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第2話 青の花畑

 点滴の雫が涙だったらよかったのに。うまく泣く方法ってどうだったっけ? 雫は管をとおって僕に入ってくる。音もなく入ってくる。点滴袋が半分をきった。


 あの子のことを思い浮かべる時間が余りある。汗ばんで張りついた髪を針の刺さっていない方の手でかき分ける。僕の額は熱っぽい。あの子が脳裏に張りついて消えてくれない。目頭を押さえこんでこする。親指が眼球を突いてしまって涙が出る。そうか、痛みってこういうものだったのだろう。


 小鳥のさえずりが聞こえた。スズメでもない聞いたことのない鳥の鳴き声。


 青い花畑。太陽の直射する花畑の遠くに一本の青く生い茂った木が見える。小鳥はあの木にとまっているのだろう。




風量 小

気候 風のない五月晴れ

時間 正午




 いかにも、偽物らしい鳥の声だったな。一面の丸い花弁の青い花。中心は白。淡い青い花。何度聞いても覚えられないその名前。五文字だったかな。まるで、あの子みたいだ。物静かに一面に咲き渡っている。


 観光客一人いない花畑の映像を鳥が滑空するようにカメラが移動していく。窓のチャンネルは意外に能動的で、そのまま太陽に向かって飛んでいく。太陽は熱を感じられない白い太陽光だ。まるで、僕らの未来を揶揄するみたいで病院の映像としては場違いな感じがする。


 僕らは、天国にはいけない。けど、地獄にもいない。


 ここはどこだろうか。額に置いた自分の指が蛍光灯で黒い影を落としている。顔の前の僕の指はすっかりアルコールの類の薬品の臭いがこびりついている。


「△△くんは、どうしてそんなこと言って〇〇のことを困らせるの?」


 悪気もないし、当然のことだった。僕は言葉選びが苦手だから。〇〇のことを困らせる気はまったくなかったんだけど。その些細なことが、積み重なると僕らはいっしょにいられなくなった。


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