幼馴染は既にNTRていた。影で嘲笑われていた俺が気づけば学校のアイドル美少女とラブラブカップルです。本当はあなたが好き?やめとけ、うちの彼女が怖い。
その日、大葉リクは幼馴染がNTRていたことを知った。
「本気で好きな訳ないじゃん」
そう聞いた時、心臓が張り裂けそうになる。
昼休みの教室は賑わっていて、クラスメイトの喧噪もある中ではっきりと聞こえたんだ。
幼馴染である愛上サキは、俺を騙していた。
かれこれ十数年以上の付き合いがあり、昔は俺と結婚するとまで言ってくれた。
俺一筋だから、とも言ってくれた。
それに答えようと、高校に入って必死にバイトしてお金を貯めていた。サキが欲しいと言ったら迷わずお金を渡していた。
「あいつはただの財布。ね、ユウジもそう思うでしょ?」
「騙されてホテル代に使われて、彼女はバイト中にひいひい言ってるのも知らない馬鹿だもんな!」
「ユウジったら。あんまりホテルのこと言わないでよ」
「いいだろ? 今日も行くか?」
「もう」
憎たらしい二人はベタベタと教室でいちゃつく。俺はその光景を遠目に眺め、下唇を噛み締めた。
長年関わりがあった相手だけに、裏切られたという事実は苦しかった。
ふざけるなよ……俺を好きだと言ったことも、デートも全部嘘っぱちだった。
そのことに気付いたのは今朝。偶然、SNSのツイッチャーでサキと同じ名前があったから覗いてみたら、俺のことと捉えられる内容がたくさんあったのだ。
極めつけにホテルの写真があって、そこにはサキと違う男が居た。
それを問い詰めたらあっさりと白状。そしてクラスメイトにも笑い話のように広め、俺はいとも簡単に笑い者にされた。
「あぁ? んだよ、こっちを睨んできやがって」
「いや、その……そういうわけじゃ」
「じゃあなんだ? 彼女が違う男の女だって知らずに手を出したのに逆上ですかぁ?」
「サキから告白してきたんだ。好きだって……」
俺を騙すつもりだと分からず舞い上がって恋人になって、お金だけ奪われて終わった。
この男は学校でも不良として名高い。一年でバスケ部の主将を務めているユウジという男だ。
「あんたのこと好きな訳ないじゃん。なんも取り柄のないあんたなんか」
「……信じてたのに」
「はぁ? ずっとあんたなんか嫌いだから、何、自分がイケメンだとでも思ってたの? 地味で! 何も取り柄がなくて! 救いようのないあんたなんか、誰も必要としてないから! あぁごめん。だから友達もいないんだ」
げらげらと笑うサキに、怒りよりも茫然自失だった。
俺を好きだと言ってくれたサキはもういない。
もう居なくなりたいと思えるほど、辛くて……俺は駆け出していた。
このまま消えてなくなりたい。
信じていたのに。
気が付けば屋上に来ていた。誰もいない空間に安堵して壁を背に座った。
うずくまって、顔を沈める。
このまま教室に行けば笑い者だ。
同時に、先ほどの言葉が呼び起こされる。
『取り柄がない』
確かに、運動は得意じゃないし勉強もそこそこだ。
趣味だってゲームくらいで平凡。サキの言う通り、俺はいらない存在なのだろうか。
「ねぇ、何しているのかな?」
「え?」
声がした方向に顔を上げると、給水タンクに乗っている美少女が居た。
金髪のロングヘア―に、ハーフアップをした美少女だ。
こんな美少女が今まで居ただろうか。
現実か……または俺のストレスによる幻覚か。
どちらでもいい。どうせ俺は要らない存在だ。誰も俺のことなんか気にしちゃいない。
「……幻覚か」
「よいしょっと。泣きそうな顔してるじゃない、辛い事でもあった?」
美少女は俺の前に立って屈み、覗き込んでくる。
素朴な顔立ちは純粋そうで、身体が動くとしなやかに髪が揺れた。
こんな美少女が俺なんかを心配するとは思えない。なら、ちょっとくらい独り言をしてもいいだろ。
幼馴染が本当は寝取られていたこと、騙されてお金を取られホテル代にされていたことも全て話した。
少しだけ、気持ちが楽になる。
言葉にすればするほど苦しくなるけど、叫びたい衝動は収まった。
「可哀想だね。頑張ったのに」
「……え?」
予想外の発言だった。
今の話を聞いて、どこに頑張った要素があったのだろうか。
「だって、お金って言ってもバイトしたりして貯めたお金なんでしょ?」
「ま、まぁそうだけど」
「凄いね」
初めて、人に褒めてもらえた。
努力を認められたことが嬉しくて、思わず泣きだしそうになっていた。
「よしよし、頑張ったもんね。辛かったよね」
そう言って、金髪の美少女は俺の頭を抱きしめた。
どれくらいの時間が経ったのか、よく分からない。もしかすればチャイムはもう鳴っていたのかもしれない。
それでも、彼女は俺の隣に居てくれた。
「私は大神カナ。たぶん同級生かな」
たぶんと言ったのは、上履きの色が一緒だったからだ。
俺はてっきり、先輩だと思ってしまった。同い年でこんな可愛い子がいるなんて信じられないから。
「俺のことは……」
「知ってるよ。さっきの話はうちのクラスにも耳に入ってるから」
相当話が広がっているらしい。
