「安心しろ、怪しいものではない」


 目の所だけを開いた覆面を被り、頭にナイフとフォークで出来たV字アンテナを付けた男はそう言った。

 ゲルマン忍者の親戚だろうか!?

 そんな訳ねえよ!!


 「善子さん、テロリストです。警察に連絡してください」


 俺は冷静にそう言った。


 「えっ、そ、そうね」


 善子さんがスマホを取り出す。


 「ちがうの! ちがうの! 彼は私が雇ったコーチです」


 慌てて部長が善子さんを制止する。


 「そ、そうなの!?」

 「そうだ、訳あって素顔は(さら)せぬが、拙者はそこなる女子(おなご)に雇われた一介の料理人だ」

 「わけってなーに?」


 いいぞ蘭子! ナイスツッコミ!


 「いくつかあるが、今言えるのは髪の毛と唾液が料理に入らないようにだな」

 「そっか~、料理人だからね~」


 もっと突っ込んで下さい蘭子さん!

 いや、突っ込まれるのが蘭子さんはお好きなのかもしれませんが、ぐへへ。


 「それよ陸! 今の心の(おす)(さら)け出すのよ」


 ちょ、部長! なぜ分かるんです!?


 「ふっ、噂に(たが)わぬ心の桃闇(ピンクダーク)を抱えているようだな」


 おい、覆面忍者! そんな殺人鬼が(ひそ)んでいる町の漫画家の作品のようなセリフを言うんじゃない!


 「あー、陸ちゃんは昔から変わってないねー」


 善子さん! 俺の桃闇(ピンクダーク)に気付いていたのですか!?


 「これが、私たちの秘密兵器よ! 彼の指導で私たちの料理レベルを上げるの!」

 「部長……」

 「なあに陸?」

 「百歩譲って、コーチを雇うのは良しとしましょう。でも、俺が中二キャラになるのはないでしょう。というか、もう全部あいつ一人でいいんじゃないか、ですよ!」


 俺は必死に話を修正しようとした。

 こいつはキャラが立ちすぎている。


 「少年、残念だが、★超絶! 悶絶! 料理バトル!★は3人参加が条件だ。拙者一人ではダメなのだ」

 「彼はあくまでコーチよ! それに彼が勝っても、それは私たちの、料理愛好倶楽部の勝利ではないわ! それでは廃部は免れないわ!」


 あー、あまりにもこいつのインパクトがあって忘れてた。

 そう言われりゃそうだな。


 「さあ、話を戻すわよ。陸、コーチと勝負しなさい! 勝てば中二キャラの話は無しにしてあげるわ」


 こいつ、さらりと逃げやがった。

 だが、それに乗ってやろう。


 「いいでしょう。俺が負けたら中二キャラで大会に参加します。だけど俺が勝ったら……」

 「何でもいいぞ少年、なんなら拙者のカラダ(・・・)でも」


 ふざけた事を言うな!

 善子さん、期待に満ちた目で見ないで下さい!


 「興味ないね! だが、俺が勝ったら、その覆面を取って帰ってもらう。さらにコーチはクビだ!」


 うん、こんな不穏な人物は不要だ。

 とっととお引き取り願おう。


 「かまわんよ少年。さらにハンデとしてお題はふたつとも君が決めて良い。さらに、制限時間等も君が設定してくれたまえ、さらに……」

 「さらに審査員は、魚吉さんたちに加え、この子たちよ!」


 話を(さえぎ)って部長が叫んだ。


 ガラッ!


 「兄さん、今夜の晩御飯はここでってメールが……」

 「おにいさん、そろそろご飯の準備をしないと……」

 「にーちゃん、腹へった!」


 現れたのは俺の愛しのガキども、海美(うみ)空楽(そら)宙弥(ちゅうや)だ。


 「どうしてここに!?」

 「私がメールしたの」


 俺の問いに部長が答えた。

 こいつ、ポッケの中でメールを出したのか。

 スマホでのブラインドタッチ能力、相変わらず恐ろしい技だ。


 「どうだ、少年。嫌なら尻尾を巻いて逃げても良いのだぞ?」


 覆面の男が俺を挑発する。


 「いいでしょう、勝負に乗りますよ」

 「そうこなくっちゃ! で、お題や条件はなあに?」


 部長がウキウキしながら言う。

 こいつ、このシチュエーションを想定していたな。

 だが、こいつがどんなに腕の立つ料理人だとしても、俺に勝機はある。

 いや、このお膳立てとも言える条件で勝てなければ、俺だけの能力(ちから)では勝てない事を認めなければならない。

 誰かの師事を、悔しいがこの男に学ばねばならないだろう。

 だが、条件は俺の方がずっと有利だ。

 お題や条件だけでなく、俺には地の利がある、それを活かす!

 具体的には、竜の舌の冷蔵庫の中身だ。


 「いいでしょう、制限時間は30分、食材はここのキッチンにある物のみを使用、審査員は俺とコーチを除いた、ここに居る9人」

 「へーえ、私も審査に入っていいのね。楽しませてもらうわ」


 ええ、(たの)しんでもらいますよ、ぐふふ。


 「りっくんの愛情だけで、お腹いっぱいになるよ~」


 愛情だけでなく、別の物でもお腹いっぱいにしたいです、ぐへへ。

 いかん! 静まれ! 俺の桃闇(ピンクダーク)


 「で、ふたつのお題は?」


 部長が問う。


 「ひとつは『料理:酢豚』です」

 「へえ、良さそうじゃないか」と魚吉さんたち。

 「うちの旦那の酢豚とどっちが上かね」と善子さん。

 「うん、豚バラが冷蔵庫にあるな」と旦那の良道(よしみち)さん。

 「カロリーが……」「ひさしぶり」「やったあ!」と愛しのガキども。

 「すぶた~、おいしよね~」と蘭子。

 「へぇ、陸の酢豚は初めてね。で、もう一つのお題は?」と部長。


 部長の問いに俺は答える。


 「『食材:フルーツ』です!」


 「陸、絶対に許さない!」

 「りっくん、愛があってもダメな事はあるのよ!」


 ふええ……

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