濡れ髪や いつになるやら 秘め始め
新年を迎えた今日は、初詣、羽子板、七福神巡りと、一日中動きまくったので、流石に疲れて、執筆活動もせず、少し早めに、ベッドに入り、うとうとし始めていた。
するとノック音がして、裕子がやってきた。御風呂上りで、髪にタオルを巻いている。
「寝てた? でも、ちょっといいかしら」
私が起きようとすると、それを制して、彼女がガウンを脱いで、パジャマ姿で、布団の中に潜り込んで来た。シルクの銀色のパジャマだが、ノーブラなので、乳首の痕が浮かんでみえる。
クリスマスの日にも、夜這いしてきたので、これで二度目だ。
あの時は、徹夜でオルゴールの修理をしたので、結局、何もしないで添い寝した形になったが、今はムラムラと欲情してしまう。
でも、今日は来夢がいる。斜め前の部屋なので、しても気付かないとは思うが、流石に、いけないと手を出さずに我慢した。
なのに、裕子は、五センチ程に顔を近づけて、私の目を見つめる。くりっとした大きな目に、鼻筋の通った綺麗な鼻、少し部厚めの唇。どのパーツも見事で、それが絶妙に配置され、本当に綺麗だ。
私は、我慢できなくなり、彼女の腰にそっと手を回し、引き寄せた。
すると、裕子も積極的に、私の胸に彼女の胸を重ね、足を絡めてきた。
「勘違いしないでね。エッチはしないわよ。来夢のことよ。あの子、どう思う?」
来夢も、裕子に負けず劣らず凄い美女で、プロポーションも抜群。頭の回転も早く、性格もきつい方で、性格的にも裕子と良く似ている。だが、顔は裕子とはあまり似ていない。父親似なのかもしれないが、裕子とは違うタイプの美女。私としては、裕子よりタイプだ。
「どう思うって、私の事を認めてくれたか、どうかという事?」
「違うわよ。最初の日に、あんな事言うから、そっちはダメに決まってるでしょう。そうじゃなくて、どういう理由で帰国したのかということ」
本心を伝えただけなのに、やはり父親失格の烙印を押されてしまったらしい。大晦日は、少しぎこちない気がしていたが、今日は、普通に会話していたので、家族として認められていると勝手に誤解していた。少し、残念だ。
「来夢ちゃんの普段を知らないから、何とも言えないけど、私の査定に来ただけではない気はした。初詣の時も、羽織を着た白人の後姿をずっと見つめていたし……」
「やはり、そうよね。私、母親として失格だわ。最初に顔を見た時、失恋したんじゃないかという気はしたの。それなのに、私は有頂天になっていて、そんな事はないと、勝手に否定して、あなたとの事、いろいろと浮かれて話しちゃった。どうしましょう」
「気づかない振りをしていればいいさ。あの子も大人なんだし……」
そういい掛けて、言葉に詰まった。大晦日の話を思い出したからだ。
来夢は、現在、北米四葉商事のビジネスソリューション事業部の主任をしているが、四年半前、突如、渡米を決意している。
「もしかして、北米四葉商事に異動した理由も、失恋したからかい?」
「うん、大学の時から、七年間も付き合ってた彼氏に、突然振られたの。その彼氏と会った時、駄目人間の様な気がしたのに、仕事が忙しかったから、干渉せずに放任した結果の悲劇。あの子、男を見る眼だけはないのよ。あの時は、自殺するんじゃないかと心配した」
「でも、既に乗り越えて、新たの恋を始めたわけだ。なら心配はいらない。彼女は、君の娘だろう。だから、今度の失恋も、きっと自分で乗り切る。君は、黙って見守っていれば十分だって……」
「でも、失恋しているのに、あんな事を言っちゃったし……」
心配なのは分るが、何もせずに見守るのが一番だ。
私は、裕子の口を、唇で塞ぎ、パジャマの上から胸を揉み始めた。
裕子も、舌を絡め返して来て、すっかりその気になっている。
なのに、パジャマのボタンを外そうとすると、手の甲をつねってきた。
「運命で私を抱いただけなんでしょう。自分の意思で私を抱きたいと認めない限り、させて上げないから」
「御免、愛している。今は、自分の意思で、君を抱きたいと思ってるから……」
「なら、させて上げるけど、今日はダメ。来夢が帰ってからね」
そう言って、彼女は、ナイトガウンを羽織って、立ち去って行った。
まあ、正月早々は、筆おろしにも早すぎるが、裕子は、私を惑わす魔女だ。いつも、その気にさせて、姿を消す。クリスマスの夜を根に持っているのかもしれないが、私は、すっかり目が覚めて、寝付けなくなっていた。