こりゃ、俺自身が学校の笑い者になる日もそう遠くはないな。
「リクくん、だよね」
「お、おう。カナさん」
「カナでいいよ。ね! リクくんってゲーム好き!?」
「げ、ゲーム? 嗜む程度なら好きだけど」
大抵の時間はゲームをやっているけど、女子の前だからかつい強がってしまう。
目の前に美少女が居てめっちゃ好きなんて言えない。
「じゃあさじゃあさ! ストリートアーティスト5っていう格ゲーやってる!?」
「やってるけど」
「段位どのくらい!?」
「えーっと、最高ランクの一個下くらい……」
最も格ゲーで有名なゲームだから人口は多いと思うけど、なんだこのテンションの上がりよう。
「私もやってるんだ! ねぇ一緒にゲームしようよ!」
「い、いいけど……手を抜いたりとかは苦手で」
「大丈夫! 私ランカーだから!」
「マジで!? 俺よりガチ勢かよ!」
「あったり前だよ~! ねね、何のキャラ使ってる?」
共通の話題とゲームの話で俺とカナは急速に仲を深めていった。
話の内容のおかげか、あまり異性として意識することなく自然体でいることが出来た。
「また明日! 昼休みに話そうね!」
手を振って、カナは去っていく。
その残り香に、心が少しだけ救われた。
その後、家に帰ってから友達申請をして数戦した。結果は、全敗であった。
*
次の日の昼休み、俺は屋上へ行くべきか悩んでいた。
大神カナと言えば、学校一の美少女で誰もが恋人になりたいと考える相手だ。そんな相手に俺が関わって良いとは思えない。
「おい、リク。金あんだろ? ちっと貸してくんねえかな」
「……なんでよ」
人相を悪くしたユウジが俺の机の前に来て、啖呵を切った。
俺のお金をお前らになんかやりたくない。
「はぁ? 誰のお陰でサキと少しの間でも付き合えたと思ってんだよ」
「……騙してた癖に」
「んだよこの財布野郎! てめえみてえな陰キャに一瞬でも夢見させてやったのに!」
明らかに俺が殴られる空気の中、とある人物がそれを一閃する。
「リクくん~! 迎えに来たよ!」
「か、カナ!?」
俺の傍によって、腕を掴まれる。しかも勢い余ってか豊満な胸まで押し付けられた。
クラスメイトの騒めきは廊下にまで響き、信じられないと言った光景に驚愕していた。
「な、なんで大神カナがコイツを!?」
「ほら、早く行こ」
「あ、ああ」
「待ちなさいよリク! あんたみたいなゴミが、私たち無視していいと思ってるわけ!? ねぇ!」
サキの叫び声を無視し、そのまま連れられて屋上へとやってくる。
名残惜しい腕を離し、昨日と同様に座った。
「た、助かった。ありがとう」
「何が? 何かあったかな、猿が騒いでたようにしか思えないけど……」
そう返されてしまっては返答に濁る。
これが学園の美少女の余裕か。
「それよりさ、昨日のぼろ負けだったね~!」
「カナが強すぎるんだよ。手も足も出ないわ」
「へへっ凄いでしょ。努力家なんだ、私」
「すげえよ、本当に」
「でも……他人のためにはあんまり頑張らないんだよ?」
そう言って、懐から包に入ったお弁当を取り出し、俺に手渡した。
「一緒に食べよ!」
「えっでも、申し訳ないし」
「いいのいいの。誘ったの私だからさ。さっ食べて」
ピンク色の容器に、タコさんウインナーやら、卵焼きが入っている。シンプルだが、愛情があるいいお弁当だ。
「おいしい?」
「めっちゃうまい……プロか?」
「もう、褒め過ぎだよ! もっと褒めていいからね!」
「お、おう」
それから、昨日と同じようにゲームの話をたくさんした。
そのたびに、彼女は笑顔で楽しそうだった。俺も同時に、救われた気持ちになる。
「クラス戻ったら怖いな、またアイツらに絡まれるのか」
「もっと堂々としていいんだよ?」
「あんまり、そういうことは得意じゃないんだ」
「怖がらないで大丈夫、私がいるから」
根が気弱だからだろう。
ここぞという時に、いつも男らしさがない。
カナだって、俺を同情してこうやってくれているのだろう。男らしければ、俺はもっと堂々としている。
「カナ、もういいよ。励ましてくれて嬉しかったから、今日でやめよう」
「……なんで?」
「変な噂が立つだろ? カナも嫌だろうし、俺みたいな男じゃ釣り合わないからさ。今までありがとな」
カナが拳を作って、歯ぎしりを鳴らした。
なんか、怒っているようにも見えるな。間違えたことは言ってないんだけど……。
「私は同情や慰めでリクくんと一緒に居るんじゃない。外見じゃない、私を見てくれるからここに居るの」
「俺は別にそんなつもりはないぞ」
カナを見ているとか、好きだとかは分からない。
俺を励まして、元気付けてくれた。
「それだよそれ! 普通の人は変に意識したり自慢するのに、リクくんしないじゃん!」
「だって、友達いないし」
「じゃあ私が友達になってあげる! はい、これで解決!」
「なんて無茶苦茶な……」
「とにかく! 他人のために、自分の身を削ってまで頑張れるリクくんがいいの!」
カナが俺の顔を両手で挟み、近づける。
ななな、なんだ!? く、唇が近いっ!
「人が本当に絶望する時って言うのはね、本気で死にたいと思った時なんだ」
「は、はい」
「リクくんは昨日、絶望してた。それくらい本気で好きで、本気で頑張ってきたんだよね」
「……ああ」
「カッコいいよ! 私が証明する!」
そう言って、今度は一つのゲームを取り出した。
パッケージに入っていて、それは俺たちの共通の話題であるストリートアーティスト5だった。
「これ、家に帰ったら開けて、明日持ってきてね」
なぜか紅潮しているカナを尻目に、疑問を浮かべる。
なんで大事なゲームを俺に? それに家に帰ってから開けろって。
カナは屋上から居なくなっていて、俺も静かに教室へと帰っていった。
*
……マジか。マジですか。いやいやいやいや、流石に嘘でしょ。
次の日の昼休み。俺は頭を抱えていた。
相変わらず、サキのせいでクラスメイトからは笑われている。しかし、それすらも気にならないほどの大事件が起きていた。
お、俺もそうだけど。まさかカナまでそうだったとは。
「おいてめぇ……なんだよ昨日のあれは」
「……」
「無視してんじゃねえ!」
喧噪が静まり返る。俺の机を蹴り飛ばしたユウジが、血相を変えていた。隣には幼馴染のサキも居て、同様に睨んでいる。
人とはこんなにも変わるものなのだろうか。好き好きと言ってくれていた面影はもうない。
「なんで将来俺の奴隷になる大神カナとお前みたいなのが関わってんだ? あぁ!?」
「……関係ないだろ」
「うるせぇ! 今すぐ離れやがれ、俺の女だぞ!」
「サキはどうした。いいのか?」
視線を移すと、頬にアザがありすぐに顔を逸らされた。
俺の女ね……そうですか。
昨日言われたんだ、俺にはカナがいる。もっと強くなくちゃいけない。
「……何してるの」
教室の入り口で、昨日と同様にカナが立っていた。
しかし、どことなくオーラが暗い。
「大神カナ……やっぱ旨そうだな」
下卑た笑みを浮かべ、ユウジは俺の胸倉から手を離す。
そしてカナの目前まで来て挨拶した。
「バスケ部の主将やってるユウジって言うんだけど、聞いたことあるだろ?」
「ええ、あるよ。最低で最悪なクソ野郎だって」
「あぁ……?」
「知らないと思った? 私、自分の身は自分で守るために、いろんな情報集めてるんだ」
カナはドンっと構えて、ユウジを睨みつけた。
その威勢に陽気で可愛らしい様子はなく、虎の如く猛々しさを纏っていた。
「だから、リクくんがどんな人かも知ってる。そのうえで確かめたかった。あなた達カスがどんな奴らか」
「へっ知れば知るほど分かるだろ。俺がバスケの天才なこと、惚れた?」
「死んでも嫌。自分の才能に溺れて横暴になる人間なんて、ろくな結果を招かない。特に練習もしないような人はね」
「俺が練習してない? おいおい、証明できんのかよ」
「毎週休日になるとホテル行って十二時間以上出てこない、そこの幼馴染さんと一緒に」
クラスが騒めく。
十二時間……だと?
俺がずっとバイトしてる時間じゃねえか……。
「あえて言ってやる! あんたら、ここにいるクラスメイト全員クソ野郎だ! 誰よりも頑張っている人を見下して、笑い者にして、何が面白いんだ! リクくんを馬鹿にしていい人間なんかいない! 恥じるべきはあんた達だ!」
静寂に包まれるクラス。
俺の思いを、カナが全て代弁してくれた。
俺が言うべきはずの言葉を、カナが言ってくれた。
「このクソっ女が!」
手を挙げたユウジは、思いっきり拳を振りかざす。
すかさず割って入り、俺が殴られた。
「リクくん!?」
「いってぇ……」
口の中でぱっくり切れたな。
でもいいさ、カナを守れた。男らしくなれた。
「カナ、怪我はない?」
「う、うん。でも、なんで」
「俺も、答えを出したんだ」
「じゃ、じゃあ!」
「何ベラベラ喋ってんだよ! 財布の癖に!」
「ユウジ、お前が奪ったもんはそのままくれてやる。でも、もう二度と俺の女は傷つけさせねえ」
「リク……」
俺はカナの手を引いて、屋上へ向かおうとする。
ぱっと明るい表情を浮かべ、笑顔で寄り添ってきた。
屋上に出て、俺は昨日渡されたゲームを返した。
「えーっと……その」
緊張するなこれ。
一応ワンクッション置かれているとはいえ、こ、告白だもんな。
ゲームの中に、一枚の手紙が入っていた。
そこには俺を好きであることと、実はずっと見ていたこと。
影で応援していたことも書いてあった。
「ずっと好きだった……でも、幼馴染のサキしか見てないから、リクくんを諦めてたの」
「な、なんで俺なんか」
「昨日、言ったでしょ? 他人のために頑張れる人ってカッコいいし、凄いんだよ」
……ああ、そうか。
カナに励まされて、俺は分かった。
「俺も、カナがカッコいいと思う。誰よりも強くて……俺なんかじゃ釣り合わない」
「だから、それは――――」
「だから頑張らせてくれ。カナの釣り合う男になるように努力させてくれ」
「え?」
「俺も、カナが好きだから」
みるみるうちに頬を赤く染めて、視線を逸らした。
断られると思っていたのだろうか、目じりに涙が溜まっていた。
「じゃ、じゃあ! これで……恋人、かな」
「そ、そうなるな」
「「……」」
なぜだ、いつも通りのように会話が弾まない。
妙に意識しだすとこんなにも緊張するのか!?
つーか! カナがいきなり告白なんかするからだ! 俺だって多少は好きだとは思ってたけど、完全に認識すると心臓が破裂しそうだ。
「未熟者ですが、よろしくお願いいたします。リクくん」
「こ、こちらこそ!」
彼女と俺は互いを見ている。
それだけは間違いない。
*
それから、ユウジは人前で暴力を振るったとして停学処分になった。これを機に、部活内の部員に対する悪態や悪事が発覚して退学処分にまで事は発展した。
そして、学校中に俺とカナの関係は知れ渡りそれもう凄かった。
「……なんだよ、サキ」
幼馴染に呼び出された俺は校舎の裏へやってきていた。
普通であれば無視するのだが、死にたいなどと言われてしまったら行くしかない。だけど、これも最後の恩情だ。
頬にはさらに酷いアザがあった。大抵のことは想像できる。どうせ、退学になったユウジに殴られたのだろう。
「あ、あのね! 私が馬鹿だった。暴力振るう奴なんかよりも、あんたの方がいい! お願い、もう一度付き合って……ね? 好きなんでしょ?」
「どうせ、本気で好きな訳じゃないんだろ」
「そ、それは」
言葉に濁る。どうやら事実だったらしい。結局、また遊ばれるだけだ。
俺自身、もうサキを好きではない。関わりたくもない。
「お……お腹に、赤ちゃんがいるの……助けて」
冷めた目で彼女を見つめ、俺は踵を返す。
必死に悶え、俺の裾を掴んだサキを振り払った。
「触んな」
その時、カナが目の前からやってきた。
あ、あれ……なんか怒ってないか?
思わず足が止まる。すると、カナが俺に抱き着いてきた。そのまま腕にしがみかれる。
「お取込み中だった?」
「ううん、絶縁したところ」
「そっか! じゃあ帰ろ!」
いつものように、腕を引っ張られる。怒っているのは俺に対してではなく、後ろで哀れでゴミのような有様の幼馴染にだった。
「あっ幼馴染だろうと、もう私だけのリクだから、近づかないでね」
「……うぐっひぐっ」
一緒に下校して、そのまま家に帰るはずもなくゲーセンへと向かう。
その道中で、カナが申し訳なさそうな顔を作った。
「ごめん、私だけのリクとか言って、ねちっこい女だと思う?」
「ううん、そんなこと思わないよ」
「じゃ、じゃあさ。お詫びと言ってはなんだけど……カナも、リクの物だから、好きなようにしていいからね?」
「お、おう」
そう言って、満面の笑みで俺の腕を掴んだ。
もしかすれば、カナは若干ヤンデレ気質があるのかもしれない。
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